孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  国際的孤立の中、タリバンが直面する経済・市民生活の再建という難題

2021-08-24 22:40:12 | アフガン・パキスタン
(露店でメロンやスイカを買い求める人たち。権力を握ったイスラム主義勢力タリバンを恐れていても、人々は生活のために街に出る=8月23日、カブール【8月24日 朝日】
一見、普段どおりの生活が営まれているようですが・・・)

【物価上昇、ATM停止、給料未払い・・・困窮する市民生活】
外国人、外国軍への協力者、女性活動家などタリバン支配による脅威にさらされている人々などのアフガニスタン国外退避とその混乱、進捗の遅れが世界の注目を集めているなかで、これからのアフガニスタン再建に関するニュースが。

****タリバン、アフガン中銀総裁代行を任命 経済再建に着手****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンは23日、アフガニスタン中央銀行総裁代行にハッジ・モハンマド・イドリス氏を任命したと発表した。

タリバン幹部によると、イドリス氏は北部ジョージアン州出身で、2016年にドローン(小型無人機)による攻撃で殺害されたタリバンの前最高指導者マンスール師の下で長らく財務を担当していた。

別の幹部は、イドリス氏はタリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されていると述べた。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は声明で、イドリス氏は各機関を整備し、アフガニスタン国民が直面している経済問題に対処すると表明。ただ政府職員の給与支払いが滞り、多くの企業が営業を停止する中、食料品や家庭で利用する燃料などの生活必需品の価格に上昇圧力がかかっており、困難が予想される。【8月24日 ロイター】
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困難を極めることが予想されるアフガニスタン経済、市民生活の再建の中心になるべき人事ですが、“タリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されている”という人物で可能なのか? という素朴な疑問も。

タリバンの金庫番と、一国の経済のかじ取りはまた別物のようにも思うのですが・・・・

一部の国外退避する人々以外の大多数の人々は、今後ともアフガニスタンの地で生活していかねばなりませんが、その生活は今、政治の空白、国家機能の停止によって日増しに苦しさを増しています。

物価は高騰し、銀行ATMは停止し、公務員給与は止まっています。
そうしたなかでも人々は食糧を手に入れ、生きていかねばなりません。

****タリバン、アフガニスタン首都掌握から1週間 食品高騰で市民は困窮、銀行は閉鎖****
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。

数千人の群衆が空港の入り口に押し寄せ、カブールを脱出するための席を確保しようと争う光景は、西側を後ろ盾とした政権が崩壊した後の混乱ぶりを何より鮮明に印象付けた。

しかし日がたつにつれ、食糧や家賃といった日々の心配事が見通しの暗さに輪を掛けるようになっている。この国のぜい弱な経済は国際支援の消滅によって打ちのめされた。

「途方に暮れている。何を真っ先に考えるべきなのか分からない。自分の身を安全にして生き延びることか、それとも子どもと家族を食べさせることなのか」と語るのは元警察官だ。妻と4人の子どもを養っていた260ドル(約2万8600円)の月給を失い、今は身を隠している。男性はこの2カ月間、給与を受け取っていない。下位の公務員の多くがそうした状態だ。

「私が住んでいるのは賃貸アパート。この3カ月間、大家に家賃を納めていない」と語る。
この1週間は妻の指輪とイヤリングを売ろうと試みたが、他の多くのビジネスと同様に金市場も閉鎖されており、買い手は見つけられない。「お手上げだ。どうすれば良いのか分からない」とため息をつく。

タリバンがカブールを制圧した15日より前から状況は悪化していた。タリバンが地方都市を急スピードで進攻したことで通貨アフガニはドルに対して急落し、基本的な食料品の価格をさらに押し上げた。

小麦粉、食用油、米などの価格は数日間で10―20%も上がり、銀行が閉まっているため多くの人々は貯蓄を引き出すこともできない。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたので、海外からの送金も途絶えた。
捕まるのを恐れて身を隠している元政府職員は「すべてはドルの状況のせいだ。中には店を開けている食料品店もあるが、市場は空っぽだ」と嘆く。

隣国パキスタンとの主要な国境沿いで交通は再開したものの、国全体が厳しい日照り続きで、多くの人々の困窮に追い打ちを掛ける。テントや仮設シェルターで生き延びようと、数千人の人々が都市を目指している。

複数の国際支援団体は22日、アフガン向けの商業航空便が停止されたため医薬品その他の支援物資を届ける手段がないと訴えた。

地方の窮状は日増しに都市部にも波及するようになり、下位中間層を直撃している。この層は前回のタリバン政権が終わってからの20年間、生活水準の向上を経験してきた。

「何もかも終わった。倒れたのは政府だけではない。私のように1万5000アフガニ(200ドル)前後の月給に頼って暮らしていた数千人も同じだ」と、別の元政府職員は語る。

「この2カ月間というもの政府が給料を払ってくれず、私たちは既に借金を背負っている。高齢の母は病気で薬が必要だ。子どもと家族は食べ物が必要だ。神様お助け下さい」と悲痛な声を上げた。【8月24日 Newsweek】
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麦価で唯一下がっているのは家賃。また、経済停止によって電力需給も改善しているとか。
ただ、それらはアフガニスタン経済が直面して困難を物語ってもいます。

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物価のうち唯一下落しているのが家賃だ。カブールの両替商、パイマン氏は「非常に大勢の人々が町を去った」と語る。同氏によれば、「住宅が空き家だった場合、タリバンが接収する可能性があることを恐れ、一部の家主はテナントに無料でも居続けるよう頼んでいる」という。
 
住民らによると、改善された点の一つは全国を通じて以前に比べて電力供給がより安定したことだ。これは、政府オフィスや多くのビジネスが依然として閉鎖状態にあるため電力需要が減少したことや、主要送電網の途中にある鉄塔をタリバンが爆破するのをやめたことなどを反映している。【8月24日 Newsweek】
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【国際支援も停止】
これまでアフガニスタン経済を支えてきた国外からの支援も停止しています。

****アフガン、経済混乱 閉まった銀行、物価は急騰****
イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンで、国内経済の混乱が続いている。米国による資産凍結などで現金が不足し、銀行は営業を停止。物価が急騰し、市民の生活は苦しくなる一方だ。
 
「タリバンは軍事的には勝利した。しかし、これからは国家運営が必要になる。簡単ではない」。アフガン中央銀行のトップだったアジュマル・アフマディ氏は18日、脱出先の国外からツイッターで経済の逼迫(ひっぱく)ぶりを説明した。
 
アフマディ氏によると、アフガン中銀は政権崩壊前の時点で海外に約90億ドル(約9900億円)の資産を持っていた。その大半が米ドルや債券、金などの形で米国に預けられていたが、米バイデン政権が凍結。新政権ができても「タリバンが使える資産は、おそらく0・1~0・2%しかない」という。
 
国際通貨基金(IMF)のゲリー・ライス報道官は18日、タリバンが支配するアフガニスタンが「国際社会の承認を得ていない」として経済支援の送金を止めると発表した。
 
すでにアフガン国内は現金不足に陥っている。治安悪化で外貨の持ち込みが止まり、アフガン中銀は国内の銀行に現金を渡せなくなった。銀行の店舗は閉まったままで、街中のATM(現金自動出入機)への現金の補充はほぼない。
 
住民によると、1リットル50アフガニ(約70円)ほどだったガソリンはここ数日で5割上昇。小麦粉や砂糖なども1~2割高くなった。公務員への給料の支払いは止まっている。露天商アシフさん(24)は「みんな手持ちの金がなく、買い物もできない。国外脱出を願う若者が多いのも当然だ」と語った。
 
そんななか、ドイツ政府は17日、今年予定されていた約560億円相当の支援を一時停止すると発表。これに先立ち、マース外相は「タリバンが完全に支配すれば1セントたりともアフガニスタンには送らない」と語っていた。ドイツは主要援助国の一つで、他の国の判断にも影響しそうだ。国家予算の約5割を国際援助に頼ってきたアフガニスタンにとって打撃は大きい。
 
タリバンは1996~2001年の旧政権時代、極端なイスラム教の解釈が国際的な批判を浴び、経済が行き詰まった。タリバンは17日の会見で「天然資源で経済を立て直す」と主張したが、天然資源を運び出すための鉄道網は未整備で、実現は容易ではない。
 
タリバンが今後、これまで資金源にしてきた麻薬ビジネスを活発化させる恐れがある。【8月24日 朝日】
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かつて旧タリバン政権が実験を掌握したときと、今では状況が大きく異なります。

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現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。【8月24日 WSJ】
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【経済再建、国際支援復活のために妥協するのか あるいは恐怖支配か】
タリバンは、内戦によって廃墟状態にあった1996年と異なり、曲がりなりにも現代生活を享受していた国民の要求に向き合うことになります。

これまでのゲリラ戦で銃を撃ち、敵を倒すこととは、全く異なる能力が要求されています。

国民生活を維持していくためには国際支援が必要となりますが、そのためには国際社会の人権・自由に関する要求に一定に応える必要があります。(だからこそ、今現在、実態はともかく、公式見解として比較的融和的な姿勢を打ち出しているのでしょう)

****アフガン経済崩壊、交渉迫られるタリバン****
銀行閉鎖で現金が不足 ドルも外国の援助も届かず

アフガニスタンの新たな支配者となったタリバンは、本格的な軍事的抵抗がなくなった今、経済の破綻という新たな脅威と格闘している。経済問題はタリバンの統治に向けた新たな課題として深刻化する可能性があり、すでに権力の共有を迫る圧力となっている。
 
アシュラフ・ガニ大統領と大半の閣僚が8月15日に首都カブールを脱出して以来、アフガンに正式な政府は存在しない。それから8日目を迎えても銀行や両替所は閉まったままで、生活必需品の価格は急騰、経済活動は急停止した。
 
「人々はお金を持っているが、それは銀行に預けてある。つまり彼らの手元にはもうお金がない。現金を手に入れるのは困難だ」と、カブール在住で建設会社の経理を担当していたバヒール氏は話す。「そのため、カブールではすべての商売が停止状態になっている」

1990年代には、タリバンによる権力奪取がアフガン経済を再活性化させた。敵対し合う軍閥間の争いが終息し、交易のための道路が再開されたからだ。

その当時、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国がアフガンのタリバン政権と国交を結んだ。こうした進展がもたらした安定は、タリバンに対する評価を高めた。

しかし今回は、カブールを掌握した新政権を承認した国はまだ一つもない。こうした苦況による経済的打撃で、対立する政治勢力を取り込んだ融和的で――そして穏健な――政府の構築を、タリバンが迫られる可能性もある。
 
アフガンの元財務相、オマール・ザヒルワル氏は今週、タリバンと権力共有の協議を行うためカブールに戻ってきた。同氏は「政治的安定の回復が早ければ早いほど、現在生じつつある深刻な経済的打撃からアフガンを救い出すのも早くなる。われわれはタリバンと協力して、銀行やオフィス、省庁の再開などカブールの日常を取り戻そうとしている」と語った。
 
同氏はまた、現在の政治空白状態では、国外に脱出した経済組織の高官の後任として、現職の公務員を昇格させることが「知識のない者や国際社会から認知されていない者を新たに高官に任命するより有益だ」と付言した。
 
しかしタリバンは今のところ、こうした主張に影響されてはいないようだ。タリバンは23日、現職の公務員を昇格させるのではなく、タリバン幹部として反政府活動に長年かかわってきたハジ・モハマド・イドリス(Hajji Mohammad Idris)氏をアフガンの中央銀行の新総裁に任命した。これまで中央銀行の総裁代行だったアジマル・アフマディ氏は、8月15日に他のアフガン市民らととも脱出を図り、米軍のC17輸送機の後方スペースに逃げ込んだ。

タリバンは23日に初の経済的な命令を出し、金属スクラップの輸出を禁じた。タリバンはまた、政府職員の給与支払いを続けることと、銀行業務が「近い将来」に再開されることを発表した。(中略)
 
タリバンが国際的な制裁対象であるため、米国は既にアフガンへの送金や支援金の支払いを停止している。アフガン人の国外移住者が多く利用している2大送金事業者の米ウエスタンユニオンと米マネーグラム・インターナショナルは21日に同国への送金を停止した。送金を継続すると、米国の制裁に違反する恐れがあるからだ。
 
国際通貨基金(IMF)は先週、「現在、国際社会でアフガン政府の認知に関する透明性が欠如している」ため、同国はもはやIMFの資源にアクセスできないとの見方を示した。
 
アフガニスタンは8月23日にIMFから4億4000万ドル(約484億円)相当の特別引き出し権(SDR)を受け取る予定だった。前出のアフマディ氏によると、タリバンによる政権奪取前の時点でアフガン中銀が保有していた90億ドルの外貨準備のうち、アフガン国内で保有されているものはほとんどないという。海外支援や海外にいるアフガン人からの送金が、同国経済の主要な部分を占めている。

現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。
 
住民によると、カブールでは銀行と大半の店舗が休業しているため、携帯電話のアカウントの利用可能残高を増やすために使うスクラッチカード(プリペイドカード)が人気商品になっている。通信ネットワークの多くは部分的に海外の大手企業が保有しているが、現段階でサービスが継続されているため、同カードは額面金額をはるかに上回る価格で売れているという。
 
現在でも稼働している現金自動預払機(ATM)からの1日当たりの預金引き出し上限額は1万アフガニ(約116ドル)で、従来の3万アフガニから引き下げられていると、アフガン北部バルフ州マザリシャリフの住民、バリヤライ氏は話す。バリヤライ氏は「銀行は1カ所も開いていない。銀行は現在、ATMに現金を補充しておらず、誰も現金を得ることができない」と語った。
 
住民らによれば、小麦粉、食用油、ガスなど生活必需品の価格は50%も上昇している。依然として営業している数少ない町の両替商の交換レートによれば、アフガニは対ドルで約10%下落しており、ドルを入手するのはますます困難になっている。また、一部輸入商品は商店の棚から消えている。
 
人々はたとえお金を持っていても使おうとしない。カブール在住の政府職員、トルヤライ氏は、「人々は将来を懸念しており、資金を残しておきたいと思っている」と指摘、「彼らは今後の困難な時期のために備えておきたいと考えており、手持ちの資金を国外脱出に使うつもりだ」と語った。(中略)

カブールでは一部のレストランやコーヒーショップが営業を再開したが、ビジネスは低調だ。タリバンによる政権掌握から2日後にカブール西部で人気コーヒーショップを再開したある事業者によれば、1日当たりの客数はわずか5~10人程度だという。
 
この人物は、「店の近くの検問所の責任者であるタリバンの指揮官が店に来て、ケーキを食べ、カプチーノを飲んだ。彼は私のコーヒーを気に入っていた」と語った。
 
この事業主は「町は消滅し、人々は希望を失っている」と付け加えた。【8月24日 WSJ】
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“銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する”人々の要求にタリバンはどのように対応するのか?

そういう要求をイスラムに反するとして否定するとき、あるいは要求を満足させることができなかったとき、タリバンがとる方策は力と恐怖による支配でしょう。


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