孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  経済再建の重圧を担う労働党スターマー首相 国民支持は急落

2024-09-24 23:28:24 | 欧州情勢


(【7月6日 FNNプライムオンライン】 諸問題への国民の不満から、政権交代が起きたイギリスですが、政権の座についた労働党スターマー首相に問題改善の重圧がかかっています)

【パンク寸前の刑務所 受刑者を早期釈放】
刑務所がパンク状態のため受刑者を早期釈放する・・・といったニュースを目にすれば、犯罪多発の中南米のどこかの話かとも思うのですが、イギリスの話。

****英 刑務所パンク寸前で受刑者1700人釈放 増設が間に合わず****
過密状態となっているイギリスの刑務所で受刑者の早期釈放が行われました。

10日、イギリス政府はイングランドとウェールズの刑務所から一部の受刑者を釈放しました。 比較的、刑が軽く刑期の40%を終えた受刑者が対象で、およそ1700人に上るということです。

ロンドン西部にある刑務所前では混乱を避けるため多くの警察官が警戒にあたるなか、出所した受刑者が出迎えの友人らと抱き合う光景がみられました。

出所した受刑者 「5日早く出所した。(刑務所では)更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい」

イギリスでは犯罪の厳罰化に伴って刑期が長期化する一方、刑務所の増設が間に合わず、収容人数が限界に近付いています。

また、7月末から各地で発生した反移民などを訴える暴動で多くの実刑判決が出され、さらに受刑者が増え問題となっています。

イギリス政府は家庭内暴力や性犯罪、4年以上の刑期で服役する受刑者を除き、来月末までにおよそ5500人を釈放する予定です。

地元メディアによりますと、麻薬の密売や強盗などで服役していた受刑者も含まれていて、専門家や市民からは再犯を懸念する声も上がっています。【9月11日 テレ朝news】
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“英国は今月、移民排斥の暴動で数百人が逮捕されたことをきっかけに刑務所の過密状態が危機的水準に達し、スターマー新政権は、容疑者を警察署で留置する期間を延ばす緊急計画「夜明け作戦」を発動させた。

ただ、刑務所のパンク状態を抜本的に解決するには、インターネット環境を改善して社会復帰のための教育環境を整える道が必要との指摘も出ている。”【8月25日 ロイター】

イギリスの刑務所の多くはビクトリア朝時代に建てられて老朽化している上、予算の制約もあり、デジタル時代に取り残されているとのことですが、通信教育で教育課程を履修した受刑者は、そうでない受刑者よりも再犯の可能性も頻度も低いので、国内の刑務所にブロードバンドインフラを設置して教育環境を整えれば・・・という指摘です。

ただ、そうした指摘が目指すところと、冒頭記事の“更生はない。屈辱を味わうだけだ。すぐに殴られるし、食事は冷たい”という現状の間にはかなりの落差もあるようです。

【救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く NHS(国民保健サービス)の逼迫】
どこの国も、日本もいろんな問題を抱えていますが、イギリスも・・・といったところでしょう。

イギリスで特に緊急の課題となっているのが、かつては福祉国家モデルともてはやされた医療保険制度の問題。

*****救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く...「揺りかごから墓場まで」福祉国家イギリスに何が起きている?*****
<人員や資金の不足などによりNHS(国民保健サービス)が逼迫。がんを早期発見できたキャサリン妃はまだ幸せとすら言える英国の惨状とは>

原則無償で医療サービスにアクセスでき、かつては「揺りかごから墓場まで」の福祉国家モデルともてはやされた英国のNHS(国民保健サービス)が逼迫し、昨年、長い待ち時間が原因で週268人以上のA&E(救急救命センター)の患者が死亡したと推定されている。

英国ではコロナ危機で23万2000人超の死者が出た。世界に先駆けてコロナワクチンの集団接種を展開したものの、ワクチン接種と自然感染を組み合わせた集団免疫(人口の一定割合以上の人が免疫を持つと感染拡大が収まる状態)を目指した代償と後遺症は大きい。

昨年3月時点で英国の人口の2.9%に相当する推定190万人がコロナ後遺症を報告した。うち130万人は1年以上、76万2000人は2年以上症状が続いた。一般的な症状は疲労(患者の72%)、集中困難(51%)、筋肉痛(49%)、息切れ(48%)で、英国の労働力不足に拍車をかける。

コロナ対策に医療資源を集中させたため、他の患者は後回しにされ、大量の積み残しが出た。欧州連合(EU)離脱派はEUを離脱すれば「NHSに投入できる資金を増やせる」と唱えたが、EUからの新規看護師はゼロ近くに減少、歯科医師の採用も長期にわたって減り続けている。

150万人以上の患者が12時間以上待たされる
英国の王立救急医学会によると、昨年、150万人以上の患者が12時間以上待たされ、そのうち65%が入院待ちの患者だった。「標準死亡率」を使って死者数を推定すると、入院前に8~12時間の待ち時間を経験した患者72人ごとに1人が死亡している。

12時間以上に及んだ待ち時間に関連した超過死亡は1万4000人近く、死者は週268人以上にのぼったと推定される。英国政府とNHSイングランドは昨年1月から救急救命医療サービス改善のため病院のキャパシティーや医療従事者数を増やして待ち時間を減らす計画に取り組む。

しかし病院のベッド稼働率は常に平均94%以上と依然として高いまま。余裕のある稼働率85%を達成するにはさらに1万1000床以上のベッドが必要だ。今年2月、A&E(緊急治療室 アメリカで言うER)の待ち時間を4時間にする目標を達成した患者の割合は56.5%で、昨年1月に比べ1.5ポイントも低下した。

入院患者数は1年後に10%増加すると予想されている。しかし最新の数字では退院決定後も入院している患者は1日平均1万3690人で、昨年1月より275人減っただけだ。王立救急医学会のエイドリアン・ボイル会長はこう言って唇を噛みしめる。

「死亡の1つひとつが単なる数字ではない」 「これらの死亡の1つひとつが単なる数字ではなく、愛する人や家族のものであったことを忘れてはならない。もし状況が違っていたら、もしシステムが本来の機能を果たしていたら、もしA&Eでの待ち時間が目標時間よりも長くなかったら...」(ボイル会長)

「このような困難で受け入れがたい状況の中で、可能な限り最善の医療を提供しようとする現実に対処しなければならない臨床医を取り巻く環境もひどい。関連死の数字が注目されるのは当然だ。政府の改善計画は効果的でなく、結果も出ていない」(同)

「必要なのは困難な状況に陥っているシステムと闘う臨床医と、多額の投資と救急救命医療を蘇生させるコミットメントだ。このようなケアの不平等、本来なら回避できたはずの診療の遅れ、膨大な関連死を放置することはできない」(同)。

王立救急医学会は次の勧告を掲げる。
医療・社会ケアシステム内にさらなるキャパシティーを構築する長期計画を実施(2)病院のベッド稼働率が85%を超えないよう有床診療所を増設(3)病院のパフォーマンスを向上させるため各病院の数値を公表(4)インフルエンザ、コロナのワクチンプログラムを改善する。(後略)【4月2日 木村正人氏 Newsweek】
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イギリスでは物価高から22年末に看護師ストライキが行われ、医療体制に更なる重圧ともなりました。

****英国民保健サービスの看護師が初のスト、インフレ進行受け****
英国民保健サービス(NHS)の下で働く看護師らでつくる労組の「王立看護協会(RCN)」が15日、インフレが進行する中での待遇改善を求めて全国規模のストライキに突入した。こうしたストは、結成から106年が経過したRCNの歴史で初めて。20日にストが予定されており、既にひっ迫している英国の医療体制に一層重圧が懸かる事態が懸念される。

NHS傘下の病院76カ所で推定10万人の看護師がストを行い、診察予約や手術など7万件の手続きが取り消される恐れがある。

RCNを率いるパット・カレン氏はBBCの取材に応じ「看護業務や患者たち、この社会とNHSにとって悲劇的な1日だ」と語った。ただRCNによると、家計のやりくりに苦しんでいる看護師のためにはストをするしかないという。

看護師側は、もう10年にわたって実質所得の目減りに見舞われ、低賃金のため常に人手も足りず、患者のケアが脅かされていると主張し、物価上昇率プラス5%の賃上げを要求している。これは19%の賃上げ率に相当するが、政府は今のところ交渉を拒否。カレン氏は、このままでは来年にかけてストが拡大する局面が想定されると述べた。【2022年12月16日 ロイター】
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日本も高齢化に伴い医療保険制度が資金的に行き詰まるのでは・・・という問題を抱えています。

政権交代した労働党・スターマー英首相は、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明しています。

****英首相、向こう10年で国家医療制度の抜本改革に取り組む方針****
スターマー英首相は12日に行う演説で、国家医療制度(NHS)の抜本的改革に10年かけて取り組む方針を表明する。首相官邸が事前に演説内容を公表した。

NHSについては、既に政府が委託した外部報告書で危機的状況にあると指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックや選択的な手術執行の遅れ、労働争議などの問題からなかなか立ち直れないためだ。

保守党の前政権は長時間の診療待ち問題に十分対処できず、NHSの下で働く看護師らの賃上げストを非難していた。

7月の総選挙で大勝したスターマー氏はこの争議解決を最優先事項として掲げているほかに、高齢化が進展する中で医療費が跳ね上がる事態に増税なしで対処するには、場当たり的でないNHSの「大々的な外科手術」が必要だと強調している。

スターマー氏は今回の演説で「働く人々にはこれ以上支出を増やす余裕がないと分かっている」と述べ、NHS改革が必須だと訴える見通し。

また医療ひっ迫は経済に悪影響を及ぼしており、280万人が長期にわたり病気を患っているために経済活動に参加できていないという。

スターマー氏は、NHSのデジタル化や、病院よりも地域社会でのケア重視、病気予防活動の強化などを推進する考えだ。【9月12日 ロイター】
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【緊縮財政で財政の健全化を目指すスターマー首相 国民不満で支持率急落】
刑務所にしてもNHS(国民保健サービス)にしても“カネがない”というのが根底にある問題。
イギリス財政全体が悪化していますが、スターマー英首相は経済成長で収入を増やす一方で、緊縮財政で支出を削減する計画です。

****英国、緊縮財政へ 前政権の予算は「4兆円の財源不足」****
英国のリーブス財務相は29日、スナク前政権が編成した2024年度予算に220億ポンド(約4兆3000億円)の財源不足が見つかったと明らかにした。暖房代補助の削減やインフラ計画の中止などの緊縮策を始める。今後の増税の布石との見方が出ている。

14年ぶりの政権交代で労働党のスターマー政権が5日に発足した。リーブス氏が財源の裏付けのない歳出などを財務省に洗い出させ、29日の議会演説で結果を示した。

保守党のスナク前政権が3月に編成した24年度予算よりも実際の歳出が大きく膨張する見通しだという。「前政権は実態を隠蔽していた」とまくし立てた。

例えば、英仏海峡を渡る不法入国者数の予算上の見積もりが過少だったため、対策費用が想定より膨らむ。職員のストライキなどで収益が減る鉄道会社への支援金を十分に計上していなかった。ウクライナに対する軍事支援の準備金も不十分だと訴えた。

緊急の歳出削減策として、年金生活者への冬場の暖房代補助を縮小する。所得の低い人に絞る。保守党政権が決めた40の新病院建設を見直すほか、一部の道路や鉄道計画を取りやめる。外部コンサルタントへの委託費など不要不急の歳出の停止を各省庁に求めた。

それでも帳尻が合わないため、10月に示す秋季予算案で増税を打ち出すとの観測が広がっている。リーブス氏は「財政ルールを順守するために難しい決断を迫られる」と述べた。

労働党は総選挙の公約で所得税、国民保険料、付加価値税、法人税を引き上げないと宣言した。投資収益にかかるキャピタルゲイン課税や相続税、年金課税などが増税の候補になると英メディアは予想している。

表明済みの外国人富裕層への税制優遇の廃止や私立学校の授業料に対する付加価値税の課税はすでに使い道が決まっているため、新たな財源が必要になる。

英国の政府債務残高は国内総生産(GDP)とほぼ同規模。GDPの2倍を超える日本ほど悪くないが、英国としては歴史的な高水準にある。財源の裏付けのない減税表明で市場が混乱した22年のトラス・ショックの教訓もあり、新政権は財政規律を重視する。

リーブス氏は歳出の実態について「財務相に就任するまで知らないことがあった」と強調した。
保守党のハント前財務相は「(影の内閣の財務相だった)リーブス氏は財務省の事務次官とでも面会できる立場にあった。必要なことは何でも知ることができたはずだ」と疑問を呈した。

選挙戦で触れなかった緊縮策を政権獲得後に急に打ち出したことに批判もある。

財務省は29日、公立学校の教員や公的医療の従事者らの賃金を平均5.5%引き上げると発表した。2%まで落ち着いたインフレ率を大幅に上回る賃上げでストライキに終止符を打ちたい考えだ。労働者への分配を優先する新政権の姿勢が鮮明になってきた。【7月30日 日経】
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しかし、緊縮財政というのは基本的に国民からは嫌われる・・・ということで、スターマー首相の支持率は急落したいます。

****英労働党大会で財務相が演説 不人気の財政緊縮策を正当化 首相の支持率低下鮮明に****
7月の英総選挙で14年ぶりに政権の座に返り咲いた労働党の年次党大会が22日、中部リバプールで4日間の日程で始まり、リーブス財務相が23日に基調演説を行った。

リーブス氏は有権者から反発を浴びている政権の財政緊縮策について「正しい決断をした」と強調。スターマー首相は緊縮財政に加え、支援者からの多額の利益供与で人気が下落しており、党大会を求心力回復の機会としたい考えだ。

リーブス氏は演説で、保守党のスナク前政権が組んだ予算に220億ポンド(約4兆1千億円)の財源不足が見つかったと指摘し、事態打開に向け今後の財政政策で「厳しい決断を下す必要がある」と警告した。

リーブス氏は7月29日、年金生活者への冬場の暖房費補助の削減や、保守党政権下で決定された病院や道路、鉄道の建設計画の見直しといった事実上の財政緊縮策を打ち出した。

このうち暖房費に関しては約1千万人が補助の対象外になるとみられ、世論は強く反発。党を支える複数の有力労組も今月22日、補助削減の方針を撤回するよう政権に要求した。

リーブス氏は演説で、一連の政策は緊縮財政ではないと反論し、新たな産業政策などを通じた雇用の創出で経済を成長軌道に乗せていくと強調した。

政権が10月30日に公表する予算案では「労働者への増税はしない」と明言した。ただ、専門家の予想では投資収益への課税増や将来的な企業増税、歳出削減が見込まれている。

一方、スターマー首相をめぐっては妻のビクトリアさんが労働党上院議員の富豪から高級な衣服を贈られていたことが党の内外で問題視されている。

英メディアは富豪からスターマー氏らへの利益供与に関する報道を展開。過去5年間の贈答品は、米歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートのチケットなどを含め計10万ポンド以上相当に上るとされている。

こうした寄付や贈与は申告すれば違法でないが、清廉潔白を売り物にしてきたスターマー氏のイメージを傷つけたのは明白だ。中道路線を掲げるスターマー氏に不満を抱く党の左派勢力が一連の問題で対決姿勢を強める事態も予想される。

英調査会社オピニウムが今月20日に発表した世論調査ではスターマー氏の支持率は24%で、不支持50%を大きく下回った。7月の政権発足直後の調査では支持38%、不支持は20%で、有権者のスターマー氏離れが鮮明になっている。【9月24日 産経】
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「労働者への増税はしない」緊縮財政で財政を健全化させる一方で、NHS(国民保健サービス)など行き詰まった諸問題を改善する・・・・なかなか至難のわざです。

これまでの延長線上にない新たな発想が必要になりますが、そうした発想は労働者の権利を守るという労働党の党是とのバッティングも懸念されます。

【ブレグジットの悪影響 政治的にはEU復帰はタブーか】
イギリス経済はインフレ、エネルギー危機、生活費の高騰、交通機関や病院のスト、食料不足、貧困と格差の拡大、ウクライナ戦争の影響、そして忍び寄る不況の影・・・多くの問題を抱えていますが、背景にあるのはEU離脱の悪影響。

“ブレグジットにより、国内外の企業では事務作業やコストが大幅に増えた。貿易障壁の復活で輸出入は急激に落ち込み、投資も減った。労働力が不足し、物価が上昇した。”【2月13日 Newsweek】

国民の間では「後悔」の念も強まっていますが、ブレグジットを推進した保守党はもちろん、労働党もブレグジットが英経済にマイナスの影響を与えることを、公には認めていません。
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