goo blog サービス終了のお知らせ 
不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  イスラムの戒律に厳しい国における女性の状況など

2010-10-11 12:37:32 | 世相

(サウジアラビアの市場(スーク)でのショピング風景 “flickr”より By retlaw snellac http://www.flickr.com/photos/waltercallens/385830547/ )

【女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止】
イスラム教ワッハーブ派を国教とするサウジアラビアは、女性の人権はイスラム諸国の中でも(欧米的価値観からすれば)最低レベルであると言われています。

イスラムに関する知識は持ち合わせていませんので、以下の記述は相当に不正確・大雑把なものになることをご容赦ください。
ワッハーブ派は大きくはスンニ派の一派ですが、イスラム教の中でも最も厳格な宗派として知られており、一般には、イスラム原理主義と呼ばれて知られている復古主義・純化主義的イスラム改革運動の先駆的な運動であると見なされています。

例えば、アフガニスタンのタリバンがイスラムについて学んだパキスタンの神学校マドラサにおいても、サウジアラビアから輸出されたワッハーブ派の影響が大きかったと言われています。また、オサマ・ビン・ラディン等のアルカイダやアラブ系イスラム義勇兵も、ワッハーブ派の宗教的土壌から、更に過激化する形で生まれているとも言われています。

サウジアラビアにおける女性の置かれている状況については、【ウィキペディア】では以下のように記されています。
*************************
サウディアラビアはイスラーム教の中でももっとも厳格なワッハーブ派のシャリーアを国法としている。そのため女性は公的な場面から完全に排除されている。女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止されている。また外出時には必ずヒジャーブを身に着けねばならない。遺産相続も男性の半分であり、公的な権限を行使するためには父親、夫、兄弟などの男性の代理人を介さねばならない。一夫多妻制が認められており、安易な離婚や家庭内暴力も問題となっている。
女性の性的自由はきわめて制限されており、婚外交渉(ジナの罪)が発覚した場合銃殺刑、斬首刑、絞首刑のどれかで死刑になることが多い。男性の場合は鞭打ちですむことが多く、きわめて不公平であると国際社会の非難を浴びている。
ここまで女性の権利制限が強くなったのは1950年代以降、油田開発が活発化してからであり、サウジアラビア王国が成立した当時は女性の就労も普通に認められていた。【ウィキペディア】
*************************

【変革を求める動き】
今回、サウジアラビア、特に女性の権利を話題にしたのは、次の記事を見たからです。
****「好きな相手と結婚できない」サウジ女性たちの闘い*****
父親と男の親族だけが女性の結婚相手に関する決定権を持つサウジアラビアで今、女性たちが、この部族古来の伝統に立ち向かわんとしている。
自分で選んだ結婚相手を父親に却下され、一生独身を余儀なくされる可能性に直面した女性たちが、父親の判断を不服として裁判所に訴え出るケースがこのところ増えているのだ。そうした女性の多くは大卒で、収入のある職業婦人だ。
人権団体の調べによれば、過去6年間で訴えを起こした女性は86人に上る。うち13件は、ことしに入ってからのものだ。

■イスラムの教えと部族の伝統との相克
今年7月、メディナの裁判所は、同僚の外科医との結婚を「違う部族の出身者」との理由で父親が認めなかったことを不服とした女性医師(42)の訴えを却下した。裁判所は父親の言い分を正当と見なし、「違う部族の者と結婚して父親に逆らおうとしている」と女性を非難した。
「不幸なことにサウジアラビア社会には奇妙なパラドックスが存在します。わずか10歳の少女を結婚させることが可能な一方で、大人の女性たちが筋の通らない理由で結婚を妨害されているのです」と、人権団体「National Society for Human Rights」のスタッフはAFPの取材に話した。

イスラム教の教えでは、父親は、娘の結婚相手が高潔で敬虔なイスラム教徒である限りにおいては、その結婚に同意しなければならないとされている。また、前年亡くなった同国の高名なシャイフ(イスラム教の導師)であるアブドゥラ・ビン・ジブラーンは、「父親は娘の結婚を妨害してはならない」とのファトワ(宗教令)を出していた。
だが、シャリーア(イスラム法)とともに極めて保守的な部族の伝統も重んじるサウジでは、娘が結婚するまでの間、父親が娘に対し絶対的な支配権を握ることが容認されている。そのため、政府や裁判所でさえ、女性が父親(父親が死去した場合は兄弟かおじ)の許可なく結婚することを認めていないのが実情だ。

■父親が結婚を認めない理由
希望の相手との結婚が却下される理由で最も多いのは、「同じ部族の出身者ではない」というもの。サウジアラビア王国の中核は部族社会であり、国を左右する政治権力や経済力も部族が基本となっているという背景がある。反面、これを理由に娘の結婚を反対する父親自身は、違う部族の女性と結婚している、という例もある。
幼くして既にいいなづけ(大抵はいとこ)が決められていたり、姉がまだ未婚だとか、娘の社会福祉給付金を父親があてにしているなどの理由で、結婚を許されない場合もある。(後略)【10月6日 AFP】
*****************************

女性の就労状況については、“サウジアラビアは自国民の女性の就労を厳しく制限している反面、外国人女性の労働者は非常に多く、メイドや女性向けのサービス業などは外国人女性が就労している。 しかし、2002年以降は労働人口の半数が外国人であることが問題視され労働者の自国民化政策を進めるようになり、家事労働やサービス業への女性の就労も法的に認められるようになってきている。”【ウィキペディア】とのことです。

****サウジアラビア:スーパーのレジ係に女性 国内で大議論****
男女が同じ職場で働くことが「イスラムに反する」とされてきた保守的な社会のサウジアラビアで、地元資本の大手スーパーマーケットが、タブーを破って試験的にレジ係の女性店員を配置、同国内で大きな議論となっている。
イスラム保守派勢力は「女性店員が男性から嫌がらせを受けかねない」と反対、同スーパーのボイコットを呼び掛けている。だが、女性採用の動きが広がれば、女性の雇用機会が極めて限られているサウジに変化をもたらす可能性もある。同スーパーはサウジ全土に100店舗以上展開する「パンダ」。西部の商都ジッダの特定の店舗にサウジ女性16人を採用した。

女性レジ係は「女性や家族専用」の列に配置され、男性だけと対面しないよう配慮。男性店員と同じような制服ではなく、全身を黒い布で覆うサウジ女性の一般的な服装「アバヤ」を着ているという。
同社の広報担当者によると、採用したのは離婚や夫との死別などで収入が少なく職を求めている女性。担当者はフランス公共ラジオに「女性は男性に比べてよく働く。うまくいけば他店舗にも広げたい」と話している。【8月26日 毎日】
****************************

****サウジアラビア、司法改革で女性弁護士の出廷が可能に*****
サウジアラビアの司法改革の一環で、これまで禁じられていた女性弁護士の出廷が一部、許可される見通しとなった。
現地紙が21日に報じたモハメド・イッサ法相の発表によると、現在策定中の新法の草案では、離婚や親権などを扱う家庭裁判に限り、法廷内での女性弁護士の弁論が許される内容となっている。新法はまもなく議会を通過する見込みだ。
厳格なイスラム法(シャリーア)とイスラム教の慣習に基づくサウジアラビアでは、男女の分離が定められており、司法機関内や政府庁舎でもこれまで女性の弁護士は、女性専用と限定された区画でしか活動が認められなかった。また判事は全員、男性のイスラム聖職者となっている。
今回の司法改革では、「個人の問題」を扱う家庭裁判所など特定の種類の訴訟に特化する裁判所の拡充が試みられている。【2月22日 AFP】
****************************

【保守派の反発も】
サウジアラビアでも変革の流れが生まれているようにも見えますが、一方で、そうした動きに反発する流れもあります。

****サウジで13歳少女にむち打ち刑 「教師に反抗」と判決****
AP通信や国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、サウジアラビア東部ジュベイルの裁判所は24日までに、校則違反をした上に教師に反抗したとされる13歳の少女に、同級生の前でのむち打ち90回と禁固2カ月の判決を言い渡した。具体的な罪名は不明。アムネスティは、子供をむち打ち刑に処するのは「残虐で非人間的、不名誉だ」と指摘。判決撤回を求めた。【1月25日 共同】
************************

*****サウジ:宗教警察が赤い色の商品摘発 バレンタイン前に*****
キリスト教に起源を持つバレンタインデーは「ご法度」--。イスラム教聖地を抱えるサウジアラビアで宗教警察(勧善懲悪委員会)が11日、14日のバレンタインデーを連想させる「赤いバラ」などの赤い色の商品の摘発を全国一斉に始めた。AP通信などが報じた。
サウジは、女性の車の運転が禁止されているなど、イスラム諸国でも最も保守的な国。首都リヤドのほとんどの店は、棚から赤い色の商品を撤去したという。
サウジ当局者によると、宗教警察が巡回を強化。赤いバラやハート形のグッズ、贈り物の赤い包み紙などを店頭から撤去するよう指導、ホテルやレストランに特別の飾り付けをしないよう命じている。
宗教警察は「従わない者は処罰する」と警告。玩具店が自主的に赤いクマの縫いぐるみを客の目につかない所に隠すなどしている。ただ、こうした商品はバレンタインデー以外の時期には販売が許されているという。【2月13日 毎日】
******************************

【宗教的見解と民衆の生活の乖離】
こうした状況については“近年では宗教指導者たちが示す宗教的見解と民衆の生活の乖離が進み、国民が宗教的な指導に従わなくなってきており、宗教指導者がハラーム(禁忌)であるとファトワー(宗教見解)を出した物の多くを民衆が利用していることが珍しくなくなった。代表的な物としてポケモン、バレンタインデー、クリスマスなどがある。
民衆が宗教指導者の言うことを聞かなくなった結果、宗教指導者が今まで以上に原理主義的で過激な発言を繰り返したり、宗教警察である勧善懲悪委員会による取り締まりを過激化させる傾向にある。これによってとんでもない理由での刑罰や死刑が科されることがある。 このような過激な発言がニュースで配信されたりしてネット上で話題になることがあるが、発言と実情がかけ離れていることが多い。
2008年には過激派宗教指導者二人が国王によって解任されるなど、過激派宗教指導者はサウジアラビアでも排除され始めている”【ウィキペディア】とも。

【テロ温床への政府の危機感】
また、政府当局もテロの温床となるような状況に危機感を持っており、“現代では法的権利擁護委員会などワッハーブ派がサウジアラビア政府から弾圧を受けていると主張する団体もある。 現在ではモスクで行われるウラマーの説法でもファトワーでも他国への侵略やテロを正当化するような発言をすれば公職追放などの厳しい処罰を受けるようになり、ワッハーブ派の唱えるジハードを主張すればサウジアラビア政府から弾圧されるという状況に追い込まれている。 また、西洋的人権擁護や女性の権利擁護など本来のワッハーブ派の主張と相容れない法制度が次々と施行され、反対すれば弾圧されるという状況になっている。” 【ウィキペディア】とも。

なにせ、遠い国の話でよくわかりませんが、イスラム世界への影響力の強いサウジアラビアの社会動向は注目されるところでもあります。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バングラデシュ  頻発する衣料品工場労働者のストライキ・デモ

2010-10-10 20:27:13 | 世相

(バングラデシュの衣料品工場 “flickr”より By Marc oh!
http://www.flickr.com/photos/marcohk/91439629/ )

【ソーシャルビジネス】
ふた月ほど前になりますが、ユニクロがバングラデシュで収益を目的としないソーシャルビジネスに取り組むという記事がありました。

****ユニクロ:グラミン銀と合弁 バングラで雇用創出*****
カジュアル衣料のユニクロを運営するファーストリテイリングは、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏率いる貧困者向け少額融資機関「グラミン銀行」と合弁会社を設立し、現地の雇用創出などを目的とする「ソーシャルビジネス」事業に乗り出す。
13日午後、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長とユヌス氏が記者会見して発表する。日本企業がグラミン銀行と合弁事業を展開するのは初めて。

ファーストリテイリングはバングラデシュなどで衣類を製造している。だが、現地の人々にとっては、価格が高すぎ、手が届きにくい。
このため、合弁会社で、無理なく購入できる衣類を製造し、得た利益は雇用拡大につながるよう再投資、将来的に生活水準の向上や経済発展につなげることを目指す。途上国での収益を目的としないソーシャルビジネスは欧米企業の間では広がっているが、日本企業としてはファーストリテイリングが最大級の取り組みとなる。
グラミン銀行は83年に設立。農村部の女性への低利・無担保融資などで、貧困層の生活向上に貢献したとして06年、総裁を務めるユヌス氏とともにノーベル平和賞を受賞した。【7月13日 毎日】
****************************
記事以上のことはわかりませんが、現地住民の利益になる話であれば、非常に評価できる取組かと思われます。

【「沸騰都市」】
08年6月、NHKでの「沸騰都市」シリーズで、バングラデシュ首都ダッカは、その急成長とグラミン銀行などのマイクロクレジットについて、「“奇跡”を呼ぶ融資」として報じられました。
****ダッカ 「“奇跡”を呼ぶ融資」*****
世界最貧国のひとつに数えられてきたバングラデシュが、目覚しい経済成長を遂げている。年5パーセントを超える経済成長を持続し、BRICsに続く有力新興国「NEXT11」にも選ばれた。政府は十分に機能せず、輸出できるような天然資源もなく、外資にもほとんど頼れないこの国が、なぜここまで急速な発展を遂げたのか。
その原動力となっているのは、貧困層の劇的な所得の向上である。この10年で全人口に占める貧困層の割合は10パーセント以上減少した。貧困層が知恵を振りしぼり、ひとりひとりが言わば起業家となって、自力で豊かさを手にしようとする動きが始まっている。

その助けとなっているのが、無担保で少額を融資するマイクロクレジットである。グラミン銀行がノーベル平和賞を受賞、一躍脚光を浴びたが、それに先んじて始めたのが世界最大級のNGO・BRACである。
BRACは首都ダッカを拠点に、スラムに住む貧困層、繊維工場を操業する中間層に向けて積極的な無担保融資を展開してきた。その基本姿勢は、「貧困層に必要なものは援助ではない。投資である」。従来のNGOのあり方を大きく覆すものだった。【NHKホームページ】
************************

【「親元に仕送りするどころか、仕送りしてもらわないと生活できない」】
ただ、バングラデシュの労働者の現実は厳しいものがあり、6月末、7月末と相次いで激しいストライキが報じられています。その中心にいるのは、急成長を支えている衣料品工場の労働者です。

****賃上げ求める工場労働者、街頭で警官隊と衝突 バングラデシュ*****
衣料品工場の労働者が賃上げを要求しストライキやデモを続けているバングラデシュの首都ダッカで前週末の7月30日以降、多数の労働者が街に出て抗議を行っている。1日には再び警察との衝突も発生した。
バングラデシュ政府は7月27日、世界で最低水準といわれる同国の衣料品工場労働者の最低賃金を現在の1か月1662タカ(約2070円)から約1.8倍の3000タカ(約3700円)に引き上げると提案した。
しかし労働者側は、食品価格や家賃が高騰する中、最低生活水準を満たすためには少なくとも月に5000タカ(約6200円)が必要だと主張し、ほとんどの組合が政府の案をはねつけた。

30日にはダッカ市内に労働者数万人が繰り出して抗議した。各所で暴動状態になり、工場や街中の店舗を破壊したり、駐車車両に放火したりする労働者も現れ、機動隊との衝突も発生した。
1日には再び労働者たちと警察が衝突した。ダッカの北西に位置し、700ほどの衣料品工場が集まるアシュリア地区では少なくとも20工場が閉鎖したままで、労働者数百人が棒や石を手に街頭で抗議している。

ダッカ警察幹部はAFPの取材に対し、この労働者たちが「幹線道路を封鎖しようとして、警官隊に向かって投石した。解散させるために催涙弾を使用した」と語った。暴動の拡大を抑えようと、アシュリアには特殊部隊など1000人を超える警官を配置したという。
一方、ダッカ南部のナラヨンゴンジでは1万人以上の労働者が、非暴力の抗議行動を展開した。【8月1日 AFP】
*******************************

【10月3日 朝日】にアジア各国の最低賃金を比較したJETRO資料が掲載されています。
月額で、横浜1385.6ドル、ソウル584.6、台北542.9、上海140.6、バンコク125.4、ニューデリー86.6、ハノイ74.7、カラチ71.2、コロンボ53.8に対し、ダッカは23.97ドルと群を抜いて最低レベルにあります。

この実態について同記事は“工場労働者の多くは、現金収入が乏しい地方の農村から来た出稼ぎの若者たちで、うち8割は女性。工場周辺にひしめく農家を改造した下宿で、6畳ほどの部屋に6~8人が雑魚寝する。1日10~12時間働き、電灯も扇風機もない部屋に戻って眠るだけの生活だ。
繊維産業の最低賃金は月1662タカ(約2010円)。2006年に見直され、以来約4年間据え置かれてきた。この春、ダッカの北方約100キロの村から出稼ぎに来た男性(22)は「下宿代と食事代で3千タカはかかる。親元に仕送りするどころか、仕送りしてもらわないと生活できない。ひどすぎる」と嘆く。” 【10月3日 朝日】と報じています。

4年前にバングラデシュを観光した際に、ダッカ市内に溢れるリキシャ(自転車で引っ張る人力車)の波に目を見張ったものです。
ただそとのきも、こうした厳しい労働で一体どれほどの収入が得られるものか・・・?という思いを感じました。

【「チャイナ+1(プラスワン)」】
中国に進出した日本の衣料品産業も、中国での賃金上昇、中国に全面的に依存するリスクを考慮して、更に賃金の低いバングラデシュなどに生産拠点の一部を移しています。いわゆる「チャイナ+1(プラスワン)」です。

****バングラデシュ、月の最低賃金2千円にデモ続発*****
・・・・中国に続く繊維産業の輸出拠点として注目を浴びるバングラデシュで、賃上げを求めるデモが頻発している。最低賃金は日本円でわずか月2千円程度。世界最低水準の人件費を売り物に急成長してきたが、もはや労働者の不満を抑えきれなくなっている。(中略)

バングラデシュの繊維産業が急成長を始めたのは1990年代以降だ。世界の繊維輸出の中心は50年代の日本から、韓国や台湾、その後、中国へと移動した。さらに、中国に生産を全面依存するリスクを避けるためのもう一つの拠点「チャイナ+1(プラスワン)」として、労働力がより安価なベトナム、カンボジア、バングラデシュが注目を浴びるようになった。
バングラデシュの賃金水準は中国の3分の1、ベトナム、カンボジアと比べても半分程度だ。アジアでさらに賃金が安い国となると、軍事政権下で欧米諸国から制裁を受けているミャンマー(ビルマ)ぐらいしかない。
Tシャツやジーンズなど比較的安価な製品を中心に、欧米の量販店や大型ブランド、日本のユニクロなどが次々と生産を委託し始めた。
繊維関連の工場は約5千あり、労働者は約350万人。同国の輸出全体の8割、国内総生産(GDP)の13.5%を占める。海外への出稼ぎと並ぶ基幹産業で、騒乱の影響は計り知れない。

工場経営者側には、容易に賃上げできない事情がある。アシュリア地区で機織りから縫製まで一貫生産する工場経営者(61)は、「バングラデシュの工場に支払われる請負代金は小売価格の10分の1程度。工場間の競争は激しく、完全な買い手市場のため、人件費を上げれば受注できなくなる」と話す。
工場で生産している日本向けの婦人物ニットシャツの請負単価は1.68ドル(約143円)。これで、ウズベキスタンから輸入する糸などの原材料費、光熱費、人件費を賄わなければならない。
工場経営者の団体「衣料品生産輸出協会」のムルシェディ会長は、「バングラデシュの国際競争力は人件費の安さに支えられている。賃上げは自殺行為だ」と訴える。
しかし、繊維労働者連盟のアブドル・フサイン会長は反論する。「安すぎる賃金は人権無視の搾取の上に成り立っており、競争力と別次元の問題だ。ほとんどの利益を先進国側が持って行ってしまう貿易構造に問題がある」 (後略)【10月3日 朝日】
****************************

もちろん、成長の波に乗って消費ブームの担い手となる「中間層」と言えるような人々も出現しています。
貧困とされる人の割合も、90年の57%から大幅に減少し、08年時点で36%になったそうです。
ただ、“なお36%”でもあり、“消費ブームの一方で、消費者物価上昇率は9.9%に達し、持たざる者の家計を圧迫している。”【同上】とも。

こうした低賃金労働の結果としての安価な衣料品等の商品からの便益を日本の消費者は享受している訳で、ダッカの激しいストライキ・デモと私たちの生活は決して無関係ではありません。

なお、バングラデシュでは野党主導の暴力的な反政府ゼネスト「ハルタル」が以前からよく行われてきましたので、デモが暴動状態になる背景としては、そうした社会風土もあるのかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ASEAN諸国に高まる中国脅威論

2010-10-09 19:00:59 | 国際情勢

(ロシアの基地使用再開が報じられているベトナム・カムラン湾 “flickr”より By dreaminspirer
http://www.flickr.com/photos/dreaminspirer/2559019846/ )

【中国の主張は「理性を失っている」】
尖閣諸島での問題、今回の劉暁波(リウ・シアオポー)氏(54)がノーベル平和賞を受賞したことに見られる中国の政治・社会体質など、深まる経済的関係の一方で、「異形の大国」中国とどのようにつきあっていくべきか、日本だけでなく多くの国が悩んでいるところです。

ベトナムも、南シナ海のパラセル(西沙)諸島の領有権をめぐり、中国と厳しく対立しています。
“1954年のインドシナ戦争の終結に伴い旧宗主国のフランスが去ってから、北緯17度以南に成立したベトナム共和国(南ベトナム)が同諸島の西半分、中国は1956年には東半分をそれぞれ占領し、以後18年にわたり、南ベトナムと中国の対峙が続いた。ベトナム戦争中の1974年1月、中国軍は西半分に侵攻して南ベトナム軍を排除し、諸島全体を占領した。この際、南ベトナムの護衛艦1隻が撃沈された(西沙諸島の戦い)。1974年1月19日に中華人民共和国によって占領、その後、同諸島は中国の実効支配下にある。
現在は中華人民共和国が支配しているが、ベトナムと中華民国(台湾)も領有権を主張している。”【ウィキペディア】

昨年3月ごろから海洋権益を守るためとして、中国は漁業監視船による監視を強化。ベトナム漁船の拿捕が相次いでいます。
9月11日には、同諸島の周辺海域でベトナム漁船が中国当局に拿捕され、乗組員9人が拘束される事件が発生。ベトナム側は抗議を続けていますがが、乗組員の解放に至っておらず、両国間の緊張も高まっています。

****南シナ海 深い対立****
■国防相会議で議論も
南シナ海ではパラセル諸島やスプラトリー(南沙)諸島の領有権をめぐり、海洋権益の拡大を目指す姿勢を強める中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部の国が対立している。特に中国当局によるベトナム漁船の拿捕はここのところ頻発しており、今月12日にハノイで開催予定のASEAN10力国と日中米ロなど8カ国が初めて参加する拡大国防相会議でも焦点となる可能性がある。

国営ベトナム通信によると、拿捕されたのはベトナム中部クアンガイ州の漁船1隻。両国政府は発生直後から外交ルートを通じて交渉を続けていた。そんななかで、ベトナム外務省が今月5日に在ハノイの中国大使館に対し、ベトナムの主権を主張したうえで拿捕と拘束にあらためて抗議したことを、同通信が明らかにした。
ベトナム当局者によると、中国側は「漁船が爆発物を使った漁をしていた」との理由で漁船所有者に罰金の支払いを求め、払えば乗組員と船を解放すると伝えた。ベトナム側は「漁船はベトナム領海内で通常の漁をしていた」とし、乗組員9人の即時無条件の解放を要求。同当局者は、中国側から当初受け取っていた報告書には漁船が爆発物を積載していたことに触れていなかった点を挙げ、罰金の支払い命令に対し「理性を失っている」と批判したという。

南シナ海の軍事情勢やベトナム政治に詳しいオーストラリア国防アカデミーのカール・セアー教授は「今回のベトナムの抗議のコメントはこれまでで最も強い」と指摘。背景としてベトナムでは中国の経済的、軍事的な存在感が高まるにつれ、エリート層の間に反中感情が高まっていることから、指導部人事が協議されるとみられる来年のベトナム共産党大会を控えて対中外交で強い態度をとらざるをえなくなっていると分析する。これまでベトナムは表立っては、強い中国批判を控えてきた。
シンガポールのシンクタンク、東南アジア研究所のイアン・ストーリー特別研究員は「ベトナム政府は、尖閣諸島沖で逮捕された中国人船長の無条件解放を日本に求めた中国政府と同じように、ペトナム人漁師の無条件解放を要求することで中国の二重基準を強調しようとしている」と分析する。中国が南シナ海では自国船舶の航行の権利を主張する一方で、東シナ海では日本船の航行の権利を否定するという矛盾した姿勢を浮き彫りにさせる狙いだとの見方だ。
中国は昨年以降、パラセル諸島海域に漁業監視船を派遣。セアー教授の調べによると、今年に入って中国当局に
拘束されたベトナム人漁師は40人余りにのぼるという。【10月9日 朝日】
**************************

【アメリカ、更にロシアに接近 中国を牽制】
ベトナムは強まる中国の脅威を牽制するべく、最近、旧敵アメリカとの接近を図ってきました。
****ベトナム:米と国防次官級協議 南シナ海巡り中国けん制も****
ベトナムと米国は8月17日、ハノイで95年の国交正常化後、最高レベルの防衛対話となる国防次官級協議を開催した。かつて米国と戦い南北統一を果たしたベトナムは、急速に米国との軍事協力を推進。中国とは南シナ海の領有権問題で対立し、歴史的にも警戒感が強いだけに、中国封じ込め姿勢を強めるオバマ米政権の思惑を巧みに利用しているとみられる。(中略)

両国間では今月上旬、国交正常化15年の祝賀行事の一環として、米原子力空母「ジョージ・ワシントン」が、ベトナム戦争時に米軍の一大拠点となった中部ダナン沖合の南シナ海に到着。ベトナム政府や軍の幹部らが空母に乗り込み、軍事協力強化をアピールしたばかり。
中国は今年3月、南シナ海について初めて、領土保全に関する「核心的利益」と表明。中国政府の同海域の権益獲得に臨む強い姿勢の表れと受け止められた。
中国の南進圧力に抵抗してきた長い歴史を持つベトナムが、これを深刻な脅威ととらえたのは明らかで、ベトナムを議長国に7月、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議では、東アジアサミットに来年から米国とロシアを参加させる方針が決まった。

米空母のベトナム訪問に関し中国は「米越両国がそれぞれを利用して中国をけん制しようとすれば、後悔することになる」(楊毅・中国海軍少将)と強い調子で警告。ベトナムにとっては中国との経済関係は自国の経済成長に欠かせないものでもあり、ビン次官は17日の防衛協議後、「協力強化は他国の利益を侵害するものではない」とも強調している。【8月18日 毎日】
*******************************

アメリカだけでなく、ロシアともカムラン湾の海軍基地の使用再開に向けた協議が行われています。
****ロシア、カムラン湾再進出 ベトナムと基地使用合意へ 露紙****
ロシアの有力紙「独立新聞」は7日付で、ロシアが南シナ海に面するベトナム南部、カムラン湾の海軍基地の使用再開に向け、近く同国と合意する可能性があると伝えた。南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島、パラセル(同・西沙)諸島などでは、中国とベトナムなど周辺国が領有権問題を抱えており、ロシアの基地使用再開は中国の警戒を招く可能性もある。
同紙はロシア国防省当局者の情報として、10月下旬のメドベージェフ大統領のベトナム訪問時に、基地使用再開に向けた合意文書が交わされる可能性があると報じた。同当局者は「政治的決定がなされてから3年間で、使用再開の準備が整う」としている。

旧ソ連は1979年、25年間を期限とするカムラン湾基地の無償使用協定をベトナムと締結した。その後、ベトナム側が協定更新の場合には有償に切り替える方針を示したことから、露太平洋艦隊は2002年5月に撤退、東南アジア唯一の拠点を失った。
ロシアのカムラン湾基地使用再開には、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内でのロシアの存在感を強めて、原子力発電や地下資源、兵器などの市場を確保しようとする狙いがうかがえる。オバマ米政権もASEAN重視の政策に転換し、南シナ海への関与姿勢を示している。
また、ベトナム側にも、ロシアを南シナ海に関与させることで、スプラトリー、パラセル両諸島の領有権をめぐり対立する中国を牽制(けんせい)する思惑があるとみられる。(後略)【10月8日 産経】
**************************

【中国と正面から対立するのは想定外】
ベトナムの対応に見られるように、尖閣諸島の問題を含めた最近の中国の強硬な姿勢は、周辺ASEAN諸国における中国脅威論を高める結果にもなっており、台頭する中国を牽制してアジアへの関与を強めたいアメリカの思惑とも合致して、対中国という点でASEAN諸国とアメリカの関係が強まるところともなっています。

****中国船長釈放 「南シナ海問題」米と連携 “厳戒”ASEAN****
日本が9月25日、中国漁船衝突事件で勾留していた船長を釈放したことを、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は「中国政府の強い圧力で釈放を決めた」(シンガポール・ストレーツ・タイムズ紙)と受け止め、今後、南シナ海の大半の領有を主張する中国が攻勢を強めてくると、警戒している。ただ、ASEANも中国経済に大きく依存し、中国の政治的影響力も無視できない。ASEANでは中国との正面衝突を避ける一方、米国などのアジア地域への関与を促し、地域での力の均衡をはかっていく構えだ。

「中国の勝ちというだけでなく、(アジア)地域の他の国々に隣の大国(の中国)を、いいかげんに扱ってはならないという警告にもなった」。南シナ海の南沙諸島(英語名・スプラトリー)の領有権をめぐり、中国と対峙(たいじ)するフィリピンの有力紙マニラ・タイムズは25日付の社説で、今回の措置をこう評した。
ASEAN各国は「一昨年の金融危機以降、経済での発言力をつけた中国はとみに傲慢(ごうまん)になった」(ASEAN外交筋)と感じている。オバマ米政権が東南アジアへの関与を強める姿勢を示したことは、「アジアは中国がすべてではない」(シンガポールのリー・シェンロン首相)と、「独善的姿勢」(マニラ・タイムズ)を強める中国を警戒するASEAN各国にとって歓迎すべきことだった。

ただ、もともと中華系が多く今も、中国本土からの移民が増えるマレーシアやシンガポールだけでなく、ベトナムやフィリピンのように領有権をめぐり血を流した国でも中国と正面から対立するのは想定外だ。
米国とASEANの首脳会議の共同声明が、中国に配慮した表現に落ち着いたのも、こうした背景がある。声明の草案には「ASEANと米国は、南シナ海の領有権紛争で主張を通すための武力行使や威嚇に反対する」という中国非難の表現があったが、直前に削除された。
ASEANとしては今後、米国の支持を受けつつ、2002年の「南シナ海の関係諸国行動宣言」に基づく交渉実現を中国に働きかけていく構えだ。【9月26日 産経】
******************************

中国非難の表現だけでなく、会議では、「南シナ海を含む紛争の平和的解決の重要性で合意した」としているものの、共同声明は原案にあった「南シナ海」の語句を削除しています。これについては、上記記事にもあるように中国との正面からの対立は避けたいASEAN諸国側の意向のほか、中国側が猛烈に巻き返し、伝統的な友好国のラオスやカンボジア、ミャンマーなどへの外交攻勢を強めて骨抜きにした・・・との見方もあるようです。

北沢俊美防衛相は10日、ASEAN拡大国防相会議に出席する各国の国防相と会談するため、ベトナムに向けて出発します。11日にゲーツ米国防長官ら6カ国の国防相と個別に会談し、沖縄・尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件を踏まえ、東シナ海での権益拡大を図る中国の動向をめぐり意見交換する予定です。(微妙な情勢下、外務省の判断で個別会談相手国に中国が含まれておらず、北沢大臣が立腹した・・・との話もあるようですが)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン 軍事作戦10年目 本拠地掃討と和解交渉の“硬軟両様”の模索

2010-10-08 23:17:59 | 国際情勢

(カンダハルで “flickr”より By Brian_Fornear
http://www.flickr.com/photos/22841865@N05/4632275207/ )

【「この戦争に勝つとは思わない。」】
今更言うまでもない話ではありますが、アフガニスタン情勢はアメリカにとって厳しい状況が続いています。
****アフガン軍事作戦10年目 成果示せぬ米政権*****
 ■戦費に国民不満 12月戦略再検証
米国史上最長となったアフガニスタンでの軍事作戦が7日、10年目に突入した。来年7月の撤退開始を公約するオバマ米政権は、米兵約9万5千人を投入してイスラム原理主義勢力タリバンの掃討を続けている。しかし戦況は好転せず、不況下で戦費のかさむ軍事作戦への国民の不満が高まっている。12月に控えるアフガン戦略の再検証を前に、オバマ政権は「目に見える成果」を国民に示したい意向だが、出口の見えぬ対テロ戦の行方に米国には悲観論も広がっている。

「基本的な方針の変更が必要になるとは考えていない」
ゲーツ国防長官は9月23日の記者会見で、アフガン軍事作戦を再検証する年末に向けて、戦略の大幅な見直しは必要ないとの考えを強調。同席した制服組トップのマレン統合参謀本部議長も「いくらかの調整はあるだろうが、現在の戦略は正しい」と自信を示した。
米国はアフガンでの対テロ戦に「掃討、確保、構築」と呼ばれる反政府武装勢力の平定戦略を採用。タリバンを掃討し治安を確保した上で、住民の生活向上を支援することによりタリバンとの関係を断絶させる青写真を描いている。
しかし、米国の戦略はその第1段階で早くもつまずいた格好だ。2月に始まった南部へルマンド州マルジャの戦闘は現在も続いており、第2段階の治安の確保にはほど遠い。9月下旬に始まったタリバンの拠点、南部カンダハル州の掃討作戦も目立った成果はない。
アフガンでの米兵死者数は、今年7月に66人と月間で過去最悪を記録するなど、すでに1300人を超えている。

戦費総額は約3360億ドル(約28兆円)。米紙ワシントン・ポストによると、現在も1年で約1千億ドル(約8兆円)が支援目的で支払われ、一部は汚職がはびこるアフガン高官の手に落ちていく。米国の失業率が10%前後で推移する中、米国民には効果がはっきりしない出費への嫌悪感が広がっている。

9月29日に発表されたCNNテレビの世論調査では、アフガンでの軍事作戦を肯定したのは44%で3月の調査から11%も減少し、不支持は58%に達した。
オバマ大統領はテロの脅威から米国を守る上で「アフガンでの戦争は必要だ」と強調。昨年12月には、来年7月の撤退開始を条件に3万人の増派を決めた。
だが、戦果に乏しい状況で、あらかじめタリバンや国際テロ組織アルカーイダに撤退時期を通知するような手法への疑問もあり、政権内に亀裂を生んでいるとの指摘も多い。
ワシントン・ポスト紙の著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏は新著「オバマの戦争」で、現在アフガン駐留米軍トップを務めるペトレイアス司令官が「この戦争に勝つとは思わない。子供の時代まで戦い続けることになろう」と吐露した-と明かしている。【10月8日 産経】
******************************

上記記事ではアメリカ世論のアフガニスタン軍事作戦不支持増加を取り上げていますが、それが直ちに撤退を求めるような厭戦気分というものでもないようです。
06年の前回中間選挙では、ブッシュ政権の進めるイラク戦争が最大の争点のひとつになりましたが、今回中間選挙ではアフガニスタンでの戦争は殆んど争点になっていません。
それだけ経済・雇用という国内問題が深刻だということもありますが、“アフガン戦争は、01年9月の米同時多発テロを実行した国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者の身柄の引き渡しを、当時のタリバン政権が拒んだことで始まった。
(米スタンフォード大フーバー研究所のトーマス・ヘンリクソン)上級研究員によると、共和党議員だけでなく、イラク戦争には反対した民主党議員もアフガン戦争は「正しい戦争」とみなしており、そもそも争点になりにくいという。米軍死者数も過去の戦争よりは少なく、国民やメディアからは、4400人を突破したイラク戦争ほどの批判はない。さらにオバマ大統領は来年7月までに米軍撤退を開始するとしている。上級研究員は「来夏には何かが変わる、と多くの米国民が考えている」と述べ、大統領の「出口戦略」の効用を指摘する。”【10月7日 毎日】という見方があります。

【「事態打開に前向き」】
一方、カルザイ政権はタリバンとの交渉を探っています。
****アフガン政権とタリバン、和平へ秘密交渉か****
米紙ワシントン・ポスト(6日付)は、アフガニスタンのカルザイ政権と旧支配勢力タリバンが、戦闘終結に向けた高官・幹部級の秘密交渉を始めたと報じた。
双方は以前、サウジアラビアの仲介による和平交渉を行い、物別れに終わっている。
今回は、タリバン側の交渉団は、最高指導者オマル師と、パキスタンを拠点とする意思決定機関「クエッタ・シューラ(評議会)」から全権を委任されており、「事態打開に前向き」(関係筋)だという。
タリバンはこれまで、駐留外国部隊の全面撤兵なしに同政権と交渉はしないと主張していた。しかし、ワシントン・ポスト紙によると、タリバンは、交渉を通じて政権への参加や、米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍の期限付き撤収などを探り始めたとみられる。【10月7日 読売】
****************************

今回は初めてタリバンの最高指導者オマル師と、タリバンの意思決定機関であるクエッタ・シューラ(評議会)の了承を得ているという点が注目されるところですが、どうでしょうか・・・

ISAFとアフガニスタン軍は先月25日ごろから、タリバン本拠地・南部カンダハル州での掃討作戦を本格化しています。この「ドラゴン・ストライク」と命名された作戦は約7千人規模で、カンダハル市周辺の地区で陸と空からの攻撃が続いています。作戦は当初、今年6月に開始される予定でしたが、同州住民の強い反発や、ヘルマンド州での作戦の難航によって大幅にずれ込んでいたものです。
一方、タリバンは、ISAFが南部で攻勢を強めるのに伴い、各地で報復テロを増加させています。【9月30日 産経より】
軍事衝突が激化するなかでの秘密交渉というのは、難しそうです。よっぽどタリバン側追い詰められれば別ですが。

【「和平評議会はアフガン国民の希望の源だ」】
カルザイ政権側は、タリバン側との和解を目指す「高等和平評議会」を立ち上げています。
****アフガニスタン:和平評議会を開催 武装勢力と和解目指し****
アフガニスタンのカルザイ大統領は7日、旧支配勢力タリバンなど武装勢力との和解と平和構築を目指す「高等和平評議会」を首都カブールで開催した。ただし、米軍主導の武装勢力掃討作戦が継続中であることなどから、和平実現は困難を極めそうだ。

この日は、米国が01年同時多発テロの報復として同年10月7日に首都カブールなどを空爆し、アフガン戦争に突入してからまる9年の節目。現地からの情報によると、開催数日前からアフガン政府はタリバン政権の駐パキスタン大使ら旧体制の高官らと水面下で接触を持ち、開催にこぎつけた。
AP通信によると、カルザイ大統領は「和平評議会はアフガン国民の希望の源だ」と述べ、長引く紛争からの脱却への期待を表明した。
タリバンとの和解の方向性は、今年6月にカルザイ政権が開催した「国民和平会議」(ピース・ジルガ)で打ち出されていた。今回発足した評議会のメンバーは約70人で、元タリバン戦士らが含まれる。人権団体や女性団体は、女性蔑視のタリバンとの和解に懸念を表明している。(中略)
タリバン側は、表向きには、「駐留外国軍が撤退しない限り、カルザイ政権との和解はない」と表明している。【10月8日 毎日】
*************************

“メンバーには、ラバニ元大統領とムジャディディ上院議員(元大統領)や、ワルダク教育相などの閣僚が含まれている。一方ではサイアフ下院議員など軍閥指導者や、元タリバンメンバーらの顔ぶれも。汚職や腐敗で知られる人物が並ぶことは国民に複雑な感情をもたらしそうだ。また、タリバンとの強いパイプを持つ人物を欠く点や、女性メンバーの少なさなども指摘されており、評議会への期待度は高いとはいえない” 【9月30日 産経】といった評価もあります。

南部カンダハル州で掃討作戦とカルザイ政権による和解交渉・・・事態打開へ向けた“硬軟両様”の模索が続いています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インド  カースト制がからむ「名誉殺人」と「不妊治療」の話題

2010-10-07 23:39:26 | 世相

(カースト制度の更に外側に排除されるダリット(不可触)の村 “flickr”より By Sean Hawkey
http://www.flickr.com/photos/hawkey/4365053600/ 
彼らを「神の子」とも呼んだ“「インド独立の父」と讃えられるマハトマ・ガンディーは、かれ自身ヴァイシャ出身であり、カースト・ヒンドゥー社会を守るために、不可触制の廃止には同意したものの、カースト制度の廃止そのものには反対した。つまり、ガンディーは、アウト・カーストを5番目のカーストに引き上げようとはしたものの、決して、アウト・カーストに属する人びとを解放しようとしたのではなかった”【ウィキペディア】

【消えた4万人】
インドの首都ニューデリーを舞台に、英連邦に属する71カ国・地域のスポーツ選手が参加する「コモンウェルスゲーム」(英連邦競技大会)の開催準備についていろいろなトラブルがあり、インドの思惑とは反対に、インドの抱える問題が露呈してしまったことは、10月1日ブログ「インド 英連邦競技大会準備不足で傷つく評価 相変わらずの宗教対立も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101001)で取り上げました。

大会は何とか開催されたようですが、こんな話題も。
****インド:物ごい4万人「美化」で排除 英連邦大会開幕前に****
英連邦競技大会が3日開幕したニューデリーで、普段は町のあちこちで見かける物ごいや路上生活者約4万人が開幕直前に一斉に姿を消した。インドの国の威信を懸けた初の同大会主催だが、過剰な「美化」政策に批判が高まっている。
4日付のヒンドゥスタン・タイムズ紙によると、物ごいや路上生活者がいなくなったのは開幕前の1週間。ニューデリーの路上や高架下などで暮らす人々を警察が市内の空き地に集め、そこからトラックでどこかへ連れ去ったという。
また、デリー駅に到着した乗客の中で、身分証明書を持たず、路上生活者になりそうな者はそのまま同じ列車で強制的に送り返された。
ニューデリーのいくつかのスラム前には大会関連の巨大な看板が並べられ、景観を意識した「目隠し」も施されている。(ニューデリー共同)【10月4日 毎日】
***************************

国際的イベントを前に「美化」が行われることはそう珍しくないことですが、連れ去られた4万人がどこで、どうしているのか気になるところです。
“普段は町のあちこちで見かける物ごいや路上生活者約4万人”はインドの抱える大問題、貧困の問題の一形態でもあります。

【後を絶たない「名誉殺人」】
また、インドの抱えるより根本的な問題のひとつ、宗教対立については、このブログでもインド北部アヨディヤのモスク跡地に関する問題を取り上げましたが、今日はもう一つの重大な問題、カースト制に関する最近の話題です。

****インド、伝統の犠牲「名誉殺人」 家族が阻む異なる身分の恋愛****
 インド北部ではカーストが異なる、あるいは同じ村出身の男女の交際や結婚を認めない伝統が強く残り、このしきたりに背く若い恋人たちが、両親や兄弟に殺害される事件が後を絶たない。家族が伝統を守るためのものとして、「名誉殺人」と呼ばれるこうした殺人は、保守的な大人の世代と、自由恋愛など現代的な価値観をもつ子供の世代とのあつれきによって招かれ、急速な発展を遂げるインドの苦悩となっている。(インド北部ハリヤナ州 田北真樹子)
 首都ニューデリーに隣接するハリヤナ州の西部ジンド地区。大量のハエが舞う家の中で、ラメシュ・ダンダ氏(48)は長男、ビカスさん(20)の死を悼んでいた。
 ビカスさんは9月12日早朝、別の地区の路上で遺体で発見された。殺人容疑で逮捕されたのは、彼と交際していたリトゥさん(20)の両親。交際に反対していた両親は前日夜、自宅でビカスさんを殺し、続いて自分の娘をも殺害した。
 「リトゥの両親は異カースト間の結婚に反対していた」とラメシュさんは証言する。リトゥさんは、上位カーストのバラモン出身で、ラメシュさん家族はジャート族。「ビカスの命が危ないかもと頭をよぎったこともあったが、本人が交際を否定していた。まさかこうなるとは…」と、ラメシュさんは後悔の念をにじませる。
 ジンド地区のある女性は「交際を禁止されていたのにビカスが大胆にリトゥの家に現れたものだから、両親の堪忍袋の緒が切れたのだろう」と語り、リトゥさんの両親に同情する。

 ◆同じ村も結婚認めず
 「祖先が異なっても、同じ村に住んでいれば、同じ血縁関係にある『ゴートラ』とみなされる。ゴートラでは全員が兄弟、姉妹。だから、同一ゴートラの結婚は認められない」
 ジンド地区から車で1時間半ほど。ダンカール村の「カップ」と呼ばれる長老グループのリーダー、ジラ・シン氏(79)は、こう説明する。そして「私の娘がそんな結婚をすれば、伝統を守るために娘を殺す」と言い切る。
 カーストが異なっていなくても、ゴートラが同じであれば恋愛や結婚は認められない。ビカスさんのケースは、出身の村が同じであることから、ゴートラの問題も絡んでいた。
 カップが、伝統を守ることを恋愛中のカップルの家族に強要しているとの指摘もある。カップ側は「名誉殺人を指示することは絶対にない」と否定しつつも、「古代叙事詩のマハーバーラタの中でも名誉殺人はあり、同一ゴートラの結婚は医学的にも問題があると証明されている」と、カップルの殺害を正当化する。
 同州で、性的被害や人身売買にあった女性を保護する非政府組織(NGO)「アプナ・ガル」の創設者、ジャスワンティさんは「人々の考え方は、『村は一つの家族』。村全体のエゴとプライドが個人の命よりも優先されてしまう」と説明する。

 ◆死者は年間1000人?
 インド刑法は、名誉殺人を一般の殺人罪と同様に扱う。このため名誉殺人による死者数は不明だが、犠牲者は年間1千人にのぼるとの調査もある。報道によると、9月は7件の名誉殺人で9人が命を落とした。
 名誉殺人の問題に取り組む弁護士のラビ・カント氏によると、「名誉殺人の7割は異カースト間で起こっており、うち9割は女性の家族によるもの」という。自分の娘に手をかける家族が多いのは「家族の名誉を引き継ぐのは娘」(カップのシン氏)であり、名誉を汚す娘が殺されるのは当然だとの考えがあるからだ。
 だが、男性の親の方は、ハリヤナ州やパンジャブ州などでは、若年層の男性人口が女性を上回っていることから、「結婚相手を見つけられただけでも十分だと思い、大目にみる傾向がある」(ジャスワンティさん)という。
 インドでは、親が選んだ相手との結婚が主流だが、若年層の教育レベルの向上や社会の変化に伴い、恋愛する若者が増えている。カント氏によると「結婚をめぐる世代間ギャップも存在する」といい、子供が親の言うことをきかなくなったことも背景にある。
 名誉殺人をめぐっては、犯行に及んだ家族だけでなく、カップのように殺人を教唆した地域住民も罪に問えるよう、殺人罪に名誉殺人罪を加えることを求める動きもある。だが、政治の動きは、大票田であるカップへの配慮から、鈍い。【10月3日 産経】
*****************************

遺族の名誉を守るための「名誉殺人」もインドだけの問題ではありませんが、これからの世界経済の牽引車になろうかという国にあっては、やはり捨て置けない問題です。

【「カーストが遺伝子に組み込まれている」】
カースト制がらみの話は限りなくありますが、最近目にしたものでこんな話題も。
****インド 不妊治療ではいまだにカーストがまかり通る*****
 人口11偉人を上回るインドでも不妊治療ビジネスが大繁盛中。同国の不妊治療協会によれば、加盟するクリニックが09年に実施した体外受精は1万8000件。実際には、それをはるかに上回る件数が実施されているはずだ。
 
インドの不妊治療を特徴付けているのは、何と言ってもカースト制度。子供を望むカップルの多くが、卵子提供者や代理母に自分と同じ階級の女性を指定する。
 卵子提供者の健康状態を最重要視する欧米諸国とは対照的に、インドではまずカーストの確認ありきで、病歴チエックは二の次だ。
現在カーストに基づく差別は憲法で禁止され、都市部の若者の間では階級の意識も薄れている。にもかかわらず、不妊治療ではいまだに身分制度がまかり通っている。カーストの階級が高く、容姿端麗な卵子提供者が手にする報酬は、大都市ムンバイなら20万ルピー(約4500ドル)に上る可能性があるが、階級が低くなると報酬は2万ルピー(約450ドル)にまで下がることもある。
 社会学者キャロル・ウパディヤは、カーストは人種の純血を守るものとしてインド人の意識に染み付いていると言う。「彼らはカーストが遺伝子に組み込まれていると考えている」【10月13日号 Newsweek日本版】
*************************

遺伝子云々はともかく、身分制度、差別意識というものは人間の心の奥底に染みついているもので、日本においても同和問題などもなかなか解消されていません。
インドのカースト制のように、社会の隅々まで縛るような状態となると、解消ははるかに困難でしょうし、そもそも解消に向かうのかさえ定かではありません。

「世界最大の民主主義国」インドも、相当に特異な社会です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ボスニア・ヘルツェゴビナ  紛争から15年、分断か融和か?

2010-10-06 23:29:22 | 国際情勢

(サラエボ近郊の町で投票するセルビア人女性 “flickr”より By cvrcak1
http://www.flickr.com/photos/29320956@N03/5047076484/ )

【三つ巴の紛争から15年】
ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争を【ウィキペディア】から概略すると、“ユーゴスラビア解体の動きの中で、ボスニア・ヘルツェゴビナは1992年に独立を宣言したが、独立時に約430万人の人口のうち、民族構成の33%を占めるセルビア人と、17%のクロアチア人・44%のボシュニャク人(ムスリム人)が対立し、セルビア人側が分離を目指して4月から3年半以上にわたり戦争となった。両者は全土で覇権を争って戦闘を繰り広げた結果、死者20万、難民・避難民200万が発生したほか、ボシュニャク人女性に対するレイプや強制出産などが行われ、第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪の紛争となった。”ということになりますが、対セルビア人だけでなく、クロアチア人とボシュニャク人の間の争いもあり、三つ巴の争いでした。

この紛争は95年の「デートン合意」で一応終結しました。
「デートン合意」では、ボスニア・ヘルツェゴビナはイスラム教徒(ボシュニャク人)とクロアチア系勢力で構成する「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」とセルビア人の「セルビア人共和国(スルプスカ共和国)」が並立する単一の主権国家とされ、国会や行政府は両勢力の共同運営で、議会議員も連邦と共和国の各議会から選出、内閣は連邦と共和国の3民族代表で構成する幹部会により指名される形になっています。
現実的には二つの「国家内国家」に分割され、今も中央政府の基盤強化は進んでいません。

【セルビア人に強い分離志向】
セルビア人の分離、隣国セルビアとの併合を求める動きは根強く、コソボ独立の際には、セルビア人共和国議会は08年2月22日、国連と欧州連合(EU)の加盟国の多くがコソボ独立を承認した場合、セルビア人共和国も「住民投票によって共和国の国家としての地位を見直す権利を有する」との決議を、圧倒的賛成多数で採択しています。セルビア人共和国で住民投票が実施された場合、セルビア系住民の圧倒的多数が、独立に賛成すると見られています。

今年に入っても、2月、セルビア人共和国で「デイトン合意」の是非を問う住民投票の実施が議会で採択されています。
****セルビア人共和国:「デイトン合意」住民投票の実施が浮上****
内戦終結から15年を経たボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人共和国で、民族和平の枠組み「デイトン合意」の是非を問う住民投票の実施が浮上している。周囲には、セルビア人側の狙いは「分離独立」との警戒感が広がり、ボスニア和平を支援する国際機関・上級代表事務所も「住民投票は、デイトン合意と憲法に反する」と批判している。
セルビア人共和国の議会は11日、住民投票の実施を可能にする法律改正案を可決した。同共和国のドディック首相は「デイトン合意を支持できるか、国民の声を問う必要がある」と述べ、独立の是非を問うものではないことを強調した。首相は近く住民投票を実施する意向だが、具体的な日程は示していない。

背景には、ボスニア和平維持の責任者と位置付けられ、閣僚の罷免権など強い権限を持つ上級代表への不信感がある。上級代表は、戦犯法廷や裁判所など司法機関にも影響力を及ぼしている。一方、住民投票には「今年秋の議会選挙をにらみ、セルビア人優位を訴える政治的な動機がある」(外交筋)との見方もある。
欧米は住民投票の動きについて、ボスニアの3民族共存に逆行し、国家を分断するものだと警戒している。駐ボスニア米国大使館は「ボスニア・ヘルツェゴビナの安定と主権、領土の一体性を危うくする挑発的行為」と声明で批判した。欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は「ボスニアは欧州で最も不安定な一角だ」として、ボスニアへの関与を強める姿勢を示している。【2月18日 毎日】
*****************************

住民投票実施には憲法裁判所の判断が必要とのことでしたが、その後、この住民投票がどうなったのか、マスメディアでは報じられることがなく、よくわかりません。

【「一つ屋根の下の二つの学校」】
現実には、民族融和とは逆行する分断の動きが強いようです。
以前にも紹介したことがある「一つ屋根の下の二つの学校」は、そうした分断の象徴でもあります。

****分断の学舎:内戦後のボスニアから/上 被害者は子供たち****
「ナイフ、針金、スレブレニツァ」。ボスニア・ヘルツェゴビナ西部の町ビテツ。9月中旬、中心部の公立小学校の教室の外壁に落書きが見つかった。95年、イスラム教徒がセルビア人勢力に殺された「スレブレニツァ虐殺」を挙げ、イスラム教徒を脅す内容だ。消しても数週間後にまた落書きされた。「一部の人の意識の底に差別がある」。イマモビッチ校長は嘆く。

2階建てと平屋の校舎が並ぶ。通うのはイスラム教徒とクロアチア人。一つの学校だが別々の教室で別々の授業を受ける。校長も2人。「一つ屋根の下の二つの学校」とも呼ばれる。
内戦(92~95年)で周辺をクロアチア人勢力が攻撃。イスラム教徒は少数派となった。クロアチア人の学校にイスラム教徒が同居し学ぶ試みだ。2階建て校舎の広い教室で学ぶクロアチア人とは対照的に、イスラム教徒は平屋の木板で仕切った狭い教室に机を敷き詰めて学ぶ。
内戦前に一つの教室で多民族が学んでいたボスニア。95年の和平合意後、ボスニアは二つの準国家に分かれ、準国家の一つ、ボスニア連邦はさらに10州に分けられた。民族・宗派対立を黙認する形で「地方分権」が進む。

「教育の統合は自民族の文化を消滅させる」としてセルビア人、クロアチア人、イスラム教徒で異なるカリキュラムが導入された。歴史や宗教などの科目は違いが大きい。地域でどれを選ぶかはどの勢力が優勢かで決まる。差別を恐れ、遠方の学校に通う例もある。一部では隣国クロアチアやセルビアから輸入された歴史教科書が使われている。
08年、教育の統一を目指し、中央政府内に教育局が設立された。しかし地方に口出しはできず「紙の上の存在」とされる。背景には「分断が解決策」と見なす民族政党がいる。
イマモビッチ校長は言う。「民族・宗教により学ぶ環境が違うのは理不尽。子供は分断の被害者だ」【09年12月14日】
***************************

【総選挙結果は?】
そのボスニア・ヘルツェゴビナで今月3日、下院(定数42)や輪番制の議長が国家元首を務める幹部会(3人)などの選挙が行われました。
多民族の共存などを訴えるボスニア人勢力主体の社会民主党が一時勢力を伸ばしたこともありましたが、前回の総選挙では民族派政党が躍進しています。
今回の総選挙は、“国内の3民族が三つどもえで戦った1995年の内戦終結から15年を迎え、民族融和をいかに進めるかが焦点だが、民族派の諸政党が依然優勢で大きな変化は見込み薄だ”【10月3日 共同】とも報じられていました。

選挙結果については、あまり詳しく報じられていません。
****ボスニア・ヘルツェゴビナ総選挙:3民族の代表決まる****
ボスニア・ヘルツェゴビナの3民族それぞれの代表(幹部会員)を決める選挙で4日、多民族国家の維持を訴えるボスニア人(イスラム教徒)とクロアチア人の候補が事実上の勝利宣言を行う一方、セルビア人側ではボスニアからの離脱を主張する候補が勝利宣言した。地元メディアなどが伝えた。
主にボスニア人とクロアチア人から成る「ボスニア連邦」と「セルビア人共和国」で構成されるボスニア・ヘルツェゴビナでは、3民族の代表が8カ月の輪番で大統領(幹部会議長)を務める。
ボスニア人代表として勝利宣言したのは、ボスニア紛争当時のイゼトベゴビッチ幹部会議長の息子で、民主行動党の新人バキル氏。他民族との協調に前向きとされる。クロアチア人候補では、民族融和を訴える社会民主党の現職コムシッチ氏が勝利を宣言した。
一方、セルビア人側では、ボスニアからの離脱を掲げる独立社会民主同盟の現職ラドマノビッチ氏が勝利宣言した。【10月5日 毎日】
************************

民族代表については、セルビア人は離脱派、イスラム教徒(ボシュニャク人)とクロアチア人は民族融和派・・・ということのようですが、下院の結果はどうなったのでしょうか?
どうも情報が少なくよくわかりません。
よくわかりませんが、融和の方向に事態が向かう・・・というのはあまり期待できない状況のようです。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア  進む“メドベージェフ独自路線”???

2010-10-05 17:52:31 | 国際情勢

(2年前の写真 手をつなぐのはむこうの風習なのでしょう “”より By mima11vladimir
http://www.flickr.com/photos/mima_vladimi_dev/2877424690/ )

【モスクワ市長解任にプーチン激怒?】
北朝鮮のような国だけでなく、どんな国でも権力内部の争いは外部の者にはなかなかわからないものです。
ロシアの双頭体制、メドベージェフ大統領とプーチン首相の関係も、いろんな“噂”が飛び交いますが、真相は・・・?

先日、メドベージェフ大統領は地方首長の大物であるモスクワ市長を解任しました。
****露大統領がモスクワ市長解任 在任18年 政局波乱含み*****
ロシアのメドベージェフ大統領は、首都モスクワの市長を18年間務めたルシコフ氏(74)を更迭する大統領令に署名した。大統領府が28日、発表した。在任期間が長い地方首長の中でも“重量級”のルシコフ氏の更迭で、2012年の大統領選を前に政権が進めてきた地方政界の再編は山場を越えた形だ。半面、中傷合戦の末の解任劇は政争の火種としてくすぶる可能性もあり、政局は当面、波乱含みの情勢が続きそうだ。(中略)
・・・・そのルシコフ氏への逆風が強まったのは今年8月。森林・泥炭火災が深刻化するなか、海外で休暇を取った同氏について、大統領府当局者が「早く帰国しなかったのは残念だ」と批判したのが発端だった。
9月には政府系、国営の3大テレビ局が夫人の蓄財問題やモスクワの交通渋滞などを挙げ、こぞってルシコフ市長を攻撃する番組を流した。大統領府の意向を反映した動きとの観測が強く、市長は名誉棄損罪で各局を提訴、全面対決する姿勢を示していた。メドベージェフ大統領にすれば解任に踏み切ったことで、権力の失墜を免れた形となる。

来年夏の任期切れを待たずにルシコフ氏を解任した背景として、週刊誌ロシア版ニューズウィークは「権力側が集票組織を作り直すのなら、いま市長を交代させないと大統領選に間に合わない」などとする政界関係者の談話を掲載した。
ロシアの選挙戦では、メディアへの候補者の露出度や組織票固めなどで、各地の行政府の意向が色濃く反映される傾向がある。政権が今年、1990年代から居座る地方首長を相次いで退任させているのも、“選挙の季節”の到来に備えて中央の意向に忠実な首長を据え直す狙いからだとされる。

プーチン首相は28日夕、ルシコフ氏の功績を評価しつつも、「大統領の市長解任は、権限の範囲内で法に従った行動だ」と述べて、大統領を支持する意向を示唆した。政治評論家のペトロフ氏は「ルシコフ氏は選挙での集票力を盾に政権を脅しにかかっていた。現政権全体に悪影響を及ぼす恐れがあった」との見方を示した。【9月29日 産経】
*******************************

上記記事では、プーチン首相はメドベージェフ大統領のルシコフ氏解任を支持したとありますが、【10月6日号 Newsweek日本版】は、「プーチンはルシコフと親しいわけでもないのに、メドベージェフの独断的な攻撃に激怒しているという。ロシア国内では、そんな反応をプーチンが見せるのは、12年の大統領選でメドベージェフが権力の座を明け渡さず、自ら再選を目指して立候補しようとしているからではないかとみる向きも多い。」と“プーチンとメドベージェフがついに敵対?”という見出し(?付きですが)で報じています。

【WTO加盟とNATO接近】
一方、ロシアは念願のWTO加盟についてアメリカの了解を取り付け、また、NATOとの協調路線も打ち出しています。

****ロシアが来年にもWTO加盟へ 米との交渉が決着****
ロシアのメドベージェフ大統領とオバマ米大統領が1日、電話で協議し、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟についての二国間交渉が終了したことを確認した。ロシアはWTO加盟国との交渉を17年続けてきたが、これを受け、来年にも加盟が実現する見通しとなった。
ロシア大統領府のチマコワ報道官が明らかにした。WTO加盟には、加盟作業部会に参加したすべての国との間で二国間の合意を得る必要がある。ロシアの場合、米国との交渉が最も難航していた。(中略)
オバマ政権発足後、両国は関係の「リセット」を進めており、6月にワシントンで会談した際に9月末までの交渉完了を目指すことで合意していた。
また、ロシア大統領府によると、米ロ首脳はプラハで4月に署名した新戦略兵器削減条約(新START)の同時批准についても協議した。【10月2日 朝日】
**************************

****ロシア:NATOに接近 軍近代化狙い*****
08年のグルジア紛争で欧米諸国と対立したロシアが最近、北大西洋条約機構(NATO)との関係拡大に転じようとしている。自国製兵器や軍装備の技術的な立ち遅れが著しいため、西側の技術を取り入れて軍の近代化を図ろうというものだ。しかし、自国の軍需産業への配慮からシリアへの武器輸出などは続けており、欧米諸国からの批判も呼んでいる。
グルシュコ露国防次官は30日、リスボンで11月に開かれるNATO首脳会議について「(NATOとの)関係は発展しており、出席を妨げる大きな障害はない」と述べ、メドベージェフ大統領が出席することを示唆した。
ロシアとNATOは9月22日に開いた外相会合でもアフガニスタン情勢、麻薬やテロ対策を協議した。NATOはロシアに、統一したミサイル防衛(MD)システムの創設計画を提案しており、両者の接近が鮮明になっている。

ロシアは米国との軍事分野の関係改善も進める。15日の米露国防相会談では、軍事交流の実施に関する合意文書が署名され、国防相会談を毎年開催することが合意された。米露両軍がそれぞれ自国内で進める軍と国防省の人員削減計画を促進することも確認した。(中略)
メドベージェフ大統領は9月22日、イラン向けの対空ミサイルシステム「S300」の売却を禁止する法案に署名した。国連安保理の対イラン制裁に従ったものだが、軍事面での欧米諸国との関係改善に資するという側面もありそうだ。(後略) 【9月30日 毎日】
****************************
ロシアがNATO・アメリカとの関係強化に踏み出すのは、グルジア紛争でロシア軍の兵器や装備の後進性が露呈されたためとのことです。

【ロシア改革のメドベージェフ構想】
こうしたWTO加盟重視、NATOへの接近は、前述のモスクワ市長解任と合わせて、“メドベージェフ路線”と見る向きもあります。
****もうプーチンの言いなりにはならない!*****
12年の大統領選に向け独自の政党や政策を動かし始めたメドベージェフ。プーチン派だった政治家の多くも支持に回り始めた

先週、有力政治家のユーリ・ルシコフをモスクワ市長から解任する大統領令を発令したロシアのメドベージェフ大統領。この出来事はプーチン首相からのメドベージェフの独り立ちと、12年の大統領選の実質的なスタートを象徴するものと考えていい。
大統領を「決める」権限は国民にはない。大統領候補を決定するような重要な話し合いを進めるのは、クレムリンの奥にいるプーチンの側近たち。メドベージェフはこの中ではまだ下っ端だ。
だがプーチンの庇護を受けている若いメドベージェフが力を付け始めた兆候がある。何しろ、かつてプーチンを支持していた有力者たちがメドベージェフの再選支持に回りつつあるのだ。

エリート層がメドベージェフを支持するようになった兆しが見られたのは昨年のこと。メドベージェフがロシアの近代化について画期的な演説を行った後、「前進、ロシア!」という政党が結成されたときだった。(中略)
「前進、ロシア!」が政策の下敷きにしているのはメドベージェフの構想だ。経済成長の原動力として石油とガス以外の産業を発展させ、インフラや技術革新、投資を推進すべきというものだ。
「改革を進めなければ、ロシアは10年後、今の国境を維持できていないかもしれない」と、同党のニキータ・クリチェフスキー副議長は言う。

旧ソ連3カ国の関税同盟よりWTO加盟を重視
・・・・プーチンを支持していた人々が先を争ってメドベージェフ支持に回り始めるなか、ロシアの政治家やマスコミ関係者の間でメドベージェフ人気に火が付く可能性もありそうだ。
メドベージェフは独自の政策を立案しているが、そのいくつかはプーチンの公式見解とは異なっている。例えばロシアとベラルーシ、カザフスタンの3カ国の関税同盟を拡大させるというプーチンの計画に、メドベージェフは反対しているようだ。むしろWTO(世界貿易機関)加盟を重視すべきだと考えている。
その一方でメドベージェフはアメリカやNATOとの緊張緩和を主導し、プーチン大統領時代の方針を覆してイランへの地対空ミサイル売却を凍結。プーチンが支持していたモスクワ北部のハイウエー建設も世論に従って中止した。
モスクワのルシコフ市長を自らの意思で解任したのは、エリート層の有力者が政府に刃向かうなら対決も辞さないというメドベージェフの態度表明でもある。

メドベージェフは、今もロシアの双頭体制の「弱いほう」だ。しかし多くの政治家がメドベージェフ支持に回っていることを考えれば、名実共にプーチンの後継者になるというメドベージェフの望みが実現する可能性も出てきた。【10月4日 Newsweek】
***************************

【2人は「あなたの健康に」と言ってミルクで乾杯】
両者の関係は・・・よくわかりません。
表向きには双頭体制を誇示するため、この二人、しばしば“気持ち悪い”ぐらいに親密なツーショット写真・映像を公開しています。

1日にもTVで、メドベージェフ統領とプーチン首相がビジネスランチでミルクを手に乾杯する姿が放映されています。
****ロシア2トップ、新鮮なミルク片手に乾杯!****
映像では、プーチン首相がモスクワ郊外ゴルキの大統領別邸で、メドベージェフ大統領に巨大なライ麦パン、それにミルクとケフィア(ヨーグルトに似た伝統食品)を勧めている。
首相が「思いっきり食べよう」と言うと、メドベージェフ大統領は「(首相が)手ぶらで来なかったとは素晴らしい」と返答し、息のあったようすを見せた。そして2人は「あなたの健康に」と言ってミルクで乾杯した。
プーチン首相はこの日の午前中、モスクワの農業関連産業の展示会を訪れていた。【10月3日 AFP】
**********************
“ミルクとケフィア”というのは、ロシアで社会問題となっているアルコール依存症対策のメッセージもあるようです。

次期大統領選挙はプーチン再登板というのが通説ですが、番狂わせもあるのでしょうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ  東西統一から20年 克服しつつある「心の壁」 しかし、新たな「壁」も

2010-10-04 21:03:27 | 世相

(ベルリンのトルコ系住民の市場 “flickr”より By bejnar
http://www.flickr.com/photos/bej/1541598113/ )

【「花咲き誇る風景」は?】
第1次世界大戦と言うと個人的には完全に歴史の教科書の中の話題ですが、ドイツにとっては必ずしもそうではなかったようで、第2次世界大戦へ導くことにもなった巨額の賠償金支払いがようやく完済したとか。

****ドイツ:第一次大戦の賠償金を完済 92年かけ****
ドイツ財務当局は3日、第一次大戦(1914~18年)の敗戦を受けたベルサイユ条約(1919年)で負った賠償金を大戦終結から92年ぶりに完済した。ドイツの東西分断時代、国際協定で賠償金の返済が猶予されていたため、支払いが長期に及んでいた。
今回、返済されたのは、東西統一から20年にあたる3日に支払期限を迎えた総額7500万ユーロ(約86億円)分。賠償金の公債を保有する債権者にこの残債分が送金された。ドイツが第一次大戦の敗戦で多額の賠償金を負ったことは、ナチスが台頭する理由にもなった。ドイツは第二次大戦の敗戦でも賠償金を負ったが、1988年に完済している。【10月4日 毎日】
*****************************
“賠償金の公債を保有する債権者”とは?対フランスなど国家間の支払いではないのでしょうか?よくわかりません。

もう少し現代に近い話としては、東西ドイツ統一20年の話題があります。
こちらは、個人的にはついこの前の出来事のような気もするのですが、すでに20年ということで、次第に“歴史”の中にはいりつつあります。
ただ、多くの記事が取り上げているように、東西間の格差については、現在進行形の問題でもあります。

****ドイツ:東西統一から20年 格差改善も不満くすぶる*****
東西ドイツ統一(90年)から3日で20年になる。旧東独の産業解体などに一部不満は残るものの、旧東西地域の生活水準の格差改善など社会統合は大きく進んだ。デメジエール内相は先月22日、記者会見で「20年は大成功の歴史だった」と総括した。
連邦統計局が発表したドイツ統一20年のまとめによると、91年に対旧西独比でわずか46.5%だった旧東独地域の所得は09年に76.5%に改善した。連邦政府は旧東独の格差改善に90年から財政支出を続け、19年まで総額3432億ユーロ(約39兆円)を払い続ける方針。

デメジエール氏によると、旧東独地域の交通、健康保険、教育、住宅などインフラ整備が大きく改善した。だが、経済力格差や失業率の東西格差は十分には克服できていない。さらに90年代、東から西に人口流出が起き、旧東独全体ではなお人口減が続く見通しだ。
8月下旬、旧東独ブランデンブルク州のプラツェック首相は「統合過程に失敗があった」と週刊誌のインタビューで発言し、統一20年の祝祭ムードに水を差した。プラツェック氏は9月27日、毎日新聞などと会見し「東西統合は旧東独の既存産業や社会制度を生かしたものでなかった」と真意を明かした。
プラツェック氏によると、旧東独には先進的な集約的外来医療機関があったほか、3歳未満を対象にした公的託児施設も存在した。これらは東西統一で全廃されたが、最近は再導入が進む。統一前に競争力のあった旧東独の工場地帯も競争相手の西独企業に買収され、多くはつぶされた。プラツェック氏は「維持する方法があったはず」と旧東独の「産業解体」を疑問視する。

ただし、こうした批判はあるものの、ここ数年の好景気もあって東西統合の成果はおおむね前向きに評価されている。政府は3日、北部ブレーメンや首都ベルリンで祝典を開催する。ウルフ大統領やメルケル首相が出席を予定している。【10月1日 毎日】
****************************

記事にもある旧東のプラツェック・ブランデンブルク州首相は「西側の『東を併合したという態度』が社会のゆがみを生んだ」と旧東の不満を代弁しています。
統一当時、コール首相は「東独地域も花咲き誇る風景になる」とバラ色の将来像を語っていますが、“91年に対旧西独比でわずか46.5%だった旧東独地域の所得は09年に76.5%に改善した”現況(旧東の失業率は12%と旧西の倍近くあります)を、「大成功の歴史だった」と考えるか、「統合過程に失敗があった」と考えるかは、立場の違いにもよります。

【「いまだ東西の違いを言い続けることに意味はない」】
ドイツ世論・国民は概ね肯定的にとらえているそうです。
****ドイツ統一20年、世論は評価 消えゆく「心の壁」****
・・・・約40年の分断後に統一されたドイツ。共産主義体制下で発展が大きく遅れた旧東地域の復興のため膨大な費用がつぎ込まれた。旧西の人は「旧東のせいで自分たちの負担が重くなった」と感じ、大量失業に苦しんだ旧東の人は、旧西のそうした態度に「高慢」と不満を抱いた。
統一後に生じた東西の人々の「心の壁」はベルリンの壁のようには崩れず、コール元首相の「花咲き誇る風景」発言も統一の困難さを過小評価していた象徴ととらえられるようになった。
統一20年を前に旧東のプラツェック・ブランデンブルク州首相は「西側の『東を併合したという態度』が社会のゆがみを生んだ」と不満を代弁し、議論を呼んだ。

しかし、相次いで公表された世論調査は統一ドイツを評価する国民が予想以上に多いことを示し、関係者を驚かせた。アレンスバッハ世論調査研究所によると、「『花咲き誇る風景』は旧東に存在するか」という質問に旧東で39%、旧西で40%が「存在する」と答え、ともに「存在しない」を上回った。また、64%が「いまだ東西の違いを言い続けることに意味はない」と答えた。旧東で人気のあるズーパー・イリュ誌の調査でも、旧東の75%が「統一ドイツに暮らすことができてうれしい」と答え、「旧東独のほうが良い国だった」と答えた13%を大きく上回った。
最近のドイツはユーロ危機への対処やイスラム系移民の社会への統合、原発延命などの課題が山積。東西格差は残るものの、社会保障や移民といった問題のほうが多くの国民にとって現実の課題と感じられていると見られる。
統一時の外相ハンス・ディートリヒ・ゲンシャー氏は「東の40年の重荷を乗り越えるのに時間はかかるが、かなりの部分は成し遂げられた。『心の壁』を過大評価すべきではない」と話した。【10月4日 朝日】
****************************

【ドイツの新しい連帯】
“統合”という点では、東西の統合以上に、イスラム系移民の社会への統合が焦眉の課題となりつつあり、ウルフ大統領の東西ドイツ統一20周年記念式典演説もこの問題を指摘しています。

****独大統領、「イスラムもドイツの一部」 統一20周年式典で****
ドイツのクリスチャン・ウルフ大統領は3日、北部ブレーメンで行われた東西ドイツ統一20周年の記念式典で演説し、イスラム系住民のドイツ社会への融合を目指す努力を訴えた。7月の就任以来、ウルフ大統領が主要演説を行うのは初めて。

ウルフ大統領は演説で、統一ドイツが現在、抱える約400万人のイスラム人口問題にふれ、「統一から20年を経た今、われわれは目覚しく変遷する世界のなかで、ドイツの新しい連帯の形を見出すという大きな課題に直面している」と呼びかけた。
また、ドイツは歴史的にキリスト教とユダヤ教の融合社会であるとしたうえで、現在はイスラム教もドイツの一部だとの認識を示した。
さらに、ウルフ大統領は、ドイツ国民にイスラム系の人びとに対する寛容さを求めると同時に、イスラム系移民に対してもドイツ社会に真に溶け込む努力が必要だと語った。

約8200万の全人口のうち400万のイスラム系人口を抱えるドイツでは、ここ数か月、イスラム系住民のドイツ社会への融合問題がメディアをにぎわせている。
前月にはドイツ連邦銀行(中央銀行)の理事だったティロ・ザラツィン氏が、「教育レベルも低く勤労意欲に欠けるイスラム系移民のせいで、ドイツは劣化している」と発言し、理事職を解任されている。【10月4日 AFP】
*************************

同じドイツ民族間の「心の壁」を消していくのも困難な課題ですから、まして、異民族・異文化のイスラムとの共存・統合ははるかに困難な課題です。しかし、避けて通れない問題です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州に台頭する極右政党 英仏独にも反移民の動き

2010-10-03 22:55:03 | 国際情勢

(中央、青いネクタイの人物が「自由党」のウィルダース党首 右端はキリスト教民主同盟幹部のようです。
10月2日 “flickr”より By mikael.zellmann
http://www.flickr.com/photos/mikaelzellmann/5044035305/ )

【オランダ:極右「自由党」の要求のみ組閣合意】
オランダでは今年2月、アフガニスタンに派遣したオランダ軍部隊の駐留延長を巡る閣内不一致からバルケネンデ連立政権が崩壊。6月9日の総選挙では財政再建や移民問題が争点となり、大胆な赤字削減策を掲げた自由民主党、反移民の自由党が躍進しました。

自由民主党、キリスト教民主勢力の中道右派2党としては、「自由党」を取り込まないと過半数を確保できませんが、反移民を掲げる極右政党「自由党」のウィルダース党首は一昨年春、イスラム教の聖典コーランを非難する短編映画「フィトナ」を公開し、国際社会から批判を浴びた人物です。その「自由党」を含めた形の連立については拒否反応も強く、新たな組閣ができずにいました。

結局、選挙から100日以上経過した9月30日、ブルカ禁止など「自由党」の要求を呑み、中道右派2党による少数内閣を「自由党」が閣外協力で支える形で合意しました。
もっとも、オランダでは選挙から政権樹立に日時を要するのは今回だけではないようで、1977年には207日を要しています。
これはこれまで“世界記録”でしたが、つい先日イラクに抜かれたとか・・・。

****オランダでもブルカ禁止の動き、政策合意に極右政党の要求反映****
オランダで30日、新連立政権樹立で合意した中道右派の自由民主党(VVD)、キリスト教民主勢力(CDA)、閣外協力することで合意している同国極右政党の自由党(PVV)が政策合意を発表した。合意内容には、イスラム教徒の衣装であるブルカを禁止し、移民を半減させる政策が盛り込まれている。
しかしCDA党内ではこの政策について意見が割れており、2日に行われる党大会で最終的な結論を出す。

ヘールト・ウィルダース党首率いる同国極右政党の自由党(PVV)は、キリスト教民主勢力と財界重視の中道右派・自由民主党による少数与党の連立政権に閣外協力し、議会で政権与党を支持して過半数を確保する見返りに、新政権の政策決定に関与する方針で2党と合意している。
「反イスラム」で知られるウィルダース議員は、「オランダに新たな風が吹く」「ブルカが禁止される」と述べ、さらに移民の5割削減が行われることになるだろうと語った。
ウィルダース氏はイスラム教徒の移民禁止や、新たなモスク建設の中止、イスラム教徒の頭部用スカーフへの課税などの政策を提唱している。新政権の提案する緊縮財政策を支持する見返りに、政権の移民政策に関与したい考えを示していた。同氏は、イスラム教徒に対する憎悪を引き起こしたとして訴追されており、裁判が4日から開始される。【10月2日 AFP】
***************************

オランダは「寛容の精神」で知られる国だそうですが、現在、人口(約1650万人)の約2割を移民が占めています。

【中道派も極右にアピール】
このブログでもこれまで取り上げてきたように、反移民・反イスラムの風潮が急速に強まる動きは、移民が増加し経済的・文化的軋轢が強まっている欧州社会に共通したものです。

****極右の炎に欧州が燃える****
・・・・新たなヨーロッパ政治の幕開けだ。10年前、急進主義的な政治勢力は周辺的な存在にすぎなかった。そんな彼らが今、各国の立法府で議席を獲得し、他党の政策や主張に影響を与え始めている。
中道右派のキリスト教民主主義政党か、中道左派の社会民主主義政党かという二極的政治の時代は終わった。世界最大の民主主義地域ヨーロッパでは、国家のアイデンティティーに基づく分離主義政治が始まろうとしている。
(中略)
(共産主義という)共通の敵が消え、(泥沼化したアメリカ主導のイラク・アフガニスタン戦争、アメリカ的自由市場への疑念もあって)アメリカとの同盟が最優先との合意も失ったヨーロッパの政治は、よりどころをなくしている。「ゲゼルシャフト(社会)」の政治から「ゲマインシャフト(共同体)」の政治へ移行するヨーロッパ各国では、極端な信条を掲げる人々から成る新たな共同体が生まれている。

自国の苦境は移民の(またはEUの、ムスリムの、ユダヤ人の、市場経済の、アメリカの)せいだと信じる彼らがつくる政治的共同体はいずれも社会に害を与える。社会全体を統治するには、妥協と優先課題をめぐる選択が欠かせない。だが今やヨーロッパの推進力となったアイデンティティー重視の政治がしているのは拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ。
(中略)
中道派も極右にアピール
極右政党に対する有権者の支持はもはや、一部の国に限定された「小さな現象」とは片付けられない。今やヨーロッパは極右政治の温床になっている。
各国の最近の選挙では極右政党がかなりの得票率を記録した。フランスの国民戦線は11.9%、オランダの自由党は15.5%、スイスの国民党は28.9%、ハンガリーのヨッビクは16.7%、ノルウェーの進歩党は22.9%。ベルギー、ラトビア、スロバキアなどでも極右政党が台頭している。
こうした政党の大半は00年になってから支持を仲ばしたか、10年前には存在すらしていなかった。極右政党の国政進出はヨ-ロッパ政治にとって共産主義国家の消滅以来、最大の衝撃だ。
(中略)
新しい政治の波は周辺部にとどめておくこともできない。フランスのニコラ・サルコジ大統領は低迷する支持率や影響力を回復しようと大衆迎合的な方策に走り、少数民族ロマの「弾圧」作戦を開始して祖国へ送還している。
この冷酷な措置には、サルコジの支持者の多くも衝撃を受けた。欧州委員会のビビアン・レディング副委員長は、ロマ追放は第二次大戦当時のユダヤ人迫害に匹敵すると発言。サルコジはナチスと同じだとほのめかした。

それでも今後、極右勢力にアピールするサルコジ的手法に多くの中道派が倣うことは疑いようがない。中道左派のドイツの社会民主党(SPD)は既に、移民を強制的にドイッ社会に同化させる政策に消極的だとして、アンゲラ・メルケル首相を批判している。
人種差別的でも急進主義的でもないイギリスのキャメロン政権も、外国人労働者の受け入れを厳しく制限する方針を明らかにした。雇用者の反対にもかかわらず保護主義的措置に踏み切ったのは、外国人や移民に反感を抱く有権者を取り込むため。彼らの支持を集める極右のイギリス国民党は今や、欧州議会に2議席を保有している。

従来の主流政党の衰退はヨーロッパの将来像そのものをむしばむ。(中略)
経済的苦境への不満に付け込むことにたけた極右勢力にとっては、こうした状況も幸いしている。 
ヨーロッパが高成長を続けていた60年代、外国人労働者は自国の経済に貢献する貴重な戦力と見なされていたが、今では就職の機会を奪う泥棒扱いされている。そして彼らの流人を招く元凶として非難を浴びているのが、人の自由移動を保障するEUの方針だ。・・・・(後略)【10月6日号 Newsweek】
***************************

【拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ】
“自国の苦境は移民の(またはEUの、ムスリムの、ユダヤ人の、市場経済の、アメリカの)せいだと信じる彼らがつくる政治的共同体はいずれも社会に害を与える。社会全体を統治するには、妥協と優先課題をめぐる選択が欠かせない。だが今やヨーロッパの推進力となったアイデンティティー重視の政治がしているのは拒絶すること、「ノー」と叫ぶことだけだ”という欧州極右の在りようは、今アメリカで猛威をふるう「ティーパーティー」にも共通する性格に思えます。

“ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない。”
“過去へのノスタルジーを別にすれば、ティーパーティーに最も特徴的なのは怒りだ。自分たちが苦労しているのは、自分たちよりも社会階層が上か下の誰かのせいだ。リベラルなメディアに職業政治家、それに「いわゆる専門家」やウォール街の金融機関などのエリート。彼らは中流納税者を犠牲にして、貧困者やマイノリティー、移民(または金持ち)の便宜を図っている・・・。”【9月29日号 Newsweek日本版】

日本がながく民主主義の手本としてきた欧米における最近の風潮、強烈な民族主義を発散する特異な政治体制の隣国への反作用・・・これから日本社会も少なからず影響を受けるのかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パキスタンとアメリカ  「我々は敵なのか味方なのか」

2010-10-02 18:07:08 | 国際情勢

(2003年1月 タリバン政権が崩壊し、アフガニスタンに新たな国家が建設されると思われていた頃のパキスタン-アフガニスタン国境、トルカム。 現在は混乱のなか、パキスタンによって、NATO部隊向け補給物資輸送が停止されています。 “flickr”より By mbiturbo
http://www.flickr.com/photos/49441269@N00/174080935/ )

【激しさを増すパキスタン側での米軍の攻撃】
アメリカは、アフガニスタン戦略の要となる隣接するパキスタン北西部への無人機による攻撃を激化させています。
この攻撃によるアルカイダ幹部死亡も伝えられています。

****アルカイダ幹部、パキスタンで米軍無人機の攻撃受け死亡か****
パキスタンの情報当局者は28日、米軍の無人機によるとみられる攻撃でアルカイダのシェイク・ファテフ幹部が死亡したとの見方を示した。
当局者は、同幹部は今月26日、アフガニスタンとの国境にほど近い北ワジリスタン地区を移動していたところ、乗っていた車両がミサイル攻撃を受けたと説明。
パキスタンとアフガニスタンの武装集団を監視するLongWarJournal.orgによると、同幹部は、今年5月の無人機攻撃によって死亡したムスタファ・アブ・ヤジド幹部の後任として、両国でのアルカイダの作戦を指揮していた。
米国は最近、同地区での無人機による攻撃を激化させており、今月だけで少なくとも20回実施されたことが確認されている。【9月29日 ロイター】
******************************

しかし、パキスタンでの一連の作戦は、パキスタン側との軋轢も強めています。
****NATO軍が越境攻撃、パキスタン軍兵士死亡*****
パキスタン北西部クラム地区で9月30日、アフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターの攻撃でパキスタン軍の国境警備兵3人が死亡した。パキスタン当局はこれに抗議して、NATO部隊向け補給物資の陸上輸送ルートを封鎖した。
NATO軍の説明によると、ヘリコプターは自衛のため、29日未明にパキスタン領空に入り、地上から銃撃があったと確信した兵士らが「武装した複数名」に向かって攻撃を行ったという。
パキスタン政府は現在、事件を調査しており、また米国防総省は、問題解決に向けて米当局高官がパキスタン側と会談を行っていることを明らかにした。

米国はパキスタン北西部の部族地域に国際テロ組織アルカイダの拠点があり、アフガニスタン武装勢力の基地となっていると主張しており、同地域一帯に繰り返し無人機による攻撃を行っている。また、西側情報機関が前月突き止めたと発表したアルカイダによる英仏独3か国での同時テロ攻撃計画は、同地域の武装組織によるものとされる。
こうしたなか、パキスタン南部シンド州のシカルプル地区では1日、駐アフガニスタンNATO軍への補給物資を運ぶトラックやタンカー数十台が、武装した20人ほどの集団に襲撃されて炎上する事件が発生した。【10月1日 AFP】
******************************

【「NATOのトラックを1台も通すな」】
もとより、アメリカとパキスタンの関係は微妙で、アフガニスタンにおける対テロの戦いの同盟国という立場にはありますが、インドに対抗してアフガニスタンにおける自国影響力を保持しようとするパキスタンの三軍統合情報部(ISI)が、アフガニスタンのタリバン、ハッカーニー・ネットワーク、そしてグルバディン・へクマチアルの率いるヒズブ・イスラミ(イスラム党)とつながりを持っているという事実は、以前からの周知のところです。
7月に内部告発サイト『WikiLeaks』に公開された文書においても、パキスタンとイスラム過激派との強いつながりが明らかにされています。

今回のパキスタンによるNATO部隊向け補給物資の陸上輸送ルート封鎖は、こうした微妙な関係を一層複雑にしそうです。【10月1日 Newsweek】はこうした状況を「敵と味方の区別は曖昧になるばかり」と報じています。

****タリバン掃討  無人機空爆にパキスタンがキレた*****
NATOの空爆に前例のない検問所封鎖で対抗したパキスタン。敵と味方の区別は曖昧になるばかり

パキスタン政府は9月30日、アフガニスタンに駐留する外国軍の主要な物資輸送ルート上にある国境の検問所を封鎖した。イスラム原理主義勢力タリバンと疑われる標的を狙ったNATO(北大西洋条約機構)による自国領内での空爆に対する苛立ちが原因だ。「NATOのトラックを1台も(北西部国境地帯の)トルカム検問所から通すなと命じられている」と、国境検問を担当する政府当局者は取材に答えた。
アフガニスタンへの通過を認められない石油運搬車やコンテナトラックは、トルカムの検問所で長い列を作っている。パキスタン政府がNATOに対して自国領内での空爆と無人偵察機による攻撃をやめるように圧力をかけているのは明らかだ。

トルカム検問所はNATOが兵器以外の物資をアフガニスタンに輸送するとき使用する2つの主要供給ルートの1つにある。NATO用物資の80%以上はパキスタン経由で運ばれるが、今は石油タンクローリーやコンテナトラックの多くがカイバル・バクトゥンクワ州の州都ペシャワルまで戻り、道路脇に停まっている。地元住民は停車中のトラックがタリバンの注意を集めるのではないか、とパニック状態だ。

国境封鎖のきっかけになったのは、9月25日と27日にNATOが立て続けに実施したアフガニスタンに隣接する北西部の部族地帯への空爆。アメリカとパキスタンの当局者によれば、この2回の攻撃で武装勢力と見られる56人が死亡した。
30日には、検問の先のパキスタン領にNATOのアパッチ攻撃用ヘリコプター2機が200メートル侵入し、国境警備兵が常駐していた拠点をミサイルで攻撃した。NATO側は兵士がライフルでヘリを攻撃したため、やむなくミサイルを発射したと説明している。この攻撃で警備兵3人が死亡し、4人が負傷した。(中略)
CIA(米中央情報局)のレオン・パネッタ長官は30日に首都イスラマバードへ急行し、パキスタン政府に事態の収拾を働きかけた。

ペトレアス司令官の新戦略の一環か
今回の空爆は、アフガニスタン駐留米軍司令官を兼務するデービッド・ペトレアス新NATO軍司令官の下でこの夏から始まった以前より攻撃的な新戦略の一環とみられている(前任のマクリスタル司令官は市民の犠牲を最小限にするため、空爆を控えていた)。
今回の攻撃以前にも、北西部部族地帯のワジリスタンではかつてないほど無人攻撃機の空爆が増加。9月には22回の攻撃があり、数百人が死亡した。そのうちタリバンや国際テロ組織アルカイダの武装勢力も何人かいたが、ほとんどは一般市民だった。
軍事アナリストは、タリバン関連組織の武装勢力ハッカニ・ネットワーク制圧のために北ワジリスタン州を解放することをパキスタン政府が拒否したため、無人攻撃機の空爆が増えたと指摘している。ハッカニは訓練を受けた推定4000人のゲリラで構成され、アフガニスタン領内でのNATO攻撃を非難されている。
「パキスタン政府の態度に米政府がいらだつのも無理はない」と、イスラマバード在住の軍事専門家ハミド・ミルは言う。

パキスタン政府はずっと米軍の無人偵察機の空爆を非難してきたが、輸送ルートの封鎖はかつてない措置だ。パキスタン軍指導部や一般市民の間で高まる米軍とNATOへの怒りを考慮したのかもしれない。
北ワジリスタン州の州都ミーランシャーには、数千人規模の武装した部族勢力が集結し、もしパキスタンの政府と軍が自分たちを守れないならアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領に命を守ってもらう、と警告している。「パキスタンが我々を守れないなら、部族地域の自治を宣言しよう」と、部族地域の指導者マリク・イクバル・カーンは演説で群集に叫んだ。
パキスタンのレーマン・マリク内相は、無人攻撃機の空爆が続くなら政府は断固とした行動を取るとほのめかしていた。そして30日の空爆の後、記者たちに「今回は現実の行動に出る」と告げた。「もうたくさんだ」と、マリクは言う。「我々は敵なのか味方なのか。NATOははっきりするべきだ」
それはアメリカのセリフでもあるのだが。【10月1日 Newsweek】
***************************

【パキスタン国民感情では「米国は敵」】
アメリカ、パキスタン双方が、相手に対して「我々は敵なのか味方なのか」と苛立っている状況です。
パキスタン国民のアメリカに対する反感は厳しいものがあります。ピュー・リサーチセンターが今年4月に行った世論調査によると、アメリカに好感を持っているのはパキスタンでは17%で、調査対象の22カ国のうち、エジプト、トルコと並んで最下位。オバマ大統領を信頼しているのはわずか8%。これは単独の最下位だったそうです。

****パキスタン:国民の6割が「米国は敵」…米世論調査機関****
・・・・オバマ政権は、アフガンの武装勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダの幹部が、アフガン国境沿いのパキスタン内に潜んでいるとみて、無人機による攻撃を強化している。調査では、この攻撃を「悪い」と考える人が93%、「罪のない市民が犠牲になっている」との回答も90%に上り、対米感情の悪化につながっていることを裏付けた。

パキスタンの対米不信には歴史的な背景がある。79年にアフガンに侵攻した旧ソ連に対抗するため、米国はパキスタンを通じてイスラム勢力を支援。89年の侵攻終了でパキスタンから手を引いたが、01年の米同時多発テロ後は再び、対テロ対策でパキスタンと共闘するという、「身勝手」な政策を取ってきたためだ。

対米感情改善への思惑も込めて、オバマ政権は昨年、5年間で計75億ドル(約6482億円)の非軍事支援を決定。先日パキスタンを訪問したクリントン国務長官は、このうちダム建設などで5億ドル(約432億円)を支出すると発表した。だが調査によると、16%が米国からの援助はないと信じている。【7月30日 毎日】
*****************************

アメリカは自分の目的を達成したら、さっさとこの地から去っていく・・・・パキスタン政府のアフガニスタン・タリバンとのかかわりも、パキスタン国民のアメリカへの反感も、そのあたりが背景にあります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする