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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  メルケル首相引退で、どうやって「27か国」をまとめるか マクロン大統領? ドイツの対応は?

2021-10-08 23:18:06 | 欧州情勢
(EUを代表する形でアメリカ歴代大統領と向き合ってきたメルケル首相【9月29日 WSJ】 改めてその存在感の大きさを感じます。)

【EU内部の東西分断】
イギリスの離脱で揺れたEUですが、ブレグジットだけでなく、ポーランドやハンガリーなど中東欧諸国と独仏など主要国の間の民主主義の価値観の違いともいえる本質的な問題を抱えていることは、これまでも再三取り上げてきました。

****ポーランド憲法裁「自国法、EU法より優先の場合ある」 EUは反発****
ポーランドの憲法裁判所は7日、同国の法律が欧州連合(EU)法よりも優先する場合があるとの判断を示した。同国は司法が政府から独立していないとして、EU側から再三、改善を求められていた。これに対し、同国の司法側から政府を「援護射撃」した形だ。
 
ポーランドは司法やメディアへの政府の介入、性的少数者の権利の侵害などが基本的な価値を侵しているとして、EUとの対立が絶えない。EUは今回も強い反発を示し、一段の関係悪化につながりそうだ。
 
同国メディアなどによると、憲法裁は多数意見として、2004年のEU加盟後もEU司法裁判所に最高の法的権限が与えられたわけではなく、ポーランドの法的な主権はEUには移っていないと結論づけた。
 
EU司法裁は3月、ポーランドの裁判官の任命が政府に左右されて独立が保たれておらず、EU法に違反するおそれがあるとの判断を示した。これを受け、同国のモラビエツキ首相が憲法裁に対して、審議を申し立てていた。
 
EUの行政機関の欧州委員会は同日、ポーランド憲法裁の判断は「EU法の優位性とEU司法裁の権限に関して深刻な懸念を引き起こす」とする声明を発表。「EU法は国内法よりも優先され、EU司法裁による全ての判決は、全加盟国の当局を拘束する」とした。
 
欧州委は今回の判断を分析したうえで「次のステップを決める」としており、ポーランドに厳しい対応を迫るとみられる。【10月8日 朝日】
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ポーランドの保守政党「法と正義(PiS)」による現政権は、LGBTなど性的少数者の権利拡大に公然と反対し、胎児に先天的な異常がある場合でも人工妊娠中絶は違憲とするなど、単に司法の独立性、あるいはEU法と自国法の関係にとどまらず、根底には民主主義のあり方や人権に関するEU主要国との認識の違いが存在しています。

価値観の異なる国を域内に抱えていても統一した行動が難しいので、出ていってもらうのがいいのでは・・・とも思うのですが、地政学的に見ると、ポーランドはロシアとの関係では最前線に位置する国ですから、ことはそう簡単ではないのかも。

【バルカン諸国新規加盟に向けた交渉 EU本音は先送り】
ポーランド・ハンガリーのような国を域内に含むEUは更にバルカン諸国の新たな加盟に向けた交渉を行っています。

****EU首脳、バルカン6カ国の加盟を確約 期限設定は見送り****
欧州連合(EU)加盟27カ国は6日、スロベニアで開いた首脳会議で、セルビアやアルバニアなどバルカン諸国6カ国の将来的なEU加盟を確約した。

18年前の確約を改めて確認した格好だが、移民・難民問題への警戒から2030年の加盟を目指すとする期限は設定しなかった。

EU首脳は、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、コソボ、アルバニアの6カ国について、司法改革や経済状態を含む基準を満たせばEUに加盟できるとの見解で一致。

声明で「EUは拡大プロセスへのコミットメントを改めて確認する」とし、「西バルカン諸国の欧州的な展望に対する揺るぎない支持」を表明した。ただ、これらの国の「信頼できる改革」や「公正で厳格な条件」などを注視するとも明記した。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、バルカン諸国を「家族」と表現。フランスのマクロン大統領も、バルカン諸国は「欧州の中心部」であり、EU加盟への道を開くに値すると述べるなど、融和的な姿勢を示した。

ただ、ドイツのメルケル首相とオランダのルッテ首相らは加盟期限の設定に反対。議長国のスロベニアは2030年までの加盟を目指すことで合意するよう呼び掛けていたが、今回の首脳会議では期限の設定は見送られた。

EUのミシェル大統領とマクロン大統領も記者会見で、EU加盟国の数が現在の27カ国から33カ国に増えれば、EUとしての意思決定が一段と複雑になり、EU改革が迫られるとの認識を示した。

EU首脳は首都リュブリャナ近郊のブルド城で行われた5日の夕食会で、中国、アフガニスタン、米国などに対するEU外交政策について討議。

世界銀行によると、バルカン諸国の国際貿易に占める中国の割合は現在は約8%にとどまっているが、インフラ投資計画への大規模な出資を提案。ロシアはバルカン諸国との歴史的なつながりを利用しEUと米国の関与を排除しようとしており、バルカン諸国のEU加盟に反対している。

こうした中、一部EU首脳は、EUはバルカン諸国から外交政策に着手する必要があると主張。ラトビアのカリンス首相は、バルカン諸国は「われわれの裏庭だ」と述べたほか、オーストリアのクルツ首相は「EUがこの地域に注目しなければ、中国、ロシア、トルコなどの大国が大きな役割を果たすことになる。この地域は地理的に欧州に属しており、欧州的な展望が必要になる」と述べた。【10月7日 ロイター】
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ポーランド・ハンガリーなど中東欧諸国にも手を焼いているのに、更に旧ユーゴ解体の混乱を引きずるバルカン諸国まで取り込んで「33か国」となれば、“ミニ国連”であり、迅速な統一行動は更に難しくなります。

上記記事を読んで、これ以上の拡大政策への疑問を感じたのですが、どうやらEUの本音は“期限が設定しなかった”という新規加盟の先送りの方にあるようです。

****しぼむEU拡大機運、バルカン諸国の加盟遠のく****
EU加盟国と候補国との間にある歴史的な問題や地域の緊張の高まりが背景

欧州連合(EU)は長年、多額の資金を投じてバルカン諸国の加盟準備を進めてきた。米国も政情不安や散発的な衝突が続く同地域に安定をもたらすとの期待から、EU加盟を後押ししてきた。
 
だが、EU首脳が6日、これら候補国の首脳らと会談した席で、加盟交渉は合意に近づくどころか、さらに遠ざかってしまったというのが現実だ。
 
欧州では西バルカン諸国のEU加盟交渉がとん挫すれば、同地域と歴史的あるいは経済的に利害関係にあるロシアや中国といったライバルや敵対国が影響力を強めるとの懸念がくすぶっており、バイデン政権関係者も警戒している。
 
ホワイトハウスによると、ジョー・バイデン米大統領は4日、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長と電話会談し、「同地域の国々との加盟手続きを継続することに強い支持を伝えた」という。
 
欧州にとって、バルカン地域は近年の武力衝突の記憶がなお生々しく残る場所だが、漠然とした脅威はEUの拡大路線に反発を強めている西欧諸国の世論を動かすに至っていない。

現EU加盟国と候補国の一部との間にある歴史的な問題に加え、バルカン地域で緊張が高まっていることで、EU拡大への政治的な機運がしぼんでおり、加盟を目指すバルカン諸国の間では不満が高まっている。
 
「西バルカン諸国におけるEU拡大は死んだも同然か、少なくとも仮死状態にある」。コソボのペトリット・セリミ元外相はこう話す。「北欧および西欧の政治家はEU拡大について調子のいいことばかり言うが、行動が伴っていない」
 
EUの冷遇はとりわけ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のアルバニア、北マケドニアに対して顕著だ。EUの執行機関である欧州委員会は、用意はほぼ調っているとしているが、加盟交渉の開始が繰り返し延期されている。
 
EUはセルビア、モンテネグロと加盟交渉を行っているが、ほとんど進展していない。確約されている北マケドニアとアルバニアの加盟交渉は、まずはフランス、次にブルガリアによって阻止された。コソボとボスニアは加盟交渉の開始に全く近づいていない。トルコの加盟交渉については棚上げされた。
 
欧州当局者の間では、目先の加盟実現が遠のく中で、セルビアがアレクサンダル・ブチッチ大統領の下で権威主義を強めているとして危機感が高まっている。歴史的に対立関係にあるコソボとセルビアとの間ではここにきて再び衝突が発生している一方、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」や新型コロナウイルス危機を利用して影響力を拡大している。
 
EUには2004年、新たに10カ国が加盟。07年にルーマニアとブルガリア、13年にクロアチアが加わった。それ以降、EU拡大への政治的な機運は後退している。
 
フランスはかねて、EU加盟国を増やせば、意志決定ができなくなると訴えてきた。EUを創設した西欧諸国と後から加盟した東欧諸国との間で、文化戦争や政治的な対立が絶えないことも拡大路線への支持が落ち込む要因となっている。
 
また英国のEU離脱で分裂のリスクが高まったほか、強力な拡大路線の推進派を失ったこともマイナスに動いた。
 
ブルガリアの欧州外交評議会(ECFR)副所長を務めるベッセラ・チェルニーバ氏は、EUは新たな加盟国の受け入れに熱心な中・東欧諸国と、拡大路線に懐疑的だが、完全に加盟交渉を断念することは望んでいない加盟国との間で膠着(こうちゃく)状態に陥っていると指摘する。
 
同氏によると、「欧州社会がこれ以上、新たな加盟国を吸収できるのかという根本的な疑問があるため」、交渉が暗礁(あんしょう)に乗り上げている。また、一部の西欧政治家は、EU拡大路線は選挙で負ける問題だと認識しているという。
 
加盟交渉に関わっている欧州当局者はモンテネグロとセルビアの交渉は非常に進展が鈍いことを認めている。欧州委は2025年までにどちらかが加盟できることを期待していたが、現時点で実現する見込みは薄いもようだ。
 
ベルリンをはじめ欧州各地にスタッフを擁するシンクタンク、欧州安定イニシアチブのジェラルド・ナウス所長は、EU拡大プロセスはもはや信頼を失っており、そのため加盟候補国を改革する力も失ったと話す。

その上で、EUは正式加盟への中継地点として現実的な改革を実行する見返りとして、単一市場へのアクセスを認める1990年代モデルに戻るべきだとしている。
 
ナウス氏は、加盟プロセスは「地域の安定も含め、いかなる目標の達成にも機能していない」と述べる。【10月7日 WSJ】
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EU加盟に向けて国名まで変更した北マケドニアを棚ざらしにするのは、(ギリシャとの確執があるとは言え)いささか問題もあるようにも。

ただ、セルビアとコソボやボスニアを加盟せたら、紛争の火種を抱え込むようなもの。
拡大に及び腰になるのは十分に理解できます。

個人の男女間の付き合いでもそうであるように、その気がないならはっきり断るのが「誠実」ではありますが、そうもいかないところが国際政治でしょうか。

【メルケルなきEU マクロン大統領が牽引できるのか? ドイツの対応は?】
EUの現実的課題は現在の「27か国」をいかにまとめていくかということでしょう。
特に、これまでEUを牽引してきたドイツ・メルケル首相がいなくなるという大問題があります。フランス・マクロン大統領が自分の出番だと張り切っているようですが。

****「メルケル後」のEU、仏大統領が主導か 独走に不安も*****
ドイツの首相として16年にわたって欧州連合(EU)のかじ取り役を担ってきたアンゲラ・メルケル氏が政界を去って行く。これによってフランスのマクロン大統領がEUで指導力を発揮し、「より独立した欧州」という自ら掲げる戦略を推進するチャンスが巡ってきた。

ただEU内のどの立場の外交官も、それほど急速な変化は起きないと話す。

「欧州の女王」と呼ばれたメルケル氏の下で策定された欧州戦略は、時折、構想の「明快さ」が欠けていた。この点、マクロン氏が明快な物言いをエネルギッシュに続け、EUもマクロン氏特有の言い回しをしばしば取り入れてきたのは事実だ。

それでも外交関係者は、第2次世界大戦後の欧州の政治体制が合意に基づき成立したという歴史を指摘。マクロン氏が直接的で相手をいらつかせるようなスタイルばかりか、欧州戦略の策定で「独走」したがる点から、同氏がメルケル氏の役回りを果たすのはなかなか難しいだろうとの見方が出ている。

EU創設時からのメンバー国の駐フランス外交官は「マクロン氏が1人で欧州を引っ張っていける状況にはない。彼は慎重になる必要があると自覚しなければならず、彼はフランスの政策に早速に応援団が集まると期待してはならない。メルケル氏は特別な立ち位置を持っており、全員の話に耳を傾け、全員の意見を尊重していた」と述べた。

マクロン氏を巡っては、オーストラリアが先頃フランスの潜水艦導入契約を破棄した際、欧州諸国からフランスを支持する声がすぐには出なかったとのエピソードもある。こうした「沈黙」からは、ロシアからの脅威に向けて欧州が独自の防衛力を整備し、米国への依存を減らすべきだとのマクロン氏の構想に対し、EU内部や加盟各国に根深い反対論があることがうかがえる。

マクロン氏自身は過去のフランス大統領に比べれば、東欧諸国により親密に接しようとしている。にもかかわらず、米国が加わる北大西洋条約機構(NATO)を同氏が「脳死状態」にあると切り捨て、ロシアとの対話促進の必要を提唱した際には、ロシアに対抗する信頼に足る防衛力を提供してくれるのは米国だけだと考えるバルト諸国や黒海沿岸諸国は、まさに衝撃に打ちのめされた。

フランス大統領府は、こうした批判についてのコメント要請に応じていない。もっとも複数のフランス政府高官は非公式の場では、ロシアのプーチン大統領との関係も強化するというマクロン氏の戦略がほとんど成果をもたらしていないと認めている。

東欧諸国のある駐仏大使は「彼の対ロシア政策がどういう結果を招くかマクロン氏に言えるなら言いたい。マクロン氏がロシアとの接触を必要としているのは理解する。メルケル氏もそうだった。しかし彼の場合はやり方が問題だ」と一蹴した。

<鍵はイタリアとオランダ>
(中略)そのドイツでは26日に連邦議会(下院)選挙が行われ、メルケル氏が属する保守連合の得票率は過去最低に沈んだ。現在は新政権樹立に向けて各党が連立交渉を進めている段階。

ただ複数の外交官によると、ドイツの連立交渉の行方とは別に、マクロン氏が今後EU運営で成功を収められるかどうかでは、イタリアのドラギ首相とオランダのルッテ首相が鍵を握る。

ドラギ氏は欧州中央銀行(ECB)総裁の任期中にユーロ圏の危機を救った人物として尊敬を集めている。関係者の話では、マクロン氏は既にこのドラギ氏を取り込むべく、この夏に自身のバカンス地に招待していた。実際にはアフガニスタン情勢の混乱により、この話はなくなったという。

マクロン氏は、緊縮財政を推進する「フルーガル・フォー(倹約家の4カ国)」の結成を実現したルッテ氏への働き掛けも始めている。両者の交流を知る外交官の1人は、かつてマクロン氏がルッテ氏に「あなた方は次第に私のようになってきているし、われわれもあなた方に似てきている」と語ったことを明らかにした。

一方、ロイターが取材した5人の外交高官は全員、今になって多くの欧州諸国がマクロン氏の考えに賛成しつつあるとの見方を示した。以前、欧州企業をアジアや米国のライバルから守るという主張をフランスの単なる思いつきだと冷ややかにみていた国も、中国と米国がより踏み込んだ政策を採用したことで、フランス批判の姿勢を弱めている。

あるバルト諸国の外交官は「マクロン氏はやや過激に見えたが、われわれは彼が推進してきた措置の幾つかはかなり妥当性があることが分かった」と評価した。

EUの中で何かと先頭に立ち目立っていた英国が離脱し、フランスがちょうど来年1月からEUの議長国になることも、変化を後押しするとの声も出ている。【10月2日 ロイター】
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イタリアのドラギ首相とオランダのルッテ首相の存在感が大きいとしても、やはりドイツが今後EUに対しどういう姿勢でのぞむのかが、やはり一番のポイント。

ただ、上記記事にもあるように、現在は連立交渉のさなかで、方向性が定まっていません。
社会民主党(SPD)主導になるにせよ、財政支出拡大を容認するシュルツ氏に対し、連立を組むことになることが予想される自由民主党(FDP)は厳しい財政規律を重視しています。

緑の党は中国およびロシアに対して、より強硬な政策を求めていますが、SPDは控えめなドイツの軍事支出を増やすことに一貫して反対しています。

どのような組み合わせになって、その間でどのように意見調整がなされるのかという問題がありますが、新たなドイツ首相にメルケル首相のような手腕を期待できるか・・・という問題も。

“ドイツの次期政権の立ち位置をめぐる不透明さに加え、ショルツ氏、または他の誰が首相になった場合でも、さまざまな意見を持つ27の加盟国からEU全体の合意をたびたびまとめ上げる上でメルケル氏が発揮してきた交渉術、あるいは国内政治力を示すことができるかどうかについて、不安感が存在する。”【9月29日 WSJ「独総選挙のあおり、EUの重要政策が棚上げに」】

メルケルなきEUで、ドイツがどのような役割を果たすのか、マクロン大統領がどういうリーダーシップを発揮できるのか・・・いましばらくは不透明状態が続きそう。
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台湾  強まる中国の軍事圧力 議員交流による欧米からの支援も 中国とのTPP加盟競争

2021-10-07 23:45:35 | 東アジア
(7日午前、台北の台湾総統府で、勲章を授与されたフランスのリシャール元国防相(左)と蔡英文総統【10月7日 時事】)

【高まる中台間の緊張 「中国は2025年に侵攻能力」】
台湾に対する中国の軍事的圧力は今に始まった話でもありませんが、このところ、これまで以上に強い姿勢が見えます。

****台湾の防空識別圏に中国軍機52機 最多更新****
台湾の国防部(国防省に相当)は4日、中国軍機延べ52機が同日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表した。中国は2日に過去最多となる39機を進入させたばかりで、最多記録を更新した。

台湾の蔡英文政権が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入を申請したのを受け、中国は圧力を強めている。

(中略)昨年、台湾のADIZに進入した中国軍機は計380機だったが、今年はすでに600機を超え、今月だけで145機となった。【10月5日 産経】
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こうした中国側の圧力強化は習近平主席の指示によるとも。

****習氏、台湾への軍事圧力を指示 日米英共同訓練に対抗****
中国の習近平国家主席が軍の最高指導機関、中央軍事委員会を開催し、台湾の南西域で台湾への軍事的な圧力を強化するよう指示したことが分かった。複数の中国筋が5日、明らかにした。

沖縄南西海域で2〜3日、米原子力空母や英空母など空母3隻が共同訓練を実施し、海上自衛隊も参加したことを受けて緊急開催したとみられる。
 
中国軍機は1日以降、台湾南西域で台湾の防空識別圏へ大量に飛来。特に4日には昨年9月の公表開始以来最多の56機が進入した。日米英などの共同訓練への対抗的な措置であることは明らかだ。【10月5日 共同】
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今すぐに軍事進攻する考えはなくても、緊張が高まると不測の事態から衝突へ発展する危険性もあり、台湾・蔡英文総統は中国側に自制を求めています。

****中国に自制呼び掛け=軍用機の進入急増で―台湾総統****
中国軍の戦闘機などが今月に入り、台湾の防空識別圏への進入を急増させている問題で、蔡英文総統は6日、「アクシデントを避けるため、自制が必要だ」と中国側に警告した。偶発的な軍事衝突の回避に向け、威嚇行為をやめるよう中国側に呼び掛けた格好だ。
 
蔡氏は、自身が率いる与党・民進党のオンライン幹部会議であいさつした。蔡氏はこの中で、中国軍機の大量進入について「国際社会が一斉に注目している。対岸(中国)の振る舞いは地域の平和と安定を著しく破壊している」と批判した。【10月6日 時事】
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中国の圧力が不気味なのは、今すぐに・・・ではなくても、やがては中国が軍事的手段に出るのでは・・・という懸念を、台湾・国際社会はが持っているからです。

****台湾の国防部長、「中国は2025年に侵攻能力」 国防予算の増額を****
台湾の邱国正(チウクオチョン)国防部長(国防相)は6日、「中国が2025年には全面的に台湾に侵攻できる能力を持つ」と語った。また中台の情勢について、「私が軍に入って40年以上だが、最も厳しい」と述べた。国会にあたる立法院の国防予算審議で、野党・国民党議員の質問に答えた。
 
中国は昨年以降、台湾の防空識別圏(ADIZ)に、自国軍機を高頻度で派遣。10月4日には1日としては最多の延べ56機を進入させるなど、蔡英文(ツァイインウェン)政権への威嚇を強めている。
 
邱氏はこうした点を踏まえ、「中国には現在でも台湾に侵攻する能力があるが、得られる結果に対するコストが大きい。25年にはこのコストを最低限に下げられるだろう」と語った。
 
国防部は、中国が年100機以上の戦闘機を量産するなど、27年の軍創建100年に向け、民族意識も高めていると分析。対応には独自のミサイル開発や軍艦量産が必要とし、国防予算の増額をめざしている。【10月7日 朝日】
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国防部長のこうした発言が、本気の不安なのか、国防予算増額のための戦術なのかは知りませんが、2025年といえばあと数年です。

中国が軍事的オプションを発動するにしても、台湾本島に手をかけるのは台湾側の抵抗、国際社会からの孤立、特にアメリカの反応などからして、強気の中国としてもそうそうできるものでもないでしょうが、周辺部の島を占拠するということなら、そう大きな抵抗もなく可能かも。

そのことで台湾への圧力にもなりますし、中国国内政治的にも台湾回復を始動したということで政治的アピールともなります。

【現実的には中国の侵攻は台湾本島ではなく離島か】
いずれにしても、アメリカの出方を慎重にうかがって・・・といったところでしょう。

****米国人の4割超が「台湾防衛」を支持ー世論調査****
2021年9月29日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、米国の最新世論調査で4割以上が「米国による台湾防衛を支持する」と回答したと報じた。

記事は、非営利、無党派の米ユーラシア・グループ基金(EGF)が8月27日〜9月1日に米国内で実施したアンケート調査の結果を発表し、「もし台湾が中国本土からの攻撃を受けた場合、米軍は台湾を防衛すべきか」との質問に対し、42.2%が「防衛すべき」と回答し、「すべきでない」の16.2%を大きく上回ったと紹介した。また、41.6%が「どう対処すべきかわからない」と回答したと伝えている。

その上で、同基金が分析報告の中で「米国は1979年に『一つの中国』を承認して以降、台湾に対して『あいまい』な戦略を取り、台湾に武器を提供する一方で台湾防衛への協力は明確に示してこなかった。中国の実力が高まったことで、この戦略が正しいかどうかの議論が起きている」と解説したことを紹介した。

また、米軍による台湾防衛を支持する人は、台湾が重要な民主主義の盟友であり、中国によるインド太平洋地域への勢力拡張を阻止する上で戦略的に重要な位置に存在するほか、半導体などの重要な電子製品を生産する貴重な貿易パートナーであるとの認識を持っているとした。

一方で、支持政党によって一定の意見の相違が見られ、台湾防衛支持と答えた共和党支持者の割合が50.6%に達したのに対し、民主党支持者では39.4%にとどまり、10ポイント以上の開きがあったことを伝えている。(後略)【10月1日 レコードチャイナ】
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もちろんアメリカとて、中国と軍事的にことを構えるのは容易ならざる危機であり、米中双方が互いの腹を探り合いながら・・・・。そいうなかで、中国にとっては、台湾本島ではなく周辺部・離島への攻撃というのが選択肢にもなると思われます。

“「中国が台湾の離島奪取」の可能性が濃厚、行動に出るのはいつか”【8月7日 吉田 典史氏 JBpress】では、防衛省防衛研究所地域研究部長の門間理良氏が、台湾の南西に位置し台湾が実効支配している東沙島の名が挙がっています。

中国にとっては、東沙島は地理的・地形的にも軍事行動がとりやすく、台湾軍将兵と海巡署(日本の海上保安庁に相当)の職員があわせて数百人いるだけなので、民間人犠牲を出すことなく占拠でき、(アメリカのリアクションを含む)国際批判も一定に抑えられるメリットがあります。

たとえ台湾本島から数百キロメートル離れた離島でも、国内世論に大しては大きなアピールとなるでしょう。

一方、台湾側はそうした事態は「やむをえない」としているとの見立てで、東沙島で軍事的に激しく争うことはせず、東沙島を犠牲にすることで危機意識を高め、本島防衛態勢を固め、国際社会にも中国の非道をアピールして支援を求める・・・という話になるとも。

また、台湾が東沙島を奪還しようとしないのならば、アメリカも軍を送ることはしないはずとも。

時期的には“2022年には北京で冬季五輪が開催されます。また、同年秋には中国共産党大会が開催され、習近平が総書記兼軍事委員会主席に3選されるはずです。従って、2027年の党大会で引退すると仮定すると、2023年から2027年までの間に東沙島を奪取する可能性が高い。”【同上】とのこと。

そうなれば、中台関係、中国と欧米・日本との関係は、現在以上にシビアなものになります。

【議員交流の形で広がる台湾支援】
現在、中国を苛立たせているのは、フランスの元国防相、リシャール上院議員ら超党派の議員4人の訪台。
オーストラリアのアボット元首相も5日に訪台しています。
そう言えば、高市早苗元総務相も蔡氏総統とオンライン会談をしていました。

正式な国交を台湾と持つ国は、中国の圧力もあって15か国に減っていますが、台湾支援の動きは逆に広がっています。

****台湾支援の姿勢、欧米続々 仏議員訪問、中国「断固反対」****
フランスの元国防相、リシャール上院議員ら超党派の議員4人が6日、台湾を訪問した。米国や日本なども議員交流を通じて、台湾との距離を縮めようとしている。中国はこうした動きに反発しており、台湾への軍事的威嚇がさらに強まる可能性がある。
 
台湾外交部(外務省)によると、リシャール氏は仏上院で台湾友好議員連盟の代表を務め、2015、18年にも訪台した。7日に蔡英文(ツァイインウェン)総統と会談し、10日まで滞在する。外交部の欧江安報道官は事前の会見で「中国の圧力を恐れずに訪台することを歓迎する」と話した。
 
今回の訪台には中国が強く反発。駐仏中国大使がリシャール氏に手紙を送って計画中止を強く要請し、中国外務省は9月末、「仏議員と台湾当局のあらゆる公的な接触と交流に断固として反対する」(華春瑩報道局長)と強調した。

仏政府も「訪問先は国会議員が自由に決めるもの」(外務省)と距離を保つ。仏政府の中国への外交方針は、「独立した、第三の道を目指す」(マクロン大統領)もので、対中警戒論に傾く米国とは一線を画すためだ。
 
ただリシャール氏は仏メディアに「仏外務省と相談の上の訪台だ」と語っている。仏政府も、台湾企業が半導体供給の大きなシェアを握っており、台湾支援の姿勢を示すことは国益にかなうと判断したとみられる。香港や新疆ウイグル自治区の人権問題などで中国批判が強まる仏世論も訪台の背景にありそうだ。

台湾が正式な外交関係を維持する国は15カ国にとどまるが、近年は台湾への支持を強める国が増えつつある。政府間の外交でない議員交流は、中国の批判をかわす手法の一つだ。

米議員の訪台は頻繁で、今年6月には上院議員らが韓国から軍用機を使って訪れた。昨夏以降、東欧チェコの上院議長や日本の自民党の古屋圭司衆院議員らが訪台。高市早苗元総務相も今年9月、蔡氏とオンライン会談した。

 ■「一つの中国」厳しく順守要求
台湾国防部(国防省)によると、10月1~5日には延べ150機の中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入。空母打撃群も参加する日米英など6カ国による台湾東部海域などでの共同訓練や、仏議員団の訪台に反発する動きの可能性もある。
 
中国は国際社会に台湾は中国の一部だとする「一つの中国」原則の順守を要求。台湾に近づく国々に厳しい態度を示している。昨夏のチェコ上院議長らの訪台では、チェコ産ピアノの契約を停止。

リトアニアが今年7月に「台湾代表処」の名称で台湾が事実上の大使館を置くことを受け入れると、中国は駐リトアニア大使を召還した。
 
近くスイスで開かれる米中高官会談では、バイデン政権の台湾関与の姿勢を見直すよう改めて求めるとみられる。【10月7日 朝日】
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“政府間の外交でない議員交流は、中国の批判をかわす手法の一つ”という便法ですが、リトアニアが「台湾代表処」の名称で台湾が事実上の大使館を置くことにしたのは、そうしたレベルを超えており、中国との間でホットな争いにもなっています。

“台湾問題で中国と関係こじれたリトアニア、中国企業による契約拒否相次ぐ”【9月21日 レコードチャイナ】

****リトアニア「中国製スマホに監視機能」不買呼びかけ****
リトアニア国防省は24日までに、国内で流通する中国スマートフォン大手、小米科技(シャオミ)の製品に、中国政府が警戒する用語を検出し、コンテンツの利用を制限する機能が内蔵されていると警告した。同省は、中国製スマホの不買と購入済み製品の廃棄を公共機関や消費者に呼びかけた。(後略)【9月24日 産経】
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【中国のTPP加盟を退ける手立てはあるのか?】
日米英など6カ国による台湾東部海域などでの共同訓練や、仏議員団の訪台と並んで、中台間の問題となっているのがTPPへの中国、そして台湾の加盟申請の件。

****中国、TPP加入交渉へ参加国への働きかけ積極化 NZなど支持****
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入申請を9月16日に行った中国が、加入交渉に向け参加国へ働き掛けを強めている。

9月末には王毅(おう・き)国務委員兼外相がメキシコとの電話会談で加入へ積極姿勢を示し、中国商務省はニュージーランドなどから協力姿勢を引き出した。台湾の加入申請を受け、自国に有利な環境整備を急いでいるとみられる。

王氏は9月29日、メキシコのエブラルド外相と電話会談し、加入申請について「対外開放をさらに拡大する固い決意を示したものだ」と強調。エブラルド氏は「申請を称賛、歓迎する」と応じた。王氏は同日、マレーシア、ブルネイの外相ともそれぞれ電話会談。中国外務省の発表文にTPPの文字はないが、いずれもTPP参加国であり協力を求めた可能性がある。

習近平国家主席も24日、ベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長と電話会談を実施。発表文はTPPに触れていないが、習氏は「双方は国際・地域問題での協調、協力を強化すべきだ」と強調した。

ベトナム外務省報道官は23日、中国の加入申請について「経験と情報を共有することを望む」と述べている。両国とも国有企業の存在感が大きいなど共通点が多く、中国の加入にはベトナムの事例が役立つと指摘される。

中国商務省幹部も28日にニュージーランド、29日にブルネイとテレビ会議を実施。ニュージーランド側から「中国の申請は非常に重要な意義を持つ一歩で、今後のプロセスを積極的に推進する」との言質を得た。

TPP加入には、全参加国の同意を得ることが必須だ。日本やオーストラリアなどが中国の加入に慎重姿勢を見せる中、それ以外の国々から協力を取り付けて外堀を埋める思惑も指摘される。

22日に台湾がTPP加入申請に踏み切ったことで、台湾の加入阻止へ先に支持を得ることも重要な課題になったとみられる。

中国商務省報道官は30日の記者会見で「次の段階として、TPPの手続きに従い参加各国と協議する」との方針を示しており、TPP参加国とのやり取りをさらに加速させる見通しだ。【10月3日 産経】
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中国の場合、国有企業の影響度、知的財産権の保全、資本の自由化(海外からの投資の自由化)、労働者の権利を守ること(新疆ウイグル地区でのジェノサイド疑惑の解消)など、クリアしなければならない問題が多く、台湾加盟は歓迎するものの、中国加盟に慎重な日本などでは中国の加盟は難しいとの指摘が一般的ですが・・・。

****今の日本に中国のCPTPP加盟を止める手立てはない****
(中略)日本では、加藤官房長官が「中国の加盟はルールに則って進める」「台湾の加盟は歓迎する」と述べたが、両者の扱いの違いは鮮明だ。(中略)

中国の加盟を防ぐ手立てはあるか?
2020年12月、中国の習近平主席は、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、EUのミシェル大統領、欧州委員会のフォンデアライエン委員長とオンライン会談をして、中国EU包括投資協定(CAI)の妥結を宣言した。中国がEUの求める基準をすべて飲んだ賜物である。(中略)
 
ところが、EUの中で民主主義や資本主義という意識が台頭したために(そう筆者は受け止めている)、感情的なもつれもあって、2021年6月にCAIは凍結されてしまった。CPTPPもそうなるだろうと予測している向きは多い。
 
その考えはわからなくもないものの、アジア・オセアニア諸国には、EU諸国のような民主主義や資本主義の長く複雑な歴史はなく、また中国を見下すという感覚もない。利益優先となるのはむしろ自然だ。一度合意に達すれば、それで中国の加盟プロセスは進むだろう。
 
CPTPP議長国を務める日本からすれば、中国がクリアしなければならない問題は数多くあると感じるのかもしれない。ただ、中国側が期限を付けてすべて受け入れる、または事実関係の調査を受け入れるという反応をとれば、それでOKということになる。結果を待ってOKという回答も出来ようが、これは時間が解決するかもしれない。ジェノサイドについては、現場の写真が出てきていないのも弱点だと言えるだろう。
 
この時に、「それは騙されているんだ」と叫ぶ専門家もいるだろうが、中国自身が条件を飲むと言った場合に、それを嘘だと言える根拠はどこにもない。(中略)
 
つまり、中国が融和的な態度で条件をクリアできると宣言した場合に、それを止める手段はないのである。(後略)【10月1日 小川 博司氏 JBpress】
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中国は参加を言い出した以上、台湾に先んじて加盟する意向でしょう。そのためには「条件はクリアする」と言明するのでしょう。

そのとき外交交渉という場で、「習近平は嘘つきだ。騙そうとしている」と言える国があるのか?
それを言えば、オーストラリアやリトアニアが直面した以上の経済圧力を受け、国内経済は動揺し、その政権は次期選挙で政権を失うかもしれない・・・という状況で。しかも、中国加盟で経済的メリットは圧倒的に拡大する・・・。

いったん中国が先に加盟すれば、台湾の加盟を中国は認めないでしょう。
台湾としては中国より先に、少なくとも同時に加盟する必要があります。
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カンボジア  ワクチン、競技場など中国支援 中国は施設の軍事利用 首相「中国の衛星国ではない」

2021-10-06 23:07:32 | 東南アジア
(新国立競技場の引き渡し式を見守る中国の王毅外相(左)とカンボジアのフン・セン首相(右)【9月13日 AFP】)

【中国製ワクチンで高接種率 それでも感染拡大 首相指示で感染者を隠蔽】
フン・セン首相のもとで強権的な統治が続くカンボジアの新型コロナに関する話題。

フン・セン首相が中国の強力な後ろ盾を得ていること、そのことで、ASEANにあってカンボジアは中国の代弁者的な立場にあることは周知のところ。

一方、あまり知られていませんが、実はカンボジアは人口の8割以上が少なくとも1回の接種を受けているというように、ワクチン接種が非常に進んでいる国です。3回目の追加接種や子どもへの接種も始まっています。

そのワクチンは、当然のごとく、緊密な関係にある中国からのもの。

****カンボジア・プノンペン、中国のおかげで「世界でワクチン接種率が最高の首都」に―中国メディア****
中国紙・環球時報(電子版)は8日、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルド(電子版)の7日付報道を引用する形で、「カンボジアのプノンペンが中国の助けのおかげで世界でワクチン接種率が最高の首都に」とする記事を掲載した。

記事によると、カンボジアのフン・セン首相は5月の地域フォーラムで、新型コロナ対応における中国への依存について鋭く質問され、「中国に助けを頼まずに、誰に助けを求めるのか」と答えた。

4カ月後、フン・セン首相の率直な北京への傾倒は、ウイルスによって引き起こされた苦難に少なくとも一つの利点をもたらした。

カンボジアは、中国の「ワクチン外交」の主な受益者の一つだ。同国の保健当局によると、1600万人の人口のうち、成人の95%を含む70%以上が1回目のワクチン接種を終え、2回目の接種を終えた割合は55%に近づいている。

カンボジアを拠点とする投資顧問会社、メコン戦略パートナーによると、約200万人が住むプノンペンは現在、1人当たりで世界で最もワクチン接種を受けている首都でもある。

同国のワクチン接種計画は予定より8カ月早く始まり、近隣諸国より1年も早く完了するとみられる。同国が受け取ったワクチン3000万回分のうち2700万回分以上が中国から来ている。

そのほとんどが寄贈されたものではなく購入したものだが、ワクチンの供給が深刻な課題となる中で、列の先頭にいることはとても重要だ。

メコン戦略パートナーのパートナーであるオーストラリアの元銀行家、スティーブン・ヒギンズ氏は、「カンボジアでもデルタ株が確認されたが、ほとんどの人がワクチン接種済みなので、猛威を振るうというところまでは至っていない」と述べている。【9月9日 レコードチャイナ】
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上記記事では、「カンボジアでもデルタ株が確認されたが、ほとんどの人がワクチン接種済みなので、猛威を振るうというところまでは至っていない」とのことでしたが、他の国々同様に、やはりデルタ株の感染拡大が起こったようです。

しかし、そのことはフン・セン首相のお気に召さなかったようです。

****カンボジア、感染者激減****
首相、無症状の検査除外指示か

カンボジアで新型コロナウイルスの新規感染者が1日、前日から8割近く減った。9月以降の増加傾向が急に変化した。無症状の人を検査対象から外すよう、フン・セン首相が指示したとされる音声データが流出し、その影響だとみられている。同国では感染者を巡るデータが実態を反映しなくなった可能性がある。

カンボジア保健省によると、1日の新規感染者数は232人で、前日から76%減った。これは結果が出るまである程度の時間が必要なPCR検査で検出された。検査から数十分で結果が判明する抗原検査の陽性例は含まれていないとみられる。

新規感染者数の急減は、フン・セン氏が複数の政府高官に対し、検査対象を症状がある人に限るよう指示したとみられる音声データが明らかになった後で起きた。地元メディアのVODは、こうした指示があったことを3人の政府職員に確認した。

独自に入手した音声データは9月29日の録音だとされる。フン・セン氏とみられる人物が部下に対し(無症状者への)積極的な検査をやめ、症状のある人が検査を受けられる場所を設けるよう指示。当局が無症状の陽性者を無理に探し出していると不満を示していた。

この人物は「各州の村などでは新型コロナの迅速検査をやめるように」と話し、迅速検査は所定の場所でだけ実施するよう求めた。

新しい検査体制が経済再開につながると指摘したうえで「以前のようにやる必要はない」と言明した。そのうえで、こうした指示を「ほかの人に漏らさないように」と念押ししていた。(後略)【10月6日 日経】
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当然ながら、無症状感染者を野放しにすることで感染拡大の温床となることは明らかで、フン・セン首相の指示は賢明なものではありませんが、とにかく、フン・セン首相の意向に逆らうことは許されない国ですから・・・・

海外旅行再開になっても、カンボジアは控えた方がよさそうです。

【競技場、ダムも ただし問題も】
ワクチンだけでなく、いろんな面で中国からの供与を受けていますが、東南アジア競技大会のメイン会場となる競技場もそのひとつ。

****中国、カンボジアに競技場贈与****
カンボジアの首都プノンペンで12日、中国が1億5000万ドル(約160億円)を支援し建設された新国立競技場の引き渡し式が行われた。中国からカンボジアに贈与されたインフラとしては過去最大の案件となった。
 
引き渡されたのは「モロドク・テコ国立競技場」で、海外での影響力拡大を狙う巨大経済圏構想「一帯一路」の一環となる。

6万人が収容可能で、2023年に開催される東南アジア競技大会(SEA Games)のメイン会場となる。引き渡し式には、中国の王毅外相が出席した。
 
カンボジアのタオン・コン観光相は、競技場の総工費は1億5000万ドルで、中国によるインフラ分野での贈与としては過去最大だと述べた。
 
帆船を模した外観は、中国人がかつて船に乗りカンボジアにやって来た歴史を表現したもので、両国の長期にわたる友好関係を象徴しているという。
 
カンボジアのフン・セン首相は中国への依存を強めているとして批判を浴びている。首相は12日の式典で、中国は「信頼でき、尊敬すべき友人だ」とし、中国との関係性を正当化した。
 
また、競技場については「カンボジアと中国の揺るぎない友好関係がもたらした新たな成果だ」と述べた。
 
フン・セン氏によると、王氏はカンボジアの開発プロジェクトに対し計2億5000万ドル(約270億円)を支援する複数の協定にも署名した。
 
王氏はカンボジアのインフラ整備への支援継続を表明するとともに、対カンボジア協力で「政治的条件」を付けたことは一度もないと強調した。
 
中国はカンボジアに新型コロナウイルスワクチンほぼ2800万回分を提供しており、うち430万回分は無償となっている。【9月13日 AFP】
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王毅外相の“対カンボジア協力で「政治的条件」を付けたことは一度もない”という言いぐさも、笑える話です。

表だって「条件」などつけなくても、すべての面で中国の利益に最大限に配慮してくれる関係が成立しているということでしょう。

中国の支援事業では、中国も当初の計画と実際が異なるということも。
また、環境や住民生活への配慮を欠くことも。

****中国出資のカンボジア巨大ダム、数万人の生活破壊 人権団体報告****
中国が出資するカンボジアの巨大ダムについて、エネルギー生産量が当初の計画を下回っている上、数万人の村人の「生活を流し去った」とする報告書を10日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチが発表した。

カンボジア北東部にある発電量400メガワットの「セサン下流2水力発電所ダム」は、2018年12月の開業以前から長らく論争を巻き起こしていた。
 
水産専門家は、資源豊かなメコン川の主要な支流であるセサン川とスレポック川の合流点をダムにすると、メコン川の氾濫原沿いに住む数百万人にとって重要な水産資源が脅かされると警告していた。
 
報告書でHRWは、ダムの上流と下流に住む数万の村人の収入に大きな損失が出ていると指摘。執筆したHRWのジョン・シフトン氏は、「カンボジア当局は、このプロジェクトをめぐる補償、再定住、生計回復の方法について早急に見直す必要がある」と述べた。
 
カンボジア政府は、建設を担った中国電力大手・中国華能集団が約束した通り、カンボジアの年間電力需要の約6分の1が賄われることを期待して、約5000人の再定住を伴うダム事業を推進した。だが、実際の生産量は当初計画の3分の1程度にとどまっているという。
 
ダムはアジアからアフリカ、欧州にまたがる中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の一環で、建設費は7億8000万ドル(約860億円)とされている。 【8月10日 AFP】
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「一帯一路」にまつわるトラブル、受入国の期待どおりに進んでいないといった話は、他国でも多々あるようですが、そのあたりの話はまた別機会に。
メコンの水資源と上流国のダム建設の問題もありますが、それも別機会に。

【中国支援で海軍基地拡張 「中国専用ではない」「衛星国ではない」】
中国側の見返りは、個々のプロジェクトに絡むもののほか、カンボジア施設の軍事利用なども。

****中国、カンボジアの海軍基地の拡張支援*****
中国がカンボジア南西部にあるリアム海軍基地の拡張を支援していることがわかった。国有エンジニアリング会社の中国冶金科工集団が同基地拡張プロジェクトに関わっており、中国による軍事利用の懸念が指摘されている。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は衛星写真を分析した結果、カンボジアのリアム海軍基地で米国の支援で建設した施設が2020年9月中旬には破壊されたことがわかったと発表した。

破壊された施設の付近には米国がカンボジア海軍に寄贈した小型巡視船が保管されている。CSISは基地周辺の土地が中国企業によってリゾート用に開発されていることも確認し「中国が進出している懸念が消えない」と指摘した。

カンボジア海軍の高官は日本経済新聞の取材に、中国の基地拡張プロジェクトを認めている。バン・ブンリエン海軍副司令官は小型船舶しか進めない現在の水域をより深くするための作業をしていると説明し、さらに「中国は基地内に船体修理の施設を造る工事を支援してくれている」と語った。ただ、同氏は中国軍が関与しているとの見立てを否定している。(中略)

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはカンボジアが中国に同基地の軍事利用を認める代わりに、中国がインフラを整備する秘密合意を結んだと報道している。CSISは「リアム海軍基地の施設は小型巡視船を収容することしかできないため、大規模な港湾開発には注意が必要だ」と指摘している。【2020年10月6日 日経】
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フン・セン首相は、「(中国以外の)他の国々も寄港や給油、カンボジアとの(合同)軍事演習実施の許可を求めることができる」と発言し、“中国専用”ではないとしていますが・・・

こうした中国とカンボジアの関係を見ると、「カンボジアはまるで中国の衛星国ではないか」(“衛星国”というのも、ソ連時代の懐かしい表現ですが)といった指摘も出てきますが、フン・セン首相はもちろん否定します。

****「中国の衛星国」批判、首相が反論****
カンボジアのフン・セン首相は7日、カンボジアは中国の「衛星国」ではないと強調した。中国からインフラ整備などの分野で多くの支援を受けていることについては、同国が最も積極的な支援の姿勢を表明した結果と説明している。クメール・タイムズ(電子版)などが8日に伝えた。

フン・セン首相は、「中国による融資でカンボジアでは道路の建設などが順調に進んでいる。日本や韓国の支援で建設された道路や橋もあるが、中国の援助はさらに大きい。他の国で中国ほど積極的に支援を申し出る国はなかった」と指摘。中国からの多大な援助を一方的に取り上げて、「カンボジアを中国の衛星国」と見なす見解は妥当ではないと不快感を示した。

「中国の衛星国」との見方に抵抗を示す首相の発言は、カンボジアが米国の支援で建設された南西部のリアム海軍基地の施設を取り壊したことが背景にある。基地周辺の土地を中国企業が借り上げていることから、米国側は同施設の解体を中国の軍事利用に便宜を図る対応として批判を強めていた。

フン・セン首相は、「中国だけが特別扱いになっているわけではない」と述べ、米国側の臆測を否定。「軍港は事前に許可を取得すればどの国の船でも停泊することができる」と説明した。【2020年10月9日 NNA ASIA】
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もっとも、フン・セン首相はあの過酷なカンボジア内戦を生き延びた人物ですから、別に中国のためにいろいろやっている訳でもなく、あくまでも中国から利益が引き出せるなら・・・という現実的計算のもとでの行動でしょう。

風向きが変われば、対応も変わるでしょう。そのあたりはしたたかな政治家です。(短期的には)腹の足しにならない人権や民主主義といった理念には興味ないでしょうが。
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ミャンマー  進展しないASEANによる仲介 続く経済混乱 “寝返り”兵士・警官も

2021-10-05 23:25:10 | ミャンマー
(軍政の指導者ミン・アウン・ウライン総司令官の誕生日である7月3日、ミャンマーのマンダレーで、クーデターに反対する人々が抗議の意を示す旗と三本指を掲げてデモ活動を行った【10月3日 JBpress】)

【ASEAN特使受入れを拒む軍政 ASEAN内部には苛立ちも】
前政権と国軍側の2名の国連大使が並存しているミャンマーですが、国連総会の一般討論演説については、演説を控える代わりに民主派の国連大使の地位を保つという米国と中国の合意がなされたことで、前政権によって任命されたチョー・モー・トゥン国連大使は演説を見送りました。

同大使はその「合意」を認めたうえで、来年9月まで1年間続く会期中には「ミャンマーの人たちのために発言する機会は多くあるだろう」との認識を示していましたが【9月28日 産経より】、国連総会の委員会で発言することになったようです。

****軍統治反対のミャンマー国連大使 国際社会へ支援訴えることに****
ミャンマーで、軍による弾圧によって市民に多数の犠牲が出る中、軍の統治に一貫して反対してきたチョー・モー・トゥン国連大使が近く、国連総会の委員会で発言し、軍の統治を認めず抵抗する市民を支援するよう国際社会に訴えることにしています。

ミャンマーでは、軍による市民への弾圧が続いていて、現地の人権団体によりますと、ことし2月のクーデター以降4日までに、1158人の市民が犠牲になりました。

さらに先月、民主派勢力が発足させた「国民統一政府」が市民に自衛のための戦闘を呼びかけたことから、軍と市民との間で武力衝突も相次ぎ、双方に多数の死傷者が出る事態となっています。

こうした中、ニューヨークの国連本部では、前の政権に任命され軍の統治に一貫して反対してきたチョー・モー・トゥン国連大使が近く、国連総会の委員会で発言することになりました。

軍は、すでに別の国連大使を任命したとしていますが、現時点で各国の代表権を決める国連の信任状委員会の結論が出ていないことから、チョー・モー・トゥン大使が引き続きミャンマーの代表とされています。

チョー・モー・トゥン大使をめぐっては、先に暗殺計画が発覚し、アメリカの警察などが捜査する事態となっていますが、大使は改めて国際社会に対し、軍の統治を認めず抵抗する市民を支援するよう訴えることにしています。【10月5日 NHK】
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一方、ASEANの外相会議には国軍側の外相が出席していますが、ASEANの特使決定から約2カ月がたつにもかかわらず、国軍側は依然として受入れを拒否しています。

事態の仲介を目的とした特使である以上、ASEAN側は国軍だけでなく民主派との接触(具体的には、アウン・サン・スー・チー氏との面会)を求めており、そのことに国軍側が難色を示しているようです。

なお、特使には、8月4日の外相会議で、議長国ブルネイのエルワン第2外相が任命されています。

****ASEAN外相会議、ミャンマーの和平に向けた取り組みに失望の声****
 東南アジア諸国連合(ASEAN)は4日、外相会議を開いた。

軍政下にあるミャンマーが合意した和平計画の履行を巡り、各国の外相から懸念の声が上がった。今月下旬に開くASEAN首脳会議に国軍トップが出席することを懸念する声も出た。

インドネシアのルトノ外相は、会議後の会見で「大きな進展がみられない。国軍は特使による試みに前向きな反応を示していない」と述べ「大半の国が失望を表明した」と述べた。

シンガポールのバラクリシュナン外相は、特使がミャンマーで直面した課題についてASEAN加盟国に説明したと述べ、ミャンマー国軍の最高意思決定機関である国家統治評議会(SAC)に対し協力するよう訴えたと説明した。

マレーシアのサイフディン外相はツイッターに、進展がなければ、今月下旬のASEAN首脳会合に国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官が参加することが難しくなると投稿した。

ASEAN首脳会議にミン・アウン・フライン氏の参加を認めないべきだとする提案がなされたどうかは不明。【10月5日 ロイター】
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ただ、ASEAN内部も、ミャンマー同様に軍事クーデターで実権を掌握したタイ政権、軍政が頼りとする中国に極めて近いカンボジアやラオス、国内人権問題への干渉を嫌うベトナムのように、ミャンマー軍政に融和的な国もあって、ミャンマー軍政への対応には温度差があるのが実態。

国軍側がスー・チー氏とASEAN特使の面会を認めるとは考えにくいなかで、特使派遣を含む暴力の即時停止、人道支援の提供など「五つの合意」(ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官も交えて4月24日に開かれたASEAN首脳会議で合意)は形骸化し、ASEANの存在意義も薄れていきます。

2003年から5年にわたりASEAN事務局長を務めたシンガポールのオン・ケンヨン氏は5月の講演で、国軍が特使受け入れに反対する場合には強い対応を取るべきだと主張。「ASEANには資格停止や追放の規定がないと言われるが、やりようはある」とも述べていますが【6月1日 朝日より】、なかなかそうした毅然とした対応がとれないところがASEANのASEANたる所以でしょうか。

マレーシア外相が今後開催予定のASEAN首脳会議からミャンマー軍政代表を排除する可能性に言及したのも、そうしたASEANの現状への焦りが現れているともとれます。

*****マレーシア、ASEANからのミャンマー排除を提案 解決の道筋見いだせぬ加盟国****
(中略)今回のマレーシア外相の「ミャンマー首脳の排除の可能性への言及」はこうしたASEAN内の焦りや手詰まり感を反映したものといえるが、どこまで実現の可能性があるかは極めて不透明だ。

そうしたASEAN内の今後の対応を見極めたうえでミャンマー軍政もASEAN特使への対応を明確にするものとみられている。

ASEANは内部の各国による綱引きと同時にしたたかなミャンマー軍政との駆け引きも求められるという難しい立場に追い込まれ、域内連合体としてミャンマー問題の解決に向けた調停、介入は依然として先の見えない状況にあるといえるだろう。【10月5日 大塚 智彦氏 Newsweek】
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【軍政の為替管理奏功せず、通貨チャットは暴落を続ける】
ミャンマー国内での国軍統治は、うまくいっていません。
経済活動の根幹となる為替管理も混乱。

****ミャンマー国軍、為替相場の管理策を撤回 二重相場で混乱、通貨急落****
クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、国軍の統制下にあるミャンマー中央銀行が為替相場の管理強化策を撤回した。クーデター後の混乱で起きた通貨チャットの急落への対応だったが、実勢レートとの二重相場が生じ、かえって混乱が深まっていた。
 
中銀は9月10日、8月上旬に出していた管理変動相場制への移行の指示を「撤回する」とホームページ上で発表した。国軍の報道官は、現在の為替は「市場レートを反映している」と述べ、変動相場制に戻したことを認めた。
 
管理変動相場制を採用していた間、中銀は1ドルを1600チャット台半ばから1730チャット台に定め、この値から上下0・8%の範囲内で取引するよう命じていた。

だが、自国通貨への信用は高まらず、ドルを手元に置く市民が増加。両替商は実勢レートとの二重相場で商売を続け、現地メディアによると、実勢レートは史上最安値の1ドル=2020チャットにまで下落した。
 
現地の金融関係者は「管理変動相場制に移行してもドル不足が解消されず、二重相場も進んだため撤回したのだろう」とみる。
 
ミャンマーは2011年の民政移管後に、固定相場制から管理変動相場制に移行。16年から政権を担ったアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権が実質的な変動相場制を採用し、長く続いた二重相場は解消に向かっていた。
 
だが、今年2月のクーデターを機に、それまで1ドル=1300チャット台で推移していたチャットは急落。国軍は何とか相場を安定させようと、8月から管理変動相場制を復活させていた。【9月17日 朝日】
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上記の管理強化策撤回後も混乱は拡大しているようです。

****チャット暴落、1ドル=2500超え*****
ミャンマーの通貨チャットが暴落を続けている。市中の両替商の米ドルの販売レートは28日午後までに1米ドル=2,500チャット台に突入したもようだ。前日比で約3割の下落となる。同日のミャンマー中央銀行の参考レートは1米ドル=1,755チャットで、乖離(かいり)が一段と進んだ。

最大都市ヤンゴンの両替商では28日午前中から、1米ドル=2,200チャット台をつけ、その後も下がり続けた。独立系放送局「ビルマ民主の声(DVB)」英語版のツイッターへの投稿によれば、28日午後2時時点のレートは同2,500チャット台に達した。闇市場では2,700チャットにまで下落したとの情報もある。(中略)

中銀は規制撤廃後も断続的にドル売り介入を続けているが、ここにきてチャット安に歯止めが効かない状況に陥っている。【9月29日 NNA】
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【「兵士や警官の寝返り増加」とのことだが・・・】
国内治安も、軍政に対抗するために民主派が組織した「国家統一政府(NUG)」が9月7日、国民に対して武装抵抗による「一斉蜂起」を呼びかけたことで、不安定感を増しています。

そうした状況で、民主派に“寝返る”兵士や警官も増加しているとも。

****「市民に銃口向けられない」ミャンマーで兵士や警官の寝返り増加****
混迷が続くミャンマーで、軍政による実弾発砲を伴う弾圧方針に疑問を抱いた兵士や警察官が、軍や警察を離脱する事例が増えているという。そればかりか、中には民主勢力側に寝返って軍と戦うことを選択するケースもあるようだ。
 
報道によると9月27日までの過去2週間で兵士、警察官約450人が民主政権側の武装組織に寝返るか、寝返る意向を示して機会をうかがっていることが分かった。
 
こうした事態に対して軍政側も駐屯地や軍施設などからの外出を厳しく制限したり、外部からの訪問者に対する規制を強めたりするなどの対応策に出ており、軍内部でも焦燥感と危機感が高まっているようだ。

■ 呼び掛けに応じる形で軍や警察を「離脱」  
軍政に対抗するために民主派が組織した「国家統一政府(NUG)」は9月7日、国民に対して「全世界は軍が公営住宅、宗教施設、病院、学校を占拠し、人々を脅し、逮捕し、殺し、私有財産を略奪し、村を燃やすなど、非人道的な戦争犯罪を絶えず行っていることを知っている」として、武装抵抗による「一斉蜂起」を呼びかけた。  

その呼びかけの中にこんな一節もあった。  
「ミン・アウン・フライン国軍司令官に抑圧されてきた全ての兵士、警察官、公務員に警告する。出勤、活動を停止して、国軍司令官と軍政を攻撃せよ」  

つまり、兵士や警察官に対し、現在の職場・任務を放棄して、NUGによって組織された武装市民による「国民防衛隊(PDF)」への参加、つまり“寝返り”を呼びかけたのだった。
 
(中略)この数字と情報は、NUG関係者や警察などを離脱して軍政に抵抗するため「不服従運動(CDM)」に参加している治安組織のメンバーらが明らかにしたものとされ、今回の453人を合わせると、2月1日以降に軍・警察組織を離脱した兵士・警察官の合計は約3000人に上るという。  

この3000人の中には、「国民防衛隊(PDF)」や国境周辺地域の少数民族武装集団に合流し軍政と戦う道を選択した兵士・警察官の他に、隣国インドなどに脱出・避難したケース、さらに地下や地方に逃れて潜伏生活を送っているケースも多く含まれているとしている。  

またNUGなどによると、今回離脱が明らかになった453人の兵士や警察官のうち、約50人がすでにPDFに合流して、市民とともに銃をとって軍と対峙する前線に展開しているといい、残る約400人も軍部隊や警察組織から警戒監視の目を逃れて安全に離脱する機会を探っているという。

■ 広がる厭戦気運を軍も警戒  
このような兵士や警察官の「寝返り」情報に関しては、RFAの照会に対し軍政側がこれまでのところ無回答のために、その真偽・信ぴょう性は最終的には確認されるには至っていない。  

ただRFAによれば、事態を重く見た軍は最近、部隊の駐屯地や兵士が家族と居住する軍施設から兵士や家族の外出を厳しく制限するようになったとの匿名の軍関係者の証言を伝えている。こうしたことからも、報じられている数字はある程度実態を反映したものと見られている。
 
このRFAの報道によれば、兵士やその家族が外出許可証を入手できるのは病院への通院など健康上の理由だけで、その場合でも所持できるのはわずかの衣類だけで、日帰りが義務付けられるようになったという。  

また外部の人の訪問も厳しく制限され、商人の出入りも厳しくチェックされるようになり、兵舎での生活環境も息苦しいものに変化しているとしている。  

一方、民主派組織は、軍や警察を離脱した兵士・警察官に対して、必要であれば当座の資金を提供したり、場合によっては潜伏先、避難先を準備したりするなど手厚い保護を提供しているようだ。こうした保護によって、さらなる「寝返り」「厭戦気分拡大」を促す努力が続けられている。 

■ 治安部隊の死者増加も一因か  
9月7日のNUGによる国民への「一斉蜂起」「武装闘争開始」の呼び掛け以降、ミャンマー各地で軍施設の破壊や軍の車列への爆弾攻撃さらに、駐屯地などへの攻撃が激化しており、それに伴い兵士や警察官、さらに市民に紛れ込んだ「ダラン」と呼ばれる当局のスパイの死者も増えている。  

軍政側は兵士や警察官の正確な死者の統計を明らかにしていないが、「ダラン」はこれまでに100人以上が反軍政の市民らによって「国民の裏切り者」として殺害されているとの報告もある。(中略) 

こうした軍側の死者が増えていることも、兵士や警察官の間に「現在命令で実施している市民への弾圧が果たして正しい任務なのか」という疑問を生じさせる一因になり、それが軍や警察内部での離脱行動や厭戦気運に影響を与えている、との見方がNUGからは指摘されている。 

■ 武装化と組織化を急ぐ市民側  
9月27日、独立系メディアの「ミャンマー・ナウ」はNUGが軍と直接交戦している武装市民組織「PDF」からの訴えに応じる形で武器や装備の供給を急ぐ考えを示したと伝えた。  

前線での武器不足を早急に補うと同時に各都市で組織されているPDF相互の密接なネットワークの構築による組織化で情報交換や連携した作戦の実施、さらには各地の少数民族武装勢力とのさらなる協力関係強化で軍との対決姿勢をさらに強める方針を示した。  

こうした一連の動きにより、ミャンマー情勢はさらに混迷を深めることは確実で、今後さらに軍・警察と武装市民や少数民族武装勢力との戦闘が激しくなることは確実な情勢となっている。【10月3日 大塚 智彦氏 JBpress】
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武力に関する限り国軍側の優位は圧倒的であり、まともに渡り合って民主派側が事態を改善できる可能性は極めて小さいように、個人的には感じていますが、そうした状況を覆す唯一の道が、上記のような“寝返り”で国軍側の態勢が崩れることでしょう。

ただ、そこに至るまでには、453人云々はまだまだ“桁違いに”少なすぎるのが実態であり、「国家統一政府(NUG)」の呼びかけた「一斉蜂起」の実効性には懐疑的です。

もっとも、強権支配を強める国軍のもとで、他にどんな方法があるのか?と問われると答えに窮します。
冒頭ASEANの対応に見るように、国際社会をあてにすることもできませんし。

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中国  「ゼロコロナ」を諦める国が続く中で、今も維持 ただ、負担も大きくいつまで続けるのか?

2021-10-04 23:04:14 | 中国
(中国・広州市 海外からの入国者が滞在する5000室の隔離施設「広州市国際健康ステーション」【9月30日 CNN】)

【シンガポールに続き、ニュージーランドも「ゼロコロナ」断念】
新型コロナ感染者をゼロ状態に抑え込む「ゼロコロナ」政策をとってきた国のなかで、一定の感染者の存在を容認する「ウィズコロナ」へ転換する国が相次いでいます。

「ゲームチェンジャー」となっているのは、感染力の強いデルタ株。
オーストラリア、ベトナムに続いて先月初めにはシンガポールも。成人の8割がワクチン完全接種を済ませるという高接種率をもってしても、ブレイクスルー感染を防ぎきれませんでした。

****豪に続いてワクチン接種率8割のシンガポールもゼロコロナ断念****
ゼロはムリ。 

デルタ株でゲームのルールが変わるなか、ベトナム、オーストラリアに続いてシンガポールもゼロコロナの夢を捨て、ウィズコロナに方針転換しました。

リー・シェンロン首相が日曜のナショナルデー(独立記念日)の式典の席で明らかにしたもの。成人の8割が完全接種を済ませ、マルタ(82%)に次ぐ世界第2位のワクチン接種率を誇るシンガポールをもってしても完全撲滅は非現実的との判断です。 

ゼロコロナで粘ってきたのはシンガポール(人口約570万人)とニュージーランド(同約500万人)、台湾、中国、ベトナム、オーストラリアの各国ですが、これで残りはニュージーランド・台・中のみとなりました。(後略)【9月3日 GINZODO】
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そして、ニュージーランドも。
ニュージーランド・アーダーン首相は8月17日には、感染者1人でも全土をロックダウンするという厳しい対策をとってきました。

****NZ首相、「コロナゼロ」戦略断念 デルタ株封じ込めできず****
ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は4日、これまで推進してきた「コロナゼロ」戦略について、主要都市オークランドでの新型コロナウイルス感染封じ込めに失敗したと認め、新たな取り組みが必要だと述べた。
 
ニュージーランドは、新型コロナウイルスの根絶を目指す厳格な政策により国土の大半が流行から守られ、国境封鎖下で国民はパンデミック(世界的な大流行)以前に近い日常生活を送っている。

しかし、人口の多いオークランドで8月に発生した半年ぶりの市中感染は、7週間に及ぶロックダウン(都市封鎖)を実施した後も感染者数の減少に至っていない。
 
アーダーン氏は記者会見で、感染力の強い変異株「デルタ株」が局面を一変させる「ゲームチェンジャー」となり、ウイルス根絶ができなくなったことが確認されたと語った。
「長期にわたる制限を導入しても、(感染者数が)ゼロになっていないのは明らかだ」
 
アーダーン氏は、コロナゼロ戦略を直ちに撤回するわけではないとしつつ、オークランドのロックダウンについては新規感染者数が減らなくても一部緩和する方針を示した。
 
ウイルス根絶という当初の目標からは大きな方針転換となるが、アーダーン氏は新型コロナウイルスワクチンの接種が劇的に進んだことで、政策変更が可能になったと説明。
「根絶が重要だったのは、ワクチンがなかったからだ。今はワクチンがあるので、やり方を変えることができる」と述べた。 【10月4日 AFP】
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アーダーン首相は、“これまで自ら先頭に立って実施してきたゼロ戦略は「驚くべき成果を上げたし、正しいことだった」と強調。その上でデルタ株の流行やワクチンの普及で「対策を変える」必要が生じたと説明した”【10月4日 共同】とも。

【中国 厳格な国境管理、強力な封鎖・隔離措置、大規模検査でゼロコロナ維持】
残る「ゼロコロナ」国は台湾と中国。

****台湾、国内感染4日連続なし 死者もゼロ 新型コロナ****
中央感染症指揮センターによれば、3日は新型コロナウイルスの国内感染と死者、いずれも報告されなかった。国内の新規感染者が確認されなかったのは4日連続で、死者も2日続けてゼロとなった。

 海外からの輸入症例は6人。10代から30代までの男女で、マレーシアや米国、モンゴル、英国、ミャンマーに行動歴があった。先月19日から今月1日にかけて入国した。

 台湾内で確認された感染者は計1万6250人となり、うち843人が死亡した。【10月3日 フォーカス台湾】
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台湾はコンパクトな島国なので、コロナ防衛には向いていそうですが、中国は多くの国と国境を接する広大な国土、しかも北朝鮮やミャンマーなどとは国境規制をかいくぐるような人の流れもあります。
以前はネパールとの国境になるヒマラヤ・エベレスト山頂に「隔離線」をもうけるといった話もありました。

****広州市に5000室の入国者隔離施設、「ゼロコロナ」厳格化の中国****
世界各国が出入国制限や新型コロナウイルス対策規制の緩和に踏み切る中で、中国が「ゼロコロナ」戦略を厳格化している。

南部の広州市は近日中に、海外からの入国者が滞在する5000室の隔離施設「広州市国際健康ステーション」の運用を開始する。

3階建てのビル群で構成される同施設は米ドル換算で2億6000万ドル(約290億円)を投じ、広州市郊外の広大な敷地にわずか3カ月足らずで建設された。

これまで海外から到着した中国人や外国人は、広州市内の指定ホテルで隔離されていたが、住民との接触を減らすために今後は新しい施設を利用する。

入国者は空港からの直行バスで同施設に到着し、それぞれの部屋に閉じこもった状態で少なくとも2週間過ごす。各室にはビデオチャットカメラと人工知能(AI)を使った体温計が完備され、1日3回の食事はロボットが届ける。いずれもスタッフとの接触を最小限に抑えるための措置。

中国でこうした施設が開設されるのは初めてだが、中国政府が一切の感染を容認しないゼロコロナ戦略を厳格化する中で、今後はこうした施設が多数建設される可能性があると専門家は予想する。

広州市から車で1時間ほどの製造業の中心市、東莞市でも2000室の国際健康ステーション建設が進む。南部のIT集積地、深セン市もそうした施設を計画している。

「これは単なる一時しのぎの対策ではない。(中国指導部は)このパンデミック(世界的大流行)が収束するまでにはまだ時間がかかると考え、厳格な国境管理を継続するだろう」。米外交問題評議会のシニアフェロー、ヤンゾン・ファン氏はそう指摘している。【9月30日 CNN】
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そうした国境管理に加え、ひとたび感染者が確認された地区は完全封鎖し、感染拡大が疑われる都市は数百万人規模だろうが徹底的に全員検査を行い「ゼロ」を維持しています。

しかし、世界が「ウィズコロナ」に舵を切るなかで、いつまで中国一人が「ゼロコロナ」に固執できるのか?
住民負担は甚大なものにもなりますし、世界との人的交流を阻害し、経済活動の足を引っ張ることにもなります。

そこらに関して中国国内でも議論はあるようですが、いまのところ中国当局は強気の姿勢を崩していません。

****中国、「感染ゼロ」対策の行方は 1人発見でも、隔離を徹底****
中国では1人でも新型コロナウイルス感染者が出ると、その街に足を踏み入れたすべての人が隔離対象になることがある。記者もその措置を自ら体験することに。

衛生当局は感染力が強いとされるデルタ株をも抑える「感染ゼロ」の対策に自信を深めるが、厳しい対策をいつまで続けるかの論争も起きた。

9月22日、黒竜江省ハルビン市の南崗区で1人の感染者が見つかったことが公表されると、約500キロ南の遼寧省瀋陽市の衛生当局はその夜、2週間以内に同区に行ったことがある市民に申告を求め「指定ホテルで隔離する」との内容の通知を出した。
 
瀋陽に住む記者はその5日前にハルビンに日帰り出張し、南崗区の取材先に約2時間滞在していた。同区は100万人近くが住む広大な地区で、公表されている感染者の立ち寄り先の近くには行っていない。
 
しかし、中国では当局が要請した行動歴の申告をせず、後に感染が判明して他者へ広げたと判断された場合は処罰される。そのため、申告の窓口になっている「社区」という地域の自治組織に連絡した。
 
申告した翌日の午前、社区から「自宅近くの指定ホテルへ歩いて行ってください」と連絡があり、仕事が一段落した夜に、市中心部の周囲が柵で囲まれたホテルに入った。防護服姿の衛生担当者に名前などを告げた後、ビニールシートに覆われたエレベーターや廊下を通って部屋に入った。
 
濃厚接触者でもないためか、1週間の行動歴は聞かれなかった。翌朝にPCR検査を受けたほかは、ただただ部屋を出ない隔離生活。着替えは最初に持ち込み、食事は弁当が出た。出張から2週間が経つ日まで続くことになった。
 
瀋陽のように感染者が1人出た区に入っただけでホテル隔離を要求する都市は少ないが、SNS上では別の街の市民とみられる「ハルビンから帰って在宅隔離になった」との投稿も。リスクがありそうな人をとにかく隔離しようとする地域は多いようだ。

 ■市民生活直撃、共存問う声も
中国本土では今夏以降、外国から入ってきたとみられるデルタ株の感染拡大が相次いだ。しかし地域封鎖と大規模なPCR検査、濃厚接触者らの徹底的な隔離、という組み合わせで抑え込んできた。
 
7月下旬以降に江蘇省南京市の空港周辺から最終的に14省・直轄市・自治区の約1160人に広がったケースでは、人口数百万人の各都市で次々に住民全員のPCR検査が実施された。

9月中旬からは福建省の帰国者の周辺から450人以上に広がったが、26日までに省内の延べ6800万人以上にPCR検査を施し、濃厚接触者ら4万4千人以上を隔離。およそ2週間で拡大は鈍化している。
 
中国本土では自国産ワクチンの接種回数が22億回を超え、必要数を終えた人も全人口の7割以上に上る。だが、対策の手綱を緩めるつもりはないようだ。
 
ただ、「ゼロ」対策では、封鎖地域から外の仕事に行けなくなったり飲食店が営業停止になったりと市民生活を直撃する。欧米などがワクチン接種の普及で「ウィズコロナ」へ向かう中、「ゼロ」を続けるべきかの論争も起きた。
 
ウイルス情報の発信役として国民の人気が高い医師の張文宏氏は7月末、自身のSNSに「世界中の専門家がウイルスの常在化を見越す中、世界は共存の仕方を身につけなくてはならず、各国はそれぞれ答えを出している」と投稿すると、「ウイルスに投降するのか」との批判が出た一方、「彼は客観的な事実を言っただけだ」との擁護の声も次々に上がった。
 
元衛生相の高強氏は8月初旬、総顧問を務める学会のホームページに「英、米などがワクチンに頼って共存を追求し、さらなる拡大を引き起こしている」「国際的に流行が続く間、我が国はコロナを完全に断つ戦略を変えてはならない」などとする論考を掲載した。【10月3日 朝日】
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【世界が「ウィズコロナ」に向かうなかで、中国だけが「ゼロコロナ」を続ける意味合いは?】
こうした対応が経済的に相当な負担となっていることは想像に難くないですし、厳しい対応の繰り返しは住民に徒労感をもたらすことも。

****中国「コロナ感染拡大」で公務員100人以上を処分 ゼロコロナの限界、共存の時代へ****
2021年10月現在、中国やタイ、ベトナムなど、比較的コロナ対策で高い評価を受けていた国においても、デルタ株の感染拡大や水際対策の崩壊により感染者が再拡大している。

武漢研究所からのウイルス起源説も取りざたされる中国では100人規模の感染が発覚し、公務員100人以上が失策として処分された。

そのような状況で「もはや、世界はコロナと共存するしか方法がないのではないか」と、従来の封じ込め対策に疑義を唱える専門家も増えている。

■「感染対策怠慢」で公務員100人以上を処分
厳格かつ迅速な感染対策が功を奏し、世界に先駆けて経済活動を本格的に開始した中国だが、ここにきて不穏なニュースが相次いで報じられている。

8月には感染対策を怠っていたとして、国内の公務員など100人以上が処分を受けたと中国メディアが報じた。

事の発端は、7月下旬に南京の国際空港の作業員がデルタ株に感染した。その後、18の省や自治体などに感染が拡大し、国内の1日あたりの新規感染者数が半年ぶりに100人を上回った。観光シーズン真っ只中で人流密度が高まっていたことも、感染を広げる要因となった。

政府は感染者の出た地区を封鎖し、大規模なPCR検査を実施するなど即座に対策を強化したものの、繰り返す封じ込め策に観光業界には憔悴の色が見える。

本来であれば、かき入れ時のはずの北京などの観光地でも団体客の姿が見えず、飲食店や土産物店は閑古鳥が鳴くような状態だという。ある土産物の店主はメディアの取材で、「売上がゼロの日もある」と語った。

■中国、近づく我慢の限界
ワクチンの普及で死亡や重症化するケースは減っているとはいえ、ロックダウンや行動規制を講じても感染が止まらない。

束の間の「収束」も虚しく、再拡大を目の当たりにした国民の間では疲労感と共に絶望感が広がっている。「感染を早期に食い止め、社会の正常化に向かって順調に前進している」という期待が高まっていただけに、なおさら今回の「後戻り」は骨身にしみるだろう。

再拡大は観光業だけではなく、国内の生産や消費にも多大な影響を与えている。コロナ禍の経済回復に苦戦する主要国を尻目に、「中国の一人勝ち」などと言われているが、「実際は経済回復がピークを越え、苦悩にあえぐ企業が増加している」という報道もある。

中国人民銀行が小規模な金融機関以外の預金準備率を引き下げるなど抑制に動いているが、春以降急上昇している生産者物価指数(PPI)は、8月に入り13年ぶりの高い伸びを記録した。(後略)【10月3日 アレン琴子氏 THE OWNER】
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余談になりますが、人間ですら有無を言わせぬ対応がとられている状況ですから、犬猫などのペットに対する措置は・・・。

****「猫ちゃんは死んでしまった」飼い主のコロナ感染で猫3匹殺処分 中国の“ゼロコロナ”政策に例外なし****
「皆さん助けて下さい かわいい小さな命で私の命と同じです」
9月28日、中国のSNSに1人の女性が悲痛な訴えを投稿した。そこには次のような言葉が書かれていた。

「私は新型コロナウイルスの患者で今病院で治療を受けています…居住地域の担当者から飼い猫が陽性なので安楽死させるという通知を受けました…心が折れそうです。猫は私にとってとても大事な存在です。5、6年も一緒に生活しました。私の命と同じくらい大事です・・・皆さん声をあげていただけますか。人は治療・隔離できるのにどうして猫に機会が与えられないのか…猫はずっと家にいて外に出ていないのに・・・猫にも隔離と治療をしてもらえないのか、皆さんお願いします」

安楽死させる同意書を…
メッセージを投稿した女性は中国黒竜江省のハルビン市に住んでいる。この地域では新型コロナウイルスの感染が9月20日頃から広がっていて、当局によって外出禁止などの封鎖措置がとられている。

女性は9月21日に感染が確認され、自宅で隔離されていた。その後、病院に入院し治療していたところ27日に住んでいる地域の担当者から「飼っている3匹の猫が2回行った検査で2回とも陽性と確認されたため安楽死される」と通知が来たという。

女性は猫を安楽死させることについて同意書を書くよう求められたが当初は同意せず、猫を治療する機会を求めた。しかし、地域からの回答は「ペットを治療する前例はない」というものだった。女性によると3匹の猫のうち、1匹は5〜6年、残りの2匹は4年飼っていた猫だという(中略)

ただ、人から動物への感染は確認されているものの、ペットから飼い主への感染を示す証拠はまだ確認されていないという。このため、実際に感染したペットを殺処分するほど厳しい対応が必要なのかは、感染対策をどこまで徹底するかにかかっていると言えるだろう。

中国の場合は、「国は人を救うために全力を尽くしている」とされ、ペットも“ゼロコロナ”の例外ではないことがわかる。3匹の猫を殺処分された女性も悲しみながらも「現在の状況では、国と人々の安全が最優先だと思う」と受け入れている。

それでは日本で同じような状況になった場合はどうなるのか。

東京都福祉保健局の担当者は「ペットに対する考え方は国によって違う」とした上で、東京都の場合は、「新型コロナウイルスの感染に関わらず、基本は普段から飼い主に何かあった時にペットを預かってもらえる場所や人を確保しておいてほしいが、どうしようもない時は東京都の動物愛護センターで預かります。」と話す。そして、「中国のように殺処分することはあり得るか?」という質問に対して、「そのような対応は現時点ではない。」と話した。
【10月4日 FNNプライムオンライン】
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中国がゼロコロナに固執するのは、人権が問題となる欧米とは異なる中国独特の強力な対応に「欧米より優れた中国の体制」としての自信を持っているのか・・・、逆に、中国製ワクチンの感染防御力に自信がないのか・・・はたまた、「中国は我が道を行く」といった国際社会からのデカップリングに何らかの意味を感じているのか・・・いろいろ想像はできますが、さだかなことはわかりません。

中国の感染者が少ないということで、海外旅行が再開されたらまずは中国かな・・・と思っていたのですが、タイなどが観光再開に舵を切る中で、当分逆に中国はむつかしそうです。

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イギリス  人手不足深刻化で強まる厳しい移民政策への批判 ブレグジット後の英の立ち位置

2021-10-03 22:12:58 | 欧州情勢
(【2019年7月24日 日経ビジネス】 メイ前首相に代わる新たな保守党党首に選出されたときの記事から
“ジョンソン氏は人間臭い言動から庶民派と言われるが、生粋のエリートだ。ブレグジットで庶民の生活が苦しくなれば、同氏の求心力は急低下し、英政治はさらなる混乱に陥る可能性がある。”

庶民受けするパフォーマンスのうまさでは、トランプ前大統領といい勝負でしょう。多少の“不都合な真実”はうやむやにしてしまう突破力もあります。その力で今回騒動も乗り切るのかも・・・ただ、それがイギリスにとっていいことなのかどうか・・・・)

【ガソリンだけでなく他の商品の物流も 物流だけでなく生産現場で深まる人手不足】
イギリスで、ガソリン輸送にあたるトラック運転手が大量に不足していることから、ガソリンの「パニック買い」が発声し、多くのガソリンスタンドで品切れ、給油を待つ車の長蛇の列という混乱が発生していることは、9月29日ブログ“イギリス ガソリンスタンドに長蛇の列 トラック運転手不足から物流がトラブル”でも取り上げました。

****英のガソリン、供給滞り「パニック買い」発生…混乱の長期化も****
英国でガソリン供給が滞り、多くのスタンドが営業停止に追い込まれるなど混乱が広がっている。欧州連合(EU)離脱や新型コロナウイルスの影響で外国人労働者が減り、燃料を運ぶ大型トラック運転手が不足しているためで、混乱の長期化が懸念される。
 
ロンドンでは2日、多くのスタンドが「ガソリン売り切れ」の表示を掲げた。市西部のスタンドを訪れた男性は、「ここで5軒目だが、どこも開いていない」と嘆いた。
 
混乱のきっかけは、石油大手BPが9月23日、トラック運転手の不足を理由に一部店舗の休業を発表したことだった。ガソリンが手に入らなくなるとのうわさが広まり、「パニック買い」が発生。一時は全国約8000のスタンドの半数近い店舗で品切れになった。
 
需給の切迫で、国内のガソリン小売価格は1リットルあたり約1・4ポンド(約210円)と、約8年ぶりの高値に急騰した。
 
事態収拾に向け、政府は約200人の軍人に燃料輸送の訓練を受けさせた。4日から、精製所などからスタンドへのガソリン輸送に動員する。

さらに外国人の運転手5000人の受け入れを目指し、2月末までの期間限定で一時ビザを発給することも決めた。
 
運転手不足の主因は、2020年12月末に英国がEUを完全離脱し、EU出身者が英国で自由に働けなくなったことだ。
 
英国では元々、長時間労働や低賃金を理由に運転手の仕事が敬遠されてきた。政府は東欧のEU諸国から移民を積極的に受け入れて穴埋めし、30万人近い大型トラック運転手の1割強をEU出身者が占めるまでになった。
 
ところがEU離脱後は、EU出身者も就労ビザが必要となった。英語能力や給与水準などの条件を満たさない人は新たにビザを取ることができない。
 
さらに新型コロナ禍で、ビザを持つ労働者も母国に帰り、戻ってこないケースが相次いだ。英統計局の推計によると、EU出身の大型トラック運転手は、ピーク時は4万人近くいたが、今年3月時点では約2万5000人まで減った。
 
英国では新型コロナ対策の規制が撤廃されて経済活動が上向き、運送業界全体では約10万人の運転手が不足しているという。商品が届かず、スーパーマーケットの棚が空になるなど、影響はサプライチェーン(供給網)全体に広がっている。
 
EU諸国も経済が回復し、各地で運転手不足が深刻化する。運送業界の調査会社「トランスポート・インテリジェンス」の調べでは、ドイツで約6万人、フランスで約4万3000人の運転手が足りないという。
 
トラック運転手として15年近く働く英国人トム・レディさん(36)は、「東欧の運転手たちは、母国や周辺国でも仕事を見つけられる。自由に働けない英国には魅力を感じていない」と話す。
 
運送業界だけでなく、飲食や食品加工といった分野でも労働力不足が指摘される。EU離脱によって英国が自ら招いた混乱は、経済や社会にじわじわと広がりかねない。【10月3日 読売】
********************

今回のガソリン騒動は、政府の対応もあって「パニック買い」が鎮静化すれば、一定に収束するのかもしれません。

ただ、上記記事にもあるように、物流が滞っているのはなにもガソリンだけでなく、イギリスでは以前からスーパーの商品棚から多くの商品が消えてしまうという“影響はサプライチェーン(供給網)全体に広がっている”事態が続いています。

“英国では、これまでも「運転手不足」が度々問題になってきた。8月、英マクドナルドがトラックの手配ができないなどとして、人気の「マックシェイク」の販売を中断。ファストフード大手も看板商品のチキンを提供できなくなり、一部店舗を閉鎖した。スーパーの棚も商品が届かず欠品が目立つようになった。”【10月2日 朝日】

そうした混乱は、今後も続くことが予想されます。
移民労働者の減少で人手不足に陥っているのはトラック運転手だけではありません。

****野菜収穫に時給4500円=軍が燃料運搬、人手不足深刻―英****
(中略)キャベツなど野菜の収穫作業員の求人では時給が30ポンド(約4500円)に高騰した。背景には新型コロナウイルス流行に加え、欧州連合(EU)離脱の影響が尾を引いていることがある。(中略)

業界団体によると、大型トラック運転手の不足人員は推計10万人にも上る。一部地域では食品などの運搬に支障を来し、スーパーの棚が空っぽになった。食品加工業や農業でも労働者が不足し、中部ボストンでは野菜の収穫作業員に時給30ポンド、年収換算で6万2000ポンド(約930万円)が提示されたほどだ。
 
人手不足の背景には、コロナ流行で東欧などからの移民労働者が帰国したことに加え、EU離脱後に外国人の就労ビザの要件を厳しくしたことがある。

調査会社ユーガブの世論調査では、国民の53%が「EU離脱が悪い方向に進んだ」と回答。ドイツの次期首相候補のショルツ副首相兼財務相も、EU離脱による「労働者の自由な移動」の終了が英国の混乱の原因と指摘した。
 
英政府はEU離脱の影響をかたくなに否定しているが、たまらずビザの発給要件緩和に方針転換。トラック運転手5000人分と畜産労働者5500人分について、3カ月間限定で外国人の就労を認めると発表した。

ただ、これに対しても産業界からは「規模も範囲も不十分」(英国小売協会)などと批判が殺到している。【10月3日 時事】
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【人手不足で高まるブレグジット後の移民政策への批判】
年収換算で6万2000ポンド(約930万円)もらえるなら私もイギリスにキャベツ収穫のバイトに行こうか・・・なんて思ってしまいますが、低い所得水準の東欧からのそうした労働者移入を難しくしたのが、ジョソン首相が旗振り役となったEU離脱であり、ビザ取得の厳格化です。

ガソリン騒動で表面化した人手不足問題は、ジョソン首相の移民政策への逆風となりつつあります。

****英でガソリン不足深刻化 移民政策に批判****
(中略)欧州連合(EU)を離脱した英国が、運転手の大半を占めるEUの単純労働者へのビザ(査証)を厳格化したことが労働力不足につながったとみられており、野党などから批判が出ている。(中略)

運転手の不足は、EU離脱後の移民政策による「弊害」(英石油会社)とみられている。

英国はEU完全離脱後の1月から、英会話能力や英企業からの正式な雇用契約の有無など一定の基準を満たした移住申請者にだけビザを与えている。それ以前は、EU市民が英国で働くためのビザは必要なかったため、完全離脱以降、単純労働者の移住が減少した。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、帰国する労働者が増えた。BBCによると、英国では現在、10万人以上の運転手が不足している。

ジョンソン政権が移民の受け入れを厳格化した背景には、離脱の効果を強調する狙いがあったとされる。英国の離脱支持者の多くは、仕事が奪われる不安から移民労働者の流入に不満を募らせていた。

ただ、英調査会社イプソス・モリが今年6〜7月に実施した調査によると、英市民約4000人のうち移民の減少を望むのは45%で、2015年6月時点(66%)より下がった。

英国では今年前半から労働力不足で飲食店の閉店が相次ぎ、離脱問題を研究する元保守党議員は「離脱に反対した市民だけなく、離脱支持者の多くもジョンソン政権の移民政策に違和感を覚えるようになった」と分析する。

英政府は9月25日、運転手5000人に語学などの審査が不要な短期ビザを発給すると表明。陸軍を動員したガソリン輸送の準備も進めているが、野党労働党は「(政府の対応は)根本的な解決にはならない」とし、移民政策が「英国を混乱させた」と非難している。【10月2日 産経】
*************************

こうした離脱後の移民政策への批判に対し、ションソン首相は方針を曲げない姿勢を見せています。

************************
(中略)最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首は、外国人労働者のビザ発行を急ぐため「緊急対策」が必要だとして、議会審議を再開するようボリス・ジョンソン英首相に呼びかけた。

一方ジョンソン首相は、輸送業界が低賃金の外国人労働者に依存しすぎているのが問題だと非難した。
ジョンソン氏は、問題の短期的解決のために大勢の移民労働者を受け入れることで、イギリス人労働者にとって「低賃金で低技能の経済」を作り出してしまうような、過去の「失敗」を繰り返すつもりはないと強調した。

リシ・スーナク財務相は、複数の業界でサプライチェーン(供給連鎖)の混乱が世界的な問題となっており、クリスマスまでは続くと警告。

英紙デイリー・メールに対して、「物不足は現実に起きている問題だ」と財務相は述べ、「この国だけでなく世界中で、様々な分野でサプライチェーンが具体的な形で混乱している。影響をできるだけ軽減するため、最善を尽くす」と話した。

英経済紙フィナンシャル・タイムズによると、ブレグジットのため低賃金の外国人労働者が減った影響で、イギリスの養鶏農家は七面鳥の育成を大幅に削減。今年の供給は約100万羽少なくなる見通しで、スーパーなど小売業者はフランスやポーランドなどEU諸国からの輸入を増やすことになるという。【10月2日 BBC 「イギリスのガソリン不足、英軍が週明けから輸送支援」】
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多すぎる移民を排除して本来のイギリスを取り戻すというのはブレグジットの根幹をなすポイントであり、(ブレグジットに関する難しい話には関心を持たなくても)その単純明快・シンプルな主張に多くの有権者が賛同したからこそブレグジットは成立したのであり、その旗を振って首相に上り詰め、選挙に勝利したのがジョンソン首相です。

いわば移民削減はジョソン首相そのものであり、今更その「弊害」云々なんて、口が裂けても言えないでしょう。
では、イギリスは今後どうするのか・・・。

【天然ガス価格高騰問題でも懸念が強まるイギリスの立ち位置】
ブレグジットの影響は移民労働力の不足だけではありません。 
昨日ブログで取り上げたように、欧州は天然ガス価格高騰に見舞われていますが、イギリスでも話は同じです。

****英国で電気・ガス料金値上げ、天然ガス急騰で*****
英国では1日から多くの世帯で電気・ガス料金が引き上げられる。

多くの世帯が利用するプランの上限価格が約12−13%引き上げられることが理由。背景には天然ガスの国際価格急騰がある。

ガス電力市場監督局(Ofgem)は「8月に発表した最新の上限価格が今日、(年間)1277ポンド(1721.01ドル)に設定された。平均的な世帯が支払うガス・電気料金となる」との動画をツイッターに投稿した。

電気・ガス料金の上限価格は2019年1月に導入。エネルギー会社による「ぼったくり」(メイ元首相)に終止符を打つことが狙いだった。

Ofgemは、今回の上限引き上げについて、今年のエネルギー価格上昇を反映したものだと説明。ここ数週間の「前例のない」天然ガス国際価格の上昇で供給業者の財務が圧迫されていると指摘した。

英国では記録的な価格上昇を受けて、多くの中小供給業者が破綻している。

Ofgemは「約1500万世帯がエネルギー価格上限の対象となる。契約先の供給業者が破綻し場合、この料金で新たな供給業者に引き継がれる」と述べた。【10月1日 ロイター】
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“話は同じ”というより、他のEU諸国より状況は厳しいと言うべきかも。

****英国のリスクはどれほどか****
英国が受ける影響は他の欧州諸国より間違いなく大きい。英国は過去10年間にCO2の排出量を大きく減らしたことで称賛を得てきた。

その背景には再生可能エネルギーの利用を増やし、石炭を天然ガスに置き換えたことがある。特に、風が弱く風力発電の出力が上がらない時に、こうした措置を講じた。

また、英国はガスの供給において実質的にジャスト・イン・タイム方式を採用している。欧州連合(EU)諸国より国内生産量が多い一方で、貯蔵容量は小さい。
 
英政府は、天然ガスの多様な供給源を確保していると主張する。それゆえ世界市場において、とりわけ液化天然ガス(LNG)の輸入を巡って他国と競わねばならないことを認めている。
 
LNGの需要はアジアでますます高まり、輸入競争を激化させている。ノルウェーがパイプラインを通じて英国や他の欧州諸国にもたらす供給は信頼性が高いと見られる。その一方で英国は、ロシアにつながるEUのパイプラインがもたらす供給への依存度も高めている。
 
英国がEUを離脱した今、欧州はいざとなれば、自分たちへの供給を英国への供給に優先させるかもしれないと懸念する声がある。

「我々は事実上、パイプラインの末端に位置している。物理的にも、政治的にもだ」。英コンサルティング会社エナジー・コントラクト・カンパニーのニオール・トリンブル氏はこう語る。

「寒さの厳しい冬に我々が問題に直面するシナリオは決してあり得ないことではない」(同氏)【9月22日 日経ビジネス「天然ガス価格の高騰に苦しむ欧州」】
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「我々は事実上、パイプラインの末端に位置している。物理的にも、政治的にもだ」というのが、EU離脱後のイギリスの置かれている状況であり、ジョンソン首相がイギリス国民を率いてたどり着いたところでもあります。

ジョンソン首相は新型コロナワクチン確保ではEU諸国を出し抜いて、EU離脱の「成果」を誇示することにもなりましたが、総合的・長期的にみた場合、地域諸国との協調を振り切って「我が道を行く」という対応が賢明な選択だったのか個人的には以前から疑問に感じています。

ジョンソン首相は、もはや存在しない「大英帝国」へのノスタルジックな郷愁をかきたてることで、イギリスを危険な道へといざなったのでは・・・と言うと言い過ぎかもしれませんが・・・・。
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欧州 天然ガス価格高騰で取り沙汰される根拠なき「ロシア悪玉論」 石炭・原油価格も上昇

2021-10-02 23:18:04 | 欧州情勢
(ロシアと欧州をつなぐパイプラインの一部【9月22日 日経ビジネス】)

【言いがかり的な「ロシア悪玉論」】
中国では石炭不足から停電となり経済活動にも支障が出ていますが、欧州では天然ガス価格の高騰が問題となっています。

両者はともに、基本的には「脱炭素」を目指す過程での混乱と考えられますが、欧州の天然ガス価格高騰については、下記記事のように、主な供給元であるロシアの作為的な供給削減が原因と説明されることも多いようです。

しかし、そういう「ロシア悪玉論」には疑問も。

****脱石炭の欧州で天然ガス価格高騰 ロシア依存のリスク****
欧州で天然ガス価格が高騰している。冬の需要期を控えた上昇は異例。各国が脱炭素の過程として、発電燃料を石炭や石油よりも温暖化ガスの排出が少ない天然ガスに切り替えているためだ。

電力の卸売価格は上昇し、域内の経済や家計に深刻な影響を与えている。ロシアからの供給に依存するリスクも浮き彫りになった。

15日未明には英南東部ケント州の送電施設で火災が起き、フランスとの間で電力を融通するインフラの一部が機能しなくなった。同日のロンドン市場では卸電力の取引価格が大きく上昇した。

発電用の需要が高まるとの思惑で英国の天然ガス先物は一時前日比18%高と急騰した。被害の規模や原因など詳細は明らかになっていない。

英国での火災は欧州各国で目立っていた天然ガスや電力の値上がりに拍車をかけた。ガスは15日の欧州市場で指標価格が1メガワット時あたり70ユーロを上回り、1年前の6倍を超える水準に跳ね上がった。

欧州連合(EU)統計局によると、ユーロ圏の家庭向け電力価格の上昇率は7月、前年同月比で8%だった。電力会社もコスト上昇分を家計に転嫁し始めた。

スペインの家庭向け電力料金は8月、前年同月比で35%上昇した。同国で値上がりが目立つのは、変動型料金の契約が多く、コスト上昇の反映が早いためだ。

スペインのサンチェス首相は13日「エネルギー企業の法外な利益を消費者に還元する」と述べ、家庭向け電力料金の上昇を抑えると表明した。企業にむこう6カ月で26億ユーロ(約3300億円)前後を負担させ、家計に転嫁されている関連の税額を引き下げる。

天然ガス価格上昇の一因は、各国が脱炭素政策を進め、その過程で温暖化ガスの排出が少ない天然ガスの需要が高まっていることだ。

多くの国が発電燃料を天然ガスに切り替えている。天然ガス価格が足元で上昇しても、割安感の出た石炭などを柔軟に使うのは難しい。

再生可能エネルギーの不安定さも天然ガス価格を押し上げる。英国ではここ数週間、風が弱く、風力発電が十分に機能しなかった。これを補う形でガス需要が増えた。

天然ガスの需要は中国やブラジルでも拡大している。こうした国々が新型コロナウイルスの打撃から回復し、脱炭素を進めれば、ガス価格の上昇圧力は一段と高まる。

欧州にとってもう一つの大きな課題は、天然ガスの供給を緊張関係にあるロシアに頼っていることだ。ロシアからの供給は最近、伸び悩んでいる。欧州のガス在庫は昨冬の寒さで大きく減り、次の冬が近づいても例年より低い水準だ。

ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は15日「(ロシアからドイツに天然ガスを運ぶパイプライン)ノルドストリーム2の迅速な操業開始が欧州のガス価格の上昇を抑える」と記者団に語った。

ロシア国営のエネルギー企業ガスプロムは10日、敷設工事が完了したと発表した。米国が反対してきたパイプラインの早期稼働の機運を高めるため、ロシアが供給を抑えているとの見方も浮上する。

脱炭素の危うい側面も注目されるようになった。欧州が不安定な再生エネを増やせば、これをカバーするためガス依存が高まる。主な供給元は関係が緊張するロシアだ。米国のトランプ前大統領はかつて「(ガス依存で)ドイツがロシアの捕虜になる」と指摘していた。

ユーロ圏の物価上昇率は8月、欧州中央銀行(ECB)の目標の2%を上回る3%に達した。エネルギー価格の上昇が今後、インフレに拍車をかけることも考えられる。【9月16日 日経】
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脱炭素に伴う需要増加、自然エネルギーの不安定、新型コロナ禍からの回復需要については同意しますが、ロシアが供給を抑えている云々はどうでしょうか?

ロシア犯人説については、以下のようにも。

****天然ガス価格の高騰に苦しむ欧州****
(中略)
何が供給不安をあおっているのか
供給不足に対する懸念が頭をもたげたのは昨冬のこと。厳しい寒さが長びき、天然ガスの在庫を枯渇させた。冬に生じた不足分は通常、暖房用ガスの需要が減る夏の間に補充される。
 
だが2021年の在庫は、取引業者が望むペースで回復してはいない。ロシアが欧州に供給する天然ガスの量を絞っている。その理由として、業界で激しい論争の的となっている複数の事柄が挙げられる。
 
一つは、ロシアも自国の不足分を補充する必要があること。また、ロシアが欧州諸国の政府に圧力をかけようとしていることが疑われている。

例えばドイツに対して、ガスパイプライン「ノルドストリーム2」操業の承認を迫るためだと考えられる。このパイプラインは操業を巡って物議をかもしている。(後略)【9月22日 日経ビジネス】
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ロシアとの天然ガス取引の主流は長期の原油価格連動価格による契約で、この価格は非常に低い水準にあります。
そしてロシアは、この契約を着実に履行しています。

これに対し、短期のスポット価格は3倍ほどに高騰していますが、それは需給関係によって決まるものです。

低く抑えられている長期の原油価格連動価格と同じ水準で、もっと供給するようにロシアに求めるというのは経済取引的に無理があります。

供給を意図的に減らして価格を釣り上げている云々は、いささか言いがかりみたいにも思えます。

自分たちの脱炭素の取り組みがうまくいかないのを、ロシアのせいに転嫁しているだけのようにも。

また、欧州市場での天然ガス価格高騰の背景には、アジア市場でより高値で売れるためにアメリカ産LNGがアジア市場に流れているということもあるようです。

*****欧州のガス価格高騰:真の理由を伝えない欧米日の大メディア****
(中略)
欧州天然ガス価格高騰の原因② 客観的分析:露コメルサント紙

9月28日付・露コメルサント紙(電子版)に長文の天然ガス関連記事が掲載されています。
この記事が分析する欧州ガス価格高騰の原因は非常に客観的で、納得できる内容です。(中略)

この調査報道記事の要旨は以下の通りです。

●「油価連動型ガス価格形成式は過去40年間、素晴らしいものであった。しかし現在の天然ガスは石油から独立した生産物であり、もはや油価連動型ガス価格は時代遅れである」と、2013年に当時のギュンター・エッチンガーEC(欧州委員会)エネルギー委員は述べた。

●2013年当時、この意味は明白であった。当時、欧州ガス市場において天然ガスのスポット価格は露ガスプロムの油価連動型ガス価格400ドル/千立米と比較して100ドルも安かったので、欧州需要家側はガスプロムの油価連動型ガス価格を受け入れる余地はなかった。

●ゆえに、エッチンガー委員は欧州ガス輸入業者に対し、油価連動型ガス価格からスポット価格への契約転換を強く主張した。(中略)

●欧州ガス生産会社は、現時点では(露ガスプロム以外)従来の油価連動型ガス価格からほぼ100%スポット価格に移行しており、そのスポット価格高騰を享受している。

●現在ではそのスポット価格が油価連動型ガス価格より3倍も高くなり、例えば、ノルウェーのガス生産会社は今年、数十億ドルの追加収入を得られることになる。ガス会社はエッチンガー委員にボーナスを払うことが正義と言えるだろう。

●EU議会は、露ガスプロムがガス価格高騰に関与しているのではないかと疑い始めている。

●一方、露ガスプロムの長期契約に基づくガス価格は油価連動型ガス価格ゆえ、スポット価格の3分の1になっている。これが、欧州需要家がガスプロムに対し「もっとガスを」と求める背景である。

上記は非常に冷静な分析です。露ガスプロムも欧州市場で一部スポット売りしていますが、まだ主流は長契・油価連動型ガス価格ですから、契約量以上に増量することは同社にとり理に適いません。

このような状況で、反露を旨とする欧米・日系マスコミや学者には今でも「露ガスプロムは欧州向け天然ガス給量をわざと制限して、ガス価格を吊り上げている」と主張する人たちがいます。

しかし、このような主張がいかに間違っているかは既に事実が証明していると言えましょう。(中略)

欧州天然ガス価格高騰の原因③ 主観的分析:日経記事
最後に9月22日付け日経記事(電子版)に対し、数点論評したいと思います。記事タイトルは「IEA、ロシアに天然ガス供給増を要請 価格高騰で声明」です。(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2205W0S1A920C2000000/)

≪国際エネルギー機関(IEA)は21日、欧州で天然ガス価格が高騰していることを受けて声明を出し、主要な輸出国であるロシアに供給量を増やすよう求めた。欧州への長期契約に基づく提供は履行しているものの「ロシアにはできることがもっとあるはずだ」と述べ、逼迫状況の緩和に向けた協力を促した。≫

(筆者註:これは天に唾する行為と言えましょう。西側はロシアにNS②(ノルドストリーム2)建設阻止という悪意ある行為を実践し、その相手からは善意ある行動を求めています。何と言う二重規範でしょうか)

≪IEAは冬の天候次第では「欧州のガス市場はさらに強いストレスに直面する可能性がある」との見解を示した。声明ではロシアについて、欧州向けの天然ガス輸出量は2019年の水準を下回っていると指摘した。「欧州への頼れる供給者としての信用を示せる機会だ」と訴えた。≫

(筆者註:これは詭弁です。確かに2019年はロシアから欧州向け天然ガス供給量は史上最高値となりましたが、2021年は2020年より前年同期比で上回っています。この点を明記しなければ公平とは言えません)

≪ロシアが欧州に圧力をかけようと、ガスの供給拡大に後ろ向きな姿勢をとっているとの見方も浮上している。≫

(筆者註:欧米がロシアに圧力をかけている以上、ロシアが欧州向けに契約以上の天然ガス供給量増大を交渉材料に使うことは当然の交渉駆け引きです)

≪ロイター通信によると、欧州議会の一部議員は17日までに、ロシア国営ガス大手ガスプロムが意図的に価格の押し上げを図っている疑いがあるとして、欧州連合(EU)の欧州委員会に調査を要請した。≫

(筆者註:これは牽強付会の類。ドイツ経済エネルギー省もドイツの天然ガス輸入大手ユニパーも、露ガスプロムは契約通り天然ガスを供給していると明言しています)

欧州天然ガス高騰の要因 米国産LNGの動向
ではここで、先に「9月17日付・米WSJ紙には一番重要なことが書かれていません」と述べた理由をご説明します。

それは米国産LNGです。米国産LNGは今年4月以降アジア向け輸出が急増し、その反動として欧州向けLNG輸出が急減しています。

6月はほぼゼロになり欧州ガス不足に拍車をかけ、それがまたガス価格高騰を生むという、負の拡大スパイラルが始まっています。(中略)

ではなぜ米国産LNGが欧州向けは急減し、アジア向けが急増しているかと申せば、それはアジア市場のLNG価格水準の方が欧州市場より高いからです。

商品は価格高きに流れます。米国のLNG生産・輸出業者は皆民間企業です。民間企業はより高い価格の市場に商品を販売・輸出します。

アジア市場の方が価格高いので、アジア市場に売る。これは当然の経済行為であり、ここには政治的要素は存在しません。

エピローグ:過猶不及
既報どおり、天然ガスの主要供給者である露ガスプロムに対する批判・非難・中傷記事が出てくるだろうと思っていましたら、やはり出てきました。

反露を旨とするマスコミや学者には今でも「露ガスプロムは欧州向け天然ガス供給量を意図的に制限して、ガス価格を吊り上げている」と主張する人達が居るのは困ったものです。

しかし上記のとおり、欧州ガス価格高騰は需要と供給の経済原則に基づく価格動向にすぎず、ここには政治的要素は存在しません。

ガス価格の高騰に伴い、今度はガス発電から石炭発電への燃料転換を求めたため石炭価格も過去13年間で最高値となりました。

しかし欧州では石炭火力発電所を減らしたため、石炭火力に燃料転換したくても石炭火力発電所が不足しているという実態まで判明しています。

また、一部の陰謀論者が得意とする≪ロシア悪玉論≫も成立しません。露ガスプロムは長期契約に基づき、欧州向け天然ガス供給契約を遵守しています。

筆者は露ガスプロムを擁護する義理も義務もありませんが、日系マスコミを含む欧米マスコミ論調があまりに偏見に基づく色眼鏡コメントが多いので、あえて論評する次第です。

本論を総括します。ではなぜこのようなガス価格高騰が起こったのでしょうか?

筆者は、≪脱化石燃料≫を錦の御旗とするメガ・トレンドと、足元の現実との乖離が現在の欧州ガス価格高騰の背景と考えております。

化石燃料に対する需要は旺盛なのに、化石燃料資源への新規投資を控えた結果が今の姿にて、これこそ理想と現実の乖離と言えましょう。

理想を追い求める「脱化石燃料」の豊穣なるべき未来と、過酷な現実との狭間にて呻吟する欧州の現在の姿を垣間見た想いです。

「子曰過猶不及」(子曰く「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」)

最後に、上記はすべて筆者の個人的感想であり、筆者の文責である点を明記しておきます。【10月2日 杉浦 敏広氏 JBpress】
******************

自分たちの取り組みがうまくいかないとき、わかりやすい犯人を仕立て上げ、そのせいにするというのはよくある話ですが、欧州天然ガス価格高騰をロシアのせいにするのもその類のように思われます。

【石炭・原油価格も上昇】
なお、天然ガス価格高騰に伴い代替品の石炭価格も上昇しています。
そのため、石炭不足で停電が深刻化している中国も、石炭輸入が進まない・・・という形で、欧州と中国のエネルギー危機は連動しています。

ついでに言えば、石炭・天然ガスだけでなく原油価格も上昇して3年ぶりの高値となっています。

****天然ガス高騰が押し上げる原油価格****
(中略)このように世界的に「脱炭素」の動きが加速化する中で、中国では石炭、欧州では天然ガスが原因となってエネルギー危機が生じつつある。
 
幸いなことに今のところ日本ではエネルギー危機は発生していない。だが今後、「世界の工場」である中国の生産制限でIT・家電製品などの価格が上昇し、欧州の天然ガス価格上昇と連動する形で液化天然ガス(LNG)価格が上がることが懸念される。

最も気になるのは原油価格だろう。
OPECと非OPEC主要産油国で構成されるOPECプラスはこのところ月ごとに日量40万バレルずつ増産している。OPECプラスは昨年5月に日量970万バレルの協調減産を開始し、その後需要の回復に合わせて生産量を拡大してきたが、それでも今年の世界の原油需給はなおタイトな状態が続くという。

国際エネルギー機関(IEA)は14日「10月の世界の原油需要が4カ月ぶりに増加する」との見通しを示した。新型コロナウイルスのワクチン接種の進展に伴い、アジア地域を中心に感染対策で累積していた需要(日量160万バレル)が顕在化するとしている。
 
欧州で天然ガス価格が高騰していることも原油価格の上昇を後押しする可能性がある。一部のOPEC加盟国は「天然ガス価格の高騰による原油への代替需要は日量100万バレルに上り、原油価格は今後バレル当たり10ドル上昇する」としている(9月23日付ブルームバーグ)。
 
欧米先進国の主要開発企業が原油や天然ガスなど資源開発への投資を縮小していることも災いしている。米シェブロンのCEOは9月15日、「新規の開発プロジェクトが抑制されていることで世界はしばらくの間、高いエネルギー価格に直面する」との見通しを示した。

原油価格100ドル超えの可能性も
世界第1位と第2位の原油需要国である米中は原油価格高騰への牽制を強めている。(中略)
関係者の間では今年は厳冬になるため、原油価格は大幅に上昇するとの見方が出ている。
 
バンク・オブ・アメリカは9月に入り、「今年の冬が例年より寒くなれば原油需要が拡大し、供給不足が進む可能性がある」として、「来年半ばに1バレル=100ドルとなる」とする予測は「半年前倒しされる可能性がある」との見方を示した。(中略)

この上、中東地域での地政学リスクが上昇することになれば、原油価格の100ドル超えの可能性は格段に高まる。1リットル当たり150円台で推移している日本国内のガソリン価格が200円を超える事態になるかもしれない。
 
石炭や天然ガスに続き原油まで高騰するような事態になれば、2度の石油危機が起こった1970年代のように世界経済は、物価圧力が高い中で景気回復が減速する、いわゆるスタグフレーションに陥ってしまうのではないだろうか。【10月1日 藤 和彦氏 JBpress「中国で大停電、「脱炭素」の動きがもたらすエネルギー危機」】
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エチオピア  長期化する紛争 凄まじい暴力 深刻化する飢餓

2021-10-01 21:42:49 | アフリカ
(エチオピア北部ティグライ州の州都メケレの病院で手当てを受ける深刻な栄養失調の子ども【10月1日 朝日】)

【ティグレ人勢力の反転攻勢で紛争は長期化】
これまで何回か取り上げてきたエチオピア情勢。

長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようというアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)の試み、それに反発したティグレ人が昨年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、反乱を抑え込んだように見えましたが、その後情勢は変化。

ティグレ人側が反転攻勢をかけるようにもなっているようですが、あまり情報がなく、現在どのようになっているのかよくわかりません。

半月程前の下記記事によれば、ティグレ人勢力は“ティグレ州に隣接するアムハラ州などに進入し、緊張が続いている”とのことです。
アムハラ州をおさえれば、首都アジスアベバは目前です。

****対エチオピア、米が制裁警告 停戦を要請****
バイデン米大統領は17日、エチオピア北部の紛争当事者である連邦政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)などを対象にした制裁を可能とする大統領令に署名した。

ブリンケン国務長官は声明で速やかに停戦しなければ制裁を発動すると警告、停戦交渉に応じるよう要請した。制裁対象にはエチオピアに派兵しているエリトリア軍なども含まれる。

米政府高官は紛争の影響で最大90万人が飢饉(ききん)に見舞われ、500万人以上が人道援助を必要としていると指摘。「世界最悪の人道危機の一つ」に当たるとして危機感を強めている。

エチオピア北部ティグレ州では、州を統治していたTPLFが連邦政府を率いるアビー首相と対立し、昨年11月に武力衝突に発展。連邦政府は6月下旬に停戦を宣言したが、その後もTPLFはティグレ州に隣接するアムハラ州などに進入し、緊張が続いている。【9月18日 日経】
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政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)の戦いに加え、アムハラ州の拡大主義勢力が第3の勢力として、政府軍およびTPLF双方に戦いを仕掛けているらしいとの情報も。【8月30日 MAG2NEWSより】

【政府軍、ティグレ人勢力双方に凄まじい暴力 広がる飢餓の恐怖】
戦況はよくわかりませんが、確かなことは凄まじい暴力と、その結果としての飢餓が深刻になっていることです。

****エチオピア紛争での残虐な性暴力、女性らが証言 人権団体報告****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは11日、エチオピア北部ティグレ州の紛争で、エチオピア軍とエリトリア軍の兵士が数百人の女性や少女をレイプし、性奴隷として扱ったり、性器を激しく傷つけたりする残虐行為に及んだとする報告書を発表した。
 
ティグレ州での残虐行為についてはエチオピア当局がすでに捜査を進めており、これまでに少なくとも3人の兵士が有罪判決を受け、25人が起訴された。アムネスティが被害者63人に対するインタビューに基づきまとめた今回の報告書からは、これまで明らかになっていなかった実態が浮かび上がっている。
 
被害者の中には、数週間にわたり拘束され集団レイプを受けた人や、家族の目の前でレイプ被害に遭った人もいた。釘や石などの異物を性器に挿入され、「長期的かつ、回復不能な可能性もある損傷」を受けたとの証言もあった。
 
アムネスティのアニエス・カラマール事務総長は、「レイプや性暴力が、ティグレの女性や少女の心身に長期的損傷を与えるための戦争の武器として使用されたのは明らかだ」と指摘。「行われた性犯罪の深刻さや規模は特におぞましく、戦争犯罪に相当するものであり、人道に対する罪に当たる可能性もある」と述べた。
 
エチオピア外務省はツイッターに投稿した声明で、性的暴行の疑いが掛けられている兵士の責任を追及する当局の努力を強調。アムネスティによる調査は「不十分で、厳密さが決定的に不足している」と反発した。
 
2019年のノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー・アハメド首相は昨年11月、ティグレ州の与党「ティグレ人民解放戦線」を制圧するため、同州に派兵。以来、エチオピア北部では暴力がまん延している。
 
AFP通信は過去に、エチオピア軍やエリトリア軍の兵士から集団レイプを受けた複数の被害者にインタビューを行っている。 【8月12日 AFP】
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****性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇****
(中略)電話やインターネット回線という情報インフラが、政府によって意図的に遮断され、北部ティグレ州をはじめ、TPLFが奪還したと言われているアムハラ州やアファール州でも情報発信が妨害され、かつ国内外のメディアのアクセスも政府軍が阻止しているせいで、伝えられる情報はほとんどアビィ政権側(とその仲間たち)の見解や主張ばかりであり、TPLF側の主張やアビィ政権に反感を抱く勢力側の情報が伝わらないため、なかなか実情が掴めないのが事実です。

そのような中、途切れ途切れではありますが、伝えられてくる情報のかけらを集めて分析してみると、いくつかの懸念すべき状況が見えてきます。

一つ目は、各地で繰り広げられる武装勢力による一般市民への虐待や人権蹂躙の横行です。

TPLFが侵攻したアムハラ州やアファール州では、TPLFの構成員による一般市民のリンチや組織的な性暴力、18歳以上の成人男子の殺害、脅迫と拷問の末、無理やりTPLF側の戦闘員にされてしまうという事例が頻発していると言います。それを逃れた者たちが、政府軍側に協力してTPLFへの反攻に加わっていると言われています。

しかし、政府軍サイドも決して正義の味方ではないようです。TPLFが行っているのと同じような内容の蛮行がTPLFとの交戦エリアで繰り広げられており、それを常に情報ルートを使ってTPLFの仕業と非難しているという主張をしているようです。

特に政府軍がティグレ州で行っているティグレイ人への拷問や虐殺、集団的性犯罪などは残虐性を極めているという情報があり、それを指示しているか、もしくは黙認しているアビィ首相と繁栄党のTPLFに対する怨念とも感じられる状況です。

そして状況をさらにややこしくしているのが、隣国エリトリアの紛争への介入です。(中略)一旦エリトリア軍は撤退しましたが、今年6月の戦闘激化を機に、また越境し、TPLFのリーダーであるゲブレミカエル氏に瀕死の重傷を負わせ、その後もティグレ州に居座って、州内で一般市民に対する蛮行を繰り返しているということのようです。

(中略)そして、ここ数か月ほど、ティグレ州とスーダンの避難民に国際的な支援を届けるための主要ルートにあるテケゼ橋が何者かによって爆破され、現在、ティグレおよび避難民への支援が届かない様子とのことで、対象地域における食糧事情や衛生状態が著しく悪化しているという報告がもたらされています。
まさに人道的な危機が発生しています。

政府軍側はTPLFによる犯行との声明を出していますが、TPLFにとってそのような行為を行う理由が見当たらず、支援を行う国際機関や欧米諸国はアビィ政権側の言い分を受け入れず、代わりにアビィ政権軍とアムハラ州軍によるティグレに対する非人道的な行為とみなして、激しく非難するに至っています。

それを受けて、すでにアメリカのバイデン政権は対アビィ首相およびエチオピア政府に対する支援を凍結し、同時にアメリカ政府はエチオピア政府に制裁を課しています。

そして最近、越境してティグレ州の一般市民に対する非人道的な行為を繰り返しているエリトリア軍も、米政府のGlobal Magnitsky Human Rights Accountability Actを適用して、制裁対象としています。

欧州各国政府もそれに続くようで、今後、対エチオピアおよびエリトリアに対する制裁が課されることになりそうです。もちろん、エチオピア政府のアビィ首相も、隣国エリトリアも全面的に非人道的な行為に対しては否定していますが、それが制裁の発動を食い止めることにはならなさそうです。

TPLF側も、政府側も、そしてエリトリアも人権侵害に加担していることは明らかですが、欧米諸国が執拗にアビィ政権などを非難する理由は、さまざまな背景がありそうです。(後略)【8月30日 MAG2NEWS】
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****エチオピア北部の村で125人虐殺か ティグレ人民解放戦線は犯行否定****
エチオピア北部アムハラ州の村で今月初め、少なくとも125人の住民が虐殺されたと、地元の医師らや当局者が8日、AFPに明らかにした。

隣接するティグレ州の与党でエチオピア連邦政府と対立する「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」の犯行だとの指摘があるが、TPLF側は否定している。
 
エチオピア北部では政府軍とティグレ人系反政府勢力の紛争が10か月にわたって続いており、これまでに数千人が死亡。虐殺の報告も相次ぎ、大きな人道危機が起きている。【9月9日 AFP】
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【エチオピア政府 国連支援活動とも軋轢】
こうした紛争の常として、暴力行為は敵対する双方に起きているといったところのようですが、欧米を中心とする国際世論は国際支援を妨害しているともとられるエチオピア・アビー政権に対し厳しいものとなっています。

エチオピア政府側には、そうした国際世論への反発も強いようです。

****エチオピア、国連職員7人に国外退去命令 政府批判への報復か****
エチオピア外務省は9月30日、ユニセフのエチオピア事務所代表など国連職員7人が内政に干渉したとして、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定。72時間以内の国外退去を命じた。フェイスブックで発表した。詳細を明らかにしていないが、政府批判への報復の可能性がある。
 
発表によると、対象になったのは他に、国連人権高等弁務官事務所の職員1人と国連人道問題調整事務所(OCHA)の職員5人。
 
ロイター通信によると、国連のマーティン・グリフィス緊急援助調整官が同月28日、「ティグライ州の州境が約3カ月にわたって事実上封鎖されている」などと話し、援助物資の配送が制限されていると政府を批判していたという。
 
ティグライ州では昨年11月から政府軍と地元政党TPLFの間で軍事衝突が勃発。国連によると、これまでに州内では200万人以上が住まいを追われ、500万人以上が食料などの支援を必要としている。うち約40万人は飢餓に近い状態とみられている。
 
国連のグテーレス事務総長は国外退去の発表を受け、「エチオピアでは、絶望的な状況にある人々に国連が食料、医薬品、水、衛生用品などの援助を行っている」「職員が重要な仕事を続けることができるよう政府に働きかけている」などとする声明を発表した。【10月1日 朝日】
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この紛争が表面化するまでは、アビー首相に対しては、隣国エリトリアとの関係改善、近隣諸国紛争の調停などで大きな期待も抱いたのですが・・・

****国家としての統一性が揺らぎはじめたエチオピア内戦****
(中略)アビィとTPLFの和解は容易ではなく、これを契機に、民族の枠を超えた中央集権国家を目指すアビィ政権と有力な民族を基盤とする地域政党の間の対立が深まり、エチオピアの国家としての統一性が揺らぐ懸念がある。

7月3日付のエコノミスト誌の記事は「(ティグレ人民解放戦線TPLEによるティグレ州都)メケルの奪還は、数週間で終わるとアビィ政権が考えていた内戦の転換点となる。ティグライを武力で屈服させるアビィの試みが頓挫しただけでなく、アフリカで第二の人口を有する民族派閥により構成される連邦国家が崩壊する恐れがある」

「欧米の外交官や地域の国々の政府関係者が最も懸念しているのは、エチオピアの脆弱な民族連邦の安定性である。TPLF指導者は、未だ分離独立を呼びかけてはいないが、多くの若いティグライ人たちは、明確に分離独立を主張している」などと報じている。【7月19日 WEDGE】
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分離独立運動、激しい戦い、飢餓・・・同じアフリカのナイジェリアにおいて、“厳しい飢餓と、栄養不足から来る病気、北部州における虐殺により、少なくとも150万人を超えるイボ人が死亡した”【ウィキペディア】とされるビアフラ戦争(1967年7月6日 - 1970年1月12日)を思い出しました。
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