さて、最近ようやく存在を認知した谷弘兒のマンガについて、3回にも渡ってお送りしているワケでございますが・・・
まぁそれだけ彼の作品にハマったってことです。
で、今回は青林堂から刊行された『薔薇と拳銃』の単行本に収録されていたその他の5編もの短編マンガについて。
私が思うに、谷弘兒の画の真骨頂は、実は短編にあるのではないかと。
中編『薔薇と拳銃』では、諸星大二郎と漫☆画太郎を足したような、グチャグチャとしたコミカルでちょっと雑い画風だったのに対し、短編では実にアーティスティックで怪奇と幻想を極めた芸術作といっていいほどのクオリティを誇っている。
これだけの想像力と画力を備えていながら、諸星大二郎や丸尾末広ほどメジャーにならず、マイナー作家の地位に留まっているのが不思議でならない。
まぁたしかにポップさはないし、扱っているテーマが偏りすぎているかもしれないが。
谷氏は時折、『薔薇と拳銃』に出てくる主人公の名であった「陰溝蠅兒(かげみぞようじ)」を作者名として名乗ることもあったみたいだ。
そこがまた、彼をマイナーで謎めいた作家に仕立て上げたのかもしれない。
“蠅”というアイテムがとてもお気に入りのようだ。
『夜の蛇使いあるいは眼を盗む男』
『盲時計』の幻惑的な画も秀逸。これも最終的に眼を盗む話。
『怪人・蠅男/妖夢の愛液』は、本書収録の短編の中で一番の傑作といってよいだろう。
暗黒惑星”ヒィアーデス”に漂う無定形の精神体を主人公とした幻想物語で、もうこの設定だけでクトゥルー愛読者にはたまらない!
かの水木しげるもビッグコミック創刊号掲載の物語で扱っていた妖夢の花「アルラウネ」が中盤でからんでくる。
夢のなかで女体と怪植物とが絡み合う幻想的でエロティックな画は秀逸。
で、中編『薔薇と拳銃』に女城主あるいは魔女として登場したキルケが、この物語では心霊生理学者キルケ博士として再登場。
やはり彼女は時空を超越した存在なのかもしれない。
本書ラストを飾るのは、企画モノ『摩天楼の影』。
ずばりH.P.ラヴクラフト本人が登場する本格派クトゥルー神話もの。
これは、1987年に刊行された『別冊幻想文学2 クトゥルー倶楽部』に谷氏が新たに書き下ろしたもので、20世紀のニューヨークを舞台に、HPLとウィルバー・ウェイトリーとの邂逅を描いた、なんとも異界的で眩夢的なコズミックワールドが展開している。
HPLが、人間と異界からの存在との混血児ウィルバーの取引と導きにより、驚異的な宇宙恐怖の深淵を垣間見るに至るその有様が、谷氏の邪神がかった圧倒的な画力によって見事に描き出されている。
幻想の摩天楼から、非ユークリッド幾何学様式の石造都市へと・・・
水木しげるの『地底の足音』、諸星大二郎の『栞と紙魚子』シリーズ、魔夜峰央の『アスタロト外伝』、室山まゆみの『とびきり特選あさりちゃん(気分はホラー)』、田邊剛の『魔犬』・・・・etcと、様々なマンガ家によるクトゥルー神話ものの稀覯書を入手しては目を通してきたが、谷弘兒氏の怪奇性と幻想性溢れる異次元の画は、これまでで最高峰にあたるといっていい。
まさに理想的な形で、クトゥルー神話のヴィジュアル化を成し得た類稀なる作家であると。
先週、希少な『薔薇と拳銃』を発掘した日の夜、真っ先にニンギジッダ通信(Twitter)に谷氏の画を添付しつぶやいたところ、クトゥルー好きの方々からかなりの反響があって、その中には暗黒神話の権威であられる東雅夫先生(『クトゥルー神話辞典』等を編纂)などからも反応をいただいた。
谷氏の近年の仕事としては、外国人作家の幻想小説(いずれも絶版)の表紙絵を2、3作手掛けられたということが判っている。
もしまだ御存命で創作活動できる状態であるなら、関係者は是非もっとクトゥルー神話に関する画を谷氏に依頼してほしいと、切に願うばかりである。
ヨグ・ソトホース・・・・・
今日の1曲:『Beelzebub』/ Bill Bruford
まぁそれだけ彼の作品にハマったってことです。
で、今回は青林堂から刊行された『薔薇と拳銃』の単行本に収録されていたその他の5編もの短編マンガについて。
私が思うに、谷弘兒の画の真骨頂は、実は短編にあるのではないかと。
中編『薔薇と拳銃』では、諸星大二郎と漫☆画太郎を足したような、グチャグチャとしたコミカルでちょっと雑い画風だったのに対し、短編では実にアーティスティックで怪奇と幻想を極めた芸術作といっていいほどのクオリティを誇っている。
これだけの想像力と画力を備えていながら、諸星大二郎や丸尾末広ほどメジャーにならず、マイナー作家の地位に留まっているのが不思議でならない。
まぁたしかにポップさはないし、扱っているテーマが偏りすぎているかもしれないが。
谷氏は時折、『薔薇と拳銃』に出てくる主人公の名であった「陰溝蠅兒(かげみぞようじ)」を作者名として名乗ることもあったみたいだ。
そこがまた、彼をマイナーで謎めいた作家に仕立て上げたのかもしれない。
“蠅”というアイテムがとてもお気に入りのようだ。
『夜の蛇使いあるいは眼を盗む男』
『盲時計』の幻惑的な画も秀逸。これも最終的に眼を盗む話。
『怪人・蠅男/妖夢の愛液』は、本書収録の短編の中で一番の傑作といってよいだろう。
暗黒惑星”ヒィアーデス”に漂う無定形の精神体を主人公とした幻想物語で、もうこの設定だけでクトゥルー愛読者にはたまらない!
かの水木しげるもビッグコミック創刊号掲載の物語で扱っていた妖夢の花「アルラウネ」が中盤でからんでくる。
夢のなかで女体と怪植物とが絡み合う幻想的でエロティックな画は秀逸。
で、中編『薔薇と拳銃』に女城主あるいは魔女として登場したキルケが、この物語では心霊生理学者キルケ博士として再登場。
やはり彼女は時空を超越した存在なのかもしれない。
本書ラストを飾るのは、企画モノ『摩天楼の影』。
ずばりH.P.ラヴクラフト本人が登場する本格派クトゥルー神話もの。
これは、1987年に刊行された『別冊幻想文学2 クトゥルー倶楽部』に谷氏が新たに書き下ろしたもので、20世紀のニューヨークを舞台に、HPLとウィルバー・ウェイトリーとの邂逅を描いた、なんとも異界的で眩夢的なコズミックワールドが展開している。
HPLが、人間と異界からの存在との混血児ウィルバーの取引と導きにより、驚異的な宇宙恐怖の深淵を垣間見るに至るその有様が、谷氏の邪神がかった圧倒的な画力によって見事に描き出されている。
幻想の摩天楼から、非ユークリッド幾何学様式の石造都市へと・・・
水木しげるの『地底の足音』、諸星大二郎の『栞と紙魚子』シリーズ、魔夜峰央の『アスタロト外伝』、室山まゆみの『とびきり特選あさりちゃん(気分はホラー)』、田邊剛の『魔犬』・・・・etcと、様々なマンガ家によるクトゥルー神話ものの稀覯書を入手しては目を通してきたが、谷弘兒氏の怪奇性と幻想性溢れる異次元の画は、これまでで最高峰にあたるといっていい。
まさに理想的な形で、クトゥルー神話のヴィジュアル化を成し得た類稀なる作家であると。
先週、希少な『薔薇と拳銃』を発掘した日の夜、真っ先にニンギジッダ通信(Twitter)に谷氏の画を添付しつぶやいたところ、クトゥルー好きの方々からかなりの反響があって、その中には暗黒神話の権威であられる東雅夫先生(『クトゥルー神話辞典』等を編纂)などからも反応をいただいた。
谷氏の近年の仕事としては、外国人作家の幻想小説(いずれも絶版)の表紙絵を2、3作手掛けられたということが判っている。
もしまだ御存命で創作活動できる状態であるなら、関係者は是非もっとクトゥルー神話に関する画を谷氏に依頼してほしいと、切に願うばかりである。
ヨグ・ソトホース・・・・・
今日の1曲:『Beelzebub』/ Bill Bruford