孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  G20合意成立で国際社会に存在感アピール 「バーラト」国名問題に透けるヒンドゥー至上主義

2023-09-16 23:24:21 | 南アジア(インド)
(インド モディ首相 【9月7日 Forbes】)

【G20首脳宣言合意 インドはグローバルサウス盟主としての国際的存在感アピール】
今月9日、10日に開催されたG20サミットは、議長国インド・モディ首相にとって、グローバルサウスのリーダーとして国際社会における存在感を示せるかの“正念場”でもありました。

****G20議長国インド、グローバルサウス盟主へ正念場*****
9日に開幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は食料危機など世界規模の課題への対処で一致できるかが焦点だ。

議長国インドはサミットで「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の「盟主」としての立場を固めたい考えだが、ロシアによるウクライナ侵略を巡り日米欧と中露が対立する中、成果を示せるか正念場となった。

「南北間の溝であれ、東西間の距離であれ、食料やエネルギーの問題であれ、次世代のために解決策を見つけなければならない」。インドのモディ首相はサミット冒頭、こう述べ、参加国に団結を促した。

「南北」は北半球の先進諸国と南半球を中心とした途上国、「東西」はウクライナ問題を巡る日米欧と中露の分断を指す。モディ氏は分断の結節点として諸課題の解決に乗り出すと意向を込めたとみられる。

その狙いの焦点にあるのはグローバルサウスだ。ウクライナ侵略に伴う食料やエネルギーの問題、債務の問題も特に影響を受けるのは途上国。気候変動も途上国には先進国が引き起こしたとの思いが強い。サミットの議題とされたのは主に途上国の関心事だ。

インドの事務レベル交渉担当者は首脳宣言について「かつてないほど途上国の声を反映した文書になる」と強調した。

中国の習近平国家主席はサミットを欠席したが、モディ氏に好都合との見方もある。アフリカ連合(AU)のG20入りには途上国のリーダーを自任する中国も支持を表明。習氏がいれば、モディ氏の存在感が薄まった可能性がある。一方で中国が積極的な新興5カ国(BRICS)拡大に対しては、インドは自らの存在感が低下することを懸念しているとされる。

そうしたモディ氏が神経をとがらせたのはウクライナ問題。紛糾して成果文書をまとめられなければ、議長国のメンツはつぶれる。友好国ロシアへの配慮もあったとみられ、途上国が直面する問題に比重を置きたかったとみられる。

ただ、欧米側にはロシアの侵略を見過ごすわけにいかないとの姿勢も強く、調整は難航。各国代表がウクライナ侵略を巡る文言で一致したと報じられるが、欧米が模索したウクライナのゼレンスキー大統領のサミット参加は、インドが受け入れなかったとの情報もある。

G20が合意に到達しても、インドが日米欧が期待する形で連携を強めるかはなお見通せない。【9月9日 産経】
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ウクライナをめぐるロシアと欧米の対立のなかで、インドは難しい調整を迫られましたが、前回に比べるとややロシア寄りの合意文書で、何とか合意を取り付けることに成功しました。

分裂を回避して合意を示せたということでは、インド外交・モディ首相の「成果」とも言えるでしょう。

****分裂回避へインド奔走、G20「合意」を優先…ロシア批判せず****
9日に開幕した主要20か国・地域(G20)首脳会議は、ロシアのウクライナ侵略を巡る対立が先鋭化する中で、首脳宣言の合意に至った。全方位外交を展開する議長国インドが分裂を回避するため奔走した成果と言えるが、ロシアにも一定の配慮を示し、直接的な批判を避けたものとなった。

「今は我々全てが共に歩くときだ。食料やエネルギーの課題に対し、具体的な解決策を講じなければならない」。ナレンドラ・モディ印首相は会議冒頭にこう述べ、各国の協調を促した。

インドは議長国として2月以降に行われた全てのG20の閣僚会議で、共同声明を採択できなかった。首脳会議で宣言が採択できないという史上初めての事態を避けようと、インドは昨年インドネシアで採択されたG20の首脳宣言の文言を踏襲しようとした。

昨年の宣言では、ロシアを名指しせずに「ほとんどの国がウクライナでの戦争を強く非難した」との文言を盛り込んだ。しかし、これにロシアは抵抗し、中国も同調してきた。

今回は、侵略を「ウクライナでの戦争」とした上で、食料・エネルギー供給への悪影響を強調した部分では「異なる見方や評価もあった」とロシアに配慮したとみられる文言もあった。

インドは今回のG20を成功に導き、国際社会の中で存在感を高めようとしていただけに、ある外交筋は「インドは相当な危機感を抱いていたようだ」と指摘する。いち早く交渉をまとめて懸念を拭い去るため、採択の成果を会議初日にアピールしたとみられる。

インドの交渉担当者は9日の首脳会議中も、米欧やロシアとの間で協議を続けた。その結果、モディ氏は9日午後の会議で「合意に至った」と表明し、満面の笑みを見せた。

宣言が合意に至った背景には、米欧とロシアのいずれも、大国間の対立から距離を置こうとするインドなど新興・途上国「グローバル・サウス」の意向を無視できなくなっている事情がある。アフリカ連合(AU)のメンバー入りも決まり、G20では今後、グローバル・サウスの発言力がさらに高まる見通しだ。

一方、インドは、昨年のG20に参加したウクライナを招待しなかった。対立の激化を避けるためだったとみられている。ウクライナ外務省報道官は、宣言の侵略に関する表現について「全く誇れるようなものではない」とSNSで批判し、「我々が会議に出席していれば、ウクライナ情勢をより良く理解してもらえただろう」と不快感を示した。【9月10日 読売】
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【インドを取り込みたいアメリカのインド重視姿勢】
首脳宣言内容については、ロシアが「バランスが取れている」と称賛する一方で、ウクライナは「全く誇れるようなものではない」と批判していることからも、おのずとその性格がわかります。

それでも欧米、特にアメリカがインドとの対立を避けて合意したのは、インドを中国・ロシアに対峙する自陣営に取り込みたいという思惑、インド重視の考えがあってのことでしょう。

****米、印を賛辞 ウクライナ表現後退も関係重視****
「インドの議長国としての指導力を示す重要なできごとだ」。バイデン米大統領の最側近であるサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の首脳宣言をこう評した。

ロシアによるウクライナ侵略に関する批判のトーンが前年のインドネシア・バリ島でのG20サミット首脳宣言より弱まった中でも、議長役のモディ首相の手腕に賛辞を贈ったのだ。

バイデン氏の今回の訪問には、インドを自国に引き寄せたいとの心情が随所ににじんだ。8日のインド到着直後にモディ氏との会談。6月に同盟国の首脳以外で初めて同氏を国賓としてホワイトハウスに迎え、最大級の厚遇をみせてからわずか2カ月半の短期間でさらに首脳会談を重ねることで、いかにインドを重視しているかを示した。(中略)

バイデン政権がインドを重視する背景には、同国の市場規模の大きさや先端技術分野での台頭など経済面に加え、同国との良好な関係がグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の取り込みに寄与するとの期待がある。

巨大経済圏構想「一帯一路」を通じてアフリカ諸国や中東への浸透を強める中国への対抗軸とする狙いからだ。

バイデン政権の対中政策を主導するキャンベル氏は「米国にとり21世紀で最も重要な2国間関係はインドとのそれだ」とまで語る。米国の超大国としての地位が相対的に低下し世界の多極化が進む中、バイデン政権は、次代を見据えたインドとの関係構築を急いでいる。【9月9日 産経】
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アメリカのインド重視の姿勢は今に始まった話ではなく、2007年の米印原子力協定、2008年の原子力供給国グループガイドライン修正に見られる、ダブルスタンダード批判にもかかわらず核拡散防止条約(NPT)枠外のインドを特別扱いする一連の流れでも明確に示されていました。

このアメリカのインド重視の姿勢は対中国包囲網という観点からさらに強化されています。

今回の「合意」は一部の国だけで水面下で進められたようで、日本・岸田首相は蚊帳の外だったようです。
****突然の首脳宣言合意 日本政府関係者「聞いてない」「ふざけるな」****
それは世界中の報道関係者だけでなく、参加国関係者にとっても突然の知らせだった――。(中略)

モディ氏の発言の真偽を確かめると、外務省幹部は「発言を聞いていないので知らない。少なくとも、私がここに来るまではまとまっていなかった」と驚いた表情で話した。

ある交渉関係者は「首脳声明に合意したなんて一切聞いていない。対外発信の前に、(G20メンバーである)我々には知らせてほしい」と話した。そして一言、「驚いた。ちょっとふざけるなという感じだ」とこぼした。【9月11日 毎日】
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【「大国意識」とシンクロする民族意識・アイデンティティ重視 ヒンドゥー至上主義の危うさも】
とにもかくにも、モディ首相としては首脳宣言を合意できたことで「大成功」でしょう。これでインド・モディ首相の「大国意識」に弾みも・・・

「大国意識」は、国名変更による自らのアイデンティアピールとシンクロします。
インドが今回G20で「インド」ではなく「バーラト」という呼称を使用したことが話題になりました。

****国名変更を画策か…インドは大国意識に目覚め、「中国も恐れるに足らず」の危険度****
首脳会議宣言の未採択という史上初の事態は回避
(中略)インドは今回のG20サミットを是が非でも成功させ、国際社会の中で存在感を高めようと躍起になっていた。

主な成果は、インドが主導する形でアフリカ連合(アフリカ55カ国・地域で構成する世界最大級の機関)の正式なメンバー入りが決まったことだ。「グローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国の声をG20に反映させる」という、ナレンドラ・モディ印首相の公約が達成できた形となった。

今回のサミットは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が欠席するという異例の展開もあった。

一方、筆者が注目したのはインドの「国名変更」に関する動きだ。

インドが国名変更? 植民地時代の負の遺産を払拭へ
G20サミットで、モディ首相の議長席に置かれた英語の国名プレートは「インド」ではなく「バーラト」だった。サミットの公式夕食会の招待状も「バーラト」大統領名で出されており、「インドは国名をバーラトに変更するのではないか」との憶測が広がっている。

インドの憲法上では、英語の「インド」とヒンディー語の「バーラト」の両方が正式な国名だが、国際会議などの場では「インド」が使われてきた。「インド」は英国植民地時代の呼称、「バーラト」は古代インドの伝説上の王バラタの領土を意味するサンスクリット語であり、植民地時代以前から使われてきた呼称だ。

モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げている。BJPの支持団体である「民族義勇団」は「バーラトの呼称を広く使うべき」と主張していることから、国名変更の動きは来年4月の総選挙を念頭に置いた政治的な布石だとの指摘がある。

人口約14億人の8割を占めるヒンズー教徒の支持を得て、BJPが総選挙で勝利する戦略だというわけだ。この見方が正しければ、総選挙の終了後にこの一件が落ち着く可能性は高い。だが、筆者は「名実ともに大国となったインドで植民地時代の負の遺産を払拭する動きが加速するのではないか」と考えている。

そこで思い出されるのは約10年前、日本を抜いて世界第2位の経済大国となった時の中国だ。(中略)

中国に対する強硬路線に舵を切るのは時間の問題か
ジョー・バイデン米大統領とモディ首相はG20サミットに先立って会談を行い、「両国は民主主義的な価値観や半導体のサプライチェーン(供給網)など幅広い問題で協力する」との共同声明を発表した。

9月9日付ブルームバーグの記事によると、米政府高官は「中ロ首脳のG20欠席はインドを著しく失望させたが、我々の存在に謝意を示した」との見解を述べている。

米国は無人航空機の調達を求めるインドの要請に積極的に応ずる姿勢を示す(9月9日付日本経済新聞)など、中国の脅威を念頭に安全保障面での協力も深めようとしているが、その緊密ぶりには目を見張るものがある。

9月8日付ブルームバーグによると、中国の台湾侵攻を想定し、米国からインドへ「どのような貢献ができるのか」という非公式の問い合わせがあったという。インドの選択肢の1つは、軍艦や航空機の修理・整備施設や物資を提供する後方支援拠点だ。驚くべきことに、北方国境沿いで軍事的な関与を強めた場合、中国がこの戦いに対応せざるを得なくなる可能性まで分析しているという。

大国意識が高まり、米国という強い味方も得た現在のインドにとって、中国は「恐れるに足らず」になりつつある。かつての汚名(1962年の国境紛争で中国に大敗)をそそぐために、中国に対する強硬路線に舵を切るのは時間の問題ではないだろうか。【9月15日 デイリー新潮】
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もともと国境問題でインドは中国と厳しく対立する状況が続いていますが、“中国は「恐れるに足らず」”という強硬路線を加速させるのか・・・・(軍事力が必要になりますので)そこらはわかりませんが、私が懸念するのは総選挙対策にしろ何にしろ、「バーラト」という古代インドの伝説に由来する呼称を持ち出したことで、今後モディ政権のヒンドゥー至上主義が更に加速するのではないか・・・ということです。

****インド、国名にヒンディー語「バーラト」使用で波紋 「あくまでも国内の政治闘争の一環だ」専門家が解説****
(中略)ただ、皆が一様に言うのは、これはあくまでも政治闘争の一環だという印象でした。

インドでは2024年に総選挙が行われます。その総選挙に向け、ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)は、イギリス植民地時代からの脱却を象徴するため、ヒンディー語のバーライトに国名を変更したいとの思惑があります。

一方、インドの最大野党である国民会議派を含めた複数の野党は、BJPに対抗するため新たな連合「インド全国開発包括連合(INDIA、インディア)」を結成したばかりです。ですから、バーラトの使用はBJPの選挙目的です。【9月7日 中川コージ氏 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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モディ首相・インド人民党(BJP)のヒンドゥー至上主義の危うさをこれまでも何回も取り上げてきたところです。

古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」にも登場するバラタ族に由来する「バーラト」という国名使用の発想には、後世のインドにおけるイスラム王朝の成立、イスラム教徒の拡大という歴史を意図的に排除したいという意識が露骨に出ているように思われます。

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小学校教師、教え子にイスラム教徒の男児をたたかせる インド****
インド当局は26日、小学校教師がイスラム教徒の男児を順番にたたくよう教え子に指示した事件を受け、捜査に乗り出した。事件の映像はインターネットで出回り、怒りの声が広がっている。

事件は24日、ウッタルプラデシュ州の私立小学校で発生。映像には、教師が表向きは掛け算を間違えたことを理由に、7歳の男子児童をたたくよう他の児童に指示する様子が映っている。

教師は泣きながら立つ男児を横目に他の児童に対し、「どうしてそんなに軽くたたくの? もっと強くたたいて」と命じた。さらには「顔は赤くなっているから、代わりに腰をたたいて」と指示した。

警察のサティヤナラヤン・プラジャパット警視はソーシャルメディアに投稿した動画で、映像について検証済みだとして、この教師に対して当局が措置を講じると述べた。治安判事によると、男児の父親がムザファルナガル地区の警察に告訴した。

この生々しい映像を受け、インターネット上では失望の声が広がった。野党・国民会議派のラフル・ガンジー氏は、がヒンズー教徒が多数派であるインドで、与党・インド人民党が宗教的不寛容をあおっていると非難した。

人権団体は、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相が2014年に就任して以降、少数派のイスラム教徒に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)や暴力が増加したと指摘している。 【8月27日 AFP】
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なお、ヒンズー至上主義者は「インド」の呼称を植民地支配と結び付けていますが・・・
“ヒンズー至上主義の極右ナショナリスト団体でBJPの支持母体とされる民族義勇団(RSS)はかねて、インドという呼称を植民地支配の過去に、バーラトという呼称をインドの古代の歴史に結びつける説を声高に主張してきた。だが歴史家は、インドという名称は世界最古の文明のひとつを生んだインダス川と関係があり、数千年前にさかのぼるとしてこうした説を否定している。”【9月7日 Forbes】
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