孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  アフマディネジャド大統領のハメネイ師への“キス”

2009-08-04 21:34:35 | 国際情勢

(イラン最高指導者 故ホメイニ師(右)のような宗教的カリスマ性のないハメネイ師(左)は革命防衛隊出身のアフマディネジャド大統領の力を利用、宗教的背景を持たない大統領はハメネイ師の権威を利用・・・という関係で互いに相手を利用してきましたが、今その関係が軋んでいます。
“flickr”より By Christine K.
http://www.flickr.com/photos/christine-k/3210358272/)

【肩へのキス】
“イランの最高指導者ハメネイ師は3日、6月の大統領選で再選された保守強硬派アフマディネジャド大統領が2期目(4年間)を担うことを正式に承認した。ハメネイ師は式典で「大統領の選挙での勝利は、横暴に対抗して正義の側に立つ国民の支持を反映したものだ」と祝意を述べた。”【8月3日 毎日】

これだけであれば、スケジュールどおりの展開ということになるのですが、最高指導者ハメネイ師とアフマディネジャド大統領の間には、第1副大統領の任命問題でハメネイ師が送った撤回要求書簡を大統領が数日間無視してすぐには応じなかったという問題があり、それに伴い閣僚の更迭、辞任という形で保守派内に亀裂が生じていることは7月28日ブログ「イラン 政権内部の保守派に亀裂 最高指導者の権威も失墜」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090728)でも取り上げたところです。
そうした背景があって注目されたのが、この式典での二人の“キス”でした。

下の記事にもあるように、4年前の式典では、大統領はハメネイ師の左手にキスしています。
この手へのキスは、聖職者や長老など限られた人に、絶対の忠誠や最上の敬意を表すものとされているそうで、そのことは最高指導者ハメネイ師の宗教的権威を後ろ盾としたアフマディネジャド大統領の政治的立場を説明するものでした。
今回、アフマディネジャド大統領はハメネイ師の手ではなく肩にキスしたそうです。

****イラン大統領承認式典、ハメネイ師が大統領のキスを断る?****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は3日、マフムード・アフマディネジャド大統領の2期目就任を正式に承認した。しかし、式典の最中にハメネイ師が大統領の敬意のキスを拒む場面があった。国営イラン通信(IRNA)が伝えた。

式典を取材したIRNAの記者によると、「アフマディネジャド氏は4年前と同じくハメネイ師の手にキスをしようとしたが、ハメネイ師はそれを避けた」という。そこで、「アフマディネジャド氏が肩にキスをしてもよいかと聞いたところ、ハメネイ師は微笑んで許可を与えた」と報じられた。
テレビ映像では、アフマディネジャド大統領が頭を下げてハメネイ師の手にキスをしようとしたところ、ハメネイ師が一歩下がる様子が映されている。
4年前の式典では、大統領はハメネイ師の左手にキスし、その瞬間の写真は各紙の一面を飾っていた。【8月3日 AFP】
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今回の“肩へのキス”が上記のような両者のやり取りの結果なのか、ハメネイ師側の権威を示そうとする報道なのか、大統領の方が手へのキスを断ったのか、それとも殆ど他意のない行為に過ぎなかったのか・・・そのあたりは知る由もありませんが、もし本当なら、大統領就任に祝意を述べながらも、ハメネイ師と大統領の間には深い溝ができていることをうかがわせます。
それは単に両者の間の関係だけでなく、アフマディネジャド大統領が代表する革命防衛隊勢力と他の保守派との間の軋轢・権力闘争を意味し、今後の組閣が注目されます。

【「10年危機説」】
こうしたイラン政権内部での動揺・混乱が“核問題”に関する交渉進展を妨げ、深刻な危機に至ることを危惧する考えもあります。

****イラン核問題で高まる緊張=年末交渉期限、「10年危機説」も-中東****
イラン核問題をめぐり、中東情勢が徐々に緊張の度合いを強めている。米政権は年末を交渉の区切りとして、9月までにイラン側に返答を求める考え。しかし、6月の大統領選に端を発する同国政局の動揺は続いており、交渉を進める環境が整わないまま時間だけが経過するとの懸念も出ている。来年にも武力衝突が発生する可能性は否定できないとの声もある。
イランは平和的な核開発だとして、核兵器製造の意図を明確に否定している。しかし、米国やイスラエルと敵対するイランが、安全保障上の観点や中東地域での覇権確立の野望から核兵器開発を極秘に進めているとの見方は根強く、周辺国は警戒を強めている。(中略)

核問題をめぐる緊張の高まりは、最近のイラン政情と無縁ではない。革命防衛隊やその傘下の民兵組織バシジが、デモ弾圧で主導的役割を果たし存在感を強めていることに加え、選挙後の混乱に乗じて西側諸国が体制の動揺を狙ったとしてイランの欧米不信が募っているため、防衛隊が主導するとされる核兵器開発が急速に進むとの分析がある。
中東専門家は「交渉期限切れ後、イラン核開発問題をめぐって軍事的衝突に発展する可能性は排除できない」と指摘しており、「2010年危機説」が現実的な脅威としてささやかれ始めている。【8月1日 時事】 
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イラン核開発問題をめぐる軍事的衝突の可能性はここ数年絶えず囁かれているところで、“またか・・・”の感もあります。
ただ、アメリカもアフマディネジャド大統領側に手をかすような形にはなりたくないし、さりとて、改革派支援を前面にだしてイラン政権と対立することも望まないでしょうから、模様眺めになるのでは。
イラン側も、政権内が固まらないと重大な決定はできません。
結局、交渉はなかなか進展しない・・・ということは予想されます。

【改革派被告の公判】
改革派への対応としては、逮捕・訴追された改革派被告らの公判が1日、テヘランの革命裁判所で始まっています。

****イラン大統領選後の騒乱、公判開始 改革派有力者ら出廷****
6月の大統領選後の混乱が尾を引くイランで、選挙の不正を訴えた街頭での抗議行動に参加し、逮捕・訴追された被告らの公判が1日、テヘランの革命裁判所で始まった。国営放送などが報じた。アブタヒ元副大統領らハタミ前政権時代の高官ら改革派有力者や、米誌ニューズウィーク記者でカナダ国籍を持つマジア・バハリ氏も出廷したとしている。

国営イラン通信などによると、検察側は、被告ら改革派勢力はイスラム革命体制を打倒するための市民革命を企て、外国の団体から資金援助を受けた、などとする起訴事実を読み上げた。
イランの複数の通信社が、改革派有力者らが収監者用の服を着て座っている法廷写真を配信。アブタヒ師のほか、アミンザデ元外務次官、改革派政党イラン・イスラム参加戦線のミルダマディ党首らの姿が見える。出廷した被告は約30人との情報もある。
多くの側近が逮捕された改革派のハタミ師、ムサビ元首相と、彼らを支えるラフサンジャニ元大統領ら有力指導者は、抗議行動の参加者を大量逮捕したアフマディネジャド政権を批判してきた。公判での被告らの扱いを見て態度を硬化させるのは確実だ。【8月1日 朝日】
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法廷で、改革派ハタミ前政権時代の副大統領アブタヒ氏は「他の改革派リーダーと共に騒乱を扇動するための準備をした」と容疑を認め、ムサビ氏について「不正があったと思い込む妄想家」と表現したそうです。

****イラン:「大統領選不正なかった」デモで起訴、法廷で一転****
6月のイラン大統領選後の抗議行動に関与したとして起訴された改革派を中心とする反対派要人は、1日に始まった裁判で相次ぎ「選挙に不正はなかった」と証言した。約100人の被告は体制転覆の罪に問われており、最高刑は死刑だ。今回の裁判で「混乱の幕引き」を目指す当局に対し、反対派は「(当局が筋書きを演出した)ショーだ」と反発を強めている。

起訴状によると、騒乱(抗議行動)は三つの改革派政党が主導して事前に計画したもので、外国NGO(非政府組織)から資金を得て、(東欧で起きた民衆による)「ビロード革命」を参考に実行に移した、とされる。(中略)
法廷で、改革派ハタミ前政権時代の副大統領アブタヒ氏は「他の改革派リーダーと共に騒乱を扇動するための準備をした」と告白。ファルス通信によると、アブタヒ氏はムサビ氏について「不正があったと思い込む妄想家」と表現、「不正」という言葉は市民を抗議行動に駆り立てるための「隠語のようなものだった」と述べたという。
アブタヒ氏は閉廷後の会見で「最高指導者ハメネイ師が選挙結果について(反対派の主張を認めて)後ずさりしていたら、イランはアフガニスタンやイラクと共に混乱のトライアングル(三角形)を形成することになった」と指摘し、ハメネイ師の対応を称賛した。

これに対し、ムサビ氏を背後で支援してきた保守穏健派ラフサンジャニ元大統領が議長を務める最高評議会は1日の声明で、自白の強要を示唆し「(アブタヒ氏の証言は)うそだ」と反発。改革派政党の一つは自らのウェブサイトで「最低レベルのバカげたショー」とこき下ろした。
改革派ウェブによると、アブタヒ氏は1カ月半の拘置中に体重が18キロ減少、弁護士との接見もできないという。イランでは国家安全保障に反する犯罪の最高刑は死刑だが、革命防衛隊系のファルス通信は同氏の最高刑は「最大で禁固5年」と伝えており、当局との裏取引の可能性も指摘されている。
一連の混乱で2000人以上が逮捕されたが、既に大半が釈放され、裁判は「重大犯」とされた約100人が対象。いつまで続くかは不明だ。【8月2日 毎日】
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アフマディネジャド大統領のキスの真相はわかりませんが、アブタヒ氏など改革派逮捕者の身に拘束中にどのようなことが起こったのかは推察できます。



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