孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア軍爆撃機撃墜問題  ロシアとトルコが石油密売をめぐって「ISの共犯者」「違う」と非難の応酬

2015-12-01 22:13:28 | 中東情勢

(ロシア空軍の爆撃を受ける「イスラム国」(IS)が使用しているとされるタンクローリー ロシア国防省が11月18日に提供した映像から=ロイター【12月1日 朝日】)

かねてから懸念されていた衝突
ロシア軍爆撃機がトルコ軍機によって撃墜された事件では、領空侵犯があったかどうかで両国の主張は食い違っています。

****<露軍機>撃墜前、2回領空侵犯・・・トルコ計21回警告****
トルコ・シリア国境付近で24日にトルコ軍機に撃墜されたロシア軍機が、2回連続してトルコ領空を侵犯していたことが分かった。トルコが加盟する北大西洋条約機構(NATO)の外交筋が、レーダーの航路分析で判明したと毎日新聞に明らかにした。ロシア側は「警告はなく、シリア上空で撃墜された」と主張しているが、根拠が揺らぐことになる。

 ◇NATO分
外交筋によると、ロシアの戦闘爆撃機2機は24日午前9時22分(日本時間午後4時22分)ごろ、トルコ南部の領空に侵入。旋回して同9時24分、再び領空内に2.52〜2.13キロ入り込み、17秒間侵犯した。

トルコ軍は1回目の領空侵犯時に11回、2回目に10回、計21回警告した後、これを無視して領空にとどまった1機をミサイルで撃墜した。この戦闘爆撃機は飛行を続け、シリア領内に墜落した。

同筋によると、ロシア軍機は10月3、4両日にもシリア側からトルコ領空を侵犯。トルコ政府はロシア側に再三にわたり「次の領空侵犯は容認できない」と警告していた。10月15日にはロシア空軍幹部がアンカラでトルコ軍幹部と会談し、再発防止を約束していたという。

トルコ軍は2012年6月、地中海上空で偵察機がシリア軍機に撃墜されて以降、領空侵犯があれば撃墜する方針を取っていた。今回のロシア機の撃墜では「原則に従った」という。(後略)【11月28日 毎日】
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領空侵犯や警告の有無についてNATO分析をそのまま信用するのが適切かどうかは別にして、素人考えで不思議なのは、なぜロシアがこれまでもトルコとの間でトラブルとなっていた問題空域の飛行を行ったのか・・・という点です。

今回事件は決して、出会いがしらの偶発事故ではありません。ロシアの行動に関しては、トルコとの衝突の危険がかねてから指摘されていたところです。上記記事によれば再発防止の約束もなされていたとか。

さらに言えば、トルコ空軍は攻撃的な性格があるとの評判もあるようですが、トルコ・エルドアン大統領もプーチン大統領と同様に、面目を失ったり弱く見えたりしないことを極めて重視する権威主義者ですから(両者のそういう性格が事件後の展開をより難しくしているところでもありますが)、ロシア軍機の侵犯を何度も黙認することはない、ことによると・・・というリスクも当然に考慮されるでしょう。

にもかかわらず、ロシアが問題空域に不用意に爆撃機を飛ばしたというのが個人的にはよくわからないところです。
自軍への攻撃を誘い、それを国内でアピールすることで戦争への世論を統一するというのはしばしばとられる手法ではありますが、別にロシアはトルコと戦争をしようとしている訳でもありませんから・・・。

プーチン大統領、エルドアン大統領が求めていたパリでの面会を拒否
いずれにしても、プーチン・エルドアン両氏は“権威主義者”の似たもの同士ですから、なかなかことはおさまらないようです。

ロシア・プーチン大統領は経済制裁でトルコに謝罪を迫り、トルコ・エルドアン大統領はこれを一蹴するという展開で、首脳会談もできない対立が続いています。

****<トルコ首相>ロシアへの謝罪拒否 露は首脳会談断る****
トルコのダウトオール首相は11月30日、ブリュッセルで記者会見し、ロシア軍機撃墜事件について改めてロシアへの謝罪を拒否する一方、ロシアに経済制裁の再考を促した。

一方、ロシアのプーチン大統領は30日、トルコのエルドアン大統領が求めていたパリでの面会を拒否、両国間は依然、緊張関係が続いている。(後略)【11月30日 毎日】
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トルコ側は、エルドアン大統領の「後悔の念」表明や、ロシア軍乗員の遺体返還で、ロシアへの一定の配慮を示してはいますが、撃ち落された側のロシアの硬い姿勢はいまのところは和らいでいません。

****<露軍機撃墜>トルコ大統領、「後悔の念」表明****
AP通信によると、トルコのエルドアン大統領は28日、西部バルケシルで演説し、トルコ軍機が「領空侵犯」を理由にロシア軍機を撃墜した事件について「起きなければ良かった」と述べた。同通信は、エルドアン氏が事件後初めて「後悔の念」を表明したと伝えている。

エルドアン氏は地元の支持者を前に「この事件で、我々は本当に悲しんでいる」と強調。「起きなければ良かったが、不幸にも起きてしまった。同じようなことが再び起きないよう望む」と述べた。さらに、両国は今回の事件が「悲しむべき結果」につながるような事態の激化や破壊的な状況を許してはならないと語り、緊張緩和を呼びかけた。

エルドアン氏はまた、30日に開かれる国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でパリを訪問するのに合わせ、現地でロシアのプーチン大統領と会談することを希望すると改めて述べた。【11月29日 毎日】
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****ロシア軍機乗員の遺体を返還 トルコ側、一定の配慮か****
トルコのダウトオール首相は29日午前(日本時間同日午後)、首都アンカラで会見し、24日にトルコ軍に撃墜されたロシア軍機の乗員1人の遺体について、トルコがロシアに返還すると発表した。

(中略)また遺体の取り扱いについて、同氏は「(ロシアの主な宗教である)キリスト教の正教会の伝統に従って扱っている」と強調した。

今回、トルコ主導の形で遺体返還を進め、かつイスラム教徒のダウトオール氏が「正教会の伝統」に言及したのは、領空侵犯は決して正当化できないものの、関係が険悪化しているロシア側への一定の配慮とみられる。【11月29日 朝日】
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ロシアは、シリア北西部のロシア軍基地フメイミムに最新鋭地対空ミサイル「S400」を展開し、更に、シリア空爆に参加するロシア軍の戦闘爆撃機スホイ34に空対空ミサイルを装備したとも報じられています。

ロシア:ISのトルコ領内への石油密売を指摘 「トルコ政府が知らないというのは信じがたい」】
一方、領空侵犯の有無については分が悪いと思ったのか、プーチン大統領はこのところ、石油取引をめぐるトルコとイスラム国(IS)のつながりを攻撃しています。

****露軍機撃墜は「ISとの石油取引守るため」 プーチン氏がトルコ非難****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は11月30日、先週トルコが露軍機を撃墜したのは、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」からトルコへの石油供給ルートを守るためだったと述べ、トルコを非難した。

プーチン大統領は、フランス・パリ近郊で開幕した国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)に出席する傍ら開いた記者会見で、「われわれの航空機を撃墜するという決断が、トルコ領内への石油供給ルートを保護したいという考えに基づいていたと考えるに足る、あらゆる理由がある。石油をタンカーに積み込む港に直結するルートだ」と言明した。

さらに同大統領は、「遺憾なことに、ISなどのテロ組織が支配する地域で生産されたこの石油が、産業規模でトルコに輸送されていることを確認する追加情報も得ている」と述べた。

先週露軍のスホイ24(SU-24)型機がシリア国境付近で撃墜されたことを受け、プーチン大統領はトルコを「テロリストの共犯」と非難するとともに、IS領内からの石油がトルコ経由で密輸されていると指摘している。シリアとイラクの広い範囲を掌握しているISにとって、石油密売は主要な収入源の一つとなっている。

プーチン大統領は、COP21に出席した首脳らの大半が、トルコによる露軍機の撃墜は「不要だった」という考えを示したと述べた。

さらに同大統領は、爆弾による露旅客機の墜落と、ISとつながりのある過激派グループが引き起こしたパリ同時テロを受けて露仏両国が推進している対ISの国際同盟結成を目指す動きも、トルコの行動によって深刻な脅威にさらされていると批判した。

一方、トルコ側はISとの石油取引を否定しており、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は11月30日、プーチン大統領の主張が証明されれば辞任する用意があると明言。「そしてプーチン氏には、こう伝える。『あなたはその職にとどまり続けるのか』と」と付け加えた。【12月1日 AFP】
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プーチン大統領は26日、オランド仏大統領との会談後の記者会見で、「略奪された石油を積んだ車列が昼夜、シリアから国境を越えてトルコに入り、まるで動く石油パイプラインだ」「トルコ政府が知らないというのは信じがたい」と痛烈にトルコを批判しています。

また、ロシアのペスコフ大統領報道官は28日に放送された国営テレビのインタビュー番組で、エルドアン大統領の娘婿が過激派組織「イスラム国」(IS)の石油ビジネスに関与している可能性を示唆しています。

ISの石油売買については、トルコ、アメリカはアサド政権が購入していると批判しています。

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一方、米政府は、シリアのアサド政権がISと裏でつながり、石油を売買しているとの立場だ。その仲介をしているとして、米財務省は25日、シリアとロシアの二重国籍を持つシリア人実業家を資産凍結などの制裁対象に指定した。エルドアン氏も「ISの石油を買っているのはアサド政権と、アサド政権を支援する者だ」と、ロシアを非難している。【11月28日 毎日】
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エルドアン大統領の娘婿云々はわかりませんが、トルコとISの関係については、エルドアン政権が黙認しているのか、防ぐ手立てがないのか、人員や物資がトルコ国境をまたいでIS支配地域へ行き来しているということはかねてから指摘されていたところです。

アメリカもトルコに国境管理の厳格化を求めていますが、必ずしも順調には進んでいません。ロシアのシリア空爆、パリ同時テロ、更にロシア軍機撃墜と事態は複雑化する一方です。

****米政権、トルコにシリア国境の一部封鎖を要請****
オバマ米政権はトルコに対し、シリアとの国境に兵力を追加派遣し、約100キロメートルにわたる区間を封鎖するよう求めている。米政府関係者は過激派組織「イスラム国」(IS)がこの区間を使って外国人戦闘員を移動させているとみている。(中略)

米国の求めに対し、トルコがどのように反応するかは分からない。トルコ政府関係者は国境管理の強化が必要であることについてはトルコも同じ意見で、既に一部の対策に着手したと述べた。(中略)

米国とトルコは7月に国境対策での協力で大筋合意したが、政府間だけでなく米政権内での意見の対立のために詳細な作戦の策定が遅れている。(中略)

オバマ政権のある高官は米政府からトルコ政府へのメッセージとして「状況が変わった。もうたくさんだ。国境を封鎖する必要がある」と述べた。さらに、ISが「国際的な脅威であり」、シリアからトルコ領土を経由して流出していると指摘した。

トルコ政府当局者らは米国が対策を講じれば、トルコも必要な措置を取る用意があるとの姿勢を示している。

トルコ政府高官の一人は「トルコはキリスとジャラブラス間の98キロメートルの区間からダーイシュ(ISのアラビア語の略称)を排除する決意がある」と述べた。「米国を含め誰からも、警告やアドバイスは一切受ける必要はない」と続けた。(後略)【11月28日 WSJ】
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現実問題としては、石油に限らず、トルコとシリア・イラク両国間の密輸入を根絶するのは難しいとの見方もあります。

****ロシア・トルコ、非難合戦 IS石油の密売「共犯」「違う****
・・・ただ、トルコはISが勢力を広げるシリア、イラクと計約1300キロの国境を接し、IS側と国境をまたいだ「人・モノ・カネ」のやりとりがあるとされる。

石油に限らず、トルコとシリア・イラク両国間の密輸入を根絶するのは難しいとみられている。

米財務省によると、ISは、支配領域内で生産する石油の密売によって月4千万ドル(約49億円)以上の収入があるとされる。

「主力」となっているのがシリア東部デリゾール近郊の複数の油田で、英フィナンシャル・タイムズの推計によると生産量は日量約4万バレル。ISが「首都」と称するラッカに近く、イラク、シリア両政府軍やほかの反体制派は近づけない。ISは移動式の精製設備を備え、空爆を受けてもすぐに修理して石油生産を再開するという。

やっかいなのは、流通を地元の民間業者が担っているとみられることだ。

イラク・シリア両国のクルド人地区からトルコにかけ、本来政府が管理する石油をトラックで運ぶ業者のネットワークがあり、トルコ国境に着く頃には産地がわからなくなる。

米軍を中心とする有志連合軍は10月以降、ISの石油関連施設への空爆を強めているが、民間人の被害を避けようとして、効果が上がりにくいという指摘もある。【12月1日 朝日】
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「月4千万ドル(約49億円)以上の収入」を断てれば、ISの勢いは目に見えて低下すると思われますが、石油施設の破壊やトルコ側の石油売買を取り締まることがそんなに難しいことなのでしょうか?

パリ同時テロ以降は、各国の石油施設・運搬への攻撃が強化されています。

****ISの石油輸送車は「全て空爆」、露国防省****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討作戦を強化しているロシアは18日、シリアのIS掌握地域を通行する全てのタンクローリーを空爆対象とすると発表した。(中略)既に、シリアからイラク国内の石油精製所を目指して原油を運搬していたトラック約500台をこの数日で破壊したという。原油の密輸による収益は、ISの主要資金源となっている【11月19日 AFP】
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****オバマ政権、IS壊滅作戦強化 市民の犠牲増える恐れも****
パリ同時多発テロを受け、オバマ米政権が過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員や資金の流れを止めるための、各国との協力強化に乗り出した。軍事作戦では、資金源となる石油の施設や補給路の攻撃も続けるが、巻き込まれて犠牲となる市民も出ている。(後略)【11月21日 朝日】
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石油輸送車の運転手の多くは民間人であることから、攻撃が難しいとされていましたが、パリ同時テロ以降は攻撃対象とされています。

****米軍、シリアでISの石油輸送車238台以上を空爆と****
米国防総省は23日、シリア北東部で過激派勢力「イスラム国」(IS)が持つ石油輸送車238台以上を空爆で破壊したと発表した。

発表によると、米軍機のパイロットたちは、アルハサカとダイル・アッザウルの近くの精製拠点で石油を積み込もうと待機して駐車していたタンクローリーを発見した。民間人の運転手たちを追い払うために警告の砲撃を繰り返した後、輸送車の破壊を開始したという。(後略)【11月24日 BBC】
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特殊な装備を必要とする石油輸送車を数日で何百台も破壊されたら、ISの石油売買にも大きな痛手になるのでは?

「空爆に先駆けて、運転手たちに警告ビラを投下し、砲撃で警告した」とのことで、アメリカ国防総省は民間人死傷の報告はないとしています。実際のところはわかりませんが。

今回のロシアとトルコの対立がどのように収束するのかはわかりませんが、結果的に石油密売に対するトルコの対応がこれまで以上に厳しくなり、ISの資金源が縮小するのであれば、犠牲者の死も無駄ではなかったということもできるでしょう。

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