孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

問われる原発の安全性  仏低レベル核廃棄物処理施設で爆発事故 イランのブシェール原発が稼働

2011-09-13 21:12:20 | 原発

(爆発事故があったフランス南部マルクールの低レベル核廃棄物処理施設 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6140903021/

【「原子力事故ではなく産業事故だ」】
12日、フクシマの事故を教訓にして、原発の安全強化に向けた行動計画案を協議する国際原子力機関(IAEA)の定例理事会がウィーンで始まりましたが、丁度その日、フランス南部のマルクールの核再処理施設で爆発事故が起き、少なくとも1人が死亡、4人負傷しました。

この施設は複数の原子力施設が混在する核複合施設で、原子力庁の研究センターや仏電力公社の子会社の核廃棄物処理会社などが運営し、原子力発電所の使用済み核燃料からMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)を抽出する再処理関連施設です。
爆発で火災も起きましたが、事故発生から約1時間後に鎮圧され、「放射能漏れはなく、建物も壊れていない」(ジャック・ロシャール所長)とのことです。

“フランスの原子炉は58基で米国に次いで世界2位。全発電量の約74%を原発に頼る。原子力事業は輸出の主力産業に成長し、サルコジ大統領は福島の事故後、フランスの原発の安全性を強調し、6月には最新鋭原発開発への投資を表明、ドイツやスイスが「脱原発」にかじを切る中、原発推進の立場を鮮明にしている。”【9月13日 産経】という「原発大国」で起きた事故だけに、その影響が注目されます。

****仏核施設爆発:仏環境相が現地で安全性強調 原因は示さず****
フランス南部マルクールの低レベル核廃棄物処理施設で12日起きた爆発事故で、仏のコシウスコモリゼ環境相は同日、現地を訪問し、「放射性物質の漏出はない」と安全性を強調した。だが仏原子力庁(CEA)など仏当局は事故原因や、作業場からの放射能漏れに関する防止体制などを示しておらず、今後、仏政府は詳しい説明を求められそうだ。

現場を訪れた環境相は、犠牲者家族との面会後、「施設の内外で放射線は検知されておらず、心配ない」と強調。一方で、事故原因については「分からない」と述べた。環境相によると、現在、仏原子力当局や警察が原因を調査中という。

事故は現地時間の12日昼ごろ発生。仏電力最大手・フランス電力公社(EDF)の関連会社が運営する施設で、金属などの核廃棄物を溶融する際、爆発が起きた。死亡した作業員は全身を焼かれ即死状況で、他の作業員1人も「重篤(じゅうとく)状況」(CEA関係者)という。

事故後、仏政府やEDFなどは「被害者には放射能汚染はなく、原子力事故ではなく産業事故だ」「作業現場の放射線レベルは非常に低い」と強調。周辺の土壌などの検査はするが「事故による環境への影響はない」としていた。

だがCEA関係者は事故直後、毎日新聞に「低レベルの放射能漏れの危険性がある」と説明。また12日付フィガロ紙(電子版)によると事故のあった溶融炉は12年前の稼働時から、仏当局が「従業員の保護対策が不十分」と指摘していたという。同紙によると、溶融炉は金属などの核廃棄物を1600度で溶融、廃棄物処理のために体積を縮小するのが目的という。

一方、AFP通信によると、隣国イタリア政府幹部らは事故に関し、「隣国の核施設が事故を起こした際は我々も(被害に)巻き込まれる」と発言。「状況を注視している」と、核施設の脆弱(ぜいじゃく)さに懸念を示した。またグリーンピースなど環境保護団体は「周辺住民に事故状況を即刻、通報すべきだ」と核関連事故での情報の透明性を求めた。【9月13日 毎日】
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ニューヨーク・タイムズによると、この施設では工具やポンプなど金属廃棄物を溶かしているほか、技術者の防護服や手袋といった可燃性の低レベル放射性廃棄物の処理が行われているということで、そう聞くと「原子力事故ではなく産業事故だ」といった関係者の発言も、「そうかもね・・・」とも思われます。
ただ、ル・モンド紙によれば、爆発が起きた溶融炉には約4トンの放射性廃棄物があり、約6万7000ベクレルの放射能が含まれていたとのことですが、これがどの程度の危険性を有するものなのかは素人にはわかりません。

仏原子力安全局(ASN)は発生から約4時間半後の12日夕(日本時間同日深夜)、「事態は収束し、危機対応態勢を解除した」と発表しています。

原発周辺には数百メートルおきに監視所や対空ミサイルが
原発関連で、もうひとつニュースが。
イラン南部のブシェール原子力発電所(出力100万キロワット)が運転を開始し、12日、建設を担ったロシア側関係者も出席して記念式典が行われました。同原発は中東のイスラム諸国では初の商業用原発となります。

****イラン:南部のブシェール原発が稼働 中東で初めて****
イラン南部のブシェール原発が12日、稼働し、電力供給を始めた。中東地域で初めての原発稼働で、トルコやヨルダンなど周辺国の原発建設も加速するとみられる。福島第1原発事故で原発の安全性が問われる中、情勢不安定な中東での原発稼働には懸念も高まる。

原発は加圧水型軽水炉で、出力100万キロワット。イラン国営テレビによると、12日はまだ低出力による運転だが、年内には最大出力での運転が可能になるという。現地であった稼働式典で、イランのアッバシ原子力庁長官は「イランの科学者は福島原発の惨事から教訓を学んだ」と安全性を強調した。

ブシェール原発は昨年、コンピューターウイルスの攻撃を受けて状態が一時、不安定になり「原子炉が崩壊する恐れがあった」との分析もある。イランの周辺国やテロリストからの攻撃の危険性も否定できず、原発周辺には数百メートルおきに監視所や対空ミサイルが置かれている。

ブシェール原発は70年代に建設が始まったが、イラン・イラク戦争でイラク軍に攻撃を受けて中断。90年代にロシアの支援で再建が始まったが、米国の意向を受けてロシアが繰り返し稼働を延期した。その後、ロシアが核燃料を管理することを条件に原発稼働準備が進められた。【9月13日 毎日】
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ブシェール原子力発電所の核燃料はロシアが管理することになっているため、兵器転用の恐れはないとしてアメリカもその稼働を容認しています。
核兵器の開発疑惑を抱えて国際的に孤立するなかで、同原発稼働によって、イランは「核の平和利用」をアピールするとみられています。

ただ、同原発に関しては、イランの核開発を安全保障上の最大問題のひとつと見るイスラエルの存在や、反政府勢力支援を嫌うスンニ派アラブ諸国との関係もあって、上記記事にある“周辺国やテロリストからの攻撃の危険性”が懸念されていますが、“地震多発地帯に位置するため、風下にあたるクウェートなどペルシャ湾岸諸国からは安全性を疑問視する声も出ている。”【9月12日 朝日】という不安もあるようです。
対空ミサイルで守られた原発というのも、考えてみると物騒です。

稼働を一応容認しているアメリカからは、イランが原子力安全条約を批准していないことへの批判があります。
****イラン:ブシェール原発 米が安全性への懸念表明****
米国務省のヌランド報道官は12日の記者会見で、ブシェール原発の電力供給開始の式典が開かれたことについて「イランは原子力安全条約を批准せずに原発を稼働させている唯一の国だ」と述べ、安全性に懸念を示した。
同条約は、1996年に発効した原子力施設の安全に関する初の国際条約。報道官は「福島第1原発の事故があった今、非常に心配(な事態)だ」と強調した。

さらに「式典を行っても、イランが国際社会や国際原子力機関(IAEA)の義務に従わなければならないことに変わりはない」と述べた。(後略)【9月13日 毎日】
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ブシェール原発の地元で反原発運動
注目されるのは、イラン国内の地元でも住民による反原発運動があったとのことです。
****イラン:稼働のブシェール原発 地元では反原発運動起こる*****
12日に稼働したブシェール原発の地元で、今年1月に反原発運動が起きていたことが複数の住民の証言で分かった。国策への批判を厳格に取り締まるイランで、反原発運動が起きるのは異例で、国内外のメディアは一切報じていない。イラン政府は「原発の安全性は世界最高水準」と強調するが、住民は情報不足の中で不安を募らせている。

ブシェール在住のタクシー運転手(42)らによると、ブシェール原発近くの住民ら約300人が今年1月、ブシェール州庁舎前に集結。原発稼働計画を中止するよう求めるプラカードを掲げて抗議した。地元当局が原発計画の当初に約束したとされる、原発周辺住民の集団移転も実現しておらず「約束を実行しろ」などと要求。多数の警官が制止し、集団を解散させたという。
福島原発の事故後、住民の不安は一層高まる。この運転手は「技術の優れた日本ですら事故が起きた。イランで安全と言い切れるわけがない」と話す。

また、海岸近くの雑貨店主の男性(36)も「ここは漁業の町。原発事故による放射能汚染で影響が出たら深刻な事態になる」と不安を漏らした。今年5月には数日間、原発の建物上部から白い煙が上がったが、何の説明もなく、近隣住民が騒然となったという。

イランには環境問題のNGO(非政府組織)が複数あるが、事実上政府の管理下にあり「反原発」を公言する組織はない。イラン原子力庁は「原発に関する個別の取材には応じない」としている。【9月13日 毎日】
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反対運動の性格についてはわかりませんが、こうした活動が行われたこと自体が、イラン社会の現状を考えるとき、興味深いものがあります。
イランは、過激なイスラム原理主義に導かれた宗教国家というイメージがあります。また、欧米諸国と激しく対立するアフマディネジャド大統領の言動からのイメージもあります。

実際、最高指導者ハメネイ師の存在のような宗教優位のシステムとか、強権的な反政府デモ弾圧など、イランの政治体制は欧米的な民主主義体制とは異なるところが多々ありますが、一定に選挙を通した民意が反映するシステムでもあり、全くの宗教独裁国家という訳でもありません。

国家政策としての原発に反対するようなデモなど起こり様がない国は世界に多くありますし、“警官が制止し、集団を解散させた”だけではすまない国も少なくありません。
イランの“普通の国”の側面を垣間見るという意味で、今回デモを興味深く感じた次第です。

【“強制”から“自主的招待奨励”へ
話を原発の安全性の問題に戻すと、国際原子力機関(IAEA)の理事会は13日、原発の安全性強化に向けた「行動計画」案を採択しました。
加盟国間で原発の安全対策を評価する専門家チームを派遣し合う「ピアレビュー制度」を「強制」化しようとした原案から加盟国の義務的要素が削除されたため、規制強化を求める欧州諸国などから有効性を懸念する声も上がったようですが、迅速な実施を優先することで一致したとのことです。

****IAEA:原発調査「強制」巡りせめぎ合い 行動計画案****
東京電力福島第1原発事故から間もなく半年。世界の関心が次第に薄れていく中、原発の安全性強化に向け国際原子力機関(IAEA)がまとめた行動計画案は、IAEAによる「強制」を嫌う加盟国とのせめぎ合いの中で見直しを余儀なくされた。「現実路線に落ち着いた」との冷めた見方がある一方、実効性を疑問視する声も出ている。

大きな焦点の一つは、加盟国間で原発の安全対策を評価する専門家チームを派遣し合う「ピアレビュー制度」の扱いだった。IAEAは8月22日付の第1次修正案で「加盟国はピアレビューの定期的な招待を“約束”する」との一文を盛り込んだ。しかし、1週間後の29日に出された第2次修正案では「“自主的な”招待が強く奨励される」との表現に後退した。

ピアレビューは、原発の安全運転調査団(OSART)や原子力規制調査団(IRRS)などによる評価の総称。天野之弥IAEA事務局長は6月の閣僚級会議でピアレビューの強化を打ち出していた。特に、世界で稼働中の原発約440基から10%分を無作為に抽出し、3年間でOSARTを派遣する考えは天野提案の目玉だった。だが、この提案も最終的に、原発保有国への3年以内の最低1回のOSART派遣に変わってしまった。

ウィーン外交筋の一人は「10%の無作為抽出をどのように行うのか、多数の原発を評価するための人的、資金的な手当てをどうするのかも不明確だった」と振り返る。
また、別の外交筋は「安全強化策の最低ラインを定める現実路線で落ち着いた。行動計画が原案段階から後退したと言われるが、福島原発事故前に比べれば格段の進歩だ」とも話す。

IAEAの原子力安全分野に、核不拡散分野の「査察権」と同様の強制力を持たせることも検討された。だが、自国の原発政策の独立性を維持したい米国や、厳しい規制の導入に慎重なインドや中国などは、IAEAへの強制力付与に概して消極的と言われている。
天野事務局長は加盟国の協力を得てIAEAの指導力強化を図る道を模索。そうした中でIAEA主導の行動計画が見直しを迫られたことに、西欧諸国などからは「期待通りにはいかなかった」との声も上がっている。【9月6日 毎日】
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1 コメント

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どこのドイツ (ガーゴイル)
2022-01-24 18:27:27
払頁島は南極の島である。
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