孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  暴力を駆使する権力はなかなか倒れないことを示したマドゥロ政権 今年は?

2018-01-01 21:20:24 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ首都カラカスでの食料品不足に対する抗議デモで、警官らと押し合いになる参加者ら(2017年12月28日撮影)【2017年12月31日 AFP】)

権力によるむき出しの暴力が支配するベネズエラ
南米ベネズエラは、世界一の原油の確認埋蔵量を誇り、かつては南米で最も裕福な国でした。

そのベネズエラで、国民がまともに食事もとれなくなるほどの失政を続けながらも、むき出しの権力は暴力によって国民不満をねじ伏せてでも存続しうることを昨年1年間世界に示したのがマドゥロ政権でした。

****ベネズエラの闇、当局による市民殺害の実態****
治安部隊や警察、2015年以降で8292人を殺害

軍の基地で拷問を受けた若い男たちは、ジープ2台に乗せられベネズエラの首都カラカス郊外にある雑木林へ連行された。暗闇の中で顔はTシャツで覆われ、両手は後ろ手に縛られていた。

地面に掘られた穴まで連れて行かれると、兵士らは男たちの首をめがけて鉈(なた)を何度も振り下ろした。崩れ落ちるよりも早く、ほとんどが絶命した。中には大量に出血したまま生き埋めにされた人もいた。(中略)

2016年10月にバルロベントで発生したこの事件を捜査したムンダレイ氏は、遺体の掘り起こし作業も指揮した。筆舌に尽くしがたい暴力がはびこるベネズエラでも、治安部隊によるこの1件は特に血なまぐさいケースだ。

検察、犯罪学者、そして人権活動家によれば、同国の警察や軍の兵士による殺害事件は増え続け、エスカレートしている。
 
8月に隣国コロンビアへ亡命したベネズエラの元検事総長、ルイサ・オルテガ氏によれば、2015年から今年上半期までの間に同国の警察や治安部隊、軍、そして捜査機関に殺害されたのは8292人。

軍などの作戦は、左翼過激派運動の巣窟となってきた貧困地域を標的にしていると同氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで明かした。これら地域は犯罪がまん延しているものの、警察などの対応は見当違いで手荒すぎるとオルテガ氏や他の人権活動家らは指摘する。

一方、ニコラス・マドゥロ大統領は政府が人権を尊重していると述べつつ、海外からの影響を受けた犯罪活動が国を不安定にする中、政権は力を持って対応しなければならないと話す。

故ウゴ・チャベス元大統領が大統領に就任した1999年、ベネズエラの殺人発生率は10万人あたり25件だった。ギャング活動やコカイン取引のまん延を受け、2016年にはその率が10万人あたり70件に増えた。

統計データによれば、これはエルサルバドルに次いで世界で2番目に高い。マドゥロ氏は「気を緩めることはできない」とスピーチで述べている。(中略)
 
これら殺害事件の法医学的証拠や貧困地区で聞かれた証言は、当局による行動がほとんどのケースで正当防衛に当たらないことを示している。
 
カラカスを拠点にする人権活動団体「犠牲者家族会(Cofavic)」によれば、2012年から今年の第1四半期までに確認された超法規的な処刑は6385件。同団体はこれが国による社会浄化作戦の一環であり、法的根拠のない不当な判断だったとしている。(中略)
 
ベネズエラ経済はここ1年で深刻な不況に陥り、生命線である原油生産量は13カ月にわたり減り続けている。爆発的なインフレはいよいよハイパーインフレになり、流通貨幣はゴミ同然だ。何百万人もの国民は日々の食事を確保することに必死の生活を続ける。

機能不全に陥った国家でよく見られるように、独裁色を強めるベネズエラ政府も国民からの支持を得ようと動き、貧困街を襲撃しては当局が犯罪者と断定する人々を次々と抹殺している。
 
(亡命したオルテガ氏とチームを組んで活動するベテラン検察官の)ムンダレイ氏は「政府の政策の狙いは犯罪者を拘束することではない」とし、「警察は腐敗し、刑務所や法廷も秩序が保たれていないため、殺害する道が選ばれている」と続ける。
 
オルテガ氏のチームや犯罪学者、そして殺害された人物の親族らは、「警察に抵抗した」ことを根拠に殺害したとするため、当局が現場や報告書の内容をねつ造し、警察側が危機にさらされていたように見せかけていると話す。
 
だがまっすぐに心臓を撃ち抜かれている複数の遺体を目にしてきたムンダレイ氏は、銃撃戦の末に殺害したという報告書の内容は事実と一致しないと述べる。「銃弾は胸部に対していつも垂直に撃ち込まれ、上半身を前から後ろへ貫通している」とし、「これは双方が衝突した場合は起こらない。統計的に見ても、このようなことにはならない」という。(中略)

バルロベントの殺りく
13人が殺害されたバルロベントの事件はカラカスのニュースサイト、ランラネスの記者たちが最初に詳細を報じた。

13人のうち10人は鉈で攻撃され集団墓地に埋められ、2人は射殺、残り1人は拷問死した。今もその他に5人が行方不明のままだ。
 
WSJが確認した軍の関係資料によれば、事件は「ボリバル主義の政府に対する陰謀が渦巻いている」と治安部隊が考えていたことに端を発している。

軍幹部はこうした内部の勢力が麻薬取引や誘拐、強盗、そして恐喝に関与しているとみて、「暴力を引き起こしているグループらをなるべく早く排除することが、最終的に求められている結果だ」としていた。
 
商船で働く船員のエリエゼル・ラミレスさん(22)は昨年10月16日に休みを取りバルロベントにある自宅にいるところを、他の十数人と一緒に軍によって連れ去られた。

事件を捜査した検察官や連れ去られたうちの2人がWSJに明かしたところによれば、彼らは軍の基地に連行され暴行を受けた。兵士たちは地元のギャングに関する情報を求めていたという。
 
「わたしたちが水を飲ませてくれと頼むと、口の中に拳銃を押し込まれた」と一人は振り返る。WSJの取材に応じた別の人物によれば、基地では夜になると「誰かが叫んでいる声が聞こえた」という。
 
関与した兵士が取り調べを受けて事件の内容を打ち明けたことで、この1件は明らかになった。現在、複数の兵士が訴追され、裁判の開始を待っている。

殺害されたラミレスさんの母、カルメン・コルデロさんは「彼らはギャングを殺したと主張しようとしているが、実際は無実のいい子たちだった」と話す。カラカスでメードとして働くコルデロさんは、時間があれば墓地を訪れて息子が埋葬された墓の世話をしている。
 
コルデロさんはなぜ自分の家族にこのような悲劇が降りかかったのかと自問するという。「政府が大いに関わっていると私は常々言っている。でも、犯人を一人もつかまえていない」。コルデロさんはそう言うと、「私たちは『なぜ、どうして彼らはこんなことをするのか』と自問するばかりだ」と話した。【2017 年 12 月 22 日 WSJ】
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権力の暴力は、政府に批判的なメディア・ジャーナリストにも向けられています。

****ベネズエラ、2017年に70のメディア閉鎖 記者への暴行も増加****
ベネズエラの報道機関の主要労組である「SNTP」は27日、同国で今年、新聞社やテレビ・ラジオ局など70のメディアが閉鎖に追い込まれた上、記者に対する暴行も増加したと発表した。同組合はニコラス・マドゥロ政権が報道機関を「封殺」しようとしていると非難している。
 
SNTPによると、ここ1年でラジオ局46社、テレビチャンネル3局、新聞およそ20紙が閉鎖され、さらにジャーナリストに対する暴行が498件、逮捕が66件あったという。
 
ベネズエラはハイパーインフレに加え、食料・医療品など、慢性的な生活必需品不足に陥っているが、同組合はマドゥロ政権が悪化する経済や社会状況への不満をどんな犠牲を払ってでも抑え込もうとしていると指摘している。
 
また、暴行のほとんどは今年4月から6月にかけて行われた反政府デモで発生し、組合によるとデモで死亡した125人のうち約7割は警察か軍隊の手で殺害された。
 
一方で2016年は、メディア関係者に対する暴行が26.5%上昇し、報道従事者らに対する侵害行為は360件発生していたという。【2017年12月28日 AFP】
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【「ハムを寄越せ!」抗議デモ 安いハムに並んでいた妊婦は射殺
このようなマドゥロ政権による、なりふり構わない批判封じ込めが行われる中にあっても、国民の抗議の声が噴き出すことも。

****ハムを寄越せ!」 年末年始の伝統食材不足でベネズエラ国民が抗議****
慢性的な物資不足に陥っている南米ベネズエラで、クリスマスと新年の伝統的な食事までがその影響を受け、不満を抱く国民の間で「ハムを寄越せ!」が抗議デモの新たなスローガンになっている。
 
世界一の原油の確認埋蔵量を誇り、かつては南米で最も裕福な国だった同国だが、ハムなどの必需品や、水、電力の供給不足に耐えかねた人々の街頭抗議デモが、小規模ながら各地で行われている。
 
首都カラカスで行われたデモで、住民のミリアム・ブリトさん(40)は、「クリスマスにも(ハムが)食べられなかったし、新年にもない」と不満を訴えた。


ニコラス・マドゥロ大統領率いる同国政府は、ハムは政府の補助を受けた値段で割安に店頭に並ぶと約束している。

しかしブリトさんは、過去数か月間、補助は受けていないと言い、「彼ら(政府)は、ハムについて嘘をついた」と語った。
 
ブリトさんの周囲では約100人が小鍋を打ち鳴らし、ロープやタイヤで路上にバリケードを築いていた。
 
マドゥロ政権下のベネズエラでは、原油価格の下落や政情不安、汚職などにより経済が壊滅状態となり、慢性的に食料品や医療品が不足。国際通貨基金(IMF)は、2018年の同国のインフレ率は2300パーセントを超えると予測する。
 
ベネズエラ国民の最低賃金は月45万ボリバル。これは公式為替レートでは135ドル(約1万5000円)に相当するが、参考レートと見なされる闇レートではたったの4ドル50セント(約500円)の価値しかない。
 
この金額はまた、政府補助のない豚肉1.5キロの正価でもある。レジ係として働き、法定最低賃金をわずかに超える給与しか受け取ってないブリトさんには、とても手が出ない価格だ。だが、供給さえあれば、政府の補助金を受けた食肉はこの30分の1の価格で販売されるという。
 
マドゥロ大統領はハムの供給で問題が発生したことを認める一方、原因は米国による経済制裁とハムの輸出国であるポルトガルにあるとした。
 
同大統領はメディアに対し、「ハムはどこへ行ったのだ? 私たちは妨害工作を受けている。責任があるのはただ1か国、ポルトガルだ」と発言。
 
さらに「彼ら(ポルトガル)はベネズエラのためのハムを買い占めた。私たちが輸入するはずだったのだ」とした上で、「彼らは私たちの銀行口座を遮断し、ベネズエラに向かう船2隻を阻止した」と述べた。
 
ポルトガル政府はマドゥロ大統領の主張を否定している。【2017年12月31日 AFP】
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経済破綻はアメリカのせいだ、ハムが買えないのはポルトガルのせいだ・・・マドゥロ大統領の根拠のない責任転嫁はいつものことです。

補助金付きなら安く買えるというハムですが、今後は列に並んでいた妊婦が酔った警備隊員に射殺されるという事件も。

****ハムを買う列に並んでいた18歳妊婦が撃たれて死亡、ベネズエラ***
南米ベネズエラの首都カラカスで昨年12月31日未明、ハムを買おうと国家警備隊の施設前に並んでいた18歳の妊婦が酔った警備隊員に頭部を撃たれて死亡した。女性の親族が明らかにした。
 
死亡したアレクサンドラ・コノピオさんの義父アレクサンデル・シスネロさんがAFPに語ったところによると、コノピオさんは政府の補助で安くなったハムを購入するため30日午後9時ごろから他の住民らと雑談をしながらカラカス西部アンティマノの施設前の列に並んでいた。
 
すると31日の午前3時ごろ、酔った警備隊員らが近寄ってきてコノピオさんらに立ち去るよう命じた。住民らが拒絶したため警備隊員らと口論になり、制服姿の隊員2人が発砲したという。撃たれて死亡したコノピオさんは妊娠5か月だった。
 
コノピオさんを撃った警備隊員は身柄を拘束された。AFPが警察発表で確認した。
 
経済危機にあるベネズエラは年末年始の休暇シーズンを迎えて豚肉製品の供給が不足し、先週から首都を含む各都市で抗議運動が発生している。
 
ニコラス・マドゥロ大統領の下で原油価格の下落や政情不安、政治腐敗に直面するベネズエラは、慢性的に食料や医薬品が不足する状況に陥っている。【2018年1月1日 AFP】
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【“問題国”支援で利益を得ようとする中ロ
このようなマドゥロ政権が存続しうるのは、国内における暴力による批判封じ込め、権力に恫喝・懐柔された野党勢力の腰砕けのほか、中国・ロシアという支援国家があるからです。

****露、ベネズエラと関係強化 軍事基地設置へ水面下交渉?****
ロシアは産油国ベネズエラとの関係を急速に強化している。経済支援する一方、軍事拠点の設置を模索しているとも指摘される。
 
ベネズエラは強硬な反米姿勢を貫いたチャベス前大統領時代、ロシアに接近。軍事分野や石油・天然ガス開発などでロシア側から協力を引き出した。チャベス氏死去後も、マドゥロ政権は親露姿勢を維持している。
 
ベネズエラ経済が近年、急激に悪化するなか、ロシアは同国を経済面で支える姿勢を鮮明にしてきた。

屋台骨である国営ベネズエラ石油(PDVSA)を融資で支え、11月には31億ドル(約3500億円)超のベネズエラの債務再編に応じ、当面の返済を最小限にとどめる措置で合意した。ベネズエラは現在、米国の経済制裁下にあるが、ロシアが制裁を“骨抜き”にしている格好だ。
 
こうした中、ロシアがベネズエラへの軍事基地設置を水面下で交渉していると報じられている問題は、事実であれば、米国の安全保障に深刻な影響を与えかねない状況にある。
 
ただ経済性を無視し、地政学的影響力を強めるため“問題国”を支援するプーチン政権の戦略は「ソ連時代そのもの」との批判もある。

ロシアは、同様に支援していたウクライナへの影響力を失っており、再び同じ失敗を繰り返す可能性を指摘する声もある。【2017年12月22日 産経】
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ロシアにしても、中国にしても、国際的に孤立した“問題国”を支援して当面の利益を得る行為は、やがてはこうした“問題国”は瓦解することになることを考えると、長期的にみて利益になるとは思えませんが・・・。

問題は、その“瓦解する”のがいつか?ということで、2018年もマドゥロ政権は暴力と中ロ支援で命脈を保つのでしょうか。

原油価格は昨年末、2年ぶりの高値をつけていますが、原油価格が更に上昇すれば、マドゥロ政権にとっては“吉”でしょう。ベネズエラ国民にとっては“凶”ですが。

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