孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民・外国人への風当たりが強まる欧州で、相次ぐ被差別民族ロマの話題

2013-10-24 22:01:04 | 欧州情勢

(フランスから強制送還され、コソボ北部ミトロビツァの仮の住まいで取材を受けるロマ人のディブラニさん(15、右)と家族。【10月21日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3001793

【「盗みも子供の誘拐も全てロマのせいにされる」】
欧州における被差別民族であるロマについては、何回かこのブログでも取り上げたことがあります。
比較的最近では、8月24日ブログ“人権重視の欧州で続くロマ差別  ロマ分断の「壁」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130824)など。

最近、そのロマに関する話題をよく目にします。
ひとつはギリシャの「金髪の天使」。

****ロマ人夫婦を誘拐罪で起訴、血縁ない「金髪の天使」と暮らす****
ギリシャ中部にある少数民族ロマの居住キャンプで血縁関係のない白人少女と共に暮らしていたロマ人夫婦が21日、この少女を誘拐した罪で起訴された。

「金髪の天使」の愛称で呼ばれるこの少女については、これまでに行方不明児童の親から数千件に及ぶ問い合わせが寄せられている。

弁護士によると、起訴されたロマの男(39)とその妻(40)は、同国中部ラリッサの裁判所によって勾留が命じられた。有罪になれば禁錮10~20年が科される。

警察は16日、同国中部の町ファルサラで、「マリア」と呼ばれる緑色の目をした金髪の少女を発見。DNA鑑定により少女と夫婦とは血縁関係がないことが確認され、夫婦は逮捕されていた。

少女の年齢は当初4歳と伝えられていたが、現在少女を保護している同国の慈善団体「スマイル・オブ・ザ・チャイルド」の代表が地元メディアに語ったところによると、歯科検診の結果、実際の年齢は5~6歳とみられることが分かったという。

警察は少女が誕生直後に誘拐された可能性があるとみているが、夫婦は、実母のブルガリア人女性が少女を育てられないために手放したと主張している。

■不法な養子あっせんがはびこるギリシャ
出生率が低い上、養子縁組の手続きが煩雑なギリシャでは、不法な養子あっせんがまん延しており、中には児童が人身売買されるケースもある。

国営アテネ通信が21日に伝えた警察のデータによると、仲介者は児童1人当たり1万5000~2万ユーロ(約200万~270万円)を請求するのが相場になっているという。

また、ブルガリアに暮らす貧しいロマ家庭に対しては、人身売買組織が男児に3000ユーロ(約40万円)、女児には2500ユーロ(約36万円)の支払いを持ち掛けることもあるとされる。

■不明児童の親からの問い合わせ殺到、日本からも
少女の発見が世界各地のメディアで報じられて以降、「スマイル・オブ・ザ・チャイルド」には、20日夜までに電話での問い合わせが8000件以上、電子メールも数千件が寄せられているという。
同慈善団体の心理学者が地元テレビ局「スカイ(Skai)」に話したところによると、電話照会は日本や南アフリカからもあった。【10月22日 AFP】
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もちろん誘拐であれば法に照らして処理されるべき問題ですが、世間ではさほど珍しくもないこうした事件が大きなニュースとなる背景には、ロマを厄介者として見る目があるようにも思えます。

特に、「金髪の天使」とのいささか歯が浮くような表現は、黒髪と浅黒い肌が特徴的なロマとの差をことさらに強調して、危険で、厄介で、汚いロマ夫婦に美しい白人の子供が拉致されていた・・・という、差別意識を煽りたてるような趣も感じられます。

“ギリシャに暮らすロマは事件で差別や偏見が強まる事態を懸念しているという。ファルサラのロマ代表は報道陣に「2人は実子よりもマリアちゃんに目をかけてきており、無罪だ」と主張、「盗みも子供の誘拐も全てロマのせいにされるが、私たちに対する侮辱だ」とロマ差別を指弾した。”【10月22日 毎日】

なお、ギリシャでは、経済低迷の中で移民排斥を主張する極右政党「黄金の夜明け」が、昨年6月の総選挙で18議席を獲得するなど、国民の不満を吸収して台頭し、移民襲撃なども起きていました。

これまで現政権は極右勢力への対処が「甘い」とも批判されていましたが、人種差別に反対する男性のラップ歌手が9月17日、アテネ近郊で殺害された事件を機に取り締まりを強化する姿勢に転換、ミハロリアコス党首らの国会議員6人を含む党関係者約20人を逮捕する形で、「黄金の夜明け」潰しにかかっています。

ロマ人を偏見を持って見ないよう警告
ギリシャの「金髪の天使」に触発された、当局の勇み足的な事件がアイルランドで起き、人種による選別だと批判する声が上がっています。

****ロマ家庭から金髪の子を「保護」、DNA鑑定で実子と判明 アイルランド****
アイルランドで今週、少数民族ロマの家庭に金髪の子どもがいるとの市民からの通報を受けて、女児(7)と男児(2)がそれぞれ別のロマ人家庭から警察に保護された。

ところが当局は23日、いずれもロマ人の両親との血縁関係が確認されたとして、2人を家族の元に帰したと発表した。

2人が家族から引き離されたのがギリシャのロマ人居住地で血縁関係のない夫婦と暮らしていた金髪の少女が保護された直後だったことから、人種による選別だと批判する声が上がっている。

警察によると、2人は家族との血縁が証明されたため家に帰された。警察側は「児童福祉問題に関する市民からの通報は全て、極めて真剣に受け止める」と説明した上で、「この繊細で難しい領域」をめぐる方針は常に見直しを行っているとも述べた。

メディア報道によると、2人にはDNA鑑定が行われたという。

■「魔女狩り」に懸念
欧州ではギリシャの事件を受けて、各国に存在するロマ人コミュニティーに注目が集まっている。
アイルランドのアラン・シャッター司法・平等・国防相は国民に対し、ロマ人を偏見を持って見ないよう警告した。

警察がAFPに明かしたところによると、2歳の男児は22日に中部アスローンの家族の元から引き離され、児童福祉法に基づいて「保護」された後、翌朝、家に戻されたという。

男児の父親はアイルランド公共放送RTEテレビに対し、男児は金髪に青い目をしているが、母親も曽祖父も同じ髪と目の色をしていたと片言の英語で訴えた。

「わたしの妻も祖父も同じだと言ったが、警察は『分かっているが、それだけでは人々は信じない』と答えた。そこで血液検査をしてみろと言ったんだ」。警察と何時間も押し問答を続けた末、DNA鑑定の結果が出るまで息子を1晩、当局の保護下に置くことに同意したという。

一方、7歳の少女はダブリンのロマ人家庭から引き離された。
メディア報道によると、少女は両親と外見が似ておらず、両親は娘の出生証明書とパスポートを提示したが警察は納得しなかったという。

家族側は代理人を通じて声明を発表し、娘を一時取り上げられたことに対する怒りを表明している。【10月24日 AFP】
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学校行事に参加中に強制送還
最近は欧州全体で移民・外国人への風当たりが強まっていますが、フランスでも、ロマ人を「国境の外へ戻すべき」と発言して各メディアをにぎわせたマニュエル・バルス内相が、世論調査で政治家の中で最高の56%の支持率を獲得しています。(オランド大統領は過去最低の24%)

そのフランスでは、ロマの15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されるという事件があり、学校行事参加中ということもあって、ロマ不法移民の取り扱いを巡る論争が起きています。

ただ、世論調査では有権者の4人に3人が、バルス内相の「国内にいる2万人のロマ民族の大半はフランスに同化するつもりがなく、祖国に強制送還するべきだ」との発言を支持しています。

****15歳ロマの少女を学校行事中に拘束・送還、仏閣内に亀裂****
フランスで、ロマ民族の15歳の少女が校外での学校行事に参加中にスクールバスから降ろされて警察に身柄を拘束され、その日のうちにコソボに強制送還されたことが分かり、不法移民の取り扱いをめぐって仏政府内部で閣僚が対立する事態となっている。

発端は今月9日、東部の町ルビエでロマ民族のレオナルダ・ディブラニさん(15)が学校行事でバス移動中に警察に身柄を拘束されたことだ。

この事件は今週になって初めて、就学年齢の子どもの強制退去処分に反対するNGO団体「国境なき教育網(RESF)」によって明らかにされた。

当日の詳しい状況は不明だが、その場に居合わせた教師の話と内務省の主張はいずれも、レオナルダさんが他の生徒たちの目の前で拘束されたわけではないとの点は一致している。

しかしこの教師がRESFを通じて公表したところによれば、他の生徒たちは何が起きているのかを完全に認識しており、ひどいショックを受けているという。

レオナルダさん本人は次のように当時の様子を説明している。「友達も先生もみんな泣いていました。中には、警察が私を捜していると知って『誰か殺したの』とか『何か盗んだの』とか直接聞いてくる子もいました。バスまでやって来た警察は私に降りるよう言い、それからコソボに帰らなければならないと告げました」

■割れる仏政界、「学校は聖域」と与党左派
バンサン・ペイヨン国民教育相は「学校は聖域であるべきだ。われわれは権利と人間性に基づいた指針を保持しなければならない」と主張している。

これに対しマニュエル・バルス内相は、レオナルダさんとその両親、1歳~17歳のきょうだい5人の強制送還は正しい措置だったと反論する一方、対応に問題がなかったかどうか見直すよう関係各所に命じた。
同内相の説明によると、一家の強制送還は既存の手続きに沿ったもので、亡命申請が却下されたためだという。

与党内の左派勢力から噴出した強い批判を受け、ジャンマルク・エロー首相もレオナルダさんの権利が侵害されたことが確認されれば、一家がフランスに戻れるように手配すると約束した。

一方、野党議員はバルス内相の見解を支持し、強制送還処分が取り消されればフランスが不法移民を歓迎しているとの誤ったメッセージを発信することになると警告している。

■言葉分からず「怖い」
「怖いです。私はアルバニア語が話せません。私の生活はフランスにあるんです。言葉が全く分からないのに、こっちの学校には通いたくない。フランスには自由がありました。ここ(コソボ)には住みたくはないです」。コソボ・ミトロビツァでAFPのインタビューに応じたレオナルダさんは、こう述べた。一家は今、町が用意した仮の住居で暮らしている。

レオナルダさんの1日前に強制送還された父レシャットさん(47)は、一家はロマ民族だったために犠牲となったと主張する。「フランスには、悪い移民がたくさんいる。私たちは何も悪いことはしていない。強制送還されたのはロマだからだ。肌の色が違ったなら、こんな扱いはされなかっただろう」

フランスでは前月、バルス内相が「国内にいる2万人のロマ民族の大半はフランスに同化するつもりがなく、祖国に強制送還するべきだ」との趣旨の発言をし、物議を醸した。世論調査では仏有権者の4人に3人がこの方針を支持しており、バルス内相の人気は高いが、こうした発言を差別的だと批判する声もある。

一連の問題についてフランソワ・オランド大統領は一切声明を出しておらず、野党からは政府は混乱に陥っているとの非難が出ている。【10月17日 AFP】
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社会問題に敏感なフランス高校生ですから、反発した高校生らが各地で学校封鎖やデモを開始、18日に少なくとも全国で170校が休校や授業中止に追い込まれたそうです。

なお、フランスからコソボに強制送還されたロマの少女、レオナルダ・ディブラニさんとその家族が20日、コソボ・ミトロビツァ市街地で襲撃され、母親が負傷するという事件も起きています。
事件は人種的な問題ではなく、襲われた母親が過去に離婚した男性との確執が原因とも報じられています。

****レオナルダさんだけならフランス帰国も****
レオナルダさんの身柄が校外学習中に拘束され、そのまま強制送還されたことから、フランスでは多くの批判が寄せられている。レオナルダさんの帰国とニュエル・バルス内相の辞任を求める声も上がっている。

フランソワ・オランド仏大統領は19日、レオナルダさん1人だけならフランスへの帰国も可能との提案を行ったが、レオナルダさんはこの提案を直ちに却下。
父親のレシャットさん(47)も、家族がバラバラになることは考えられず何が何でも一緒にフランスに戻ると述べた。

レシャットさんによると、レシャットさん自身はコソボ生まれだが、妻ジェマイリさんはイタリア出身で、6人いる子どものうちレオナルダさんを含む5人もイタリア生まれ。コソボを知らない子どもたちが「家から外に出るのを怖がっている」とした。【10月21日 AFP】
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勢いを増すの極右政党、国民戦線(FN)】
オランド大統領は、左派の大義とロマに厳しい国民世論のはざまで困っているようですが、これでまた支持率を下げそうです。
そうなると、いよいよマリーヌ・ルペンでしょうか。

****仏 勢い増す極右 支持率「首位」 イメージ転換 地方選勝利****
女性のマリーヌ・ルペン党首(45)が率いるフランスの極右政党、国民戦線(FN)が勢いを増している。地方選挙で勝利し、来年実施の欧州連合(EU)欧州議会選挙に向けた世論調査では二大政党を抑え、首位に立った。最近はイメージ戦略も重視し、「反移民」「反EU」を掲げるFNの台頭に国内外で懸念が強まっている。

同国では13日、南部ヴァール県議会補欠選挙の決選投票が行われ、FNの候補が得票率54%で当選した。地方の1議席をめぐる争いだったが、メディアは「国家的影響がある」(仏紙フィガロ)と大きく報じた。

決選投票は国政の最大野党、保守中道の国民運動連合(UMP)とFNの一騎打ち。もともと極右が強い地域ではあるが、第1回投票で推薦候補が敗れた国政与党の左派、社会党がUMP支持に回っても太刀打ちできなかった。

今月公表の世論調査では、来年5月の欧州議会選挙での投票先を問う質問に「FN」とした回答者が24%となり、UMP(22%)、社会党(19%)を上回った。世論調査機関によると、全国規模の選挙に関する調査でFNが首位に立ったのは初めてという。

オランド大統領が経済低迷に有効策を打ち出せず、UMPも党内対立が尾を引く中、二大政党への不満層がFN支持に流れている格好だ。

昨年の大統領選第1回投票でFN過去最高の得票率を記録したルペン氏は最近、イメージ転換も進めている。FNを「極右」と報じるメディアに対し裁判も辞さないと牽制(けんせい)。実際、「人種差別」的言動を行った候補を処分してもいる。

FNなどの勢力伸長にシュルツ欧州議会議長(ドイツ)は「EUを壊したい勢力が勝利しようとしている」と警鐘を鳴らしている。【10月21日 産経】
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