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大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

一星へようこそ~再開~

2012-12-06 20:38:39 | 一星
   

 駅前の商店街の中にその店はあった。『一星』という名のコーヒー喫茶だ。
星のモチーフに惹かれて、ミユとわたしは思い切ってドアを開けた。ファーストフードの店にしか入りつけていないので、ちょっとドキドキした。
カウンターには、わたしたちよりちょっと上ぐらいの男の子がいた。男の子の前には、いかにも商店街の裏方さんといういでたちのギョロ目のおばちゃんが座っていて、大声であれこれ話しかけていた。わたしたちは少し離れたテーブル席に座った。自家製チーズケーキセットというのがおいしそうだったので、二人ともそれを頼んだ。
男の子がコーヒーを入れ、ケーキをお皿に載せている間も、おばちゃんはのべつまくなくしゃべりかけていた。
「で、お母さん、どうなん? もう退院したん?」
「いや、出たり入ったりで」
「ほんまあ。心配やなあ」
おばちゃんが、「イッセイくん、イッセイくん」と連呼するので、男の子の名前はイッセイというのだとわかった。店の名前と同じだ。おばちゃんの声が大きいので、聞き耳をたてなくても、この店の事情が何となくわかってしまった。
『一星』を開いたのは、もともとはイッセイくんのお母さんだったようだ。しかし、体を悪くして店を続けられなくなり、いったんは閉店した。イッセイくんは当時高校生だったが、何の目的もなく大学へ行くよりは、お母さんのお店を再開しようと決めたらしい。もとの店舗はもう他の店が借りていたので、新しい『一星』は、同じ商店街でも別の場所になった。おばちゃんはスーパーで働いているらしく、「距離が遠くなった」とぼやいていた。



レアチーズケーキセットは大ヒットだった。
ケーキは口の中で雪のようにしゅっと溶け、後味が口に残っている間にコーヒーをブラックで飲むと最高だった
わたしはどちらかというと紅茶派なのだが、コーヒー喫茶で紅茶を頼むのも失礼な気がしてコーヒーにしたのだ。ミユはいつもブラックで、ちょっとクールなイメージによく似合っていた。コロンをつけているのか、いつもほのかにいい香りがする。
今日の英語の時間、アメリカでは9・11テロ以来、会社などで行われるクリスマスパーティーから宗教色をなくす傾向があるという話を聞いた。名前も「オフィス・ホリデー・パーティー」などと変わっているらしい。ツリーは飾っても、キリスト教的なオーナメントはぶら下げず、ニュートラルな飾り付けにするのだそうだ。
「そのうち、日本のクリスマスの方がキリスト教色が濃くなっちゃったりして」
ミユは、店内に飾られたクリスマスモチーフを見遣りながら言った
「日本のクリスマスなんか、最初から宗教色ないやん」
「そやねー。でも、日本の場合は、『カップルですごさなければならない』っていう妙な強迫観念があると思わへん?」
「いえてるー。クリスマスに一人やと、周りの雰囲気が華やかな分、さびしさが際立つ、みたいな?」
わたしとミユは、クリスマスには一緒にイルミを観に行く約束をしている。そういう意味では一人ではないのだが、イルミの前で寄り添う恋人達を見たら、ため息がでるであろうこともたしかだ。
そんなわたしたちの話に合わせるかのように、店内には二つのクリスマスソングが交互に流れていた。ユーミンの「恋人がサンタクロース」と、山下達郎の「クリスマス・イブ」だ。内容は正反対なのに、この二曲はクリスマスシーズンの二大人気ソングらしい。おそらく、日本にはおおまかにいって、二つのグループが存在するのだろう。
 恋人がサンタクロース と口ずさみながら、るんるん気分でイブを楽しみにしている人。
 きっときみは来ない~ ひとりきりのクリスマスイブ という歌詞が心にしみてしかたない人
「でもさあ、恋人がおれへんからクリスマスをさびしく過ごさなあかんなんて、つまんないし、何か悔しくない? だから、あたし、カップルで過ごすことに負けない自分なりのクリスマスの意義を考えてるねん」
ミユのこういう発想が、わたしは好きだ。なるほど、自分なりの意義か。



家に帰ると、野菜の煮えるいい匂いに迎えられた。今日はポトフにしてってお母さんにお願いしておいたのだ。
お母さんにただいまをいいながら、ふと『一星』で小耳にはさんだ話を思い出した。イッセイくんのお母さんは病気で入退院を繰り返しているという。そういえば、わたしは、お母さんは元気でいてくれてあたりまえ、何をして貰ってもあたりまえみたいな気持ちでいた。でも、そうではないのだ。
多少こじつけっぽいが、わたしなりのクリスマスの意義は、お母さんに感謝する日にしようかと思いついた。いつもありがとうって、ちょっとしたプレゼントを渡して言うのだ。普段の日なら恥ずかしくてとても言えないが、クリスマスの魔力を借りれば伝えられそうな気がする。
早速、何をプレゼントしようかと考えたが、これが難題だった。服もアクセサリーも、わたしたちのような安物ではすまされないし、花というのも、母の日はいつもカーネーションでお茶を濁しているのの焼き直しのようだ。
お母さんにさりげなく(?)、「もしサンタさんがお母さんのところにも来てくれるとしたら、何をお願いする?」と訊いてみると、「そうねえ。家族がみんな元気で、安心して暮らしていけるようにってお願いするかしら」という返事だった。そんな、政党の公約のようなことを言われても困る
とにかく、百貨店に行ってみることにした。目指すは「婦人小物コーナー」だ。ハンカチよりはいい物をあげたいが、お母さんはスカーフはしないし、財布は高すぎる。手袋も、いいなあと思うものは決まって予算オーバーだ。
そのうち、赤い靴下がわたしの目を惹いた。百貨店だけあって、靴下もブランド物揃いだ。それはバーバーリーのアンゴラモヘアの靴下だった。
まるで見事に紅葉したもみじのような真紅は、鮮やかなのに上品だ。足首の折り返しの部分に、ブランドロゴが小さいワンポイントになっているのもいい。こんなのを履いたら、足下から贅沢な暖かさが立ち上って、とても豊かな気分になれそうだ
靴下一足に1280円なんて、いつものわたしなら「ふざけるな」と呟いているところだが、今日は特別。プレゼント包装にはしないで、自分でラッピングすることにした。文具売場でクリスマスカードも買った。それからもう一つ買い物をして、わたしは百貨店を後にした。



お母さんはとっても驚いて とっても喜んでくれた
わたしはごきげんな気分でイルミを見に行った。カップルになんか負けないぞ!
ミユも身近な人に感謝する日にしたのだという。
「人間て、一番身近で一番支えてくれる人を一番粗末にしてまうとこあるやん。そやから、そういう人達に感謝する日にしてん」
と、ミユのものいいは、やっぱり大人っぽい。
「だから、清葉にも。ほんの気持ちだけど、いつも仲良くしてくれてありがとう」
ミユは小さな包みを差し出した。開けてみると、前からほしかった若者向けブランドのキーホルダーだった。値段は手頃だが、とってもお洒落なのだ。
「エヘヘ、実はあたしも」
ほんの気持ちだけどね。ミユの言い方を真似て、ポケットからリボンのかかった小箱を出した
百貨店で最後に買ったもの。クリスマス期間中だけ特別に小さな可愛い瓶に詰められたオーデコロンだ。30mlという小さなボトルなので、わたしのお小遣いでも買えたのだ。柑橘系の爽やかな香りは、きっとミユに似合うと思った。
「いつも色々教えてくれてありがとう。これからもいい友達でいてね」
うわあ、お互い、照れくさくてとても言えないような台詞。わたしたちはにっこり笑い合った。
恋人がいなくったって、クリスマスのマジックはみんなを幸せにしてくれる




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3 コメント

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ですね(笑) (lucino)
2012-12-07 00:19:17
久々の一星シリーズ・・・
時代背景が少しだけ進んだかなって感じですね
マスター的な母親は、一線を退いた形になったのですね

そうなんですよね・・・
もう彼女等がいないことに随分と慣れた私ですが・・・
この季節だけは淋しく感じることがありますね
クリスマス終われば、また平気なんですけどね
おはようございます♪♪ (siawasekun)
2012-12-07 01:27:08
『一星』という名のコーヒー喫茶、・・・・・・。
良さそうな所ですね。
素敵なショットと解説から、様子、雰囲気、伝わってきました。

皇帝ダリヤ、・・・・・・。
綺麗ですね。
美しいですね。
眺めて、心和みました。

昨日も、拙い私のブログを見て、嬉しいコメント&応援ポチに、恐縮、深謝です。
まいど! 感謝してます!  (アンジー)
2012-12-07 16:37:35
 lucinoさん
はい、諸行無常の一星シリーズです(笑)
クリスマスは一年中で一番華やぐ時期かもしれませんね。どんな状況でも楽しまなければもったいないかな~

 siawasekunさん
最後の花、何ていうのかな~と疑問だったんです。
皇帝ダリヤという花なんですね。
教えて下さってありがとうございますm(__)m

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