(総合科学技術会議で挨拶する鳩山首相〔8日午後、首相官邸〕)
イ)10月11日の記事で取り上げた日経新聞論説委員・塩谷喜雄氏のエッセイにおいては、今回の理系政権の気候変動問題に対する取り組み方に期待が寄せられているところ、10月30日の「日経Plus」に掲載された「「理系政権」見えない科学技術政策」では、「今のところ鳩山政権の科学技術に関連する目玉施策としては、2020年までに日本の温暖化ガス排出量を「1990年比で25%削減する」と打ち出したことが目を引く程度」ながら、そのことでかえって逆に、「新政権の発足後の科学技術に関連する政策は地球温暖化対策ばかりがクローズアップされ、それ以外の分野で具体的なメッセージが発信されていない」と述べられているところです。
上手の手から水が漏れる、ということにならなければよいのですが……。
なお、同記事では、鳩山由起夫首相や菅直人国家戦略相のみならず、「川端達夫文部科学相も京大工学部の大学院を修了後、東レで研究開発に従事した。平野博文官房長官は中央大学理工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に勤務した」とされていて、この政権では、確かに枢要なポストは“理系”が占めていて、「理系政権」と呼んでもそれほどオカシクはないようにも思われます。
ロ)古代史の分野に関しては、前日の記事でも取り上げた10月12日の記事についての「やっぱり馬好き」さんのコメントにあるように、歴史研究の分野にも「最近は理科系の学問を学んだ方々がかなり入ってきて、いろいろ発言がされ」ているところ、「歴史学などの文系分野の累積してきた学問の成果を無視する議論を平気で行う」事態となっているようです。
これらの点については、HP「古樹紀之房間」に掲載されている宝賀寿男氏の論考「理系の見方と文系の見方」において詳細に議論されているので、是非ご覧下さい。
ここでは取り敢えず、結論的部分だけでも引用しましょう。
「自然科学の重要性とその最近の進歩は十分に認めるものですが、無批判なその受容は歴史学の基礎を危うくします。残念ながら、わが国で現在活躍される考古学 者や歴史学関連分野で自然科学的な手法で年代数値を発表されている研究者においては、記紀などの文献資料や神道・神祇関係の知識が乏しいか殆ど無視される 方々が多く見られます」。
「「歴史の流れ」を無視して出てきた結論については、たとえ科学的な手法という衣をまとったものでも、十分懐疑的に批判的に様々な角度から考えていく必要性を痛切に感じています。それが「歴史分野における科学研究者」としてのバランス感覚の問題なのです。理系であれ、文系であれ、こうした総合的なバランス感覚が判断にあたって必要なことはいうまでもないはずです」。
ハ)最後に、前日取り上げました吉田武著『虚数の情緒』について補足します。
前日触れました文章は、本書の第Ⅰ部「独りで考える為に」に書いてありますが、この第Ⅰ部は、本書のいわば助走部分に相当し、数式は登場せず数学自体の話も全くなされません。
ですが、第Ⅱ部「叩け電卓!掴め数学!」(P.125~)から、いよいよ著者の本領が発揮され、その圧倒的な勢いは第Ⅲ部「振り子の科学」の最終ページ(P.965)まで続きます!
そんな物凄い著作をご紹介するには、“文系”の私は全く不適任であり、また元々そんなことをしても意味がなく、1ページずつ最初から丹念に根気よく読み進んでいくしかありません。
一点だけ申し上げると、本書は、副題に「中学生からの全方位独学法」とあるせいでしょう、八重洲ブックセンターでは、“理系”の書籍が並んでいる3階の「数学」のコーナーではなく、なんと6階の「学習参考書」のコーナーに陳列されていました!
ですが、前日紹介しました議論からもおわかりでしょうが、本書は「中学生」にはとても歯が立たないと思われます。何より、「後書:万華鏡の話」では、「本書の企画は、平成九年夏に静岡県教育委員会の要請により、高校生の夏の合宿セミナーの講師を担当した事に始まる」とご自分で述べているくらいなのですから!
〔前々日取り上げた吉田氏の著書『私の速水御舟』も、「中学生からの日本画鑑賞法」という副題が付けられているものの、なぜそうしたかの説明は一切なされていません〕
なお、吉田武氏の『オイラーの贈物』(ちくま学芸文庫)は、小飼弾氏がブログで「2008年のお年玉で買うべき本10冊」の一つとして薦めているところ、残念なことに、現在は絶版になっています。
イ)10月11日の記事で取り上げた日経新聞論説委員・塩谷喜雄氏のエッセイにおいては、今回の理系政権の気候変動問題に対する取り組み方に期待が寄せられているところ、10月30日の「日経Plus」に掲載された「「理系政権」見えない科学技術政策」では、「今のところ鳩山政権の科学技術に関連する目玉施策としては、2020年までに日本の温暖化ガス排出量を「1990年比で25%削減する」と打ち出したことが目を引く程度」ながら、そのことでかえって逆に、「新政権の発足後の科学技術に関連する政策は地球温暖化対策ばかりがクローズアップされ、それ以外の分野で具体的なメッセージが発信されていない」と述べられているところです。
上手の手から水が漏れる、ということにならなければよいのですが……。
なお、同記事では、鳩山由起夫首相や菅直人国家戦略相のみならず、「川端達夫文部科学相も京大工学部の大学院を修了後、東レで研究開発に従事した。平野博文官房長官は中央大学理工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に勤務した」とされていて、この政権では、確かに枢要なポストは“理系”が占めていて、「理系政権」と呼んでもそれほどオカシクはないようにも思われます。
ロ)古代史の分野に関しては、前日の記事でも取り上げた10月12日の記事についての「やっぱり馬好き」さんのコメントにあるように、歴史研究の分野にも「最近は理科系の学問を学んだ方々がかなり入ってきて、いろいろ発言がされ」ているところ、「歴史学などの文系分野の累積してきた学問の成果を無視する議論を平気で行う」事態となっているようです。
これらの点については、HP「古樹紀之房間」に掲載されている宝賀寿男氏の論考「理系の見方と文系の見方」において詳細に議論されているので、是非ご覧下さい。
ここでは取り敢えず、結論的部分だけでも引用しましょう。
「自然科学の重要性とその最近の進歩は十分に認めるものですが、無批判なその受容は歴史学の基礎を危うくします。残念ながら、わが国で現在活躍される考古学 者や歴史学関連分野で自然科学的な手法で年代数値を発表されている研究者においては、記紀などの文献資料や神道・神祇関係の知識が乏しいか殆ど無視される 方々が多く見られます」。
「「歴史の流れ」を無視して出てきた結論については、たとえ科学的な手法という衣をまとったものでも、十分懐疑的に批判的に様々な角度から考えていく必要性を痛切に感じています。それが「歴史分野における科学研究者」としてのバランス感覚の問題なのです。理系であれ、文系であれ、こうした総合的なバランス感覚が判断にあたって必要なことはいうまでもないはずです」。
ハ)最後に、前日取り上げました吉田武著『虚数の情緒』について補足します。
前日触れました文章は、本書の第Ⅰ部「独りで考える為に」に書いてありますが、この第Ⅰ部は、本書のいわば助走部分に相当し、数式は登場せず数学自体の話も全くなされません。
ですが、第Ⅱ部「叩け電卓!掴め数学!」(P.125~)から、いよいよ著者の本領が発揮され、その圧倒的な勢いは第Ⅲ部「振り子の科学」の最終ページ(P.965)まで続きます!
そんな物凄い著作をご紹介するには、“文系”の私は全く不適任であり、また元々そんなことをしても意味がなく、1ページずつ最初から丹念に根気よく読み進んでいくしかありません。
一点だけ申し上げると、本書は、副題に「中学生からの全方位独学法」とあるせいでしょう、八重洲ブックセンターでは、“理系”の書籍が並んでいる3階の「数学」のコーナーではなく、なんと6階の「学習参考書」のコーナーに陳列されていました!
ですが、前日紹介しました議論からもおわかりでしょうが、本書は「中学生」にはとても歯が立たないと思われます。何より、「後書:万華鏡の話」では、「本書の企画は、平成九年夏に静岡県教育委員会の要請により、高校生の夏の合宿セミナーの講師を担当した事に始まる」とご自分で述べているくらいなのですから!
〔前々日取り上げた吉田氏の著書『私の速水御舟』も、「中学生からの日本画鑑賞法」という副題が付けられているものの、なぜそうしたかの説明は一切なされていません〕
なお、吉田武氏の『オイラーの贈物』(ちくま学芸文庫)は、小飼弾氏がブログで「2008年のお年玉で買うべき本10冊」の一つとして薦めているところ、残念なことに、現在は絶版になっています。
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