(【ウィキペディア】 交易を求めてやってきた英国の使者マッカートニーに対して、「中国は地大物博(土地が広く物資が豊か)だから、他国と交易する必要はない」と言い切った清の乾隆帝)
【再選戦略絡みのトランプ政権の中国への対抗姿勢】
アメリカ・トランプ政権が再選戦略もあって香港やウイグル族、南シナ海、新型コロナ対応、あるいは5Gなどで中国への強硬な姿勢を強めているのは報道のとおり。
****トランプ政権、「対中強硬」続々演出 「脅威」強調、大統領選見据え?****
米トランプ政権が、中国への強硬姿勢を強めている。トランプ大統領をはじめ、閣僚が相次いで「中国の脅威」を強調し、中国高官への制裁も行った。11月の大統領選挙を見据えて、アピールする狙いがありそうだ。
ポンペオ国務長官は13日、南シナ海のほぼ全域に自国の権益が及ぶという中国の主張について「完全に不法」とする声明を発表した。トランプ政権はこれまでも南シナ海における中国の行動について「不法」と表現してきたが、国務長官の声明という形で中国の主張全体を「完全に不法」と断定し、反対姿勢をより明確にした。南シナ海では米海軍が4日、空母2隻を派遣して軍事演習を実施していた。
トランプ政権はここに来て連日、幅広い分野で中国への厳しい姿勢を打ち出している。オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月24日に「トランプ大統領の下で、アメリカは中国の脅威に目を覚ました」と演説し、政権が対抗措置を取っていくと明らかにしていた。
7月に入ると、政権が「中国寄り」と批判してきた世界保健機関(WHO)からの脱退を正式に通知。9日には、新疆ウイグル自治区で少数民族の人権侵害に関与したとして、陳全国・共産党委書記らに対する資産凍結などの制裁を発表した。
一連の動きについては、トランプ政権が新型コロナウイルスへの対応で批判を受けるなど、国内事情が影響しているとみられる。
AP通信は南シナ海に関するポンペオ氏の声明について「批判が高まり、大統領選挙を控えたトランプ大統領が対中批判を強める中で発表された」と報道。
トランプ氏は13日にも、「中国が世界にしたことを忘れるべきではない」として、感染拡大は中国に責任があるという持論を繰り返した。一時は控えていた「チャイナウイルス」という表現も、再び使うようになっている。
ただ、トランプ氏は13日、米中通商協議の「第1段階の合意」については「無傷だ。彼らは(米国産品を)購入する」と改めて成果として強調。大統領選でのアピール材料になる中国との貿易合意は守る姿勢を保っている。【7月15日 朝日】
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【「中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」】
トランプ大統領の再選戦略は別にしても、近年の中国の行動については、欧米からは「国際法秩序を無視したもの」との批判があるのも事実です。
****国際法秩序を無視した中国外交に歯止めを****
6月19日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、「もし中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」と題する論説を寄せ、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪共産党政治局委員(外交統括)との会談の内容を紹介しつつ、それが実質的には物別れであったと論じている。一部その要旨を紹介する。
ポンペオ国務長官は、楊潔篪と6月17日ハワイで会談と晩餐のため数時間会った。最近の米中関係で顕著となっている相互非難を抑制する方法を探すため、中国側から今回の会談を要請してきたと言われる。
それまでは、習近平がトランプに電話をすれば良かったが、トランプは3月27日の電話会談後、習近平と話すことに興味はないと言っていた。
国務省の声明は、「2人の指導者は意見交換をし、ポンペオは商業、安保、外交の分野で中国が不公正な慣行をやめる必要があると強調した。
また、進行中のCOVID-19パンデミックと戦い、将来の大発生の防止のためには完全な透明性と情報共有の必要性があると強調した」と述べている。
一方、中国の外務省によると、楊はより良い関係を望んでいるとポンペオに言ったが、香港への国家安全法、台湾への威嚇、新疆でのウイグル人の強制収容などあらゆる争点について、中国の立場を擁護した。
北京のやり方のパターンはよく知られている。北京の悪い行為を批判する人を侮辱または攻撃する。その後、緊張の高い状態を非難し、通常の関係に戻ることを、行動を何一つ変えずに提案する。しかし、今回は通常の関係に戻ることはない。
ロウギンの論説は、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪政治局委員との会談がうまくいかなかったこと、現在の米中関係悪化の傾向に歯止めがかからなかったことを指摘している。
米中外相会談の成果は、今後も話し合おうという合意だけである。中国側はこれまでの行動を擁護し、行動を変えることを拒否したが、そういうことでは再度話し合っても何も出てこないことになろう。
香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではない。
香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題である。
ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということである。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実である。
中国が台湾は中国の一部と主張していることを理解し、尊重するということは、中国が台湾に武力行使をしていいことを意味しない。
そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多い。
中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めない。
中国の緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるやり方は、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術であるが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになって来ている。
中国が行動を変えるべきであるとのロウギンの論説は、そういう状況の中で適切な論であると言える。【7月8日 WEDGE】
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【中国が国際社会と対立し始めた真の原因は、豊かになったことにある】
上記は欧米・日本の側からの見方になりますが、一連の中国の強硬姿勢には中国としての考え方もあると思われます。
よく言われるのは、習近平政権の1強体制や国内政治とのからみなどですが、そうした話以前に、より基本的なところで、現在の国際秩序や欧米的価値観の押し付けへの豊かになった中国の不満・自己主張もあるように思われます。
****なぜ中国は国際社会と激しく衝突し始めたのか*****
新型コロナウイルスに対する初期の対応を巡って、中国は米国を中心とした国際社会と対立を深めている。さらに香港の統制を強化する「香港国家安全維持法」を成立させたことによって、米国だけでなく旧宗主国の英国とも対立することになった。
インドとは国境を巡って死者を出すまでの事態を引き起こしている。それによって、それまでもよくなかった両国の関係は一層悪化してしまった。南シナ海では空母を含む艦隊に演習を行わせて、ベトナムなど周辺諸国の神経を逆撫でしている。
米国と日本を同時に敵にしたくないとの戦略的思惑から、日本に対しては見え透いた融和的なアプローチを行っているが、その一方で尖閣諸島周辺に頻繁に公船を送り込んでいる。仲良くしたいのか喧嘩したいのかよく分からない。
中国は少し前まで一帯一路構想やAIIBなどといった経済的な手法によって国際社会への影響力を強めようとしていた。しかし、ここに来てそのような動きはほとんど見られなくなってしまった。
今は、より直接的な手法で自国の意思を国際社会に押し付けようとしている。まるで世界を敵に回してもよいと思っているようだ。
なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。ここでは現代中国を流れる大きな流れについて考えてみたい。
豊かになって芽生えた素朴な感情
中国が国際社会と対立し始めた真の原因は、豊かになったことにある。
香港が中国に返還された1997年の時点において中国のGDPは米国の11%、英国の62%に過ぎなかった。それが2019年には米国の67%、英国に対してはそのGDPの5倍にもなった。
ちなみに日本の2.8倍である。中国人は自信を深めた。そんな中国では、現在、多くの人が国際社会のルールに違和感を抱いている。
香港の問題を考えてみよう。そもそも香港はアヘン戦争、アロー戦争の結果、無理やりに割譲させられたものである。1949年に新生中国ができた際に武力で解放してもよかったのだ。しかし、当時の中国の国力では実行できなかった。
その後、香港が西側との窓口として便利であることが分かったために利用してきたが、深センのGDPが香港を上回るようになると、香港は重要な地域ではなくなった。香港が西側との窓口ではなくなっても、それほどの実害を被ることはない。
一国二制度を採用したのは、英国と交渉していた1990年代に中国が英国より弱かったからだ。弱者が強者から領土を返還してもらうためには譲歩が必要だった。だが、もし今交渉するなら文句なく全面返還してもらうことになるだろう。
このような感情は習近平や共産党幹部だけが持つものではない。一般民衆もアヘン戦争以来の欧米の侵略に怒りの感情を有している。
江沢民政権が行った反日教育の結果として日本の侵略ばかりが取り上げられているが、中国人は心の底で西欧を恨んでいる。
中国には西欧に勝るとも劣らない歴史と文化がある。その結果、経済的に成功した現在、なにも米国を中心とした国際社会のルールに従う必要はないと思い始めた。
中国には中国のルールがある。中国は長い間、皇帝と科挙によって選ばれた優秀な官僚が国を統治してきた。民主主義は英国を中心とした西欧が考え出したものであり、杓子定規に香港にそれを適応すべきではない。
また、「由(よ)らしむべし知らしむべからず」(為政者は定めた方針によって人民を従わせることはできるが、その道理を理解させるのは難しい)は中国政治の伝統である。コロナ騒動に対する中国政府の対応も、この原理から考えれば、決しておかしなものではなかった。
香港やコロナ騒動を巡って中国が強硬な手段に出る背景には、政府だけではなく多くの中国人が、このように思っていることがある。
昨今の中国と国際社会との軋轢は習近平の個性が生み出したものではない。それは、中国の一般民衆の素朴な感情の延長上にある。
孤立をいとわない道を選び始めた中国
このように考えると中国のこれからが見えてくる。今後、中国はますます国際社会と衝突する。それが熱い戦争に発展するとは思わないが、貿易戦争のような形で、多くの国と争うことになろう。現にオーストラリアとも貿易戦争を開始した。
中国は人口が多いために、ある程度発展すれば自国の市場だけで経済を回して行くことができる。中国にだけに通用するアプリを作っても採算に合う。グーグルを使わなくともよい。
18世紀後半に中国との交易を求めてやってきた英国の使者マッカートニーに対して、清の乾隆帝は「中国は地大物博(土地が広く物資が豊か)だから、他国と交易する必要はない」と言い切った。これが中国人の基本的な考え方である。
改革開放路線に転じた1978年以降、中国は安い労働力を使って工業製品をつくり、それを輸出することによって富を蓄積した。その結果、豊かになったので、乾隆帝の時代に戻ることが可能になった。戻れるなら戻りたい。多くの人がそう考えていることが、今の中国の行動の背景にある。
中国は孤立をいとわない道を選び始めた。その方針は今後も変わることはない。中国が再び国際社会とうまくやっていきたいと思うようになるのは、孤立によって経済や科学技術の面で大きく遅れてしまったと感じる時である。その時には中国国内で大きな混乱が起こることになるが、それはまだだいぶ先の話になろう。
過去30年ほど急成長していたために、中国を魅力ある市場とみる日本企業は多い。しかし、それは過去のことになった。これから中国は自国のルールに従わない国や企業とは取引しないと言い出すはずだ。面倒くさい市場に変わった。
中国は豊かになる方便として「政経分離」を言っていたのだが、豊かになった中国はプライドが高いために、他国に「政経一体」を求めてくる。中国と取引したい企業は、その辺りのことについて覚悟しておく必要があろう。【7月18日 川島 博之氏 JBpress】
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中国が自国の市場だけで経済を回して行けるかどうかは疑問もありますが、欧米企業が巨大な中国市場を無視できない、人権とか民主主義とか言っても、結局は中国市場にアクセスするために屈服するだろうとの自信はあるでしょう。
1990年代、鄧小平の時代はまだ国力も十分ではなく、天安門事件で国際的にも孤立し、「才能を隠して、内に力を蓄える」韜光養晦(とうこうようかい)の方針で臨んでいましたが(ある意味、時間稼ぎ)、いまやその必要はなくなったとの自信が中国指導部・一般民衆にあっての強硬な姿勢、習近平政権が掲げる「中国の夢」でしょう。
ただ、あまりに国際的軋轢が大きくなってその影響が国内に及べば、国内不満の高まり、権力闘争の激化を招く危険もあります。
中国が今後さらに国際社会で重きをなすのであれば、その国が乾隆帝的な発想であるのは、世界としては困ったことでもあります。