孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット問題  ダライ・ラマの交渉路線は成果なく、先鋭化の懸念

2008-11-07 16:17:28 | 国際情勢

(ラサ市内を巡回する武装警察 9月後半頃の様子 “flickr”より By sfthqphotos
http://www.flickr.com/photos/sfthq/3002433776/)

北京オリンピックをはさんで、人々の記憶から薄れつつあるチベット問題。
オリンピックも終盤のラサの状況は次のように伝えられていました。

【力で抑え込む中国当局】
****警官巡回ラサ沈黙 騒乱5カ月、五輪に住民冷ややか****
3月14日に大規模な騒乱が起きたラサ中心部のジョカン寺の広場。寺の正面ではいつものように、チベット仏教徒たちが全身を地面に投げ出して礼拝する「五体投地」を続けている。すぐ後ろを5~10分おきに、小銃を構えた数人の武装警察部隊が通り過ぎていく。仏教徒たちは一顧だにせず、黙々と礼拝を続ける。
力で抑え込む中国当局と、信仰に没頭するチベット族。平穏な顔の下に緊張感をはらむ、今の関係を象徴的に映し出す光景だ。武装警察の数は五輪が近づいた7月半ばから再び増え始めたと住民は言う。

厳戒態勢のもと、チベット族の住民の口は重い。ジョカン寺を取り囲む繁華街バルコルで店主たちに話しかけても、「わからない」「何も言えない」という答えばかり。10~20メートルおきに数人の警察官がいすに座り、周囲に目を光らせている。
30代の尼僧は「ジョカン寺はチベット仏教の聖地。銃を構えた武装警察がうろつくのは耐えられない。早く去ってほしい」と、こっそり話した。

街は漢族とチベット族の居住地が分かれている。目抜き通りの北京中路には漢族が経営する商店やホテルが集まり、騒乱では襲撃を受けた。黒こげになった店舗などが今も野ざらしになっている。
四川料理店を営む漢族の女性は「騒乱後チベット族の客はめっきり減った。チベット族の店員も漢族に代えた。彼らは私たちを憎んでいる。怖くてチベット族居住区は通れない」と話す。 【8月22日 朝日】
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【「中国指導部に失望」】
ダライ・ラマの呼びかけで各地から数百人の亡命チベット人を集めた緊急会議が11月17~22日に開かれます。
暴力への暴発を抑えながら中国との交渉を続けてきたダライ・ラマですが、ここにきて“中国への失望”を口にするようになりました。

****ダライ・ラマ「中国指導部に失望」 対話路線めぐり******
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は25日、チベット亡命政府のあるインド北部ダラムサラで、中国との対話路線について「中国指導部に失望した」と語った。そのうえで、11月にダラムサラで開く亡命チベット人の代表を集めた緊急会議に、対話路線を続けるかどうかの議論をゆだねる考えを示した。(中略)
チベット人の自治獲得を目指した対話路線についてダライ・ラマは「中国側から前向きな反応がない。私の責任の限りで、互いに受け入れ可能な解決策を見つけようと努めてきたが、現在の中国指導部には失望した」と語った。
(中略)会議についてダライ・ラマは「チベット問題はダライ・ラマ個人でなくチベット人全体の問題。効果的な他の選択肢を探ってほしい。結論はすぐに出ないだろう。これが始まりになる」と述べた。
発言について(側近の)タクラ氏は「対話路線を放棄したわけではない」と説明した。ダライ・ラマ特使と中国との次回対話は10月末にも北京で開かれる予定だ。
緊急会議にはダライ・ラマと路線を異にし、独立を求めるチベット青年会議も参加。対話路線以外にどんな道があるのか、難しい議論が予想される。

ダライ・ラマは88年、独立でなく「高度な自治」を求める姿勢を表明。02年からダライ・ラマ特使と中国との間で対話が続いていた。だが、目立った成果がなく、中国国内でチベット人への締め付けが強まるなか、今年3月にチベット騒乱が発生。7月の対話でダライ・ラマ側は「中国側の真摯(しんし)な姿勢がなければ、対話継続に意味はない」とし、亡命チベット人の間でも対話継続に疑問の声が出ていた。
ダライ・ラマが将来の路線の議論をゆだねた背景には、73歳の自身が亡くなった後も運動が弱体化しないようにとの考えもあるとみられる。今年3月には、01年に亡命政府の首席大臣の直接選挙を導入したことに触れ、「自分は半分引退した身。完全な引退を探っている」と語っていた。 【10月26日 朝日】
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今月に予定されている緊急会議では、運動の目標がこれまでの自治権拡大から完全な独立の達成に変わる可能性があります。
ただし、前出タクラ氏は「唯一議論の余地がない点は、運動が今後も非暴力的であり続けることだ。このことは全員が同意している」と述べています。【10月27日 AFP】

【ゼロ回答 中国に歩み寄りの意思なし】
そうした状況でダライ・ラマの特使と中国側の交渉(暴動後3回目)が北京で行われましたが、決裂しました。
中国側には当初から歩み寄る考えがないとも報じられています。

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チベット騒乱後、双方が最初に接触したのは5月4日だった。共産党中央統一戦線工作部の朱維群副部長と、ダライ・ラマの特使、ロディ・ギャリ氏が広東省深センで会談。中国筋などによると、この対話で中国側は「祖国の分裂活動」「暴力行為」「北京五輪への妨害活動」の中止を求めた。ダライ・ラマ側はこれらの活動にかかわったことを否定したうえで了承。その一方で「チベットの高度の自治」を求めた。これに対して中国側は「チベットではすでに高度の自治が実現している」として拒否した。

この対話は、中国が欧米諸国による「人権弾圧」批判をかわす狙いで実施したものであり、中国側には当初からダライ・ラマ側に歩み寄る考えはなかったとみられる。ダライ・ラマ側が求める「人民解放軍の撤退」「漢族移民の削減」「チベット仏教の尊重」などは、多くの少数民族を抱え、共産党一党独裁体制を維持したい中国にとって、いずれも受け入れられない条件だ。
7月初めに北京で再び対話が実現したが、双方の主張は平行線をたどった。そもそも、多くの国内問題を抱える中国は、チベット問題の解決を最優先課題としておらず、「相手を呼びつけて、チベットの独立はいけないと説教したうえで、宴会などで歓待すればいい」(中国政府関係者)と対話を時間稼ぎの手段と考えている。

ある中国筋は「ダライ・ラマという絶対的なリーダーが死ねば、チベット問題は自然と解決すると中国の指導部が考えている」と指摘する。
しかし、ダライ・ラマは最近、中国の対応にいら立ちを見せ始め、「中国の指導部に失望した」と言明、対話路線を継続するかどうかについて検討する考えを示した。対話路線が見直されれば、チベット情勢は再び混乱することになりそうだ。【10月31日 産経】
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今回交渉でも中国側回答は“ゼロ回答”でした。
“中国国営新華社通信によると、中国共産党の杜青林・統一戦線工作部長は、北京で行われていたチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の特使との会談で、チベットで実施している現在の統治制度を変更しないと強調、ダライ・ラマ側が求める「高度の自治」を事実上拒否した。
杜氏は会談で、「いかなる人物も組織も、憲法と民族区域自治法を順守しなければならない」と中国政府従来の立場を主張し、「チベット独立はダメ、半独立もダメ、形を変えた独立もダメ」と語ったうえで、「香港やマカオで実施されている一国二制度も適さない」と述べた。”【11月7日 産経】

【現実を動かすのは力と流血のみか・・・】
11月に来日したダライ・ラマは「中国政府への信頼はなくなりつつある」と不信感をあらわにし、中国との対話を今後も続けるかについては言及を避けました。
また、「中国政府に対するわたしの信頼は薄くなる一方だ。(チベットでの)弾圧は増えており、何事もうまくいっているようなふりはできない」「(対話は)失敗だったと認めざるをえない。この間の数年、わたしたちのアプローチはチベット内に良い変化をもたらすことができなかったため、批判も増えている。人々の意見を聞く必要がある」と語っています。

ダライ・ラマの発言要旨については次のように報じられています。
“3月の危機以降、中国政府に期待したが、現実は違った。チベット人は「死刑宣告」を受けたと同じだ。中国政府はウイグル人やチベット人などの少数派に対して耳を傾けず、武力で臨む。中国政府は「チベット問題は存在せず、問題はダライ・ラマにある」とし、私を分離主義者、扇動する政治家だと呼ぶ。私は中国人民を信頼するが、中国政府への信頼はなくなりつつある。
17日から亡命チベット人代表が集まりダラムサラで会議があり、月末にはニューデリーで国際支援会議が開かれるが、私は中立の立場だ。
チベットの文化や伝統を守ることはチベット人のためだけでなく、中国の立て直しにも役立つ。現在の中国は自由がなく、法治国家といえない。腐敗して汚れた共産主義だ。かつてチャーチル元英首相が(東西冷戦を象徴する)「鉄のカーテン」という言葉を使ったが、人の話を聞かない中国政府は「心のカーテン」を引いている。”【11月2日 毎日】

こうした交渉の経緯、ダライ・ラマの発言からすると、17日からのダラムサラでの会議では議論が先鋭化しそうに思われます。
確かに、中国の頑なな対応を考えると、これまでのような交渉を何百年続けても何も変わらないように思えます。
力と流血でしか現実は動かない、犠牲者をださない限り世界は関心を持ってくれない・・・そのようにも思われます。
残念なことではありますが。



コメント
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