
(08年3月の大統領選挙当時、“Together we shall win”とアピールするふたり。
今も変わらぬ二人三脚なのか、独自の道を模索しているのか、よくわかりません。
“flickr”より By Neeka
http://www.flickr.com/photos/vkhokhl/2305596713/)
【モスクワ連続アパート爆破事件】
10年前、エリツィン政権下でわずか2年足らずの間に指名された4人目の首相としてプーチン氏が首相に任命されたとき、プーチン首相は海外ではもちろんのこと、ロシア国内でもほとんど知られていませんでした。
そのプーチン首相の政治的地位を押し上げ、その後の大統領への道を切り開いたのが第2次チェンチェン紛争における強硬な姿勢であり、そのチェンチェン進攻のきっかけになったのが「モスクワ連続アパート爆破事件」でした。
99年9月9日未明、モスクワ市南東の9階建てアパートで爆発があり、住民ら90人以上が死亡。13日には市内の別の8階建てアパートが爆破され120人以上が死亡。前月に首相に就任したばかりのプーチン首相が進攻作戦を指揮し、第2次チェチェン紛争が始まりました。
ただ、この「モスクワ連続アパート爆破事件」については、プーチン首相の出身母体である連邦保安局(FSB)がチェチェン進攻の口実を作るために事件を起こしたのでは・・・との憶測が根強くあります。
****モスクワ連続アパート爆破10年 国家関与、消えぬ疑念****
事件では2004年に北カフカス出身者らが終身禁固の判決を受けているが、連邦政府がチェチェン独立派の犯行と断定した根拠には数々の疑問が残る。
「一連の爆破事件にFSBが関与した」と告発した元FSB諜報員のリトビネンコ氏が06年、英国で猛毒ポロニウムにより殺害されたほか、最新の世論調査でも回答者の22%が「事件に治安機関が関与した」と考えている。事件発生10年を前に、季刊誌「GQ」ロシア語版が検証記事の掲載を見送る騒ぎも起きた。
ロシア各紙が犠牲者の追悼式典の様子を伝える程度にとどめる中、反政府系ノーバヤ・ガゼータ紙は9日付で「なぜ10年も真実が知らされないのか」との長文記事を掲載。目撃証言で作成された容疑者の似顔絵が、チェチェンで死亡したはずのFSB諜報員に酷似していたことなど5つの疑問点を挙げた。
同日付の英字紙モスクワ・タイムズは、「一連の爆破事件がなければ、プーチン氏の支持率が急上昇することは決してなかった」との政治評論家の談話を掲載。06年に何者かに射殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏をはじめ、一連の爆破事件の真相に迫っていた人々の大半が死亡したとし、事件が現政権下でもタブー視されていることを示している。【9月15日 産経】
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【「新しいロシアをつくろう」】
一方、プーチン首相との双頭支配が常に話題となるメドベージェフ大統領が、最近インターネット新聞にロシアの現状を徹底批判する論文を発表し、話題になっています。
****ロシア大統領、自国の現状を徹底批判 改革の主導権狙う****
ロシアのメドベージェフ大統領が、政権に批判的なインターネット新聞にロシアの現状を徹底批判する論文を発表し、真意はどこにあるのかと話題になっている。経済の後進性や汚職の横行、無責任体質、人命の軽視などをあげつらい、「影響力を保持する汚職官僚グループ」と「何も生み出さない企業家」から主導権を奪おうと、国民に直接呼びかける形をとっている。
論文のタイトルは「ロシアよ、前へ!」。広く読者から意見を募り、10月末にも予定される年次教書演説に反映するとしている。大統領には、世論を背景に一連の改革を進めたいとの狙いがあるようだ。
現状批判の言葉は痛烈だ。石油やガスなどの資源に頼る「原始的資源経済」や「慢性的汚職」を将来に引きずるのかと問いかけ、問題解決を国家や教義に任せる他者依存的な体質を批判。「民主主義の質は理想からほど遠い」「市民社会は脆弱(ぜいじゃく)」「労働生産性は恥ずかしいほど低い」などと指摘し、改革のためには欧米やアジアの資金、技術も必要と述べている。
特に司法制度の現代化と効率化が急務と強調。裁判所や検察、警察、情報機関のいずれもが旧態依然だとし、治安職員は法と自由を守ることを学ぶ必要があると訴えている。「双頭体制」を組むプーチン首相の支持基盤とされる「シロビキ」(治安省庁出身者)への公然の批判とも受け取れる部分だ。
さらにソ連体制についても「多くの国民を貧しくさせ、侮辱し、抹殺した」「人の命を守ることが国家の優先事項ではない時代だった」と表現。民主的発展の必要性を説き、論文の最後は「新しいロシアをつくろう。ロシアよ、前へ」と締めくくっている。
ロシア国内では、論文発表の場が新聞ではなくネットメディアだったことから、若い世代に直接「支援」を呼びかけた初の試みだとする見方がある。一方で、「リベラルなインテリにこびたものにすぎない」との批判もある。【9月15日 朝日】
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日本では鳩山・小沢の二元支配が懸念されていますが、メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭体制については、プーチン首相の一元支配で、メドベージェフ大統領はプーチン首相の操り人形にすぎないとも見られています。しかし、陰謀の噂が絶えないプーチン首相と、「人の命を守ることが国家の優先事項ではない時代だった」と旧体制批判し、現状についても旧態依然と厳しく批判するメドベージェフ大統領の間には、色合いの違いは確かにあるようにも思えます。
【「運命が別の指令を出してきた」】
プーチン首相は2012年の次期大統領選挙について11日、「メドベージェフ大統領と話をして、私と彼のどちらかが立候補する」と述べ、大統領復帰に意欲を見せている・・・とも報じらました。【9月11日 読売】
そのことは、“既定路線”として、特段の驚きもありませんでしたが、メドベージェフ大統領も再選への意欲を見せているというのは意外な感じがします。
****ロシア大統領、2012年大統領選出馬の可能性否定せず*****
ロシアのメドベージェフ大統領は15日、2012年の次期大統領選に出馬する可能性を排除しないと述べた。複数の国内通信社が伝えた。
同大統領は、プーチン首相の人気が依然最も高いことは認めながらも「しばらく前までは出馬など考えもしなかったが、運命が別の指令を出してきた。したがって、早計に計画を立てることもしないし、いかなる可能性も排除しない」と述べたという。(後略)【9月16日 ロイター】
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【今後も期待できない北方領土問題】
お互いが示し合わせての発言なのか、それぞれの思惑での発言なのか・・・そのあたりは全くわかりません。
ただ、メドベージェフ大統領がなにかと強硬姿勢の目立つプーチン首相とは異なる色合いがあるとは言っても、日本にとって、北方領土問題がメドベージェフ大統領のもとで進展しやすい・・・といったものではないようです。
****北方領土「極端な立場離れて」 ロシア大統領呼びかけ****
ロシアのメドベージェフ大統領は15日、欧米日などの有識者らとモスクワで会談した際、北方領土問題について「極端な立場を離れることだけが成功への道だ。鳩山新首相にもそう提案する」と述べた。一貫して四島返還を求める日本に対し、一定の譲歩を呼びかけたものとみられる。日本から参加した下斗米伸夫・法政大教授の質問に答えた。
同教授の話などによると、メドベージェフ大統領は鳩山新政権の誕生を歓迎。「日本では歴史的転換が起きている。あらゆる問題について鳩山新首相と協議する用意がある」などと述べた。【9月16日 朝日】
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日本の今の政治情勢では、北方領土問題での“譲歩”は、国賊扱いされかねない難しい判断です。
個人的には、国境線はそのときどきの“力関係”で決まってきたものにすぎず、条約とか合意とはいっても、そうしたパワーゲームの結果に過ぎないと考えています。
また、ロシアにとっても、第2次大戦後の国境線全般にかかわる問題です。
こうした問題の解決には、徒に過去の経緯に拘束されることなく、現状と将来の関係を見据えて両者で譲り合うしかないとも考えます。
日本の“民主主義”においては、とかく原則を声高に主張するほうが世論をリードしやすい傾向があります。
国内問題であれば、意見の対立は選挙によって、どちらかが矛を収めるという調整過程が機能しますが、国際問題ではそうした調整機能がはたらかず、国内の“世論”に配慮して不毛の対立を百年、二百年と続けるが、さもなくば戦争で解決するかしかありません。
利害が対立する外交問題というのは、“民主主義”国には苦手な分野なのかも。
まあ、ロシア国内にも“譲歩”の機運はないようですし、強硬な姿勢がますます強まっているようですから、当分はこのまま放置されるだけなのでしょう。