「殿のためなら戦うよ」
「言葉のわりにくつろいだ姿勢じゃな」
「『巨人の星』…?」「『浪速の華』…?」
殿と一緒に現代にタイムスリップしてきたおキョウさん。
殿に仕えているようですが、武士ではないようです。
「わたくしは西宮でよろず屋を営んでおります。屋号は甲子屋(きのえねや)と申します」
よろず屋というのは何でも屋。色々な特技を持った従業員がそれぞれの技をいかしてお客様のニーズに応えているのです。
「その中に腕のいい鉄砲鍛冶もおりました。その鉄砲鍛冶が急な病で亡くなり、台帳を見ると殿のご注文でオーダーメイドの鉄砲を一丁つくっていたことがわかったのです」
鉄砲はもうできあがっていたので、おキョウさんはそれを殿のもとへ届けに行きました。
性能的には当時の他の銃と違いはないのですが、狙いをつけやすかったり、台座の形がなにげに持ちやすかったり、細かい所に工夫があって使い勝手がいいのです。それに殿が注文した機能をいくつかつけ加えてあります。
殿は自ら試射なさり、そのできばえがすっかり気に入りました。
「気に入ればまとまった数を追加注文することになっていたのだがな」
「はい。台帳にその旨の覚書がありましたので、図面を持って参りました。お国の鉄砲鍛冶にこの通り作って貰えばいかがでしょう?」
「そうすると、わが国に秘伝が流れることになるが、それでもよいのか?」
おお、赤備えに六○銭と、パクリまくりの殿のお言葉とは思えませんね。
そして、おキョウさんは関西人でございます。
「もちろん、ただではやらんで(^-^)」
というわけで、殿の国の鉄砲鍛冶とライセンス契約が結ばれました。
おキョウさんは鉄砲ができあがるまで監修として殿のお国にとどまることになりました。
そんなに長く店を開けたのでは番頭さんが黙っていまいと思われたのですが、派遣期間中の生活費は殿持ちでそれなりのお手当も出るということなので、番頭さんは、
人件費削減
になると、二つ返事で承認してくれました。
え? おキョウさん、店主じゃないの? それなのにリストラされちゃうの
「おキョウさん、悪いことは言いまへん。殿のところで正社員になりなされ~」
「たとえ派遣切りをされても、おキョウは自由な方がようございます」
というわけで、派遣労働者として殿の国に滞在しているおキョウさん。
よろず屋だけになんでもできるので、殿はお側から離しません。
「殿、わたくしは鉄砲作りのお手伝いにきているのです。契約外の仕事をするなら割増料金を頂きますよ」
どこまでもしっかりしているおキョウさん。
殿も今では要領がわかってきて、時空の抜け穴を通るときも、こう言ったそうです。
「おまえもついてきてくれぬか? もちろん、ただとはいわんぞ」
「喜んでお供致します」
いつもニコニコ現金払いのおキョウさんです
なるほど、それで未来での第一声は「まいど」だったんですね。
「それは、あとづけの理由だね」
「あの時は、何も考えんと言わせてんやろ?」
え? 誰が?