孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアのミサイル配備で、冷戦構造の亡霊が再び顕在化  現実は“スターウォーズの世界”へ

2013-12-17 22:57:15 | 欧州情勢

(米海軍海洋システム・コマンドが開発し、米海軍のミサイル駆逐艦デューイに暫定的に搭載されたレーザー兵器システム(LaWS)技術デモンストレーター。米カリフォルニア州サンディエゴにて(2012年7月30日撮影、2013年4月9日提供、資料写真)。【12月15日 AFP】)

欧州MDにロシアが反発
大国間のパワーバランスという点では、最近はアメリカと中国の関係が取り上げられますが、当然ながらアメリカと並ぶ膨大な核兵器を保有するロシアとアメリカ及び欧州の関係が、冷戦時代ほどではないにせよ、依然として国際的な重大関心事であることは言うまでもないことす。

ロシア・プーチン大統領がここ数年こだわっているのは、アメリカが欧州で進めているミサイル防衛(MD)計画の問題です。
アメリカ側は、欧州MDはロシアではなくイランを念頭に置いたものであり、将来改良されたとしてもロシアの有するミサイル兵器には対応できないとして理解を求めていますが、ロシア側は自国の核攻撃能力が低下することを警戒し、ロシアを標的としない「保証」を求めて対立しています。

****ルーマニア:米がミサイル施設、建設着工 ロシアは反発****
オバマ米政権が進める欧州ミサイル防衛の迎撃拠点の一つとなるルーマニア南部のデベセル空軍基地で28日、ミサイル施設などの建設が始まった。

イランの中距離弾道ミサイルへの対抗を想定し、2015年に運用を開始する計画。米国の欧州配備のミサイル防衛にはロシアが反発しており、対立は深まりそうだ。

AP通信によると、起工式に出席したミラー米国防次官は「弾道ミサイル攻撃など新たな脅威」に対処する必要性を強調した。同基地には地上配備型迎撃ミサイルSM3(射程約3000キロ)と前方展開のXバンドレーダーを配備する。

ルーマニアでのミサイル施設着工は、米国が北大西洋条約機構(NATO)諸国と進める欧州ミサイル防衛の一環。18年にはポーランドに射程約5000キロのSM3やレーダーを配備し、欧州同盟国を防衛する計画だ。

欧州ミサイル防衛について米国はロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を想定したシステムではないと強調している。

しかし、ロシアは自国の核攻撃能力が低下することを警戒し、ロシアを標的としない「法的保証」を米側に求めて対立している。ロシアのメディアによると、ラブロフ露外相は28日、「ミサイル防衛は火急の問題だ」と懸念を示した。

イランは、イスラエルや欧州を射程に入れる中距離弾道ミサイルや核弾頭搭載可能な長距離弾道ミサイルの開発を進めているとされる。

オバマ政権はイランの核開発問題を巡り、イラン政府と対話解決に向けて動き始めたが、イランの弾道ミサイルに対する抑止強化は維持する方針だ。【10月30日 毎日】
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一方、ロシアは、アメリカが進めるミサイル防衛計画に対抗する形で、リトアニアに隣接する飛び地カリーニングラードに、核弾頭を搭載することのできるミサイルを配備したことを認めています。

バルト海沿岸には、ロシアに近い方から、エストニア、ラトビア、リトアニアというバルト3国が並んでいますが、カリーニングラードはそのもっともロシアから遠いリトアニアとポーランドの間に位置する“飛び地”です。

ソ連・冷戦時代は、カリーニングラードは軍事都市として州全体が外国人の立ち入りが規制される閉鎖都市で、重要な不凍港としてバルト艦隊の拠点となっていました。
ソ連崩壊でリトアニアがソ連から独立した結果、カリーニングラード州は東欧エリア・EUエリアの中にポツンと存在するロシアの飛び地となっています。

このカリーニングラードに、核弾頭を搭載することのできるミサイルを配備するというのは、欧州側からすれば喉元に匕首を突き付けられたような形です。

****ロシア、EU国境へのミサイル配備認める****
ロシアは16日、核弾頭を搭載することのできるミサイルを欧州連合(EU)との国境近くに配備したことを明らかにした。

独紙ビルトが前週末、ロシアが2012年に短距離弾道ミサイル「イスカンデル」(最大射程500キロ)10基をポーランドとリトアニアに隣接する飛び地カリーニングラードに配備したと報道したことを受け、ロシア国防省が認めた形だ。

露国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官によると、ロシアはミサイル数基を既に西部軍管区に配備したという。カリーニングラードを含む同管区は、旧ソ連邦から独立したバルト三国と国境を接している。
現在、リトアニア、ラトビア、エストニアからなるバルト三国は、欧州連合(EU)に加盟している。

ロシア政府は2011年、東欧での北大西洋条約機構(NATO)ミサイル防衛(MD)システム配備計画への対抗措置として、短中距離弾道ミサイルの配備を警告。

これに対しNATO側は、MD配備計画はロシアを念頭に置いたものではなく、いわゆる「ならず者国家」から欧州各国を防衛するものと主張していた。

最新型のイスカンデルは、NATOの新MDシステムに対して使用される可能性があり、米国やポーランドなどロシア近隣諸国からは懸念の声が上がっている。

米国務省のマリー・ハーフ副報道官は、地域の不安定化につながるような行為を避けるようロシアに求める声明を発表した。

一方、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、イスカンデルの配備は「国際条約や合意に何ら違反するものではなく、西側から批判される言われはない」と主張した。【12月17日 AFP】
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また、ロシアのラブロフ外相は4日、ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)との会合で、イランの核開発問題が解決されれば、「NATOは欧州にミサイル防衛システムをつくる理由がなくなる」と述べています。【12月5日 時事より】

確かに、これまでのアメリカ側の説明、および、最近のイラン情勢の変化を考えると、ロシア・ラブロフ外相の言い分ももっとものように聞こえます。

ただ、アメリカは前出【10月30日 毎日】にあるように、“イラン政府と対話解決に向けて動き始めたが、イランの弾道ミサイルに対する抑止強化は維持する方針”とのことです。

欧州MD計画とアメリカの方針
【3月20日 YAHOO! JAPAN ニュース】の“アメリカ本土防衛用迎撃ミサイル増強と欧州MD第4段階の中止”(http://bylines.news.yahoo.co.jp/obiekt/20130320-00023960/)によれば、もともとオバマ政権の欧州MD計画は以下のような4段階で構築されていました。

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オバマ政権の欧州ミサイル防衛構想はPAA(Phased Adaptive Approach; 段階的適応アプローチ)という4つの段階に分けられ、現在はその第1段階にあります。

SM3ブロック1A(配備中)地中海にイージス艦
SM3ブロック1B(2015年)ルーマニアに地上型イージス
SM3ブロック2A(2018年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス
SM3ブロック2B(2022年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス

イージス艦や地上型イージスの他に、トルコへ前方展開用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」を配備しています。
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第3段階で予定されている“SM3ブロック2A”は日米共同開発のよるもので、アメリカの要請もあって、日本政府は武器輸出三原則の例外として第三国への輸出を認める方針でしたが、2011年12月、当時の野田内閣が「武器輸出三原則」の緩和を決めたことで、欧州への供給への道が正式に開けた形となっています。

限定的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)への対処能力が付加された“SM3ブロック2A”を更に改良強化したものが“SM3ブロック2B”で、イランからアメリカ本土へ向かうICBMを欧州の付近で撃墜する目的で計画されたようですが、上記“アメリカ本土防衛用迎撃ミサイル増強と欧州MD第4段階の中止”によれば、開発が凍結されたとのことです。

かわりにアメリカが配備を増強したのが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を大気圏外で撃墜する為の大型地上配備迎撃ミサイル“GBI”で、北朝鮮によるミサイル攻撃からアメリカ本土を防衛するためのものだそうです。

【「核なき世界」という話もありますが・・・
話をアメリカとロシアの関係に戻すと、オバマ大統領は「核なき世界」に向けた核軍縮交渉をロシアとの間で進めたい意向ですが、ロシア側は、欧州MD計画によって自分たちの核ミサイルも役に立たなくなってしまうと心配しており、そのうえミサイルをさらに減らすような話には乗れない・・・という消極的姿勢のようです。

****核なき世界、再始動 2期目オバマ米大統領、「遺産」意識****
オバマ米大統領が、歴代の米大統領が歴史的な演説をしたベルリンで、「核なき世界」に向けた決意を語った。実現には、核大国ロシアの協力がカギを握る。

オバマ米政権は、2011年に新戦略兵器削減条約(新START)が発効して以降、条約の対象となった戦略核兵器のほかにも、射程の短い戦術核や保管中の戦略核の削減に取り組む意向を示してきた。

「プラハ演説」を踏まえて10年に策定された核戦略の基本指針についても、国防総省、国務省、エネルギー省などで再検討。12年には、今後の配備水準として、300~400発、700~800発、最も現実的な1千~1100発の三つの選択肢を用意した。

こうした動きの背景には、財政赤字の削減圧力が強まる中で、使わない核兵器の維持コストを減らしたいとの思惑もあったとされる。

だが、米国と並ぶ核大国のロシアでは、プーチン大統領が政権に返り咲いた昨年から、核軍縮に向けた協力姿勢が薄れた。
昨年はオバマ氏自身も、再選に向けた選挙戦に追われたこともあり、「核なき世界」に絡む動きが停滞した。

2期目に入ったオバマ氏は、4月にドニロン大統領補佐官(安全保障担当)をモスクワに派遣。歴史に残る「レガシー(遺産)」になりうる核軍縮の再始動に向けて、準備を整えてきた。
ホワイトハウスで核問題を担当したセイモア前調整官は4月、「米国は戦略核を大きく減らす用意ができている」と朝日新聞の取材に語っていた。

オバマ氏はプーチン氏と主要国首脳会議(G8サミット)が開かれた英・北アイルランドで17日に会談した際、「二つの核大国として、我々は新STARTで行った(核軍縮の)努力を続け、緊張を減らす特別な義務があることを議論した」と記者団に語り、ロシアにさらなる協調を迫ったことを明らかにした。

オバマ氏は、19日のベルリン演説で「我々にはやるべき仕事がまだある」として、「核なき世界」への決意を改めて確認した。(後略)【6月20日 朝日】
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核軍縮を阻む壁は、ロシア以外にもあります。アメリカ国内の議会です。
そのため、オバマ大統領は議会での批准が必要な条約ではなく、政治的合意で核軍縮を進めることも検討しているそうです。

****米国:条約結ばず、核兵器削減か 上院批准困難で****
オバマ米大統領が19日に明らかにした核兵器削減について、米国がロシアとこれまでのような条約を締結せず、政治的合意だけで相互に削減を目指すとの見方が浮上している。
削減条約は米上院での批准が困難なのが理由。事実上の一方的な削減もありうるとの見方も出ている。

米国では、条約の批准は上院の3分の2の賛成が必要だが、与党・民主党は3分の2に及ばず、大統領と共和党の関係も悪化しており、核軍縮条約の批准は厳しい情勢だ。

米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は19日、複数の米当局者の話として、政治的合意による削減の可能性を伝えた。

オバマ大統領は19日の演説で「冷戦時代の核兵器態勢を超え、ロシアと交渉して削減するよう決意した」とだけ述べ、条約との言葉は使っていない。ホワイトハウス当局者も「どう相互に検証可能な形で削減できるかロシアと交渉作業する」とだけ述べ、条約への言及を避けた。

一方、オバマ大統領は今回、射程が短く500キロ以下の戦術核も初めて米露交渉の対象とする方針を明らかにし、演説では「欧州で大胆な削減に取り組む」と述べた。

米国は現在、欧州に200発程度の戦術核しか保有していない。核軍縮に詳しいアントワープ大のサウワー教授は「大胆な削減は、事実上の一方的廃棄になるのではないか」と見る。

ロシアの欧州での戦術核数は2500〜5000発と考えられ、けた違いに多い。交渉にはなじみにくく、米国側がゼロに近い数字を提案し、ロシアから譲歩を引き出そうとする可能性もある。

ロシアは既にオバマ演説に懐疑的な見方を示しているが、サウワー教授は「核兵器維持には金がかかり、米露とも減らしたいのが本音。ロシアは実際に減らしている」と指摘。

戦術核の場合は冷戦直後、1990年代に米露首脳の合意で条約なしに削減された経緯もあり「交渉のチャンスはある」とみる。【6月20日 毎日】
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上記はもう半年ほど以前の情報ですが、今現在どのような状況にあるのかは確認していません。
今のオバマ政権にロシアとの交渉を進める余力があるようにも思えませんが。

やがては“スターウォーズの世界”】
最後に、最近目にした“レーザー兵器”の話題。

****米陸軍、車載式レーザー兵器「HEL MD」の試験に成功*****
米陸軍は12日、軍用車両に搭載したレーザー兵器の試験を初めて実施し、成功したことを明らかにした。

試験は米ニューメキシコ州ホワイトサンズ・ミサイル実験場で6週間にわたって実施された。
軍用車両の屋根に取り付けたドーム型の砲塔に設置した高エネルギーのレーザー兵器で、90発以上の迫撃砲弾と数機の小型無人機を打ち落としたという。

「高エネルギーレーザー移動デモンストレーター(HEL MD)」と呼ばれるこの兵器システムは、米ボーイングが主契約者になっている。仮に米軍が導入を決めても、実用化は2022年以降になる見通しだ。

HEL MDは、迫撃砲やロケット砲などの攻撃から遠隔地にある基地を守ることを目的に設計され、3~5基のレーザーを搭載している。イラクやアフガニスタンにある「前進作戦基地」はこの10年ほど、こうした攻撃を頻繁に受けてきた。

複数の関係者によると、今回の試験で使用したレーザーの出力は10キロワット。次回は50キロワットのレーザーで試験を行い、最終的には出力100キロワットのレーザーを試す予定だ。

今回は、射程2000~3000ヤード(1800~2700メートル)、口径60ミリの迫撃砲弾が使用されたが、今後さらに改良が進めば、迫撃弾よりはるかに早い速度で移動する巡航ミサイルなどもHEL MDで迎撃できるようになると見込まれている。


米軍は数年前からさまざまなレーザー兵器の開発に投資しているが、結果はプロジェクトによってまちまちだ。ただ米海軍は2014年にも、「海上基地」として改造した輸送揚陸艦ポンスに小型船舶の破壊や無人偵察機の撃墜が可能なレーザー兵器を実戦配備する予定だ。【12月15日 AFP】
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“レーザー兵器”は、複雑な弾道計算が不要で瞬時に多数の目標を攻撃することが可能なこと、従来型ミサイルのように1段目のミサイル本体が市街地に落ちるといった危険性がないこと、何回でも使えるため運用コストが従来型ミサイルなどより遥かに安いこと・・・などのメリットがあるようです。

隣国からのミサイル攻撃に対し専守防衛の立場にある日本としては、使える兵器のようにも思えます。

ただ、膨大な電力を必要としますので、移動式の高出力となると原子力潜水艦などのように原子力発電とセットで運用される形も考えられているようです。

核軍縮交渉でもたもたしている間に、現実の方はどんどん先へ進んでいきます。
スターウォーズの世界も近いかも。

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