孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  ゲーツ米国防長官、「米国の戦争ではない」「これはアフガニスタンの戦争」

2008-11-02 14:18:36 | 国際情勢

(アフガニスタンでのローカルな部族長老会議(ジルガ) “flickr”より By Feinstein International Center
http://www.flickr.com/photos/feinsteincenter/2739467586/)

【「これはアフガニスタンの戦争だからだ」】
“泥沼化しつつあるアフガニスタンでの戦いは一体誰の何のための戦いなのか?”という初歩的な疑問がぬぐえず、これまでもときどき取り上げてきました。
そんな中、「??? そうだったの?」と思える発言がありました。

****米国防長官、アフガニスタンは「米国の戦争ではない」*****
米国のロバート・ゲーツ国防長官は31日、アフガニスタン軍は拡充する必要があり、同国での戦いはアメリカまたは北大西洋条約機構(NATO)の戦争ではなく、「アフガニスタンの戦争」として認識されなければならないと述べた。
米フロリダ州でイラク駐留米軍司令官だったデービッド・ペトレアス陸軍大将の米中央軍司令官就任を視察したゲーツ長官は、ワシントンD.C.へ戻る軍用機の中で取材陣に対し、「可能な限り迅速なアフガニスタン軍の拡充が期待されている。なぜなら、これはアフガニスタンの戦争だからだ」と語った。

ペトレアス氏が新たに就任した米中央軍司令官は、アフガニスタン、イラクを含めアフリカ東北端から中央アジアを管轄下に置く。同氏はイラク駐留米軍司令官として在任中、増派された米兵3万人と共に、イラク西部のイスラム教スンニ派武装勢力を説得し、同国の治安維持にあたらせることに成功したことが評価されており、アフガニスタンでも対武装勢力の専門知識が生かされることが多方面から期待されている。【11月1日 AFP】
*************************

【アメリカの戦争】
少なくともアメリカにとっては、アフガニスタンの戦争は“テロとの戦い”であり、「不朽の自由作戦(OEF)」の法的根拠は、国連憲章第51条の規定に基づき、攻撃開始の当日である2001年10月7日に米英両国により安保理に提出された書簡「米国は9.11の軍事攻撃に対する個別的又は集団的な固有の自衛の権利の行使として他の諸国とともに行動を開始したことを、国連憲章第51条の規定に基づき報告する。(要約)」にあると理解していました。
要するに、アメリカが自国への軍事攻撃である9.11への報復として起こした“アメリカの戦争”ということです。

一方、ISAF設立根拠である安保理決議1386は、ボン合意の付帯文書の規定に基づきその履行措置として採択されています。
その付帯文書内容は要約すれば、「この会議の参加者一同は,アフガニスタン新政府が自国の責務としての治安・秩序を維持し、安全な環境下で国連・NGO等の活動ができるように、保安部門及び国軍の創設についてアフガニスタン新政府を支援する。当面の措置としては、国連の安全保障理事会に対し、カブールならびにその周辺地域での治安維持支援を行う国連授権のある部隊の早期派遣を求める。」といった内容です。【ウィキペディアより】
明らかに“治安維持”を使命としてスタートしています。
(以上、OEF、ISAFについては、12月16日の当ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071216からの再録)

【巻き込まれるNATO諸国 そして「アフガニスタンの戦争」へ】
しかし、アフガニスタンでの戦争が激化、段階的に指揮権がOEFからISAFへ委譲されていく過程で、明確に趣旨は異なる二つの活動が一体となる形で変質していきます。
アメリカはNATOにアフガニスタンでの戦争の肩代わりを要求、ISAFは治安維持に留まらず戦争の前面に立たされる形になります。

今年2月段階で、増派に非協力的な仏・独に苛立つ米首脳は、ゲーツ米国防長官が「人を守るために戦っている国と、そうでない国に同盟国が二層化されることを懸念する」「欧州の人々は、アフガンの安定が欧州にとっていかに重要か理解していない」と発言、更にライス国務長官は「(ISAFの)活動はアフガンでの平和維持が使命ではなく、反乱勢力との戦闘であることを理解すべきだ」と言い切っています。

“アメリカの報復戦争”はNATO諸国を巻きこみ“欧州のために重要な戦い”に、NATO諸国はアメリカと同等の共同正犯になった訳ですが、その後のタリバンの攻勢でいよいよ泥沼化する気配、「戦闘だけでは永久に勝てない」という声が大きくなってくると、冒頭の“アフガニスタンでの戦いはアメリカまたはNATOの戦争ではなく、「アフガニスタンの戦争」として認識されなければならない”という発言になっています。 
なんとか今の泥沼から這い出したいという思いでしょうか。

【アフガン版“覚醒評議会”】
冒頭記事で、イラクでのスンニ派勢力を取り込んだ覚醒評議会、“イラクの息子たち”類似の展開をアフガニスタンでも期待するアメリカの意向が述べられています。
アフガニスタン政府とタリバンとの和平交渉はサウジアラビア仲介で行われているようですが、成果はまだ出ていません。

こうした交渉過程で、タリバン穏健派を取り込んでオマル師などの指導層から切り離すことができれば・・・ということでしょう。
確かに今の情勢を転換するには、そうした方策が最良でしょうが、実現可能性はこれからの話です。
アメリカはアフガニスタンから手を引くことも要求されるかもしれませんが、「アフガニスタンの戦争」と言うのであれば、アメリカもそれで異存ないのかも。

【パキスタンでの反タリバン自衛団】
一方、アフガニスタンでの戦いを左右するパキスタン部族支配地域の動きですが、こちらでは、部族社会の中から“反タリバン”の動きが出てきているようでせ。
しかし、イラクの覚醒評議会のようにコントロールされたものではなく、むしろパキスタン政府の動きを制約するものともなっているようです。

****武装自警団乱立 混迷パキスタン 政府は対話路線…部族民「反タリバン」化****
パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域で、部族民たちが独自に大規模な武装自警団を組織し、イスラム原理主義勢力タリバンや国際テロ組織アルカーイダを排除しようとする動きが顕著になってきた。イスラム過激勢力への掃討作戦が続くパキスタンでは、ザルダリ新政府がタリバンとの対話による安定化を模索している。しかし、現地では部族民の過激化に加え、アフガン駐留米軍による越境攻撃も相次いでおり、混迷は深まるばかりだ。

いくつもの部族が独自の掟(おきて)に基づき生活する部族地域では、9月ごろから各地で「ラシュカル」(武装する人)と呼ばれる数十人から数千人単位の自警団が結成され始めた。9月初めには、バジュール地区の過激勢力の民家など35棟を自警団が2日間に渡り焼き打ちし、10月も同様の攻撃が相次いだ。
複数の部族はさらに、各部族民にタリバンとの接触やタリバンの保護を禁じ、違反者に100万ルピー(約160万円)の高額の罰金を科す新たな掟を制定した。
自警団はそもそも、過激勢力との戦闘を続ける政府軍が、部族民に協力を呼びかける中で出現した。自らの居住地が戦場と化したまま一向に終結する兆しが見えないことに対する自警団の不満は根強く、携行式ロケット砲を使用し拠点を攻撃するなど活動は過激を極めている。

一方、首都イスラマバードでは先月28日までの2日間、パキスタンとアフガン両国のイスラム聖職者や部族の長老約50人が集まり、合同平和会議(ジルガ)を開催、イスラム主義を掲げる武装勢力と対話に乗り出す方針を改めて確認した。
軍事作戦の限界を感じ始めたパキスタン政府や軍は、もともとタリバンと友好的だった部族民を通じてタリバンとの和解の道を探ろうとしているが、自警団の過激化は、こうした戦略に水を差す形となっている。
さらに、タリバンやアルカーイダが潜伏しているとして最近、部族地域への空爆を激化させる米軍に対し、部族民たちは反発を一層強めている。パキスタン政府は重ねて米国に抗議しているものの、消息筋は「パキスタンは金融危機によって欧米諸国の支援を必要としている。ザルダリ大統領のかじ取りは極めて難しい」と指摘している。【11月2日 産経】
***************

先月10日に部族地域で、タリバンに反対する地元部族の集会で少なくとも15人が死亡、数十人が負傷する自爆テロが発生し、タリバン側の報復攻撃とも見られていました。
こうしたニュースから、部族社会内部でもタリバンと“反タリバン勢力”の激しい確執が存在しているのだろうか・・・とも思っていましたが、上記産経記事はそのあたりを説明してくれるものです。

今のところ和解の動きに水を差す形にもなっているということですが、今後の対応如何によっては反タリバンで政府と協力する可能性も考えられます。
ただ、その場合、パキスタンにおいてもアメリカは越境攻撃しないなどパキスタンから手を引くことが求められるでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする