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シーサイドモーテル

2010年07月03日 | 邦画(10年)
 予告編を見て面白いと思ったことと、出演者がなかなか豪華ということもあって、『シーサイドモーテル』を渋谷ヒューマントラストシネマで見てきました。

(1)この映画は、先に見た『春との旅』と同じく配役陣はとびきり豪華ながら、後者のような熟しきった俳優ではなく、今が旬でありこれからの活躍も期待される俳優が多数出演しています。
 それらの俳優の一部については、クマネズミのごく小さなストック箱を探してみると、これまでにもその出演作をいくつか映画館で見てきたことがわかります。
 生田斗真は今年見た『人間失格』の主役ですし、玉山鉄二も昨年『カフーを待ちわびて』を見ています。山田孝之については、玉山鉄二も出演した『手紙』(2006年)を見たことがあります。
 また、麻生久美子は、一昨年は『たみおのしあわせ』、昨年は『インスタント沼』と『ウルトラミラクルラブストーリー』で見ていますし、成海璃子も、昨年の『罪とか罰とか』を見ましたし、最近は『書道ガールズ』を見たばかりです。

 そうした豪華メンバーが出演し、なおかつ「嘘」「騙し合い」という共通項を巡って描かれている映画ですから、面白くないわけがありません。

 簡単に設定を申し上げれば、山の中に設けられているモーテルが舞台です(にもかかわらず「シーサイド」という名称が付けられていますから、舞台自体が酷く嘘くさいわけです)。

 その103号室は、原価200円のクリームを4万円で売りつけるインチキセールスマン(生田斗真)の部屋。そこに部屋を間違えて、コールガール(麻生久美子)が突然入り込んできて、……。

 202号室は、ギャンブラー(山田孝之)と猫好きオンナ(成海璃子)とのコンビ。そこへ、踏み倒された借金を取りにヤクザ(玉山鉄二)とその見習(柄本時生)が闖入、さらには伝説の拷問職人(温水洋一)も登場して、……。

 203号室は、弱小スーパーの社長(古田新太)とその夫人(小島聖)の夫婦。海辺のモーテルということで来てみたところ、そのあまりの違いに夫人はいたくおかんむり。さらに夫人は、外出して浮気相手と合流しようとし、社長は、その間にコールガールを注文し、……。



 102号室は、キャバクラ常連客(池田鉄洋)とキャバクラ嬢(山崎真実)の組合せ。二人で16万円の高級温泉旅館に泊まるとの約束でやって来たにもかかわらず、途中で車がストップしてしまい、やむなく近くにあったこのモーテルを利用する破目になって、……。




 そういった設定に基づきながら、ずっこけた場面が盛りだくさんの物語は進行します。
 ただ、こういった形式の映画にヨクありがちの部屋の間の絡みといった点は、あえて最小限にとどめているようです(モーテルの外で若干の絡みがありますが)。逆に言えば、それこそが、この嘘臭い映画の真実らしさと言っていいのかも知れません!

 とはいえ、下記の(4)で触れるように、映画評論家の渡まち子氏は、「4つの話の絡み具合が物足りない」とか、「他の部屋の人物との関係性に面白味が薄い」と批判します。ですが、同氏が「遠く及ばない」とするタランティーノの『フォー・ルームス』(注)でも、同じベル・ボーイが各部屋のそれぞれのエピソードに登場するだけで、4つの部屋宿泊する人物の絡み合いなどは描かれていません(尤も、第2話に登場するジェニファー・ビールスが第4話にも出てはきますが)!

 あるいは、『シーサイドモーテル』に登場する警官2人組が、『フォー・ルームス』のベル・ボーイの役割をある程度代行しているといえるかもしれません(103号室以外では、直接間接、何らかの結びつきを持っています!)。
 というよりも、『フォー・ルームス』のベル・ボーイと『シーサイドモーテル』に登場する警官2人組とは、『ニューヨーク、アイラブユー』においていくつかの短編に登場する女性カメラマンと類似した役割(オムニバス形式の映画全体の統一性を確保する)を果たしていると考えた方がいいのではないでしょうか?

 出演者ごとにもう少し見てみると、
 麻生久美子は、何でもこなす至極器用な俳優ですから、三十路直前のコールガールというきわどくも難しい役柄も実にうまく演じています。それも、真の姿をなるべく曝さずに相手といい関係を持とうとするのですから、マア今のところ彼女を除いてこんな役が出来る俳優もそうはいないでしょう〔そこで、麻生久美子出演の最近の映画で見逃している『おと・な・り』をDVDで見てみました。そのレビューは明日の記事で掲載いたしますので、どうぞご覧下さい。〕。



 生田斗真は、前作の『人間失格』がまだ覆い被さっているのでしょうか、気負わずにうまく詐欺師を演じているものの、やはり根は真面目なんだな、と観客に思わせるところがあります。



 さらに成海璃子は、まじめ一本槍の『書道ガールズ』とは打って変って、ギャンブラーの愛人役を演じていますが、もちろんまだまだ幼い感じが残って大人の色気などは期待できないものの、ギャンブラーが連れ歩く可愛いオンナという感じはマズマズ出せているのでは、と感心しました〔書道部の女子高生役から、「何?なぜ?」と好奇心旺盛な猫娘とは、何とも驚いた変身ぶりです〕。



 全体として、この映画は、豪華な俳優陣を揃えながらも、決してそれに安住することはなく、かなり手をかけた面白い作品に仕上がっているのではないか、と思いました。


(注)『フォー・ルームス』は、一軒のホテルを舞台に、とある1日に4つの部屋で繰り広げられる騒ぎを描いているという点では、今回の『シーサイドモーテル』に類似しているものの、4話オムニバス形式の作品であり、各話を4人の監督が別々に製作しているという点や、全体の狂言回しとしてベルボーイが登場しますが、狂言回しの域を超えてむしろ主役といっていいほどの活躍をしている点など、相違する方が大きいと思われます〔なにしろ、『シーサイドモーテル』では、ホテル側の人間は一人も登場しないのですから。その意味では、『フォー・ルームス』を意識しているのは『有頂天ホテル』(三谷幸喜監督、2006年)の方かもしれません〕。




(2)この映画は、今更いうのも気が引けますが、グランドホテル方式によっています(注1)。
 それならば、タランティーノの『フォー・ルームス』というよりも(注2)、もっと原点に帰って、『グランド・ホテル』(1932年米国映画、第5回アカデミー賞最優秀作品賞を受賞)と簡単に比較してみましょう。



イ)『グランド・ホテル』の舞台は、ベルリンで一番高い「グランド・ホテル」ですから、山の中に設けられたさびれた「シーサイドモーテル」とは格式がまるで違います。とはいえ、宿泊場所であることは共通しています。

ロ)『グランド・ホテル』の主な登場人物はホテルの客ですから、その点は『シーサイドモーテル』と類似はしています。
 ただ、もう少し詳しいうと、『グランド・ホテル』の場合、落ち目のバレリーナ(グレタ・ガルボ)、経営危機にひんしている大企業の社長(ウォレス・ビアリー)、その会社の元経理係(ライオネル・バリモア)、それに大きな借金を抱える男爵(ジョン・バリモア)が主たる登場人物ですから、『シーサイドモーテル』と比べると、お互いの関係がより密接になっているといえます(全部ではありませんが)。
 なお、モウ一人女性(ジョーン・クロフォード)が登場しますが、最初は社長の速記係としてベルリンで雇われたので宿泊客ではなかったものの、あとで社長の秘書となってこのホテルに部屋を取ってもらいます。

ハ)『グランド・ホテル』では、「バレリーナ」の宝石を盗もうとしたり、「社長」から金を盗もうとしたりするれっきとした犯罪者の「男爵」が登場しますが、『シーサイドモーテル』では、そんな犯罪者は登場しません(インチキ・セールスマンとかやくざの金融業者とか拷問師などが登場するものの、別段大したことは行いません)。
 ただ、この男爵が盗みを働くのは、ギャンブルで負け手大きな借金があるからで、その点からすれば、202号室のギャンブラー(山田孝之)と似ています。

ニ)『グランド・ホテル』では、男爵は、バレリーナを本気で愛してしまい、一緒にイタリアに旅立とうと約束するまでになりますし、また社長秘書は、元経理係と一緒に新しい人生を生きようとパリに向かったりします。
 このように各部屋の客はお互いに関係し合いますが(とはいえ、主要人物が一堂に会することはまったくありません)、『シーサイドモーテル』では、部屋の間の絡みはごくわずかなものといえるでしょう(ラストでは、生田斗真と柄本時生とが一緒になって南の島に旅立ちますが!)。


(注1)グランド・ホテル形式とは、同じ時間に同じ場所に集まったいろいろの人物の様子を、一つの映画で同時進行的に描き出す手法のことで、驚いたことに、最近出版された『「七人の侍」と現代』(四方田犬彦著、岩波新書)でも、「映画の原型的物語」の一つとして、この「グランド・ホテル形式」が言及されています(P.23)。
 ちなみに、四方田氏の著書では、映画『七人の侍』は「日本から世界に発信し受容された」原型的物語だ、との仮説が提示されています(P.24)。
(注2)監督自身もその点を意識しているようですが(劇場用パンフレットや「@ぴあ関西」などのインタビュー記事)。

(3)つまらないことながら念のために申し上げておくと、この映画において、山田孝之はかなり派手に全身にタトゥーを入れていますし、なんと成海璃子の左胸には子猫の顔のタトゥーが入っているのです!






(4)評論家の論評はあまり見当たらないところ、渡まち子氏は、「辺ぴな山奥にあるモーテルに、偶然11人の男女が集まる。4部屋それぞれの密室で繰り広げられるのは、予測不可能なドタバタ劇」で、「豪華キャストのアンサンブル・ストーリーだが、4つの話の絡み具合が物足りない」として、50点を与えています。


★★★★☆



象のロケット:シーサイドモーテル


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3 コメント

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恐縮です (SunHero)
2010-07-04 22:50:12
クマネズミさん、こんばんは、ROMっておりました。私のミーハーな感想文とは違って、プロの映画評にまでメスを入れてしまう立派なレビューですね。拝読してコメントもTBも出来なくなってしまいました。
ギャンブラーの愛人役だった成海璃子に対する見解の相違も、「好奇心旺盛な猫娘」と割り切ってしまえば、確かに好演していると言えますね。多分、勝手にゼブラクイーンを演じた仲里依紗の弾けっぷりと比較して、愛人役は時期尚早と感じたんだと思います。言い訳ですが。
私もモーテルの客同士があれこれ接点を持つのはおかしいと思いますよ。とぼけた警官二人が繋ぎ役として上手く機能していたと思うし。何よりもコメディとして素直に楽しめました。
やはり見ている本数が半端じゃないから、ポイントはちゃんと押えていますね。とても参考になります。
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ホテルはリバーサイド (サンドパイパー)
2010-07-09 00:21:44
  受け取り方によっては悪くないかも知れませんが、私には、別の期待があったのかもしれません。舞台となるモーテル自体がいかにも安っぽく、だから最初からすべてが冗談だよという目でみればよいのでしょうが、もう少し見かけはシックなものにして、それなりの落ち着きのある(期待される)雰囲気のなかでのドタバタ劇というのはどうでしょうか。
  また、全体で4室の動きだとやや散漫になるきらいがあり、もう一部屋減らして、少し書き込んだ形でストーリー展開したらどうだったのだろうかとも感じます。話の絡み合いが足りないという評にも通じます。だから、どうも私の嗜好とは方向違いだったようです。
  個人的な好みでも、麻生久美子さん、山田孝之さん、成海璃子さんあたりにはあまり魅力を感じないものがあります。いま、女性では成海璃子さんはよく映画に出ていますが、彼女はまだ幼すぎて、今回の物語では愛人役では適役ではないのではないか、と感じたところでもあります。こうした諸事情で、私にはあまりピンとこない映画でした。
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嗜好の問題 (クマネズミ)
2010-07-10 06:13:47
 「サンドパイパー」さん、貴重なコメントをありがとうございます。
 そうですね、イロイロな点でこの映画はサンドパイパーさんの肌に合わなかったのでしょう。あるいは、三谷幸喜監督の『有頂天ホテル』の方を、もしかしたら面白く思われるのではないでしょうか?
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