孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コソボのセルビア系住民に残された道は・・・

2012-05-08 23:29:43 | 欧州情勢

(4月28日 セルビアの選挙実施に伴って高まる、コソボ内のセルビア系住民居住地区の緊張に備えて増強されたNATO指揮下のKFOR(コソボ治安維持部隊) “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7121099363/

セルビア:再度のタディッチ・ニコリッチ対決
6日は、フランス大統領選挙とギリシャ議会選挙という、今後の欧州経済を左右する選挙が行われ、その結果、これまでの財政緊縮策重視路線の修正が迫られる状況、特に、ギリシャは組閣ができず再選挙になる事態も視野にいれた、新たな混乱の引き金にもなりかねない状況になっていることは、多くの報道によって周知のところです。

その6日、セルビアでも大統領選挙と議会選挙のダブル選挙が実施されています。
タディッチ大統領の任期はまだ残っていましたが、与党・民主党の議会選挙苦戦が伝えられる中、根強い大統領の個人人気で議会選をテコ入れする狙いから、4月4日、約10カ月の任期を残して辞任すると発表し、大統領選挙とのダブル選挙に持ち込んだものです。

結果、議会選挙では親欧米派与党・民主党は微増にとどまり、極右民族派政党から分派した野党、セルビア進歩党が首位に立っていますが、単独過半数には及ばず、今後の連立交渉が注目されます。

****セルビア議会選:進歩党が首位 連立交渉が焦点に****
セルビア議会選(定数250)は7日までの開票で、極右民族派政党から分派した野党、セルビア進歩党が首位に立った。だが単独過半数には及ばず、親欧米派与党、民主党が小差で続く。新政権の行方は3位に躍進したセルビア社会党との連立交渉次第となった。

AP通信によると、進歩党は73議席、民主党は67議席、社会党は44議席の見通し。民主党は微増にとどまった。24%の高失業率や汚職のまん延が、連立政権を主導する民主党に逆風となった。
連立与党の一角の社会党は、民主党のタディッチ前大統領と進歩党のニコリッチ党首による20日の大統領選決選投票の結果などで連立相手を選ぶ見通し。

ニコリッチ氏は、極右セルビア急進党の元党首代行。ロシアとの関係を重視し欧米と距離を置いてきたが、08年の進歩党設立で政策転換。今選挙で欧州連合加盟を訴えた。
社会党はかつて、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で起訴されたミロシェビッチ旧ユーゴ連邦大統領が率いていた。【5月8日 毎日】
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一方、大統領選挙の方は出口調査によれば、4月に辞任したタディッチ前大統領と、民族派の野党・セルビア進歩党のニコリッチ党首が同程度の得票率で競り合う展開となっていますが、ともに単独過半数には届かず、両氏が20日の決選投票に進む見通しとなっています。

08年1月に行われた前回大統領選挙も、EU加盟を推進する親欧米派のタディッチ氏と民族主義政党である急進党のニコリッチ氏の争いでしたが、今回同様、第1回投票では決着がつかず(ニコリッチ氏が得票率39.9%、タディッチ氏が同35.4%)、2月に行われた決選投票でタディッチ氏が勝利しています。(タジッチ氏の得票率は50.5%、ニコリッチ氏は47.78%)
敗戦・コソボ独立は必至という状況で、セルビア国民は閉塞状態からの脱却の道をEU加盟に求めた選択だったと思われます。

状況は変わった
ただ、08年当時はまだコソボが独立を表明しておらず、民族主義政党である急進党のニコリッチ氏はコソボ独立に強硬に反対する立場で、コソボ独立を容認する姿勢の欧米ではなく、ロシアとの関係を重視する主張を行っていました。

前回選挙後の08年2月、コソボは一方的に分離独立を行いました。
一方、ニコリッチ氏は従来主張にこだわる急進党から分派して進歩党を設立、今回選挙ではEU加盟推進に政策転換しています。
こうした情勢の変化がどのように決選投票に影響するかが注目されます。

この決選投票結果次第で、議会における連立交渉も、親欧米派与党・民主党と民族派の野党・進歩党のどちらを軸とするかが決まってくると思われます。

コソボ:取り残されたセルビア系住民の苦悩
一方、セルビアから分離独立したコソボには、セルビア系住民が少数派として生活しています。

“2008年2月、セルビアから一方的に分離独立を宣言したコソボでは、人口約220万人の約9割を占めるアルバニア系住民が首都プリシュティナに政府を樹立。一方で、1割に満たないセルビア系住民は辺境に追いやられ、大半は職にも就けず、セルビア本国からの支援で細々と暮らす。若者の多くは移住を始めている。

セルビアはコソボ独立に反対してきたが、それも当てにはできなくなってきた。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指しており、EUの提案を受け入れてコソボとの関係改善に傾いたからだ。12月にはコソボとの国境の共同管理にも合意し、事実上、国境の存在を認めた”【11年12月27日 朝日】

こうした“取り残された”状況で、コソボのセルビア系住民はセルビア本国を見限り、ロシアの市民権を求めるといった動きもあることなどは、11年12月29日ブログ「ソ連崩壊から20年 経済崩壊モルドバで深刻化する孤児問題 コソボのセルビア系住民は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111229)でも取り上げたところです。

セルビア系住民は2月には、コソボ政府を認めるかどうかを問う住民投票を行っています。
****コソボ承認めぐり住民投票=セルビア系が実施、新たな火種****
2008年2月にセルビアからの独立を宣言したコソボで14日、北部のセルビア系住民がコソボ政府を認めるかどうかを問う住民投票を行った。反コソボ派が圧倒的多数を占めるのは確実。
コソボ北部ではセルビア系住民と多数派のアルバニア系住民の間で緊張が続いており、新たな火種になる可能性もある。

投票はセルビア系住民約3万5000人を対象に実施。「いわゆるコソボ共和国の機構を受け入れるか」との質問に答える。投票は15日まで。【2月14日 時事】
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更に、今回のセルビア本国の選挙に併せて、独自地方選挙も行っています。
****コソボ:少数派のセルビア人 独自地方選強行の構え****
コソボ北部に暮らす少数派のセルビア人が6日、結びつきの強い隣国セルビアの選挙に合わせ、独自に地方選を強行する構えを見せ、緊張が高まっている。

アルバニア人主体のコソボ政府は投票阻止を警告。セルビア政府も中止を命じ、国際治安部隊も増派された。セルビアとコソボが欧州連合(EU)加盟を視野に接近する中、取り残された形のコソボのセルビア人はセルビア本国への失望感を深めている。

「ここはセルビアだ」−−。コソボ北部の主要都市ミトロビツァから北西へ車で約30分。地方選が行われるズビンポトクに向かう山道にはセルビア国旗が掲げられ、巨大な看板が立つ。北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安部隊の検問所を通り抜けると、丸太と鉄パイプのバリケードが現れた。

脇の小屋から屈強な男たちが目を光らせる。「STOP NATO」の横断幕が目を引く。昨年7月、コソボ警察部隊の進入に激怒したセルビア人はバリケードで道路を封鎖し、国際部隊と衝突。以来、両者のにらみ合いが続いている。【5月5日 毎日】
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幸い、大きな混乱にはならなかったようです。
“セルビアと緊張関係にある隣国コソボでは国際機関の監視下、少数派セルビア人による大統領選と議会選の「在外投票」が行われ、無事終了した。コソボ北部のセルビア人がセルビア、コソボ両政府の制止を無視して強行した地方選でも大きな混乱は無かった”【5月7日 毎日】

セルビア系住民とアルバニア系住民の間のこれまでの確執から、両者の共存を考えることは非常に困難なことではありますが、コソボが独立し、本国セルビアもEU加盟に将来を託す状況になっている今日、コソボのセルビア系住民にとっては“共存の道”を模索するしかない・・・と思われます。
厳しい現実ですが、これを受け入れるしかないのでは・・・・。
もちろんその際、コソボ国内において、セルビア系住民の権利が平等に保証されるべきであることは言うまでもないことです。

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