(マクロン仏大統領 7月20日、ブリュッセルで撮影【7月23日 ロイター】)
【カショギ氏婚約者、フランス大統領も】
現代社会はAI、インターネット、各種通信技術、あるいは監視カメラなどの発達によって非常に便利なった半面、個人のプライバシーが国家などによって監視される危険もある「監視社会」であることは、いまや常識です。
そういう「監視社会」にあって、イスラエル製のスパイウェア「ペガサス」への懸念が広がっています。
****イスラエル製スパイウエアの監視リスト流出、携帯番号5万件超 記者や国家元首も****
イスラエルの民間企業NSOグループが開発した携帯電話向けマルウエア(悪意のあるソフトウエア)が、世界中の人権活動家やジャーナリスト、企業経営陣、政治家らの監視に使われていたことが18日、流出した5万件超の携帯電話番号リストをめぐる国際的な調査報道で明らかになった。
NSOグループはかねて、各国政府にスパイウエアを提供していると非難されている。米ワシントン・ポスト、英ガーディアン、仏ルモンドなどが加わった調査報道では、NSOが開発したマルウエア「ペガサス」が世界中の顧客によって悪用されている恐れがこれまでの想定以上に大きいことが分かり、プライバシーや人権の侵害を懸念する声が広がっている。
調査報道によると流出したデータは、2016年以降にNSOの顧客が要注意人物として特定したとみられるスマートフォンの電話番号5万件以上のリスト。掲載された電話番号のうち、実際にハッキングや監視の標的となった電話の数は不明だという。
ワシントン・ポストは、掲載された電話番号37件について該当するスマートフォンを犯罪科学的分析にかけたところ、端末へのハッキングの「試みと成功」が確認されたと報じた。うち2件は、2018年に殺害されたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏と親しかった女性2人の電話の番号だったという。
ガーディアンによれば、リストに電話番号が記載されていた記者の所属する報道機関は、フランス通信、ウォールストリート・ジャーナル、CNN、ニューヨーク・タイムズ、アルジャジーラ、フランス24、ラジオ・フリー・ヨーロッパ、メディアパルト、パイス、AP通信、ルモンド、ブルームバーグ、エコノミスト、ロイター通信、ボイス・オブ・アメリカなど。
ワシントン・ポストによると、調査報道ではリストに掲載された電話番号のうち50か国以上にまたがる1000件超を特定した。複数のアラブ王族、企業経営陣65人以上、人権活動家85人、ジャーナリスト189人、政治家・政府関係者600人以上が含まれ、国家元首や首相、閣僚の電話番号もあったとしている。
ペガサスは侵襲性の高いスパイウエアで、標的のスマートフォン内のデータへのアクセスはもちろん、カメラやマイクの機能を強制的にオンにでき、携帯電話をまるで小さなスパイのように利用することが可能になる。 【7月19日 AFP】AFPBB News
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“標的のスマートフォン内のデータへのアクセスはもちろん、カメラやマイクの機能を強制的にオンにでき、携帯電話をまるで小さなスパイのように利用することが可能”・・・個人情報は丸裸にされてしまいます。
国際情勢を震撼させたサウジアラビアによるジャーナリスト・カショギ氏殺害に、この「ペガサス」がどのように関与したのかはわかりませんが・・・・。
****イスラエル製ソフトで記者監視か カショギ氏婚約者の携帯も標的****
(中略)2018年にトルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害されたサウジ人記者、ジャマル・カショギ氏の婚約者も標的になっていたという。
(中略)カショギ氏の事件では、発生数カ月前に婚約者の携帯が標的になったという。
NSOは18日、同紙などの調査報道について「裏付けがなく、誤った主張だ」と否定。イスラエル政府はこれまでペガサスの輸出を許可してきたが、イスラエル国防省は19日、ペガサスの使用方法に問題があった場合は「適切な措置を取る」との声明を出した。【7月20日 毎日】
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リストに掲載された電話番号には政治家・政府関係者600人以上が含まれていますが、その一人がフランスのマクロン大統領。
****マクロン仏大統領の電話、スパイウエアの標的に 流出リストで発覚****
世界各国の首脳などを狙った電話のハッキングソフトウエアの標的に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が含まれていると、大手メディアなどが報じた。(中略)
NSOグループは疑惑を否定しており、ソフトウエアは犯罪者やテロリストの監視に使われるものだと説明。ペガサスは人権について評価の高い軍や法執行機関、情報機関にのみ提供していると述べた。
一連の報道に結び付いたのは、パリを拠点にする非政府組織(NGO)「フォービドゥン・ストーリーズ」と、人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルによる調査。これについてNSOグループは、「間違った推測と根拠のない論説にあふれている」と述べている。
仏紙ル・モンドは、モロッコの情報機関が、マクロン大統領が2017年から使用している電話端末を特定したと報道した。
これに対しモロッコは、NSOグループの顧客ではないと反論している。
問題のリストに載っているからといって、ソフトウエアが使われたとは限らないが、掲載された番号を利用する人物が標的候補であることを意味する。マクロン大統領の電話端末にこのソフトウエアがインストールされたことがあるかどうかは不明だ。
大統領や首相、国王の番号も
リストには、イラクのバラム・サリフ大統領や南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領に加え、パキスタン、エジプト、モロッコの各首相、さらにはモロッコのムハンマド6世の電話番号が含まれていると報じられている。
また、世界34カ国の政府高官や政治家、あわせて600人以上の番号も記載されていたという。
フランスの大統領府は、この報道が真実であれば、非常に深刻な事態だと述べている。
BBCのゴードン・コレラ・セキュリティー担当編集委員は、今回の発覚によって、各国首脳を監視できる環境が売りに出されている可能性があること、それをより広範囲の国々が入手可能なことが明らかになったと指摘。
リストに載っているうち、実際にどれだけの番号が標的にされたかは不明だが、その可能性があると示されただけでも、NSOグループや、他国の首脳にスパイ行為を行っていた国にとっては圧力になると分析している。【7月21日 BBC】
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【笑わせる提供企業の馬鹿げた言い訳】
真相はわかりませんが、「ソフトウエアは犯罪者やテロリストの監視に使われるものだ」「ペガサスは人権について評価の高い軍や法執行機関、情報機関にのみ提供している」というNSOグループの言いぐさは笑止です。
人権意識の高い軍や法執行機関、情報機関・・・そんなものが世界のどこにあるというのでしょうか?
ほぼすべてのその種の機関にとって、人権活動家、政府批判ジャーナリスト、あるいは外交的に問題がある相手国の国家元首は、犯罪者やテロリストと「同じようなもの」でしょう。
日本の公安もこの「ペガサス」利用を検討したそうです。【下記 JBpress記事】
予算や法的問題もあって、契約には至らなかったとのことですが、いったい誰の監視を依頼しようとしたのでしょうか?
【高価だが、民間のソフトウェアとしては最強の優れモノ】
こういう話を聞くと、「自分のスマホは大丈夫だろうか?」という心配も生じますが、大丈夫です。
「ペガサス」は私のような“ちんけ”な一般庶民を相手にするものではなく、国の軍・情報機関などが数千万円、数億円規模の資金(10人監視の場合で設置料金を含めると1億円以上)を投じて、その費用に見合う相手を監視するものです。
逆に言えば、監視する側にすればそれだけの資金を投じる「価値」がある“優れモノ”だということです。
****こっそりスマホの情報を強奪、暴かれた「スパイウェア」の脅威****
イスラエルの悪名高いスパイウェア(監視システム)が大きなニュースになっている。(中略)
5万台以上のスマホが監視下に
NSOグループが開発したのは「ペガサス」と名付けられたスパイウェア。同グループはこれを世界の国や法執行機関などに販売してきた。ペガサスは、その“性能”の高さから世界のサイバーセキュリティやインテリジェンス専門家の間では非常に有名なソフトウェアである。(中略)
筆者は、サイバー攻撃やスパイ工作をテーマに取材する過程で、このスパイウェアについても何年も前から動向を注視してきた。本記事では、日本ではあまり知られていないスパイウェアの実態をまとめてみたいと思う。
スパイウェアがあればスマホのマイクは盗聴器に、カメラは監視カメラに
筆者が取材してきた国際機関の関係者や情報機関関係者らが口を揃えるのは、ペガサスが非常に優れた監視ソフトだということだ。民間のソフトウェアとしては最強だと言ってもいいかもしれない。
このシステムは、スマホなどにたやすく潜入することができ、通話やメールだけでなく、位置情報や連絡先、カレンダーに至るまで、すべての個人データを収集し、監視することが可能になる。
さらには、スマホのマイクやカメラの機能を乗っ取って勝手に操作し、盗聴器や監視カメラのような監視ツールとして使うこともできるという。しかも驚くことに、そうした工作の形跡を一切残さないとも言われている。
それだけに価格も非常に高価である。まず、50万ドルという一律の設置料金に、監視ターゲット1人につき料金が加算される仕組みだ。例えばiPhoneユーザー10人の監視をするなら、追加で65万ドルが請求されることになる。アンドロイドのスマホを使うターゲットも10人で65万ドルほどと言われている。
さらに維持費として、年間に支払っている金額の17%を支払う必要があるという。ペガサスを導入していたメキシコ政府は、8000万ドルほどをNSOグループに支払っていたと明らかになっている。
NSOグループは、2010年にイスラエルで設立されている。イスラエル軍でサイバー作戦を担う「8200部隊」の関係者による資金援助などで立ち上がった同社は、イスラエルの大都市テルアビブに近いヘルツリーヤという地域に本社を構えている。(中略)
NSOグループのパンフレットによれば、「NSOはサイバー戦争の分野をリードする企業」とされ、サイバー防衛だけでなく攻撃的なサイバー攻撃で当局の技術的な側面を支える、と喧伝している。つまり、サイバー攻撃やハッキングなども行う、という意味だ。
サイバー攻撃というのは、その9割以上が、電子メールから始まると言われる。ペガサスの監視システムによるサイバー攻撃も例外ではなく、電子メールから始まることが多い。
明らかになっているその手口によれば、ターゲットになった人のスマホに、まずは知り合いを装って電子メールやSMS(ショートメッセージ)を送る。そしてメールやSMSに貼り付けられたリンクをクリックさせたり、添付ファイルを実行させたりする。それだけで、そのスマホを乗っ取ることができるのだという。
成功率も高いという。友人や知人、家族などを装ってメールやSMSを送ってくるから、サイバー攻撃の罠が仕掛けられたこの「偽メッセージ」が怪しいと思われることはまずない。受信者は添付写真やリンクを、疑うことなくクリックしてしまうのだ。
スパイウェアの販売先は厳格に選別されているというが・・・
もちろんこのサイバー攻撃が無差別に行われるようなことになれば、倫理的、人権的に大きな問題となる。
NSOは、スパイウェアを売却する相手を厳格に選別しているとし、売却先は基本的に政府または各国の捜査当局や情報機関などに限定している、と主張する。さらに、契約時には監視対象をテロ集団や犯罪組織に限るよう約束させているとしている。
だが、「実際には制限は行き届いていない」との批判も多い。なにしろ、ペガサスを導入した国が、真っ当なジャーナリストのことを「あいつはテロリストだ」と言ってしまえばそれまでである。事実、先に触れたメキシコもジャーナリストを監視対象にしていた。
サウジが暗殺したカショギ氏周辺もペガサスの標的に
(中略)
ちなみに世界には、NSO以外にもスパイウェアを販売している企業がある。イギリスには、ガンマ社という企業が「フィンフィッシャー」というスパイウェアを販売しているし、イタリアにはハッキングチーム社(現在は社名を変更して活動しているとみられている)が同様のスパイウェア「ガリレオ」を提供してきた。
このハッキングチーム社は、2015年に同社の電子メールがハッキングされて漏洩し、同社の顧客情報などが漏れてしまうという笑えない騒動を起こしている。
これにより同社の信用は失墜した。ちなみに当時の顧客には、ウガンダ、ウズベキスタン、エチオピア、オマーン、カザフスタン、サウジアラビア、スーダン、ナイジェリア、ハンガリー、ベネズエラ、マレーシア、ロシアといった国々の情報機関が含まれていた。特に独裁色の強い国家に重宝されていた。
しかし顧客はそればかりではなかった。CIA(米中央情報局)やDEA(米麻薬取締局)、スペインの情報機関であるCNI(国家情報センター)、シンガポールのIDA(情報通信開発庁)、そして韓国の国家情報院もシステムを購入していたのだ。ドイツの民間銀行や、イギリスの通信会社も導入していたと指摘されている。
実は日本の情報機関も、このサイバー攻撃による監視システムの導入を検討していたことが判明している。公安調査庁は2015年、庁内でこのスパイウェア商品のデモンストレーションをハッキングチーム社から受けていたことが明らかになっている。ただし予算や法律に問題があったようで、実際には導入に至らなかったそうだ。
それでもこのスパイウェアに興味を示し、実際にそれを目にしたというのは情報機関としては正しい動きだったと言えるだろう。どんなスパイウェアが世の中にあるのかを知るのは有益だからだ。
スパイウェアへの対策が不可欠な時代に
筆者の知人に、これらのスパイウェアのデモンストレーションを間近で見たことがあるという人物がいる。その人によれば、目の前であっという間に説明を受けている側のスタッフの電子メールの内容などが丸裸にされたという。とんでもないシステムだと、この人物は評していた。
とにかく、これらの監視システムは、強権国家の手に渡れば、人権を無視して悪用される可能性が高い。だからこそ、世界の人権団体や報道機関が調査を行なって動向をチェックしてきた。
今回の調査報道によって、スパイウェアの実態が広く世界に知られることになった。しかしデジタル化が進む世界では、われわれの個人情報や生活の実態は、スパイウェアと“悪意”とを併せ持つ何者かがいれば簡単に丸裸にされ、監視まで容易になる。
5G(第5世代移動通信システム)が普及すれば社会のデジタル化はいっそう進む。その前に、こうしたスパイウェアに関しては、個人レベルでも政府レベルでも、何らかの対策が必要になるだろう。【7月21日 山田 敏弘氏 JBpress】
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マクロン大統領は“とりあえずの対策”として、携帯電話を替えたそうです。
****仏大統領、携帯電話を変更 スパイウエア「ペガサス」巡る懸念で****
フランスのマクロン大統領の携帯電話がイスラエル企業が開発したスパイウエア「ペガサス」の標的になっていた可能性があるとの報道を巡り、フランス大統領府の関係者は22日、マクロン氏が携帯電話と電話番号を変更したと明かした。
ロイターに対し、「マクロン氏は複数の電話番号を保有した。これはマクロン氏がスパイウェアの標的になっていたことを意味しない。セキュリティーを強化しただけだ」と述べた。フランス政府のアタル報道官は今回の件を受け、大統領のセキュリティープロトコルを変更していると述べた。【6月23日 ロイター】
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ロイターに対し、「マクロン氏は複数の電話番号を保有した。これはマクロン氏がスパイウェアの標的になっていたことを意味しない。セキュリティーを強化しただけだ」と述べた。フランス政府のアタル報道官は今回の件を受け、大統領のセキュリティープロトコルを変更していると述べた。【6月23日 ロイター】
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悪意ある者の手にかかると、知識も何もない私みたいな人間はなすすべもない・・・そんな時代になったようです。便利でけどね・・・。
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