BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

ギフト(3)

2007-03-14 20:01:44 | Angel ☆ knight
   

 アレフという青年が病室に入ってきた時、カムイは一瞬魔法使いかと思いました。肩まで届く黒い髪、黒い瞳、痩せて尖った色の白い顔。
あまりに静かに部屋に滑り込んできたので、まるで忽然と湧いて出たかのようでした。
「あれ、ウルフ、もう帰っちゃった?」
「お兄ちゃん、ウルフのお友達?」
「友達っていうか、シティ警察で一緒に働いてるんだけどね」
カムイの目は青年の車椅子に釘付けになっています。そんな風にじろじろ見るのは失礼だと思いましたが、こういう時だけに目が離せません。
「お兄ちゃんも足が悪いの?」
「見ればわかるでしょ?」
どうやら、アレフは、ウルフのようにやさしい物言いをしてくれる人ではないようです。
「お兄ちゃんも病気になったの?」
「いいや。病気じゃないよ。父さんにやられたんだ」
「お父さん…?」 カムイは目をぱちぱちさせました。
「父さんに、金属バットで足の骨を粉々に砕かれたんだ。骨盤も割られて、次は脊髄っていうところで、近所の人が呼んだ警察官が来た。もうちょっと遅かったら、背骨も折られて寝たきりになってただろうね」

 保護者である父親が逮捕勾留されてしまったので、アレフは福祉で最低限の治療しか受けられないはずでした。しかし、相部屋になった富裕な老人が、どうせ生きているうちには使い切れない金だからと、アレフの治療費を出してくれたのです。
老人は、コンピューター会社で財を成した富豪で、アレフにもコンピューターのことを色々教えてくれました。たまたま、アレフはそいうことが性に合っていたので、老人はますますアレフを可愛がり、彼が退院するとエスペラント・シティにあるコンドミニアムに呼んでくれました。
「でも、おじいさんは半年後には病気で亡くなっちゃったんだ。生きているうちに使い切れないっていうのは、単に年を取って先が短くなったっていうことじゃなくて、あとわずかしか生きられないって宣告されてたんだね。おじいさんは、自分の家族とは上手くいっていなかったみたいで、遺産はほとんどぼくに残してくれたんだ」
アレフは、その大部分を、保護者にケアして貰えない子供が十分な医療を受けられるための基金の設立にあて(カムイも今、この基金で治療を受けています)、自分は老人の勧め通り、エスペラント・シティ大学に進学して、情報処理工学と機械工学を学びました。今や、シティ警察で、コンピューターとメカに関し、アレフより詳しい者はいないといわれています。
「この車椅子も自分で作ったんだ。自動車並みのスピードも出るし、ビルの二階ぐらいの高さからなら飛び降りることもできるんだよ。どうせなら、自分で歩ける人にはできない機能をつけないと、面白くないからね」
アレフはいたずらっぽく笑うと、車椅子の背部から虹色の幌を引き出しました。美しい七色の幌には、細かい雨の滴がいっぱいついています。今日のような雨の日でも、傘をさす必要はありません。この車椅子には、他にも色々仕掛けがあるのです。

 「ふみゅー」 カムイは感嘆の声を上げました。
「そんな車椅子があれば、歩けなくても全然平気?」
「そんなことはないよ」 アレフの返事は身も蓋もありません。
「この足が動いたら便利だろうなあと思うことはいくらでもあるし、障害者だっていうんで特別な目で見られるのも嫌な気分だよ。ま、どっちもどっちなんじゃない?」
「じゃあ、お兄ちゃんも幸せ売りがいたら、歩けるようにしてってお願いする?」
「幸せ売り? 何、それ」
カムイは説明を始めました。もちろん、『幸せ売り 2』の納得のいかない部分についても話しました。
「お兄ちゃんもおかしいと思わない? 幸せ売りなら病気を治してあげなくっちゃだよね?」
「そんなことはできないよ。病気は神様がその女の子に下さったギフトなんだから、幸せ売りが勝手に取り上げちゃいけないんだ」
「ギフト?」 カムイは目を丸くしています。
「そうさ。人が生きている間に起きることは、みんな、神様のギフトなんだ。誰かがかわりに受け取ったり、他のものと交換したりはできないんだよ」
「ギフトって贈り物でしょ? 贈り物は嬉しいいい物じゃない。何で病気がギフトなの?」 カムイはいきりたって言いました。こんな変な話を聞いたのは初めてです。
「神様のギフトにいいも悪いもないさ。神様はただ、その人に必要だと思うから下さるんだ。いいか悪いかは全部自分が決めるんだよ」
カムイはもう、最高に納得がいきません。病気なんか誰が見たって悪いものに決まっています。
「お兄ちゃんだって、足がそんな風になった時、プレゼントを貰ったみたいに嬉しかった? そんなことないでしょ?」
アレフは静かに答えます。
「その時は生死の境を彷徨ってたから、そんなことを考える余裕はなかったよ。意識が戻って落ち着いてからは、父さんが今にもぼくを連れ戻しにくるんじゃないかって、それだけが恐かった。あいつが刑務所に入って、おじいさんと一緒にエスペラント・シティへ行けることになった時は、心底安心したな。今のぼくは、自分の足で歩いたり走ったりできた頃より、ずっと自由だよ。暴力に脅えたり、誰かの意のままに支配されたりせずに、自分で自分の人生を作っていくことができるからね」
カムイには、やはり割が合わないような気がします。足が動かなくなったことがギフトだなんて、どうしても思えません。そんなプレゼントをくれる神様なんて、願い下げです。
「きみさあ、そんなに歩けないのが不幸だと思うんなら、何で歩く練習をしないの?」
アレフは可笑しそうに言いました。
「ぼくの足は神経があちこちぶち切れてて、もうどうしたって動かないけど、きみは練習すれば歩けるようになるんでしょう? なのにどうして自分の力で脱けだそうとしないのさ。幸せ売りにお願いするより、その方がよっぽど手っ取り早いと思うけどな」
アレフはそう言うと、車椅子を反転させて、病室を出て行きました。あまりにも滑らかで素早い動作だったので、カムイの目には彼が一瞬でかき消えたように見えました。
アレフが帰り際に放った言葉はカムイにとっては痛いところでした。自分でもうすうすわかってはいたのです。でも、歩く練習は辛いばかりで少しも効果が上がりません。誰がそんなことをしたいと思うでしょう。
あのお兄ちゃんはやったことがないからわからないんだ 口で偉そうに言うだけなら、誰にでもできるんだ!
カムイは掛け布団をよじってエグエグ泣きました。
雨はまた激しさを増したようです。ザアァ、ザアァ…

(続く)

↓ この下に小ネタがあります 


最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ギフトの意味!! (murasan)
2007-03-14 21:54:16
ギフトという題名の意味は、試練こそプレゼントという意味だったんですね!
う~ん深いです!!
人生には病気持ちや、つらい経験している人がたくさんいますが・・実は天からのギフトなんですよね!
 カムイもいずれ意味が分かるはずです☆

ホワイトデーでしたね!!
美味しそう♪見逃しませんでした☆
返信する
murasanさん (アンジー)
2007-03-14 22:08:56
ハイ、今回はタイトルテーマの回です(笑)
日々起こることはいいことに見えることも悪いことに見えることもありますが、それにいちいち○×をつけているとしんどくなります。
私も人から教えて貰ったんですが、「何だかわからないけど必要だったのね」と思ったら気持ちが楽になりました。
小ネタも見ていただけましたか。ありがとうございます。
返信する
ギフト (R)
2007-03-15 00:23:39
すごい発明家ですねアレフさん!
病気がギフトですか~。昔、部活で怪我をしてて、ずっと練習に出られなかった友人が、これも神様が下した試練だから、絶対早く治すんだって言ってたのを思い出します

返信する
Rさん (アンジー)
2007-03-15 00:40:35
本編にちらっちらっと出ていたアレフが、初めて本格的に登場です。
お友達は強い人ですね。
私なら、せいぜい「神様に貰ったお休み」かな
返信する
努力すること (kimera25)
2007-03-15 01:41:31
若い 中学生や高校生に
切実に 教えたい!

努力すること
  その過程だけが
     これからの君の人生を創る!
自己を律し
  そして
翔べ!

カムイにもこの言葉を贈りたい!

アンジーさん
携帯小説に応募したら?
返信する
なるほど! (めめ)
2007-03-15 10:46:19
こんにちは!

すべてのことは、神様からのギフト。
そうですね。
いい悪いは、自分の判断でしかないですからね。
必要だったからくれたもの。
深いですね!

アレフの登場で、カムイの中で何かが変わろうとしているようにも感じますが・・・。
神様からのギフト、カムイはどんな風に受け止めるのでしょうか??
返信する
まいど! (アンジー)
2007-03-15 17:18:48
 kimera25さん
kimera25さんらしい、熱いメッセージですね。
私はヘタレなので、さんざん「誰か助けてくれないかなぁ~」と思った末、「やっぱり、自分でやるっきゃないのよねー」という過程を辿ることが多いです。おかげで、何をやるのも、とってもゆっくりです

 めめさん
自分も一時、起こること全てに○×をつけてジャッジしていた時があったんですが、そういうのはすごくしんどかったです
辛いことはもちろん嫌ですが、「何だか知らないけど、今このタイミングでこういう目にあうことが必要だったのね」と思うようにしたら、ちょっとだけ心が楽になりました
返信する

コメントを投稿