
(昨年1月のガス供給停止騒動の際、供給再開を合意したウクライナ・ティモシェンコ首相(左)とロシア・プーチン首相 “flickr”より By Jedimentat44
http://www.flickr.com/photos/jedimentat/3237346117/)
【「ねじれ現象」】
今週末の17日(日曜日)に、ウクライナ大統領選挙の投票が行われます。
親欧米・反ロシア路線の現職ユーシェンコ大統領は支持率4%前後で、再選は絶望的と見られています。
選挙戦を実質的に争っているのは、「オレンジ革命」をユーシェンコ大統領とともに主導したティモシェンコ首相と、親ロシア派のヤヌコビッチ「地域党」党首(前首相)のふたりです。
****ウクライナ:大統領選、現・前首相の決選投票濃厚に****
今月17日投票のウクライナ大統領選挙は終盤戦を迎えた。明確な争点が定まらないなか、有力候補のティモシェンコ首相と「地域党」のヤヌコビッチ党首(前首相)の間では中傷合戦が目立つ。選挙戦は両者による決選投票となる公算が大きく、市民の間では第1回投票に冷めた見方も出ている。
世論調査で支持率トップに立つヤヌコビッチ氏は6日のテレビ番組で、「オレンジ革命」を主導したユーシェンコ大統領、ティモシェンコ首相について「現政権は既にスーツケースに荷物を詰めている」と述べ、政権交代の機運をアピールした。一方、2位につけるティモシェンコ氏は3日、訪問先の南部クリミア半島で、地域党がソ連崩壊後の民営化の際に得た石油などの権益を違法に維持していると指摘。「ヤヌコビッチ氏の背後には強力なマフィアが控えている」と糾弾した。これに対し、ヤヌコビッチ陣営もティモシェンコ氏の「汚職疑惑」に言及するなど、ネガティブキャンペーンの様相を強めている。
ユーシェンコ大統領が当選した前回04年の大統領選は、北大西洋条約機構(NATO)加盟問題や対露関係など明確な争点があった。しかし、今回は親欧米派のティモシェンコ氏がプーチン露首相と実質的な協力関係を築き、親露派のヤヌコビッチ氏もロシアが主導する「集団安保条約機構」に加盟せず「ウクライナの軍事的な中立性を保持する」と表明するなど、「ねじれ現象」が目立つ。
世論調査では国民の7割が投票に参加する意向を示しているが、経済・金融危機の後遺症が長引く中、有権者は有力候補による中傷合戦に冷めた視線を送っているのが実情だ。英字紙キエフ・ポストは「誰が大統領に就任しても難問に直面する」との金融問題専門家の見方を示している。
大統領選には計18人が立候補。17日の投票でいずれの候補も過半数を獲得できない場合、上位2人による決選投票が2月7日に行われる。先月末に発表された世論調査によると、支持率はヤヌコビッチ氏が26~33%、ティモシェンコ氏が16~22%。他の候補は1けた台にとどまり、現職のユーシェンコ大統領は4%前後で再選は絶望的。ユーシェンコ氏は3位以下の候補と「統一候補」擁立の動きを見せるが、大勢に影響を与えない見通し。【1月7日 毎日】
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【強まりそうなロシアとの関係】
ティモシェンコ首相派とヤヌコビッチ前首相派は一昨年から、大統領派を外した大連立政権の樹立を模索。大統領の選出方法を現行の直接選挙から議会による間接選挙に変える憲法改正で、ヤヌコビッチ氏を大統領に、ティモシェンコ氏を首相にする方向で交渉していましたが、最終的にヤヌコビッチ氏が権限の弱い「象徴」大統領となる可能性に難色を示し、協議は決裂したと言われています。
親欧米派と言われてきたティモシェンコ首相ですが、記事にもあるように、最近は天然ガス問題をめぐるロシアとの交渉でプーチン首相との良好な関係が目立ちます。
11月に行われた両者の会談では“両首脳は、ロシアがウクライナに供給する天然ガスの代金20%割引をなくすことで一致した一方で、ロシアがウクライナに支払う欧州への中継輸送料については、60%アップを決定。プーチン氏は花を持たせた形となり、ロシアとしてウクライナ大統領選でチモシェンコ氏に対する事実上の後押しをした形だ。”【09年11月21日 朝日】とも報じられています。
一方、親露派のヤヌコビッチ党首は「ウクライナの軍事的な中立性を保持する」と表明しているそうですが、どちらが勝利してもロシアとの関係が現在より強まりそうです。
ロシアとの関係悪化で、ロシアからの安価なエネルギー資源・原材料供給が困難となったウクライナ経済は、世界的な金融危機の影響もあって、深刻な状況にあるとされています。
また、特に、ロシアと国境を接するウクライナ東部はソ連時代から石炭・鉄鋼業でソ連経済の中核にあった地域でロシアとの関係が深く、独立後もロシア系住民だけでなく、ウクライナ系住民もソ連時代から慣れ親しんできたロシア語を普通に使っています。
こうした経済的・文化民族的な関係からしても、ロシアと敵対した国家運営は難しいものがあります。
もっとも、ウクライナ経済が破たん寸前までに追いやられたのは、ロシアとの関係が断たれたせいだけではなく、親欧米派と親ロシア派、更に親欧米派のなかの大統領派と首相派の政治抗争に明け暮れ、国内の構造改革が一向に進まなかったせいだとする見方もあります。
【直行便運行 一部再開】
ロシアと近隣国の関係では、ロシアと戦火を交えたグルジアも、ロシアとの間で直行便の運航を再開するという交流再開の動きがあります。
****ロシア:グルジアとの間に直行便 期間限定で運航一部再開****
08年夏に軍事衝突したロシアとグルジアの間で、期間限定ながら直行便の運航が再開されるなど、中断していた交流を一部再開する動きが出ている。両国は先月、閉鎖されていた国境検問所の一部を3月に開放することでも合意している。ロシアの首都モスクワで数十万人ものグルジア国民が生活していることや物流の不便さを考慮し、緩和に踏み切ったとみられる。
グルジアの首都トビリシからの報道によると、グルジア国立航空は冬期休暇の8~10日、トビリシ-モスクワ間でチャーター便を運航した。グルジアは、今月中下旬の3日間も運航できるようロシア側に要求しているという。両国は08年のグルジア紛争の発生に伴い、直行便の運航を取りやめていた。
一方、ロシア正教会渉外局長のアルフェエフ大主教は7日、「ロシア、グルジア両正教会は和解に貢献ができるかもしれない」と発言。時期には触れなかったが、キリル総主教によるグルジア訪問の予定を明らかにした。両正教会はグルジア紛争後も良好な関係を維持してきた。
ただ、ロシアが南オセチアとアブハジアの独立を承認したことに対し、グルジアが全面的に反発しているため、これらの動きが外交関係の正常化に結びつく可能性は低いとみられる。ロシア側も、グルジアで親欧米のサーカシビリ政権が続く限り政治レベルの関係改善は難しいとの立場を崩していない。【1月10日 毎日】
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ロシアとの人・物のつながりという現実を反映した対応ですが、ただ、こちらは南オセチアとアブハジアの問題がありますので、ウクライナのような関係改善にはすぐにはいかないようです。