孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

繰り返す対立  コソボとセルビア アルメニアとアゼルバイジャン

2022-12-29 23:20:26 | 欧州情勢
(セルビアから独立を宣言したコソボの北部でバリケード近くを歩く住民=28日【12月29日 共同】)

【戦争の傷が癒えないセルビアとコソボ】
旧ユーゴスラビア解体の過程で、アルバニア系住民を主体とするコソボは2008年にセルビアからの分離独立を宣言。
激しい戦闘となりましたが、NATOがコソボを軍事支援したこともあって、コソボは実質的に独立、しかし、(欧米から“悪者”扱いされ、空爆までされた)セルビアはこれを承認していません。

世界約110カ国がコソボの独立を認めているものの、セルビアのほか、ロシアや中国、EU加盟国ではスペイン、ギリシャ、ルーマニア、スロバキア、キプロスが独立を認めておらず、コソボは国連にも加盟していません。
(国内に分離独立運動を抱えている国は、コソボの独立を容認できないという問題があります)

仇敵の関係にあるセルビアとコソボですが、ともにEU加盟を目指しており、加盟実現のためには関係正常化が条件となるということで、一応は矛を収めた形にはなっています。

****セルビアとコソボ、EU加盟「最優先」=関係正常化協議で確認****
旧ユーゴスラビア構成国セルビアのブチッチ大統領と、2008年に同国からの独立を宣言したコソボのホティ首相は7日、ブリュッセルで会談し、欧州連合(EU)の仲介による関係正常化の協議を続けた。会談前には共同声明で「EUへの統合(加盟)と、EUが支援する対話の継続を最優先する」と表明した。

両氏は米ワシントンで4日、トランプ大統領立ち会いの下、経済関係を正常化する合意文書に署名した。ただ、共同声明では、今後もEU主導の協議を続け、加盟条件を満たすために「包括的で法的拘束力のある関係正常化の合意」を目指すことを確認した。

双方は7月に約20カ月ぶりに協議を再開した。今回はコソボ内でのセルビア系住民の扱いなども議論。月内に再び首脳が会談することを決めた。【2020年8月8日 時事】
****************

【コソボ北部セルビア系住民が道路封鎖 セルビア・コソボの間で緊張が高まる】
しかし、コソボ領内北部には少数派としてセルビア系住民が暮らしており、対立の火種がくすぶり続けています。

今年夏にも、セルビアとコソボの関係が再び緊張しているとの報道がありました。直接の問題自体はささいなことがらのようですが、そうしたことがすぐに軍事的緊張につながりかねないあたりが、両国関係の不安定さを示しています。

****コソボとセルビアが軍事衝突の危機? その原因とは****
7月31日夜、コソボの状況は、急激にエスカレートした。その原因は、未承認国の警察が隣国セルビアとの国境の検問所を閉鎖し、8月1日以降、コソボ領内で、セルビア語で記された書類が禁止されることになったことにある。

このため、セルビア語表記の自動車のプレートが、強制的に撤去されるという事態が発生した。一体、何が起こっているのか。

状況は暴動に変わり、いくつかの場所では、銃撃へと発展した。この地域では民族紛争がさらに複雑化している(コソボの主な住民はアルバニア人だが、北コソボではセルビア人が過半数を占めている)。 

コソボ当局は特殊部隊を国境に結集させた。セルビア人は主要幹線道路に集まり、コソボ警察が制圧するのを妨害するためにバリケードを組み始めた。

セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、コソボでの緊張が緩和されることを期待し、そのために同国政府は出来るすべてのことを行うと表明した。

西側諸国が話し合いを呼び掛けたが、コソボ当局は、セルビア語のプレートと書類を使った入国禁止措置を9月1日まで1カ月延期した。(後略)【8月1日 SPUTNIK】
********************

この問題については11月23日、コソボ・セルビア両国は解決策で合意しました。
しかし、対立の基本構造はそのままですから、すぐに発火します。

コソボ北部セルビア系住民居住地域のセルビア系元警察官がコソボ警察に逮捕されたことをきっかけに、セルビア系住民が道路封鎖して抵抗するという事態が発生。

コソボは混乱の背後にセルビアがいると批判、これを否定するセルビアも軍事態勢を引き揚げ、緊張が高まりました。

****セルビア、軍準備態勢「最高」に引き上げ…敵コソボとの間に緊張高まる****
敵対視するコソボとの間で緊張が高まると、セルビア政府は26日(現地時間)、軍の戦闘準備態勢を最高等級に引き上げたとAFPやAP、ロイター通信が報じた。

セルビアのミロス・ブセビッチ国防相はこの日声明を出して「大統領が軍に最高等級の戦闘準備態勢を整えるよう命じた」とし「コソボにいるセルビア人を保護するためにすべての手段を動員する」と明らかにした。

ブセビッチ国防相はまた、アレクサンダル・ブチッチ大統領が特殊部隊兵力を従来の1500人から5000人に増員するよう指示したと伝えた。

今回の声明はブセビッチ国防相がミラン・モシロビッチ陸軍参謀総長と共に前日コソボと国境を接する南部都市ラスカを視察した後に発表された。ラスカはコソボとの国境から約10キロメートル離れたところで、セルビア陸軍兵力がここに駐留している。

セルビアは陸軍最高責任者であるモシロビッチ陸軍参謀総長を国境地帯に派遣したことに続き、最高等級の戦闘準備態勢に突入してコソボに再度軍事的脅威を加えた。

欧州連合(EU)と米国の仲裁で終結しそうにみえたコソボ北部地域の民族葛藤は、同地域の前職セルビア系警察官がコソボ警察に逮捕されたことをきっかけに再び深まっている。

該当の警察官の逮捕に反発したセルビア系住民は10日からコソボ北部の主要都市ミトロヴィツァなどで主要道路をトラックなどで封鎖し、コソボ警察と対立している。

デモ隊が主要道路を遮断したのは、コソボ警察を攻撃した容疑で逮捕されたセルビア系元警察官がコソボ首都プリシュティナに移送されるのを阻止するためだ。

これに先立って、現地セルビア系警察600人余りと市長、公務員、裁判官らはセルビア政府が発行した自動車ナンバープレートの使用を禁止しようとするコソボ政府の措置に抗議して先月集団辞職した。

このナンバープレート問題はEUと米国の仲裁で一旦は妥協に至ったが、コソボ政府が北部地域に警察を派遣して葛藤が再び深まった。

コソボ全体180万人口のうちアルバニア系は92%、セルビア系は6%程度だ。セルビア系住民の大多数はコソボ北部地域に住んでいる。

セルビア人が実質的な自治権を行使するコソボ北部地域にアルバニア系警察が派遣されるとセルビア系住民が集団で反発した。

デモ隊とコソボ警察が対立して各地で銃声や爆発音が聞こえたことに続き、25日には北大西洋条約機構(NATO)のコソボ治安維持部隊(KFOR)巡察車両の近くにも弾丸が打ち込まれた。

KFORは声明を出して自制を訴えたが、セルビアとコソボはともに一歩も譲らず対立している。

コソボ政府は声明を通じて「コソボは犯罪組織とは対話はできず、移動の自由は回復しなければならない」とし「いかなる道路も封鎖されてはならない」と明らかにした。【12月28日 中央日報】
**********************

****コソボ、セルビアによる「不安定化」図る試みを批判****
コソボのスベクラ内相は27日、道路を封鎖して抗議活動を繰り広げている北部の少数派セルビア系住民を隣国セルビアが支援し、コソボの不安定化を図ろうと狙っていると批判した。

セルビアはこの見方を否定し、コソボのセルビア系住民を守りたいだけだと強調。ブチッチ大統領は27日に「引き続き歩み寄りによる解決を追求する」と述べた。(後略)【12月28日 ロイター】
*******************

【自制を促す国際社会 セルビア系住民が封鎖解除で合意 しかし火種は消えず】
ただ、国際社会はウクライナで手一杯という状況にもあって、民族的にも、宗教・文化的にも近いセルビアを支援するロシア、独立当時からコソボを支援するEU・アメリカともに、事態の悪化は避けたいのが本音。

****ロシア、セルビア支持もコソボ不安定化煽らず=大統領報道官****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、コソボ北部の少数派セルビア系住民を支援するセルビアをロシアは支持しているとしながらも、ロシアがバルカン半島全体に混乱をもたらそうと緊張を煽っているとの非難は否定した。

コソボのスベクラ内相は27日、道路を封鎖して抗議活動を繰り広げている北部の少数派セルビア系住民を、ロシアの影響を受けているセルビアが支援し、不安定化を図ろうと狙っていると非難した。

これについてペスコフ報道官は「セルビアは主権国家であり、ロシアの影響力を受けていると考えるのは完全に誤っている」とした上で、「こうした困難な状況下でセルビア系住民の権利を保護し、権利が侵害された場合は厳しく反応する」と述べた。

その上で「ロシアはセルビアと極めて密接な同盟関係にあり、歴史的、精神的なつながりを持っているため、セルビア系住民の権利がどのように尊重されているか、緊密に注視している」とし、「ロシアはセルビアを支持している」と述べた。【12月29日 ロイター】
*******************

****米・EU、コソボ情勢に懸念表明 NATOも対話呼びかけ****
欧州連合(EU)と米国は28日、コソボ北部での緊張の高まりに懸念を表明し、状況の緩和を呼びかける共同声明を発表した。

共同声明で「われわれは全ての人に最大限の自制を求め、無条件の状況緩和に向けた行動を直ちに実施し、挑発、脅迫、威嚇を控えるよう求める」と指摘。米国とEUはセルビアのブチッチ大統領およびコソボのクルティ首相と協力して、緊張状態を緩和するための政治的解決策を模索するとした。

これに先立ち、北大西洋条約機構(NATO)のコソボ治安維持部隊(KFOR)は、コソボ北部での緊張緩和に向け全ての当事者間の対話を支持すると発表。全ての当事者が挑発的な武力行使を控え、安全確保に向け最善の解決策を模索することを期待するとした。【12月29日 ロイター】
********************

セルビアもこれ以上ことが大きくなると、後に退けない状況にもなってしまいますので、事態収拾の方向で動いています。

****セルビア大統領、抗議停止を要請 コソボ北部、米EUも懸念****
2008年にセルビアからの独立を宣言したコソボの北部でセルビア系住民による抗議行動が激化し、セルビア当局者は28日、同国のブチッチ大統領が抗議行動を停止するよう要請したことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。(後略)【12月29日 共同】
****************

こうしたセルビア大統領の動きに加え、問題の発端となった元警察官の拘束が解かれたことで、コソボ北部のセルビア系住民もバリケード撤去に合意した模様です。

*****コソボ北部のセルビア系住民、バリケードの撤去に同意****
コソボ北部で19日間にわたり道路を封鎖しているセルビア系住民は、緊張緩和を求める米国と欧州連合(EU)の要請に応じてバリケードを撤去することに同意した。

セルビアのブチッチ大統領はコソボ北部のセルビア系住民とセルビアのラスカで会談した後、バリケード撤去が29日朝から始まると明らかにした。「これは長いプロセスで、しばらく時間がかかる」と述べた。

米国、北大西洋条約機構(NATO)、EUはコソボ北部での対立を巡り最大限の自制を促してきた。バリケードの撤去はセルビアとコソボの間の緊張緩和につながるとみられる。

セルビア系の元警官が他の警官に暴行したとして10日に逮捕されたことが抗議行動につながった。釈放を求めるセルビア系住民が警察と銃撃戦を繰り広げ、道路に10カ所以上のバリケードを築いた。

コソボ首都プリシュティナの裁判所の報道官は、元警官が検察当局の要請により拘束を解かれ、自宅軟禁状態に置かれたとロイターに明らかにした。

この決定に対しコソボの政府関係者は反発。Haxhiu法相は「テロに関連するこのような重大な犯罪で起訴された人物が軟禁になるのは理解できない」と述べた。クルティ首相は自宅軟禁を要請した検察官と承認した裁判官が誰なのか非常に興味があると語った。【12月29日 ロイター】
***********************

元警察官の拘束が解かれたことには、コソボ側は不満があるようです。

今回の緊張状態はいったん収まったとしても、今後何らかの問題で再び緊張が高まる事態になりうることは容易に想像できます。

【アゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノカラバフをめぐる対立も再燃】
繰り返す対立ということでは、9月に武力衝突したアゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノカラバフ(アゼルバイジャン内にあるアルメニアの飛び地)をめぐる対立もまた不穏な状況になっています。

****ナゴルノ係争地、緊張再燃 アゼルバイジャン活動家が道路封鎖****
アルメニア人のルザン・ホバニシャンさんは、アゼルバイジャン内の係争地ナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の道路がアゼルバイジャン側に封鎖されたため、ナゴルノ在住の家族に会えないまま新年を迎えることになるのではないかと心配している。

アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノは、ラチン回廊でアルメニアと結ばれている。しかし、アゼルバイジャンの活動家が今月12日、回廊を封鎖。ナゴルノの鉱山で「違法採掘」が行われており、環境が汚染されているというのがその理由だった。(中略)

同じくステパナケルトに住むアショット・グリゴリャンさんは、「店の棚はほぼ空だ。パンがあるのが救い」だと話した。ナゴルノの住人は約12万人。食料、医薬品、燃料不足に直面している。

アゼルバイジャンの活動家は「違法採掘」への抗議行動を続けている。同国政府は、抗議は住民が自発的に行っていると主張しているが、アルメニア政府は、アルメニア系住民に土地を放棄させることを狙ったものだと反発している。

同国のニコル・パシニャン首相は、ラチン回廊に配備されているロシアの平和維持軍が「違法な封鎖」を阻止しなかったと抗議している。

26日、現場に集まっていたアゼルバイジャンの活動家グループは、封鎖を否定した。取材に応じた一人は「われわれの要求は天然資源の違法利用をやめさせることだけだ」と強調。人道支援物資の輸送を阻止しているわけではないと語った。ただ、抗議開始以降、アルメニアとの間の物流が途絶えていることを認めた。

AFP記者は、ロシア軍車両が回廊を自由に移動しているのを目撃した。一方で、ステパナケルトから約15キロの地点にあるロシアが設けた検問所付近の道路は封鎖されていた。

道路封鎖を受け、ナゴルノには人道支援団体が物資を届けている。アルメニアの赤十字の広報担当者は同日、これまでに同国政府から支給された物資10トン分を送り届けたと話した。

アルメニア、アゼルバイジャン両国の間では、ナゴルノをめぐり1990年代と2020年に2度にわたって紛争が起きた。今年9月にも衝突があり、双方合わせて280人以上が死亡した。 【12月27日 AFP】
******************

【アルメニアは、アゼルバイジャンの行動を許している同盟国ロシアへ強い不信感】
アルメニア側には、平和維持部隊を派遣している(味方であるはずの同盟国)ロシアがアゼルバイジャンの行動を制御できていないとへの大きな不満があります。

9月の衝突で事実上敗北したアルメニアは、11月に開催されたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議でもその不満を明らかにしています。

****プーチンが近づくのを露骨に嫌がる...ロシア「同盟国」アルメニア首相の行動が話題****
<プーチンの貴重な「味方」であるはずのアルメニアだが、アゼルバイジャンとの紛争でロシアの支援がなかったことに不満を募らせている>

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で、アルメニアのニコル・パシニャン首相が写真撮影の際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からあからさまに距離を置こうとしている様子が収められた動画が公開された。パシニャンは、同会議で共同宣言への署名を拒否するなど、ロシアへの不満をあらわにしている。(後略)【11月26日 Newsweek】
*************

今回の問題についても、アルメニア首相はロシアの平和維持部隊が「機能していない」とプーチン大統領に苦言を呈しています。

****アルメニア首相、ロシア平和維持部隊の役割に疑問符****
アルメニアのニコル・パシニャン首相は27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフに展開したロシア平和維持部隊の役割に疑問を呈した。

人口約12万人のナゴルノカラバフでは今月中旬から、アゼルバイジャンの活動家らが違法採掘に抗議するとしてナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路、ラチン回廊を封鎖。その結果、ナゴルノカラバフでは食料、医薬品、燃料などの搬入が止まっている。

この抗議行動について、アゼルバイジャン側は自然発生的なものだと主張しているが、アルメニア側は同国にナゴルノカラバフを放棄させるためにアゼルバイジャンが仕組んだものだと非難している。

パシニャン氏は独立国家共同体非公式首脳会議が開かれたロシア・サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。ラチン回廊は「ナゴルノカラバフに駐留するロシア平和維持部隊が責任を負うべき地域である」にもかかわらず、「管理されていない」と指摘した。 【12月28日 AFP】
********************

ロシアも「それどころじゃない。自分たちで何とかしてくれ」といったところでしょう。ロシアのコントロールがきかない形で衝突が再発する危険も。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする