孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム武装勢力に銃撃された少女、めざましい回復 脅威に口をつぐむ地元住民

2012-10-28 21:01:12 | アフガン・パキスタン

(10月13日 カラチ 少女襲撃を非難する抗議行動にマララさんの写真を持って参加する女子生徒 自発的に・・・という訳ではないでしょうが “flickr”より By multimediaimpre http://www.flickr.com/photos/79137904@N07/8087296932/

【「彼女は一時的に倒れたが、また立ち上がる」】
10月11日ブログ「パキスタン イスラム武装勢力批判の14歳「勇気ある少女」、「反道徳的」と銃撃受ける」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121011)で取り上げた、パキスタン北西部のスワート渓谷で10月9日、女子教育を否定するイスラム武装勢力におびえながら登校する日々をブログにつづり、女子教育の必要性や平和を訴えていた14歳の少女がそのイスラム武装勢力に銃撃され重傷を負った事件ですが、イギリスで治療中の被害にあった少女マララさんは奇跡的な回復を見せているようです。

****マララさん、家族と再会 父「娘はまた立ち上がる****
パキスタンで武装勢力に銃撃され、英国中部バーミンガムの病院で治療を受けている女子学生マララ・ユスフザイさん(15)が25日夜、病室で家族と再会した。父ジアウディンさんは「奇跡だ。神に感謝している」と娘の回復を喜んだ。

英BBCは、病室のベッドで両親、2人の弟に話しかけるマララさんの映像を放映した。26日に記者会見したジアウディンさんは、「彼女は一時的に倒れたが、また立ち上がる」と話し、マララさんを襲撃した反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)の脅しには屈しないことを強調した。

さらに「彼女が倒れたとき、パキスタンと世界が立ち上がった」と支援に感謝を表明。身分や宗教を超えて祖国の人がマララさん擁護で結束したことを「(パキスタンにとっての)転換点だ」と話した。
ジアウディンさんは、マララさんが通っていた学校の創設者。マララさんが回復すれば祖国に戻す意向を示している。 【10月27日 朝日】
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犯人については、容疑者5名が逮捕されたとの報道がありました。
国内外に大きな衝撃を与えた事件だけに、また、ある意味、少女を“広告塔”的にパキスタン政府が利用してきた手前もありますので、パキスタン当局も迅速に行動したのかとも思いましたが、“首謀者は依然として逃亡中”との情報もあるとか。

****女性権利訴えた少女銃撃、5人逮捕…パキスタン****
女性が教育を受ける権利などを訴えていたマララ・ユスフザイさん(14)がパキスタン北西部で銃撃された事件で、地元メディアは13日、治安当局が事件に関与したとみられる容疑者5人を逮捕したと報じた。

容疑者の一部は事件が起きた北西部ミンゴラの出身とされ、事件後に犯行声明を出したイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の一員とみられている。ただ、5人の役割は明らかになっておらず、首謀者は依然として逃亡中との情報もある。

ユスフザイさんは現在も重体で、集中治療室で手当てを受けているという。事件に対して国内外から強い非難の声が上がる中、アシュラフ首相は12日、ユスフザイさんの入院先の病院を訪問した。首相は訪問後、記者団に「事件は人道に対する犯罪で、我々の価値観に対する挑戦だ」と述べ、過激派の撲滅に力を尽くすと強調した。【10月13日 読売】
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【「マララの次はヒナだ」】
一方で、イスラム武装勢力による脅迫は止んでいません。
****パキスタン イスラム武装勢力、別の少女も脅迫****
イスラム武装勢力を批判した少女が銃撃を受けたパキスタンで、同様の批判をしていた別の少女が武装勢力のメンバーとみられる人物から脅迫を受けていたことが23日、明らかになった。この少女は、銃撃を受けて英国で治療を受けているマララ・ユスフザイさん(15)と同郷で、北西部スワト地区出身の学生、ヒナ・カーンさん(17)。

カーンさんは2006年、家族とともに自由な教育を求めてイスラマバードに転居。その後、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が女子教育を妨害していることを記者会見で非難した。
今月のユスフザイさんへの銃撃事件後、自宅の門に赤いバツ印が付けられているのが見つかった。すぐに消したものの、再び同じものが書かれ、数日前には「マララの次はヒナだ」との電話を受けた。殺害や拉致を示唆する脅迫電話は今年8月以降、立て続けに受けているという。

カーンさんは産経新聞に「闇の力が自らの意思を押しつけ、私たちを石器時代に押し返そうとしている。脅しに屈することなく、これからも声を上げていきたい」と話した。【10月24日 産経】
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治安の悪化を避けたいザルダリ政権にとって、強攻策は取りにくい
銃撃や脅迫にくじけないマララさんやカーンさん、そのご家族の姿勢には頭が下がりますが、イスラム武装勢力の脅威の前で、パキスタン国内の現実には厳しいものもあるようです。

****マララさん地元、息ひそめる パキスタン少女銃撃事件*****
パキスタンで女子教育の権利を訴えていた少女が銃撃された現場一帯は、犯行声明を出した反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)が3年前まで政府を追い出し、力ずくで支配した土地だ。世界中で沸き起こる少女への連帯の声をよそに、現地ではタリバーンの復活への恐怖が広がっている。

■通学路に兵士・見知らぬ人警戒
事件が起きた北西部スワート地区は2007年から09年にかけ、TTPが警察部隊を追い出し、全域を支配した。政府側が奪還した今も外国人記者の立ち入りが厳しく制限されている。
銃撃されたマララ・ユスフザイさん(15)が通っていた中心都市ミンゴラの学校を朝日新聞の現地助手が訪れると、午前7時半ごろから、民族衣装の制服を着た少女らが足早に登校してきた。入り口には警察官が立ち、通り沿いの建物の屋上には狙撃用の銃を構えた兵士の姿が見える。

学校は、マララさんの父ジアウディン・ユスフザイさんが1990年代半ばに設立し、運営してきた。女子教育を認めていないTTPは、マララさん同様、父も脅迫していた。一家は事件後、首都イスラマバードで政府に保護されている。

事件の3日後に学校は授業を再開したものの、当初は生徒の半分も登校しなかった。徐々に生徒は戻ったが、警備員のカリム・ウラさん(65)は「生徒も親も、誰もがタリバーンが戻ってきたと感じ、恐れている」と話す。
「マララさんの女子教育に対する情熱や勇気を思い、再び通わせることにしたが、大丈夫なのか心配だ」。娘2人を市内の学校に通わせる雑貨店主(42)は声を潜める。

事件後、地元当局は市内の全学校に対し、警備の強化と、スクールバスの運転手や警備員の身元調査を指示した。TTPはマララさんについて報じるメディア関係者の殺害も予告。当局は混乱防止を理由にマララさんの家族や生徒への取材自粛を求めている。

街で事件について尋ねてもほとんどの市民は「私は何も知らない」と口をつぐむ。地元紙記者ムハマド・ファヤズさん(37)は「みんなマララさんに共感しつつ、タリバーンへの恐怖心を募らせている。見知らぬ人を見かけると、タリバーンかと疑い、警戒するようになった」と話す。

内外からの批判にもかかわらずTTPの強硬姿勢に変化は見られない。マララさん同様、スワート地区でTTPによる女子教育への妨害を批判し、その後イスラマバードに移り住んでいた少女ヒナ・カーンさん(17)宅には数日前、電話があり、「マララの次はヒナだ」と脅迫されたと報じられている。

事件に対する国内外の怒りの声を受け、マリク内相は、TTPが拠点とするアフガニスタン国境の部族地域に対して「本格攻撃を検討している」と発言した。
ただ、これまでTTPに対する掃討作戦を行うたびに、首都近郊の陸軍総司令部や大都市のホテルで爆弾テロや攻撃が相次いだことから、新たな作戦が再び全土を報復テロに巻き込む可能性は否めない。来春までに実施される総選挙を控え、治安の悪化を避けたいザルダリ政権にとって、強攻策は取りにくいとみられている。【10月26日 朝日】
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TTPやハッカニ・ネットワークなどイスラム武装勢力が拠点とするアフガニスタン国境の部族地域については、8月にもアメリカ側から“パキスタン国軍が近く、掃討作戦に乗り出す”との発表がありましたが、その後の状況については知りません。

****アフガン国境のタリバン活動地域 パキスタン軍掃討作戦へ****
パネッタ米国防長官は14日までにAP通信のインタビューで、パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域の北ワジリスタン地区で、パキスタン軍が同地域で活動するイスラム武装勢力に対する掃討作戦に近く乗り出すとの見通しを明らかにした。

パキスタンのキアニ陸軍参謀長がアフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)司令官で駐留米軍トップのアレン氏と最近、作戦の計画について議論したという。パネッタ長官は、「キアニ氏はパキスタン軍が(部族地域内の)ワジリスタン地区に入る計画を進めていることを示した」と述べ、「われわれの理解では、パキスタン軍は近い将来、手段を講じてくれるだろう」と明らかにした。(中略)

北ワジリスタン地区ではアフガンでテロを繰り返しているイスラム原理主義勢力タリバンの一派、ハッカニ・ネットワークを含む複数のタリバン勢力が活動しており、米側は同地区での軍事作戦を要請していた。パキスタン政府を攻撃の標的にしていないハッカニ・ネットワークは、対象にはならない見通しだという。【8月15日 産経】
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この報道の直後、イスラム武装勢力側の先制攻撃とも見られるテロが起きています。
****パキスタン:基地攻撃に衝撃****
パキスタン北部のカムラ空軍基地内で起きた武装集団と治安当局との交戦は、発生から約4時間後の16日早朝、収束した。地元メディアによると、治安部隊は武装勢力の9人を殺害、負傷した1人を拘束した。
当局側は基地の警備員1人が死亡、空軍高官を含む4人が負傷した。武装勢力は基地内の輸送機1機を破壊した。国内の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が犯行声明を出した。

カムラ空軍基地は首都イスラマバードの北西約70キロにある国内最大の空軍基地で、中国と共同開発した戦闘機の製造施設もある。過去にも武装勢力が正門付近に自爆攻撃を仕掛けたり、敷地外からロケット弾を撃ち込んだりしたことはあったが、基地内に侵入し激しい交戦となったのは初めてで、当局側は衝撃を受けている。(中略)

パキスタン軍が近く、TTPが拠点とする北西部の北ワジリスタン管区で掃討作戦を行うといわれており、その警告として「先制攻撃」をした可能性がある。
パキスタン軍施設への武装勢力による攻撃は、昨年5月、国際テロリストのウサマ・ビンラディン容疑者殺害への「報復」として、南部カラチの海軍航空基地内で交戦となった事件以来。【8月16日 毎日】
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また9月に入ると、アメリカ総領事館の車両を狙った自爆テロも起きています。
****パキスタン:米公用車狙い自爆 2人死亡20人負傷****
パキスタン北西部ペシャワルで3日、米総領事館の車両が走行中に自爆攻撃を受け、通行人2人が死亡、総領事館勤務の米国人職員2人とパキスタン人職員2人を含む約20人が負傷した。自爆犯も死亡した。犯行声明は出ていないが、「パキスタン・タリバン運動」など武装勢力による攻撃とみられる。

ペシャワルや周辺では、パキスタン当局や一般住民を狙った武装勢力の攻撃が続いているが、厳しい警備の米総領事館が標的となるのは異例。
AP通信によると、米総領事館を出発した防弾仕様の車が住宅街を走行中、自爆犯の車が突っ込んできた。爆発で総領事館の車は大破し、周囲の車両や建物も被害を受けた。現場は、国連機関事務所などが集まり、多くの外国人が住む住宅街で、ペシャワル市内でも特に警備の厳しい地域。【9月3日 毎日】
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パキスタンはすでに“テロ地獄”の状況が長く続いています。
また、国軍の中にはイスラム過激派に共鳴する勢力があるとも言われています。
こうした状況で報復テロを誘発するTPPに対する大規模な掃討作戦が果たして実行されるのか・・・という話になると、懐疑的な見方が多いということのようです。

ザルダリ大統領は、自らの過去の汚職疑惑を巡る最高裁との対立で、それどころではないのでは・・・という感もありますし、国軍への指導力は有していません。
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