goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カシミール銃撃事件で高まる印パ両国の緊張 印の攻撃は不可避か よりパを追い詰める水資源制限

2025-04-30 23:27:30 | 南アジア(インド)
(【4月28日 NHK】)

【過去の事例からして今後インドがパキスタンに対する報復攻撃を行うことは不可避】
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方において、インドが支配する地域のパハルガム近郊で4月22日に起きた観光客ら少なくとも26人が死亡したイスラム過激派による銃撃テロ事件については、4月24日ブログ“カシミールのテロ事件で、インドはインダス川水利条約の即時停止 印パ対立深刻化の懸念”で取り上げました。

インド側は背後にパキスタンが存在するとして、ともに核保有国である印パ両国の対立が激化しています。

****インドとパキスタン、4夜連続で銃撃戦 カシミールの観光客襲撃後****
インドは28日、カシミール地方で発生した観光客襲撃事件を受けた武装勢力の捜索中、パキスタンからの「いわれのない」発砲が4夜連続で続いていると明らかにした。

26人が死亡した4月22日の襲撃事件後、インドは容疑者の武装勢力メンバー3人のうち2人をパキスタン人と断定したが、パキスタン政府は関与を否定し、中立的な調査を求めている。

インド軍は27日深夜、パキスタンと領有権を争うカシミール地方の境界地帯にあるパキスタン陸軍の複数の駐屯地から正当な理由なく小火器による銃撃があり、対応したと明らかにした。パキスタンはそれ以上の詳細を示さず、死傷者はいないと報告した。

パキスタン軍はコメントの要請に応じなかったが、別の声明で過去2日間にアフガニスタンとの国境からパキスタンに侵入しようとしたイスラム過激派54人を殺害したと発表した。

インド側のカシミール地方では、治安部隊が1000軒近い家屋や森を捜索し、取り調べのために約500人を拘束したと、警察当局者がロイターに語った。【4月28日 ロイター】
**********************

テロ攻撃とは無関係とするパキスタン側は、上記記事にもあるように中立的な調査を求めています。

****パキスタン内相、26人死亡の観光客襲撃事件の中立的捜査を要望****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で22日発生した過激派による観光客襲撃事件を巡ってインドから厳しく非難されたパキスタンのナクビ内相は26日、中立的な捜査を求めるとともに、同国は協力する方針で平和を望んでいると述べた。この事件で観光客ら26人が死亡した。

ナクビ氏は記者会見で「パキスタンは真実が明らかにされ、正義が実現されるよう、あらゆる中立的な捜査機関と協力する用意が完全にできている」と表明。パキスタンとしては「引き続き平和と安定、国際規範の順守に取り組むが、自国の主権については一切妥協しない」とも訴えた。

インド警察はパキスタン人2人を含む3人を襲撃に関与した容疑者として発表。インドのモディ首相は24日、襲撃犯を「地の果てまで追いかける」と強い怒りを表した。【4月28日 ロイター】
**********************

印パ両国の衝突は、現在のところは小火器による銃撃にとどまっていますが、過去の類似の事件(2016年及び2019年)へのインド側の反応からすると、今後インドがパキスタンに対する報復攻撃を行うことは不可避と思われます。

****インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するかも...日本人が知らない印パ間の深すぎる「確執」****
(中略)
インドがこれまで以上の強硬姿勢を見せる可能性大
キングス・カレッジ・ロンドンのインド研究所のスリナート・ラガバン上級研究員はBBCに対して、「インドの国内世論やパキスタンに向け、インド政府は決意を示す強力な対応をするだろう」との予測を語った。

そして、「2016年以降、特に2019年以降、報復の基準は越境攻撃または空爆に設定されてきた。今更それより手緩い対応で済ませることは困難だ。パキスタンも報復に出るだろう」との見通しを示した。「インドとパキスタン、それぞれに見通しを誤るというリスクが常に付きまとっている」

ラカバンの挙げた2016年と2019年にはカシミールで両国間の衝突が起こっている。

2016年、インドはパキスタン支配地域にあるとされる武装勢力の発射拠点を攻撃した。これは、カシミールのウリ地区で29人のインド兵が殺害された事件に対する報復だった。

2019年には、インドはパキスタンのバラコットにあるとされる武装勢力の訓練キャンプへの空爆を実施した。これは、カシミールのパルワマ地区で少なくとも40人の準軍事部隊員が殺害されたことへの報復だった。

独立以降、大規模なものだけでも3度戦争…
インドとパキスタンは、1947年の独立以来、カシミール地方を巡って対立を続けてきた。両国ともカシミール全域の領有権を主張しているが、実際には異なる地域をそれぞれ支配している。

この領有権争いは、1947年、1965年、1999年の三度にわたる戦争と、数多くの小規模な衝突、そして現在も続く国境での緊張を引き起こしてきた。

数十年にわたり、インド支配地域では分離独立を求める武装反乱も発生し、数万人が命を落とした。

パキスタンはカシミール人の「自決権」を支持していると主張する一方、インドはパキスタンが武装勢力を支援して越境攻撃を行わせていると非難している。パキスタンはこれを否定している。

現在、インド支配地域とパキスタン支配地域を分断する「管理ライン」は、両国側とも重武装化されている。

トランプだけでなく、イランも反応
今回のテロ事件を受け、世界から様々な反応が寄せられた。

トランプは今回の事件につき、自身のトゥルース・ソーシャルのアカウントに「カシミールでの衝撃的なニュースにつき、アメリカはテロリズム対抗するインドを力強く支持する。犠牲者の魂の安息と、負傷者の回復を祈る。モディ首相と素晴らしいインド国民を、我々は全面的に支援し、深くお悔やみ申し上げる。私たちの心は皆さんとともにある!」と投稿した。

J・D・バンス米副大統領も、自身のX(旧ツイッター)に「ウシャ(妻)と私は、インド・パハールガームでの悲惨なテロ攻撃の犠牲者に哀悼の意を表する。ここ数日間、私たちはこの国とその国民の美しさに心打たれてきた。インド国民がこの悲劇に直面する中、私たちの心と思いは彼らと共にある」と投稿している。

また、パキスタンの隣国であるイランも反応。イラン大使館およびイラン外務省は「この事件は、すべての人権規範に反する凶悪なテロ犯罪である」との声明を出した。

イラン外務省のエスマイール・バーガエイ報道官も、今回の虐殺を強く非難し、被害者遺族に哀悼の意を表した。そして、イランの「あらゆる形態のテロに反対する基本姿勢」を改めて表明し、こうしたテロ行為の「加害者を訴追し処罰するための地域協力の強化」を呼びかけた。

インドとパキスタンは80年近くも「犬猿の仲」であり、何度も衝突を繰り返している。今回のテロ事件をめぐっても、両国とも一歩も引かない姿勢を見せている。両国の関係悪化も、まだ解決の糸口は見えていない。【4月28日 Newsweek】
**********************

【アメリカはインド寄り、イランは中立、中国はパキスタン支持】
ルビオ国務長官は印パ両国に自制を求めつつも、インドを対中国戦略で重視するアメリカ・トランプ政権はインド寄りの姿勢を見せています。

イランは中立的な姿勢で、テヘランがイスラマバードとニューデリーの間で理解を深めるための「善意の仲介」を提供する用意があると述べています(イランの外相セイエド・アッバス・アラグチ氏)。

「一帯一路」でパキスタンとの関係が深い、また、インドと領有権をめぐり争う中国は、パキスタン支持の姿勢です。

****中国とパキスタンの外相が電話会談 中国「パキスタン側の主権を支持」 事態の鎮静化求める****
インドとパキスタンの係争地でテロが起き、両国の緊張が高まるなか、中国の王毅外相は27日、パキスタンのダール外相と電話会談を行い、「パキスタン側の主権を支持する」ことなどを表明しました。(中略)

中国外務省によりますと、中国とパキスタンの外相が27日、電話会談を行いました。会談の中で、ダール外相は「事態の緊迫化を招きかねない行動に反対する」と述べ、「パキスタンは成熟した方法で状況を管理し、中国や国際社会との意思疎通を維持する」と表明しました。

一方、中国の王毅外相は「パキスタン側の主権と安全上の利益を守ることを支持する」と表明。「早期の公正な調査」を求めたほか、両国に対し「自制を保ち、互いに歩み寄り、事態の沈静化の推進を希望する」と表明しました。

パキスタンは巨大経済圏構想「一帯一路」のもと、中国と連携を深めており、今回のインドへの対応に関して、中国に協力を求めたかたちとなります。【4月28日 TBS NEWS DIG】
***********************

【パキスタン閣僚 印が24─36時間内に軍事攻撃との情報 モディ首相「軍に作戦上の自由」】
前出【Newsweek】記事にあるように、2016年及び2019年の類似事件へのインド側の対応を見れば、インドの報復攻撃は不可避のように思われますが、パキスタンはインドが24─36時間以内に軍事攻撃を開始するという信頼できる情報があると明らかにしています。

****印が24─36時間内に軍事攻撃も、パキスタン閣僚「信頼できる情報」****
パキスタンのタラル情報相は30日、インドが24─36時間以内に軍事攻撃を開始するという信頼できる情報があると明らかにした。

インド北部カシミール地方の景勝地パハルガムで先週発生した観光客襲撃事件を巡り、パキスタン人が関与したとインドが主張したことを受け、両国の緊張が高まっている。パキスタンは関与を否定し、中立的な捜査を求めている。

タラル情報相は「インドがパハルガム事件を口実に、24─36時間以内に軍事攻撃を開始するという信頼できる情報がある」とXに投稿。「いかなる侵略行為にも断固として対応する。地域に深刻な結果をもたらせば、責任は全てインドが負うことになる」とした。

インド外務省はコメント要請に応じていない。

パキスタンのアシフ国防相も28日、ロイターのインタビューで、インドによる軍事侵攻が差し迫っていると述べていた。パキスタンは厳戒態勢にあるとした一方、核兵器は「パキスタンの存続に直接的な脅威がある場合」にのみ使用されると述べた。【4月30日 ロイター】
*********************

ロイター記事から半日が経過していますので、タラル情報相が示す情報が正しければ時間的には24時間以内ということになります。

インド・モディ首相も軍の行動にゴーサインを出している旨を明らかにしています。

****印パ係争地でのテロ巡り緊張激化 モディ首相「軍に作戦上の自由」****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で起きた銃撃テロ事件を巡り、インドのモディ首相は29日、「テロに決定的な打撃を与えることは国家的決意だ」と述べた。軍が対応の方法や標的、タイミングを決定する「作戦上の自由を有している」とも発言した。インドメディアが報じた。

長年対立し、共に核兵器を保有する印パ間の緊張が高まっている。

一方、パキスタンのタラル情報・放送相は30日未明、「インドが24〜36時間以内の軍事行動を計画している」との確度の高い情報があるとする声明を発表した。いかなる軍事的な行動にも「断固とした姿勢で対応する」とけん制している。(中略)

報道によると、モディ氏は29日、シン国防相や軍幹部らとの会合に出席し、テロの対応について協議した。【4月30日 毎日】
**********************

【核保有国同士の軍事衝突で懸念される不測の事態 軍事行動以上にパキスタンを追い詰める水資源制限】
現実問題としてインド側の攻撃は不可避として、今後事態がエスカレートするか否かはインド側の攻撃に対するパキスタン側の反撃がどの程度のものになるかにかかっているように思われます。

核保有国同士の軍事衝突のエスカレーションは非常に懸念されます。もちろん両国とも核使用については国の存続にもかかわる問題ですから厳重に管理されているはずですが、ものごと、特に軍事衝突においては、間違い・手違い・想定外のことも起こりやすく、当事国の当初の意図にかかわらずエスカレートしてしまうこともありますので。

建国以来の犬猿の仲の印パ関係にあっては、感情的にエスカレートする危険もあります。

パキスタンが軍事攻撃と並んで警戒するのが、インドがインダス川水資源管理を定めた水利条約の即時停止を打ち出していることです。

****パキスタン、インドの水資源協定停止に法的措置を準備=閣僚****
インド北部カシミール地方で発生した観光客襲撃事件を受け、インダス川の水資源の配分を定めた2国間協定をインド政府が停止したことに対し、パキスタンが国際的な法的措置を準備していることが28日、明らかになった。

パキスタンのマリク法務・司法担当相はロイターに対し、少なくとも3つの選択肢が検討されていると述べ、協定を仲介した世界銀行への問題提起、常設仲裁裁判所(PCA)やハーグの国際司法裁判所(ICJ)への提訴に言及した。

「法的戦略に関する協議はほぼ完了した」とし、どの手続きを進めるか「間もなく」決定すると述べた。複数の手段を講じる可能性が高いとの見通しを示した。

さらに、4つ目の外交的選択肢として、国連安全保障理事会(安保理)への問題提起も検討していると明らかにした。

同氏はあらゆる選択肢を検討しており、関連する全ての国際機関に問題を提起する用意があると説明した。「条約は一方的に停止できるものではなく、そのような規定は条約に含まれていない」と主張した。【4月29日 ロイター】
*******************

過去の事例にならった軍事行動の方は双方で管理されている限り、ある種パフォーマンス的な側面がありますが、パキスタンの水資源利用が制限されるとなると、真綿で首を締めるようにパキスタン側の生活・産業に多大な影響を与える死活的な問題となります。

“インダス川の水はパキスタンにとって、欠かせないものです。主要産業の1つでもある農業の多くが、この水に頼っているからです。”【4月28日 NHK】

もしインドがここに手をつければ、「水利条約破棄は戦争行為とみなす」とするパキスタン側のインド領内のダム破壊攻撃など、より本格的な軍事行動を惹起する危険性があります。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カナダ・オーストラリア  ... | トップ | インド  独立以来初となる... »
最新の画像もっと見る

南アジア(インド)」カテゴリの最新記事