(【3月30日 東京】)
【「効果的な(パンデミックへの)対応は連帯することで初めて可能となる」】
世界の新型コロナウイルスの感染者数が31日、累計で80万人を超え,死者数も3万9千人を上回っています。
数字は日毎に、と言うより、時間ごとに大きく増加しており、最近1週間では毎日6万人ほどの感染者が増えるペースとなっていますので、現時点では90万人に近づくような数字になっていることが予想されます。
****「第2次大戦以来の危機」 国連総長、ウイルス対策で連帯訴える*****
国連のアントニオ・グテレス事務総長は3月31日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を、第2次世界大戦以来に世界が直面した最悪の危機と位置付け、世界各地で紛争の引き金になるとの懸念を示した。
グテレス氏は記者団に対し、パンデミックは「世界中のすべての人々の脅威となり」、経済的な影響としては「近年で恐らく類を見ない景気後退を招く恐れがある」と指摘。
「この二つの事実に加え、不安定性を高め、混乱や紛争を増加させる一因になるというリスクは、第2次世界大戦以降にわれわれが直面した最も困難な危機であると思わせるものだ」と述べた。
さらに「より強く、効果的な(パンデミックへの)対応は、すべての人々が協力し、政治的駆け引きをやめ、人類の今後が懸かっていることを理解した場合にのみ、連帯することで初めて可能となる」と訴えた。 【4月1日 AFP】
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“すべての人々が協力し、政治的駆け引きをやめ”ることが、決してきれいごとではなく、人々の生命と暮らしを守る上で不可欠なこととなっています。
仮に、自分の国の状況が改善できたとしても、世界全体の状況がかわらない限り、いつまでも国を閉ざしてウイルス流入を警戒し、経済活動も低迷することを余儀なくされます。
****コロナで中国経済減速 懸念強まる悪化“第2波”****
(中略)現在、中国は世界での感染拡大を警戒する。それにより世界的に需要が減退し、中国経済悪化の“第2波”が懸念されるためだ。
先行きに漂う暗雲に対し、習近平指導部も積極的な財政出動を行う構えを見せる。3月27日の中国共産党中央政治局会議では、財政赤字拡大を容認し13年ぶりに特別国債を発行する方針を決めた。
中国は2008年のリーマン・ショック直後に4兆元(当時のレートで約57兆円)の大型景気対策を打ち出し、世界経済の回復にも寄与した。しかし、過剰債務などの構造問題が深刻化する“後遺症”に今も悩まされており、今回は中国にどこまで期待できるか不透明だ。【4月1日 産経】
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しかし、これまでは国際的な協力体制の構築は進まず、イランとアメリカ、中国とアメリカ、ロシアとアメリカといった対立関係が依然として続いてきました。(多くの対立関係の一方の当事者にアメリカの名前があがっているあたりに、協調よりアメリカ第一の立場からの競合を優先するトランプ政権の性格が表れているように思えます)
【米国務長官、イラン制裁緩和を示唆】
ただ、さすがにここにきて、ようやく変化の兆しも見えるようになっています。
****パンデミックで変わる世界には、どんな未来が待っているのか?****
(中略)
新型コロナで風向きが変わった米イラン関係
(中略)国際情勢の観点からもCOVID-19は確実に大きな脅威ですが、いくつかの国際案件に変化をもたらしています。その一例がイラン核合意を巡り対立が続き、また年始のソレイマニ司令官殺害によって全面戦争一歩手前まで緊張が高まった米・イラン関係です。
いまだにイラクを舞台にした報復合戦は継続中ですし、相互に批判の手を弱めてはいませんが、両国とも今はお互いを叩く余裕を失っていることも確かです。
今週、イラン政府が公式にIMFに対して50億ドルの緊急支援要請を行いました。実は1962年以降初めてのケースで、今、アメリカと全面的に衝突し、緊張が高まるイランが、アメリカの影響下にあるIMFに支援要請をするという事態にまで、COVID-19の感染はイランの首を絞めているのだといえます。
革命防衛隊をコロナ対策の責任者に据え、国内的にはハーマネイ師率いる政府への支持を何とか保つために、「こういう状況に陥ったのはアメリカの陰謀だ!」という姿勢を表に出しつつ、国際社会を通じてアメリカに対し経済制裁を撤回するように求めるという戦術を用いて、何とか統一性を保とうと必死です。
イラン国民の多くはそのような小手先の策には乗りませんが、指導部への反感を募らせてまたデモに訴えかけることが出来ないほど、新型コロナウイルスの蔓延はイラン国民を恐怖に陥れていることが分かります。
これで急転直下、米イラン間の高まる対立と緊張が緩和されるとは考えづらいのですが、約60年にわたる宿敵への反抗は、米イランともにしばし休戦と見ることが出来、武力衝突の危機はしばらく棚上げできるかと考えます。(後略)【3月31日 島田久仁彦氏 MAG2NEWS】
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イラン保健省は31日、新型コロナウイルス感染症の死者が過去24時間で141人増加し、2893人に達したと発表。
感染者も3111人増加し、計4万4606人に達し、うち3703人が重体という状況です。
イランについては、公表数字は過小で、実態はもっと悪いのでは・・・との観測もなされています。
アメリカも18万人という世界最大の感染者数になっており、米ホワイトハウスのバークス新型コロナウイルス対策調整官は31日の記者会見で、新型コロナウイルスによる国内の死者が、他人との接触を避ける「社会的隔離」などの対策を講じた場合でも10万人から20万人に上る可能性があるとしています。
両国とも、ケンカをしている状況にないのが実態です。
これ以上イランに圧力をかけても、より頑なな反米政権に代わる可能性があるぐらいでしょう。
それよりは、人道支援を強化することで、交渉の糸口をつかんだ方がアメリカにとっても得策でしょう。
****イランを新型コロナから救うメリット****
(中略)3月20日、イランのロウハニ大統領は、イラン暦の新年メッセージで、米国による経済制裁の解除を求めた。
これに関して、3月16日、英国のシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のマーク・フィッツパトリック米国事務局長は、同研究所のサイトに、「米国はいかにイランのコロナウィルス対策を支援し、外交を強化することができるか」と題する論説を寄稿した。
その論旨を簡単に言えば、イランはコロナウイルスの危機にある、イランは支援を欲している、米国は人道的な観点から支援すべきである、支援のための良策はイランがIMFに要請した支援の実現に力を貸すこと、およびイランが薬品と医療器材を欧州から買えるようEUが設立したINSTEXを承認することである、ということである。もっともな意見であろう。
フィッツパトリックは、トランプ政権が目指すレジーム・チェンジは幻想でしかない、もしレジーム・チェンジがあるとすれば、それは革命防衛隊のクーデタによるもので事態は現在よりも悪化すると指摘する。
その上で、米国がイランを支援するため上記の人道的な措置を取ることが出来れば、受刑者の相互解放を含め外交上の接触の糸口になろうと期待している。
イラン核合意は欠陥品だと声高に言い、「最大限の圧力」戦略に屈する他ないと脅かし、より良い合意の交渉を呼びかけたところでイランが応ずる筈もない、と分析する。論説の提案は地味ではあるが、何らかの進展の可能性のある提案に思える。(後略)【3月30日 WEDGE】
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アメリカからは制裁緩和を示唆するような変化が見られます。
****米国務長官、イラン制裁緩和を示唆 医薬品など輸入停滞 新型コロナ****
ポンペオ米国務長官は3月31日、新型コロナウイルスの感染が全世界で急拡大していることを念頭に、イランなどに科している経済制裁を見直す可能性を示唆した。
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、イランの感染者数は4万4000人を超えている。米国からの制裁の影響で外国産医薬品の流通不足も指摘されている。
ポンペオ氏は国務省での記者会見で、国連などから言及されている制裁緩和の検討について問われ、「全ての政策はいつも見直されている。もちろんだ」と述べた。
一方で、米国の制裁は医療機器や医薬品などの人道物資は対象外であることも強調した。そのうえで、イランや北朝鮮を念頭に「いくつかの国は人々が苦しんでいるにもかかわらず、ミサイルや核開発などを続けている」と指摘した。
米国は2018年、イランの核開発を制限するための核合意から離脱。イラン産原油の禁輸やイランの金融機関との取引禁止などの制裁を再開した。国際的な金融機関が制裁対象となることを恐れて代金の決済をしないため、イランでは医薬品などの人道物資の輸入が滞っているとされる。【4月1日 毎日】
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ただアメリカ側は、医薬品などの人道支援物資について、制裁に抵触せずにスイスからイランに運び込む仕組みを構築したとのことで、制裁そのものの緩和が進むのかどうか不透明です。
【トランプ大統領 中国批判かた一転、中国の支援を賞賛】
米中関係については、(アメリカ国内の状況悪化の責任を中国に転嫁する思惑か)「中国ウイルス」という言葉を頻用するトランプ大統領と中国の間で対立が目だっていました。
*****新型コロナウイルスでも火花散らす米中両大国 *****
(中略)貿易・関税の報復合戦に始まり、南シナ海での軍事的な緊張、One China-One Asia外交と、アジア太平洋の勢力圏堅持を狙う米外交との鬩ぎあい(主に同盟国の確保)、アフリカ・中東地域での覇権争いなど、例を挙げれば次々出てくるほど、米中間は、現代の2大国として、争っています。
その争いに今回、『どちらが新型コロナウイルスを持ち込み、ばら撒いたか』という責任転嫁合戦が、メディアやSNSを通じて繰り広げられています。
「新型コロナウイルスは米軍が武漢に持ち込んだのだ」と40万人以上のフォロワーを持つ中国外務省の副報道官である趙氏が言えば、「けしからん!全くの言いがかりであり、断じて許すことはない。もともとこれはChineseウイルスだ!」とトランプ大統領やポンペオ国務長官が応戦する事態になっており、対立がエスカレートする一方です。(中略)
ちなみに、今回の新型コロナウイルスの蔓延に対する戦いは、世界の2大国として、一旦戦いの矛を収め、休戦したうえで、見えない敵である新型コロナウイルスの蔓延に対する協調姿勢を取り、並んで対策に当たるという、『国際情勢の緊張緩和と信用の回復に寄与する絶好のチャンス』ではなかったかと思います。
もし、それぞれが知見と資金を持ち寄り、世界レベルでの新型コロナウイルスの蔓延の封じ込めに乗り出すことが出来たら、自国第一主義の高波が国際社会を襲い、協調が絵空事とまでこき下ろされるようになった世界の潮流を、再度、国際協調の拡大と深化の方向に戻すことが出来たかもしれませんが、その代わりに、両国は、すでに十分すぎるほど険悪になってしまった米中関係の緊張を極限まで高めることになってしまっているような気がします。【3月31日 島田久仁彦氏 MAG2NEWS】
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ただ、変わり身の早さはトランプ大統領の身上でもあり、ここ数日で大きく変化しているようにも見えます。
****米中首脳の電話会談後、トランプ氏が「中国ウイルス」の呼称やめる****
米国のトランプ大統領は26日夜(北京時間27日午前)、中国習近平国家主席と電話会談した。両首脳は、世界規模で感染が拡大している新型コロナウイルスへの対応で、両国の連携を確認した。
トランプ氏は電話会談について、ツイッターに「中国はウイルスについて十分な理解を深めている。我々は緊密に連携している」と書き込み、中国の対応を批判してきた従来の立場から一転、協調姿勢を示した。投稿では、これまで度々使ってきた「中国ウイルス」との呼称に代わり、「コロナウイルス」と記した。
中国外務省によると、習氏は「団結して感染拡大と戦うべきだ」と呼びかけ、「米国が困難に陥っているのは理解している」と、医療物資の提供などで支援する意向を示した。
トランプ氏は自国の感染対策を優先せざるを得ない中、米中対立の沈静化を図る狙いがあったとみられる。国際的な批判が集中するのを避けたい中国と思惑が一致した形だ。ただ、今回の電話会談について双方とも相手側から要請があったと説明しており、食い違いをみせている。【3月27日 読売】
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この変わり身には中国ネットも唖然としている感も。
*****トランプ大統領が中国からの支援物資を称賛=中国ネット「態度の急変に驚き」****
トランプ米大統領は30日(現地時間)、ホワイトハウスでの記者会見で中国やロシアから届いた支援物資を称賛。中国のネット上で大きな関心を集めている。
トランプ大統領は「中国はわれわれにいくらか物資を送ったが、それらは素晴らしかった。ロシアは非常に大きな飛行機に積まれた物資、医療用品を送ってくれたが、見事だった」と発言。「その他の国も物資を送ってくれてとても驚いた。とてもうれしく驚いた」と続けた。
トランプ大統領は新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶなど、中国に対して非友好的な態度を取っていた。そのため、環球時報が中国版ツイッター・微博(ウェイボー)でこれを報じると、中国のネットユーザーからは、「態度の切り替えの早さには確かに驚かされる」「役者をやらないのが残念だ」「彼はこっそり中国に来て顔色を変える技術を学んだのだろう」などの声が寄せられた。
また、「私は彼が本当に嫌いだが、米国の医療スタッフや人民に罪はない。うん…中国の決定を支持する」「結局人類は運命共同体」「世界を救うためだ」などと中国政府による米国の支援を支持する声も上がっている。【3月31日 レコードチャイナ】
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電話会談で、トランプ大統領は習近平主席から何をもらったのか?
“米中関係専門家の間では、トランプ氏が習近平氏から手に入れたものは、新型ウイルス感染拡大を阻止するのに必要な医療機器、つまり診断キットの提供ではないか、とする見方が支配的だ。”【4月1日 高濱 賛氏「トランプ大統領、新型ウイルスで中国の軍門に下る」 JBpress】
【プーチン大統領、対米支援を提案】
一方、ロシアとの関係も好転の兆し)が見られます。(と言うか、プーチン大統領としては、この機にアメリカに恩を売って・・・というところでしょう
****ロシア、米国に医療機器など提供─報道官=インタファクス****
ロシアは米国に、新型コロナウイルス対策支援のための医療機器を提供する。インタファクス通信が、ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官の発言として伝えた。
それによると、プーチン大統領が30日にトランプ米大統領と電話会談し、新型コロナや石油市場について協議した際に支援を提案した。報道官は、「トランプ大統領は感謝とともに支援を受け入れた」と伝えた。
報道官は、医療機器や防護服などを積んだロシア機が、31日に米国に向かう可能性があると付け加えた。
米国では新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。1日の死者数は31日、初めて700人を突破した。
米ロ関係は、2014年のロシアによるクリミア半島編入やウクライナ東部の独立派支援を受けて米国が一部ロシア企業に制裁を発動したことなどから、近年は複雑化している。【4月1日 ロイター】
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【統合の理念に反する自国優先が目立っていたEU、独が伊・仏からの重傷者受け入れ】
一方、EUもこれまで、統合の理念に反するような自国優先の対応が目立っていました。
****EUの一体感むしばむ新型コロナ 相次ぐ加盟国の「封鎖」政策****
(中略)EUやシェンゲン協定の加盟国にとって「国境の撤廃」は平時には経済活性化に寄与する一方、この数週間でウイルスの感染を急拡大させた要因の一つにもなった。
このため、EU加盟国では独自の判断でシェンゲン協定の参加国にも国境を閉ざしたり、マスクの輸出制限を決めたりする動きが拡大。EU単一市場の一体性が損なわれかねない事態に発展した。
欧州委は16日に公表した国境管理の指針で、医療用品、生活物資や必要なサービスを確保する必要性を強調。シェンゲン圏を事実上「封鎖」することで、域内の国境管理を緩和させたい考えだ。
しかし、加盟国は自国保護を優先する姿勢を強めている。フランスのマクロン大統領は当初は国境管理強化に慎重だったが、16日夜のテレビ演説で「我々は戦争状態にある」と述べ、17日から全土で住民の外出を制限すると共に、EUの入域制限に同調すると発表。スペインも16日、外国人の入国は認めない事実上の国境封鎖を決定した。
ドイツ連邦政府は16日、隣接するフランス、スイスなどとの国境を事実上封鎖する措置を開始。また、連邦政府と各州は同日、スーパーマーケットや薬局、銀行などを除く店舗の閉鎖措置を講じることで合意した。レストランは午後6時までとし、バーや博物館の営業などだけでなく、教会やモスクなどでの集会も禁止される。
国境閉鎖だけでなく、欧州各国で、私権の制限を含む強硬な措置が広がっている。【3月17日 毎日】
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ただ、ようやく協調をアピールするような行動も。
****ドイツ「外国の重症者を運べ」 伊・仏からの受け入れ作戦展開****
ドイツが新型コロナウイルスによる死者が激増するイタリアやフランスから、集中治療が必要な重症者の受け入れを進めている。
各国の軍用機などで100人以上をドイツに搬送し、治療する方針。ドイツでも死者は増えているが、まだ受け入れる余裕があり、閣僚は「欧州が団結すべき時だ」と訴えている。(後略)【4月1日 共同】
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イラン、アメリカ、中国、ロシア、ドイツ・・・それぞれ各国の思惑があってのことでしょうが、これまで危機的状況にあっても対立ばかりがめについていたことからすれば、一定に変化の兆も見えることは歓迎すべこことでしょう。