孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  頻発する衣料品工場労働者のストライキ・デモ

2010-10-10 20:27:13 | 世相

(バングラデシュの衣料品工場 “flickr”より By Marc oh!
http://www.flickr.com/photos/marcohk/91439629/ )

【ソーシャルビジネス】
ふた月ほど前になりますが、ユニクロがバングラデシュで収益を目的としないソーシャルビジネスに取り組むという記事がありました。

****ユニクロ:グラミン銀と合弁 バングラで雇用創出*****
カジュアル衣料のユニクロを運営するファーストリテイリングは、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏率いる貧困者向け少額融資機関「グラミン銀行」と合弁会社を設立し、現地の雇用創出などを目的とする「ソーシャルビジネス」事業に乗り出す。
13日午後、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長とユヌス氏が記者会見して発表する。日本企業がグラミン銀行と合弁事業を展開するのは初めて。

ファーストリテイリングはバングラデシュなどで衣類を製造している。だが、現地の人々にとっては、価格が高すぎ、手が届きにくい。
このため、合弁会社で、無理なく購入できる衣類を製造し、得た利益は雇用拡大につながるよう再投資、将来的に生活水準の向上や経済発展につなげることを目指す。途上国での収益を目的としないソーシャルビジネスは欧米企業の間では広がっているが、日本企業としてはファーストリテイリングが最大級の取り組みとなる。
グラミン銀行は83年に設立。農村部の女性への低利・無担保融資などで、貧困層の生活向上に貢献したとして06年、総裁を務めるユヌス氏とともにノーベル平和賞を受賞した。【7月13日 毎日】
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記事以上のことはわかりませんが、現地住民の利益になる話であれば、非常に評価できる取組かと思われます。

【「沸騰都市」】
08年6月、NHKでの「沸騰都市」シリーズで、バングラデシュ首都ダッカは、その急成長とグラミン銀行などのマイクロクレジットについて、「“奇跡”を呼ぶ融資」として報じられました。
****ダッカ 「“奇跡”を呼ぶ融資」*****
世界最貧国のひとつに数えられてきたバングラデシュが、目覚しい経済成長を遂げている。年5パーセントを超える経済成長を持続し、BRICsに続く有力新興国「NEXT11」にも選ばれた。政府は十分に機能せず、輸出できるような天然資源もなく、外資にもほとんど頼れないこの国が、なぜここまで急速な発展を遂げたのか。
その原動力となっているのは、貧困層の劇的な所得の向上である。この10年で全人口に占める貧困層の割合は10パーセント以上減少した。貧困層が知恵を振りしぼり、ひとりひとりが言わば起業家となって、自力で豊かさを手にしようとする動きが始まっている。

その助けとなっているのが、無担保で少額を融資するマイクロクレジットである。グラミン銀行がノーベル平和賞を受賞、一躍脚光を浴びたが、それに先んじて始めたのが世界最大級のNGO・BRACである。
BRACは首都ダッカを拠点に、スラムに住む貧困層、繊維工場を操業する中間層に向けて積極的な無担保融資を展開してきた。その基本姿勢は、「貧困層に必要なものは援助ではない。投資である」。従来のNGOのあり方を大きく覆すものだった。【NHKホームページ】
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【「親元に仕送りするどころか、仕送りしてもらわないと生活できない」】
ただ、バングラデシュの労働者の現実は厳しいものがあり、6月末、7月末と相次いで激しいストライキが報じられています。その中心にいるのは、急成長を支えている衣料品工場の労働者です。

****賃上げ求める工場労働者、街頭で警官隊と衝突 バングラデシュ*****
衣料品工場の労働者が賃上げを要求しストライキやデモを続けているバングラデシュの首都ダッカで前週末の7月30日以降、多数の労働者が街に出て抗議を行っている。1日には再び警察との衝突も発生した。
バングラデシュ政府は7月27日、世界で最低水準といわれる同国の衣料品工場労働者の最低賃金を現在の1か月1662タカ(約2070円)から約1.8倍の3000タカ(約3700円)に引き上げると提案した。
しかし労働者側は、食品価格や家賃が高騰する中、最低生活水準を満たすためには少なくとも月に5000タカ(約6200円)が必要だと主張し、ほとんどの組合が政府の案をはねつけた。

30日にはダッカ市内に労働者数万人が繰り出して抗議した。各所で暴動状態になり、工場や街中の店舗を破壊したり、駐車車両に放火したりする労働者も現れ、機動隊との衝突も発生した。
1日には再び労働者たちと警察が衝突した。ダッカの北西に位置し、700ほどの衣料品工場が集まるアシュリア地区では少なくとも20工場が閉鎖したままで、労働者数百人が棒や石を手に街頭で抗議している。

ダッカ警察幹部はAFPの取材に対し、この労働者たちが「幹線道路を封鎖しようとして、警官隊に向かって投石した。解散させるために催涙弾を使用した」と語った。暴動の拡大を抑えようと、アシュリアには特殊部隊など1000人を超える警官を配置したという。
一方、ダッカ南部のナラヨンゴンジでは1万人以上の労働者が、非暴力の抗議行動を展開した。【8月1日 AFP】
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【10月3日 朝日】にアジア各国の最低賃金を比較したJETRO資料が掲載されています。
月額で、横浜1385.6ドル、ソウル584.6、台北542.9、上海140.6、バンコク125.4、ニューデリー86.6、ハノイ74.7、カラチ71.2、コロンボ53.8に対し、ダッカは23.97ドルと群を抜いて最低レベルにあります。

この実態について同記事は“工場労働者の多くは、現金収入が乏しい地方の農村から来た出稼ぎの若者たちで、うち8割は女性。工場周辺にひしめく農家を改造した下宿で、6畳ほどの部屋に6~8人が雑魚寝する。1日10~12時間働き、電灯も扇風機もない部屋に戻って眠るだけの生活だ。
繊維産業の最低賃金は月1662タカ(約2010円)。2006年に見直され、以来約4年間据え置かれてきた。この春、ダッカの北方約100キロの村から出稼ぎに来た男性(22)は「下宿代と食事代で3千タカはかかる。親元に仕送りするどころか、仕送りしてもらわないと生活できない。ひどすぎる」と嘆く。” 【10月3日 朝日】と報じています。

4年前にバングラデシュを観光した際に、ダッカ市内に溢れるリキシャ(自転車で引っ張る人力車)の波に目を見張ったものです。
ただそとのきも、こうした厳しい労働で一体どれほどの収入が得られるものか・・・?という思いを感じました。

【「チャイナ+1(プラスワン)」】
中国に進出した日本の衣料品産業も、中国での賃金上昇、中国に全面的に依存するリスクを考慮して、更に賃金の低いバングラデシュなどに生産拠点の一部を移しています。いわゆる「チャイナ+1(プラスワン)」です。

****バングラデシュ、月の最低賃金2千円にデモ続発*****
・・・・中国に続く繊維産業の輸出拠点として注目を浴びるバングラデシュで、賃上げを求めるデモが頻発している。最低賃金は日本円でわずか月2千円程度。世界最低水準の人件費を売り物に急成長してきたが、もはや労働者の不満を抑えきれなくなっている。(中略)

バングラデシュの繊維産業が急成長を始めたのは1990年代以降だ。世界の繊維輸出の中心は50年代の日本から、韓国や台湾、その後、中国へと移動した。さらに、中国に生産を全面依存するリスクを避けるためのもう一つの拠点「チャイナ+1(プラスワン)」として、労働力がより安価なベトナム、カンボジア、バングラデシュが注目を浴びるようになった。
バングラデシュの賃金水準は中国の3分の1、ベトナム、カンボジアと比べても半分程度だ。アジアでさらに賃金が安い国となると、軍事政権下で欧米諸国から制裁を受けているミャンマー(ビルマ)ぐらいしかない。
Tシャツやジーンズなど比較的安価な製品を中心に、欧米の量販店や大型ブランド、日本のユニクロなどが次々と生産を委託し始めた。
繊維関連の工場は約5千あり、労働者は約350万人。同国の輸出全体の8割、国内総生産(GDP)の13.5%を占める。海外への出稼ぎと並ぶ基幹産業で、騒乱の影響は計り知れない。

工場経営者側には、容易に賃上げできない事情がある。アシュリア地区で機織りから縫製まで一貫生産する工場経営者(61)は、「バングラデシュの工場に支払われる請負代金は小売価格の10分の1程度。工場間の競争は激しく、完全な買い手市場のため、人件費を上げれば受注できなくなる」と話す。
工場で生産している日本向けの婦人物ニットシャツの請負単価は1.68ドル(約143円)。これで、ウズベキスタンから輸入する糸などの原材料費、光熱費、人件費を賄わなければならない。
工場経営者の団体「衣料品生産輸出協会」のムルシェディ会長は、「バングラデシュの国際競争力は人件費の安さに支えられている。賃上げは自殺行為だ」と訴える。
しかし、繊維労働者連盟のアブドル・フサイン会長は反論する。「安すぎる賃金は人権無視の搾取の上に成り立っており、競争力と別次元の問題だ。ほとんどの利益を先進国側が持って行ってしまう貿易構造に問題がある」 (後略)【10月3日 朝日】
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もちろん、成長の波に乗って消費ブームの担い手となる「中間層」と言えるような人々も出現しています。
貧困とされる人の割合も、90年の57%から大幅に減少し、08年時点で36%になったそうです。
ただ、“なお36%”でもあり、“消費ブームの一方で、消費者物価上昇率は9.9%に達し、持たざる者の家計を圧迫している。”【同上】とも。

こうした低賃金労働の結果としての安価な衣料品等の商品からの便益を日本の消費者は享受している訳で、ダッカの激しいストライキ・デモと私たちの生活は決して無関係ではありません。

なお、バングラデシュでは野党主導の暴力的な反政府ゼネスト「ハルタル」が以前からよく行われてきましたので、デモが暴動状態になる背景としては、そうした社会風土もあるのかも。

コメント
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