孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 春期攻勢のタリバン アメリカの増派は? ロシア・イラン・中国の関与は?

2017-05-02 22:52:44 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン・カブールにあるプリソフタ橋の下に集う麻薬中毒者ら=2016年10月(共同)
“アフガンはアヘンやヘロインの材料となる植物ケシの世界最大の産地。麻薬の多くは国外に流れていくが、国内消費量も増加。長引く戦乱のほか、麻薬のまん延も国をむしばんでいる。”【1月16日 共同】)

現状をコントロールできていないアフガニスタン政府
最近のアフガニスタンに関する主なニュースとしては、アメリカ・トランプ政権による北朝鮮に向けたデモンストレーションを兼ねた、イスラム国(IS)を対象にした4月13日の大規模爆風爆弾(MOAB)投下と、4月21日に北部マザリシャリフ近郊の陸軍基地がタリバンに襲撃され兵士150人ほどが死亡した事件があります。

大規模爆風爆弾(MOAB)の方については、アフガニスタン軍の報道担当者はISの死者が司令官4人を含む94人に上ったと明らかにしています。

ISは2015年、アフガニスタンとパキスタンに「支部」を設立したと宣言。以来、タリバンと互いに影響し張り合う形で数々のテロを実行しており、3月8日には首都カブールにある軍病院で、男が自爆し、白衣を着た男3人が病院内に侵入して銃を乱射、30人以上が殺害され、50人以上が負傷するという襲撃事件を起こしています。

アフガニスタンにおけるISは、アルカイダとつながるタリバンとの抗争もあって勢力を弱めているとも言われていましたが、この軍病院襲撃について“ISISがアフガニスタンで急速に足場を固めつつある大きな証拠かもしれない”【3月16日 Newsweek】ともの評価もあります。

一方、4月21日のタリバンによる陸軍基地襲撃では、責任をとって国防相と陸軍参謀長が辞任しています。
ISの病院襲撃にしても、タリバンの陸軍基地襲撃にしても、アフガニスタン政府が現状をコントロールできていないことを示す証拠ともなっています。

****アフガン国防相と陸軍参謀長が辞任、100人超死傷のタリバン襲撃受け****
アフガニスタン大統領府は24日、同国のアブドラ・ハビビ国防相とカダム・シャー・シャヒーム陸軍参謀長が辞任したことを明らかにした。
 
大統領府は声明で「アシュラフ・ガニ大統領が国防相と陸軍参謀長の辞任を受け入れた」と述べた。
 
アフガニスタンでは21日、北部マザリシャリフ近郊にある軍事基地が旧支配勢力タリバンの襲撃を受け、100人以上の兵士が死傷したため、国民から怒りの声が上がり、国防相と陸軍参謀長の辞任要求が高まっていた。
 
襲撃事件の正確な死傷者は明らかになっておらず、当局は兵士100人以上が死傷したと発表しているものの、内訳について公表していない。その一方、一部の地元当局者らは死者数だけでも最大130人としている。【4月24日 AFP】 
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米軍は増派要求 「アメリカ第一」のトランプ大統領は?】
アメリカ報告書によれば、昨年11月時点でアフガニスタン政府が支配・影響下に置いているのは全407地域の57.2%に当たる233地域にとどまっているとされています。(アフガニスタン側は否定していますが)

こうした状況で、米軍幹部はアフガニスタンへの増派の必要性を指摘しています。

****アフガン駐留米軍の増強必要、こう着状態打開目指す=米軍司令官****
米中央軍のボーテル司令官は9日に開かれた上院軍事委員会の公聴会で、アフガニスタン情勢のこう着状態を打開するために新たな戦略を策定していると明らかにし、アフガニスタン駐留米軍の増強が必要との見方を示した。

ボーテル氏は「助言・支援の任務をより効果的に行うには、増派が必要になる」と述べた。ただ、新戦略は策定中だとし、必要とされる増派の規模は明らかにしなかった。

アフガニスタン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は先月、反政府武装勢力タリバンとの戦いが長引くなか、国際部隊を数千人増強する必要があると指摘していた。

トランプ大統領はこれまでのところ、アフガニスタン駐留米軍の規模を現行の8400人から増加することを認めるかどうかについて、立場を明確にしていない。【3月10日 ロイター】
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「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領としては、いろんないきさつからシリア空爆とか、北朝鮮問題への対応などを迫られてはいますが、基本的にはアメリカの利害に直結しない紛争に関与したくない・・・というのが本音でしょう。アフガニスタンについても、増派は本来の意向とは異なります。

春期攻勢で強まるタリバンの圧力 ロシア・イランのタリバン支援の動きも
しかし、アメリカが今まで以上に支えないとアフガニスタン情勢はジリ貧の感もあります。

アフガニスタンでは“恒例の”タリバン春期攻勢が始まっています。

****アフガンに“第2のシリア”の恐れ、タリバンが春期攻勢を宣言****
内戦の泥沼化の様相が深まる中、アフガニスタンの反政府組織タリバンはこのほど政府軍、駐留米軍に対して「春期攻勢」の開始を宣言、戦闘が一段と激化しそうな雲行きだ。

トランプ米政権は増派も含め、アフガン政策を見直し中だが、ロシアやイランの影もちらつき、同国が”第2のシリア”になる恐れも強まってきた。

政府軍死者が2倍に
冬の間、雪に閉ざされるアフガニスタンでは例年、春の到来とともに戦闘の季節が明ける。今年もタリバンが4月28日の声明で、春季攻勢の開始を宣言した。

この宣言の直前の21日、タリバンの武装グループが北部マザリシャリフ近郊の治安部隊司令部を襲撃、礼拝中の新兵ら140人以上を殺害した。
 
一度の襲撃で起きた死傷者では最大の被害者数となり、この責任を取ってハビビ国防相とシャヒム陸軍参謀長が辞任、国軍幹部らも更迭された。

襲撃は、負傷した兵士を運んで来たように装った計画的なもので、実行したのはタリバンの“最凶”組織「ハッカニ・グループ」の選抜隊と見られている。
 
こうした襲撃や交戦などでアフガニスタン軍の死者は毎年拡大する一方で、2016年は一昨年の2倍以上の6700人が犠牲になった。民間人の死傷者も1万1418人と急増した。

タリバンは現在、国土の50%以上を支配、アフガニスタンは米軍の支援と国際的な援助でなんとか国家の体裁を維持しているのが現実だ。
 
アフガンに駐留していた米軍中心の国際治安部隊は最大14万人に上ったが、2015年までに一部米軍を残して大半が撤退した。現在は約8500人の米軍が残留し、政府軍の訓練、助言などとともに、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに対するテロとの戦いを続けている。
 
米軍はアルカイダの潜伏するパキスタン国境との部族地域に対する無人機空爆作戦を続行する一方で、ISの拠点のある東部ナンガルハル州での掃討作戦を強化。

4月中旬には、「すべての爆弾の母」と呼ばれる通常兵器では最大の大型爆風爆弾を投下し、ISの地下トンネル網を破壊した。しかしその直後の作戦では、米兵2人が死亡するなど被害も出ている。
 
トランプ政権の本音は1日も早いアフガニスタンからの軍撤退だろう。しかし今、米軍が手を引けば、同国がタリバンに取って代わられる可能性が強い。現状のままでも、タリバンが一段と勢力を拡大、ISもテロを活発化させて内戦が泥沼化、“第2のシリア”に陥りかねない。
 
特にISは拠点のあるナンガルハル州から活動範囲を拡大し、3月には首都カブールの国軍病院で自爆テロを実施、49人を殺害した。ISは最盛期の勢力からは弱まっているものの、依然1000人以上の戦闘員がいると見られている。
 
こうした状況の中で、トランプ政権は早急なアフガン政策の見直しを迫られており、4月には、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官らが相次いで同国を訪問、ガニ大統領らと会談した。

イラン、ロシアの影
とりわけトランプ政権は隣国のイランとロシアがタリバンを支援しているのではないか、との懸念を深めている。

イランとロシアはこれまで、米軍がアフガニスタンから撤退するよう要求してきたが、アフガン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官はこのほど米上院での証言で、両国が米国の取り組みを切り崩そうと図り、タリバン支援で連絡を取り合っている、と非難した。
 
同司令官によると、ロシアはタリバンを公式に正当な組織と認め始めており、イランはタリバンに直接的な支援を行っているという。イラン、ロシアともこの司令官の発言をねつ造と一蹴しているが、両国がタリバンを支援する理由は大いにある。
 
それは両国ともISに対する「防波堤」の役割をタリバンに担わせたいと願っているからだ。スンニ派のISにとってシーア派のイランは不信心者の最大の敵だ。イラクやシリアでは、イラン配下のイラクのシーア派民兵がISと戦っている。アフガニスタンでISが勢力を拡大することは隣国イランの安全保障が脅かされることを意味する。
 
シリアのアサド政権(シーア派系アラウイ派)を支援するため軍事介入し、国内のイスラム過激派対策に悩むロシアにとってもアフガンでのISの勢力拡大は阻止したいところ。ISがシリアでのロシアの空爆への報復を誓っていることもロシアの警戒心を高めている。
 
ロシアのプーチン政権はすでに、イラン、中国、パキスタンなどとアフガニスタンの和平交渉を主導する意欲を見せ、中東で強めている影響力をアフガンにまで広げようと図っている。
 
しかしアフガンの治安回復のため、これまで2400人もの将兵の血を流してきた米国にしてみれば、ロシアの動きは容認し難い。ロシアの動きをけん制するためにも、早急にアフガン政策を策定できるかどうか、トランプ政権の戦略が問われている。【5月2日 WEDGE】
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イラン・ロシアの動きはともかく、タリバン支援云々という話であれば、一番の責任はアメリカの同盟国でもあるパキスタンにほかなりません。

現在のパキスタン国軍・ISI(軍統合情報局)がタリバンにどういう関与をしているかはよく知りませんが、少なくともこれまでの経緯で言えば、パキスタンのタリバン支援(聖域の提供、武器・資金援助)がなければ、アフガニスタンの今の状況はなかったと言えます。

アメリカは、タリバンへの関与でイラン・ロシアに物言うなら、その前にパキスタンに対し明確な対応を迫るべきでしょう。それができないところに、アフガニスタンの混乱が収まらない原因があります。

ロシア主導の「和平協議の場」】
ロシアについては、アメリカに代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがあるとも。

*****<ロシア>タリバンとアフガン「和平協議の場」創設提案****
アフガニスタンの安定化を話し合うロシア主催の政府高官会議が14日、モスクワで開かれた。ロシアとアフガニスタン、中国、インド、パキスタン、イラン、中央アジア5カ国の計11カ国の外務次官や政府代表が参加。

旧支配勢力タリバンが支配地域を広める中、ロシアが米国に代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがある。
 
露外務省によると、ロシアはこの日の会議で、タリバンとアフガン政府の「和平協議の場」を創設するよう提案し、各国から賛意を得た。
 
ロシアは旧ソ連時代のアフガン侵攻(1979〜89年)以降、アフガンへの影響力を失ったが、近年は日本とも協力して警察官の養成事業を実施するなど関係強化に努めてきた。タリバンとの接触も深めている模様だ。
 
米国はこうしたロシア側の動きを警戒している。アフガン政府とタリバンの和平は米国が過去に繰り返し仲介を試みたが不発に終わった。

ロイター通信によると、マティス米国防長官は3月31日の記者会見で「ロシアが対タリバンの活動を活発化させており、懸念している」と述べた。
 
ラブロフ露外相は12日のティラーソン米国務長官との会談で、今回の会議に米代表が出席するよう打診したが米側は拒否した。【4月15日 毎日】
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和平が実現すらならアメリカ主導でも、ロシア主導でもかまわないのですが、アフガニスタン侵攻の苦い経験があるロシアがアフガニスタンの長期的国家再建に本腰を入れて深入りするようにも思えません。

せいぜいが、アメリカの向こうを張って・・・とか、ロシアの利害のために・・・といったレベルでしょう。

ウイグル問題から中国も関与を強める
アフガニスタンでのISの動きを封じ込め、自国への影響が及ばないようにしたい・・・というのは、中国も同じです。

****アフガンへの進出を図る中国****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月3日付け社説が、中国が最近アフガニスタン領土に軍隊を派遣したことが注目されたが、米国が期待するような、アフガニスタン情勢安定化に資するものではない、と、述べています。要旨、次の通り。
 
中国は最近アフガニスタン領に初めて軍隊を派遣したが、アフガニスタン領といっても、新彊ウィグル地区に接するワハン回廊(タジキスタンとパキスタンの間に細長く伸びるアフガニスタン領)である。

中国は最近新彊ウィグル地区でのウィグル人と思われる過激派の活動の活発化を懸念している。中国政府はウィグル独立派がパキスタンとアフガニスタンの支援を受け、アフガニスタン領で攻撃を準備し、同領内から攻撃していると憂慮している。

そこで中国は遅まきながら新彊ウィグル地区に接するアフガニスタン領内に、治安維持のため出兵を決めたと思われる。
 
たとえトランプ大統領がアフガニスタン安定の負担の一部を中国軍が負ってほしいと願ったとしても、失望させられるだろう。中国の目的は中国に対するテロ攻撃の脅威を無くすことに限定されているのである。(後略)【4月6日 WEDGE】
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なお、アメリカメディアが国連薬物犯罪事務所(UNODC)関係者の話として、アフガニスタンでアヘン生産が増加したのは中国産の遺伝子組み換えのケシの種が使われていることに起因するなどと報じた件については、中国側は「中国はケシ製品をアフガニスタンに輸出したことも、いわゆる『遺伝子組み換えのケシ』を植えたこともない」と完全否定しています。【4月26日 Record Chinaより】

女性の地位など、アフガニスタン住民の視点に立った和平協議を
先ほど“アフガニスタンの長期的国家再建”と書きましたが、重要なポイントのひとつが女性の地位確立です。

****離婚という新たなエンパワーメント、アフガン女性たちの挑戦****
家父長制が根強く、家庭内虐待が日常茶飯事のアフガニスタンで離婚はまれだが、ヘロイン依存症の夫からの暴力行為に耐えかねたナディアさんは夫を捨てた──。これは、多くのアフガニスタン女性には思いもよらない行動だ。
 
この国では今、新たな形でのエンパワーメントとして離婚に踏み切り、自立性を取り戻そうとする女性の数が増加している。このような現象がみられるのは初めてだ。
 
イスラム法でも離婚は許されているが、それでも最悪なパターンと考えられており、夫と別れる女性を許さない文化が形成されている同国では虐待そのものよりもさらに大きなタブーとされている。
 
ナディアさんは2年間、婚姻関係にあった男性について、「彼は薬物とアルコールの依存症だった。これ以上、一緒には暮らせない」と、全身を覆うブルカの奥で静かに涙を流した。部族の長老らは仲裁を試み、よりを戻すようナディアさんをなだめた。だが、ナディアさんは一族の中で離婚を求めた最初の女性となった。
 
ナディアさんは現在、国連開発計画(UNDP)プロジェクトの一環で2014年に創設された「リーガル・エイド・グラント・ファシリティ(LAGF)」の支援を通じて法的に離別する方法を模索している。「神は女性に権利を与えた。離婚はその一つ」とナディアさんは語る。
 
ナディアさんの夫は家を出て行き、その後の所在は不明となっているという。
 
全国的な統計は入手困難だが、アフガニスタン全土でLAGFが手掛けた離婚件数は過去3年間で12%増となり、離婚は増加傾向にある。
 
女性を蔑視する旧支配勢力タリバンが2001年に権力の座を追われて以来、アフガニスタンでは女性の権利を求める動きが活発化しているが、離婚問題は男女平等という目標がいかに実現困難であるかを示す象徴ともなっている。
 
離婚は男性にとっては比較的容易で、多くの場合は、離婚すると男性が妻に口頭で伝えるだけで処理される。だが、女性の場合は裁判を起こす必要があり、しかも夫との離別を要求する際には虐待やネグレクト(扶養の放棄)など具体的な申し立てを行わなければならない。

また、弁護士を雇うのは財力がある個人にとっても難しい。離婚訴訟で女性の弁護人が殺害の脅迫を受けることも珍しくないからだ。(後略)【5月2日 AFP】
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こうした問題は。政治の問題である以前に、社会・文化の問題ですが、女性の外出すら認めないような従来のタリバン支配のもとでは話にもなりません。

現在のタリバンの考えが多少は変わったとしても、タリバン単独支配下では多くは望めないでしょう。

和平協議を受けてのタリバンの政治参加で女性の地位が確保されるなら、それはそれで・・・というところですが、単に大国・周辺国のパワーバランスではなく、アフガニスタン住民の視点に立った協議を進めてくれるなら、ロシアだろうが、イランだろうがかまいません。
そんな意思のある国は・・・・どうでしょうか?

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