AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

悪夢に棲む影

2024年02月05日 | ルルイエ異本
さて、前回クトゥルー神話における暗黒星ユゴス、および<ユゴスよりのもの>の実態について触れたので、ついでといってはなんですが、私が数年前に入手したユゴスにまつわるとっておきの文献をご紹介しようかと。


それは、上写真の丸尾末広氏描くアヴァンギャルドな表紙画の『アリエス』という、怪奇漫画アンソロジー本とでも言うのでしょうか。
本書は、青林工藝舎出版の月刊マンガ誌『アックス』、その初の増刊号(2001年発行)とのこと。


表紙めくると、こんな感じ。まぁサブカル本ですわな。



マンガを中心に、イラスト、コラム、小説なども掲載されている。



丸尾末広、大越孝太郎などのガロ系マンガ家による短編の他、官能小説家の睦月影郎先生まで文章を寄せていて、うそかまことか、青年時代、夢野久作の小説を読んで自慰行為に及んでいたことを告白するという変態性欲的なコラムは、なかなか私の理解の範疇を超えるものがあり大変興味深かった。


まぁ大部分が、女体、残虐、エロス、レトロ・・・な作風のマンガが占めており、こういう分野に関しては中途半端でウブな私が、なぜこの本格的変態アンソロジー本を購入したのかというと、やはり谷弘兒氏の短編が本書に掲載されており、それが読みたかったからに他ならない。


突如谷弘兒の画のことが気になりだし、まんだらけやネット上でとり憑かれたかのように彼の作品を漁りだしたのは、ちょうど5年前くらいのことであったか。

そんな最中、SNS上で発見し心騒がされたのが、下の【画C】であった。


それは、目玉をもつ菌類に似た形状の頭部を生やしたウミユリ状のグロテスクな寄生物が、人の体内から突き出てきているというおぞましく、ただ不思議と見ていてウットリするような芸術性をも持ち合わせた、世にも奇妙な画であった。


このSNSの投稿者は、谷弘兒先生によるクトゥルー画であるという事以外には、何も情報を書いておらず、この画がちょっとした挿絵なのか、またはクトゥルー神話短編の一場面なのか、全然わからなかった。
それでも、どこで情報を入手したのか忘れてしまったが(投稿者本人に直で聞いてはいない)、この画が谷弘兒先生の『悪夢に棲む影』という短編の一場面であることを突き止めるに至った。
ただ、どうやら谷先生の単行本、作品集には収録されてない短編で(谷先生の場合、そういうの多いだろうな)、その作品が青林工藝舎出版の月刊マンガ誌『アックス』の増刊号である『アリエス』に掲載されていることを突き止めるには、そう時間はかからなかった。


トビラ絵からしてこれ。もっサイコーー!




寝ても覚めても、男は奇妙な悪夢にうなされ続けていた。

【画A】



そこで男は、谷マンガではお馴染み、精神科医(心霊生理学者)キルケ博士に助けを求める。
(キルケ博士に関しては、『怪人・蠅男/妖夢の愛液』を参照)




【画B】



【画C】



突然刑事らが、イカサマ医療違法行為の現場を押さえたと乗り込んでくる。

だが、キルケ博士はこう警告する。

「ユゴス星の超知性体が人類に侵入し始めている」と!

「彼の心霊器官(?)に超知性体が侵入して、心霊レベルの狂気をひき起こしている」と!




この心霊的脳内映像の正体は、ホラー映画のビデオテープだった!?




2001年頃といえば、DVDがそろそろ出だしてきてはいたが、まだまだVHSが主流の時代であったかと。
ロジャー・シーマン監督というのは実在するのだろうかとネットで探ったが、出てこなかった。
気になるな。

キルケ博士はその後、2人の刑事によって乱暴に連行されるのであるが、その連行のされ方がエロ漫画的。


そして、悪夢にうなされてた男は、そのまま・・・・

【画D】



「こいつがユゴスのやり方~~♪」などとマッチのヒットナンバーに合わせて歌ってる場合ではない!

もうすでにユゴスよりのものの人類への侵略は、精神レベルで始まっているのかもしれないのだから・・・


とまぁ、わずか12ページの谷弘兒短編のために本書を購入したわけですが、全体的な装丁も豪華で素晴らしく、その値打は十二分にあったと思う。
やっぱり谷先生の画力は異次元レベルだね。

それにしても、ユゴスものも執筆なさっていたとは・・・さすが!


もっともっと、もっともっと谷弘兒クトゥルー神話が読みたい!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

星に願いを

2024年01月21日 | ルルイエ異本
久方ぶりに、ちょっと心が離れていたクトゥルー(クトゥルフ)神話作品を昨年末から読み出し、そして読了した。


作品は、朝松健著の『弧の増殖 夜刀浦鬼譚』。


千葉県の夜刀浦市にあるメガサーバー施設の、近隣の住民の健康をも損なわす超強力な電磁波で、暗黒星ユゴスにいる邪悪な存在<ィルェヰック>を召喚するといった話。




本作を刊行当初本屋に並んでいるのを見かけたのはずいぶん昔のことだと思ってたが、13年前と意外と最近であったのはちょっと驚きだった。
13年前といえば、ちょうどスマホが普及し出した頃で、本書ではすでにそのアイテムが取り入れられている。
朝松健氏の描くクトゥルー神話といえば、近代テクノロジーとの融合が実に巧みであるという特徴を持っていて、本作でもサーバーシステムが邪神を召喚する重要なアイテムとなっている。

邪悪さ漲る黒魔術的プロローグは心騒がされるものがあったが、終始不気味な着信音が鳴り響くといった、『着信アリ』などの、中田秀夫監督の『リング』が大ヒットして以降に横行した古臭い女子高生向け日本ホラー映画のような稚拙な心霊現象や、常に首のない男の子の幽霊が昼夜問わず徘徊するといった節操のない演出に読んでて辟易してしまった。
まぁでも主人公が女子高生向けの都市伝説を扱う情報サイト(『夜刀浦Watcher』)の管理経営者という設定なので、もともとティーンエイジ向けに書かれたクトゥルー神話だったのかもしれない。

で、後半はやっぱりホラーアクション作家たる朝松氏ならではの、触手のたくる阿鼻叫喚のグチャグチャ展開。
後半部分なんて、ゾンビ映画の展開にかなり近いものがあったな。

 
この物語には、民族学専攻の真嶋守衛教授という人物が出てくるのだが、彼が「相続した武家屋敷の書庫から発見したユゴスにまつわる暗黒の教義が内包された『Aの書』、それは書物ではなく、線条模様の刻まれた半円形の石器で、霊的アンテナを持った人間だけがそれを受信できるUSBメモリーのようなもの」であることを解明するところは、これぞクトゥルー神話だと、読んでて心騒がされた。

ちなみにこの真嶋守衛教授、実はなんと北海道の肝盗村の出身だということ。
朝松健氏が1976年頃?に執筆し、後に角川ホラー文庫から刊行された『肝盗村鬼譚』は、10年以上前に読んだ。
アーカムやブリチェスターのように浸透はしていないものの、かのものどもが巣くう因習めいた暗黒地を、この日本の各地に点在させるといった創作は、日本人として大変興味深くて楽しい。
“夜刀浦(やとううら)”とか、“肝盗村(きもとりむら)”といった不穏な語感を持つ響きも素晴らしい。
(残念ながら『クトゥルー神話大辞典』にも掲載されていないが)




ところで、本書を熟読しているとき、実はゾッとしたことが起こったのであるが。
昨年末、近場のドトールにてスマホでランダム再生で音楽聴きながら本書を読んでたのであるが、下の章を読んでる時にたまたま流れてたのがCoccoの「星に願いを」で、なにかしらゾッとする名状しがたい一種異様な戦慄を感じないではいられなかった。




Cocco「星に願いを」



ところで”ユゴス”(ユッグゴトフとも)っつーのは、クトゥルー神話に精通している者なら知っているとは思うが、冥王星のことで、かつては太陽系の最果ての星、第九惑星に数えられていたのだが、惑星と呼ぶには小さすぎるということで(月よりも小さいらしい)、2006年に準惑星に格下げされてしまった不憫な星である。




この冥王星には、<ユゴスよりのもの>と呼ばれる知的生物の居留地があり、無限宇宙の彼方から太陽系に飛来し、暗黒星ユゴスを本拠地とし、かつてヴァーモント州の山岳地帯で密かに地球でしか採れない貴重な鉱物の採集に従事していた。
その姿は薄桃色の蟹を思わせる外見で、甲殻類の胴体に膜状の翼、何対かの脚がついており、頭部には短いアンテナ状の多数の突起物のある渦巻状の楕円体がついているが、その実体は一種の菌類だという。
驚異的な外科医術的技倆を有しており、人間の脳髄を摘出して、金属の円筒容器に入れたまま生かし続けることもできる。

<ユゴスよりのもの>をテーマとしたクトゥルフ神話カードゲーム『ミ=ゴの脳みそハント!』




で、本書を読んだあと、またこの冥王星のことが気になりだし、ヨウツベで「冥王星の本当の姿」という高画質映像を鑑賞していたのだが、そこに思いもよらぬワードが出てきて、正気を失いかけた!

冥王星の赤道域には、幅約300km、長さ約3000kmにおよぶクジラ模様の暗い褐色の領域が見受けられる。
かつて原始惑星が冥王星に衝突したジャイアント・インパクト(巨大天体衝突)によりできた黄斑だということらしいが、その領域の名前がなんと、「クトゥルフ黄斑(領域)」というのだそうだ!
動画ではっきりとそう言うてはる。




確かに衛星から見たこの領域のヴィジュアル、ゾッとするような邪悪さが漲っている。
クジラというよりは、こちらをねめつける、深海に潜む蛸のようなぎらついた目・・・・
まるでクトゥルフじゃないか・・・・

ダゴン、あるいはディープワンズっぽい貌も浮かび上がってるよな・・・



まぁこの「クトゥルフ黄斑」というのは、2015年に暫定的に付けられた名称だそうで、クトゥルフファンの方々には、「何を今さら・・・・やれやれ・・・」と言われてるかもしれない。

そしてこの「クトゥルフ黄斑」って呼び名、どうやら昨年また変更されたとかいないとか・・・


準惑星に格下げされた時といい、また今夜、うちの庭がガヤガヤしそうである。


【実写】冥王星の本当の姿
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クラウド・ファンディング・ラムジー・フタグン

2021年03月30日 | ルルイエ異本
先月、かの森瀬氏のSNSで、心騒がされるワクワクするような知らせが舞い込んできた。

「 第2世代クトゥルー神話作家の雄、ラムジー・キャンベルの初期神話作品が一同に会す伝説的な傑作集、”Cold Print"の邦訳がクラウドファンディングにてお目見えです!
未訳だった重要作はもちろん、様々なアンソロに散らばっていた作品をまとめてお届けします!」

http://thousandsofbooks.jp/project/coldprint-2/


いや~、これはクトゥルーファンとしては非常に嬉しい。
思わず人生で初めてクラウドファンディングなるものに参加してしまいました。
やっぱクトゥルー神話は海外ものですわなぁ~

数年前にKADOKAWAより邦訳刊行されたリン・カーター(他)の『クトゥルーの子供たち』もクラウドファンディングでそれが実現したんですってねぇ。
購入した当初はそれ全然知らなくって。この作品も物凄く濃い内容で楽しめた。
森瀬氏らによる闇黒神話用語の注釈がハンパない!




ラムジー・キャンベルの神話作品は、英国版クトゥルー神話として、クトゥルーファンの間ではそこそこ人気あるかと思われます。

イギリスのアーカムと言われる、妖気漂う不穏の地、セヴァン・ヴァレー・ヴィレッジ・・・
“ブリチェスター”の湖畔や、“ゴーツウッド”の深い森の中で次々と起こる戦慄の怪異譚。
当ブログにても、過去に『真ク・リトル・リトル神話体系』で読みかじったものをいくつか紹介させていただいており、人気のオーガスト・ダーレスものよりかはオリジナリティーがあって断然おもしろいかと。


ラムジー・キャンベル(ラムゼイとも)。現在もバリバリの現役?



キャンベル作品は近年においても何話か未訳だったものがポツリポツリと邦訳されていた。
淡水の旧支配者グラーキが出てくる「湖畔の住人」も邦訳されたのはつい最近。が、すでに絶版。




キャンベルが創造したクリーチャーでは、グラーキ、アイホートのほか、首なしのイゴーロナクが人気あるみたいで。




個人的には惑星シャッガイからの昆虫種族が大のお気に入り。
彼らにサイケデリックな昆虫族の記憶を脳に注入されてトリップしてみてぇ~~
あとは『異次元通信機』(The Plain of Sound)に出てくる音の世界に住むスグルーオ人とかも好き。
どんなサウンドなんだろう。


今回のプロジェクトでちょっとモヤモヤするのが、仮タイトルが『グラーキの黙示録』ではなく、『グラーキの黙示』である点。
森瀬氏は、「『グラーキの黙示録』はグラーキを奉ずるセヴァン・ヴァレーのカルト教団の聖典ですが、この地域の怪事件を描く本書の物語群は黙示録に記された「黙示」の内容そのものであるとの意図に基づく仮タイトルです」と説明しておられる。

いや、それはわかってるんだけど、もうタイトルはズバリ『グラーキの黙示録』と付けていただいた方がクトゥルーファンにも馴染み深いし、希少な禁断の魔導書を所持しているようで楽しい。

そう、以前新紀元社より敢行された『エイボンの書』みたいに。
(ただ、本書の内容はめちゃくちゃディープで素晴らしかったんだが、いかんせん表紙が非常に稚拙で残念)。


まぁあくまで仮タイトルの話だし、ここで何を意見しようが、私には何の権限もないし言っても仕方がないんですが、せめて表紙だけは『エイボンの書』みたいなのは勘弁していただきたいし、できれば人皮装丁で。


そういえば、過去に森瀬氏とSNS上でキャンベル作品集のことで一度やり取りを交わしたことがあって、なんか向こうからリプ下さって、「こんな虫ケラのような私なんかに話しかけて下さるとは」と感激してたんだが、多分その頃からすでにキャンベル作品の編纂を構想していらっしゃったのだろう。


ちなみに、今回新訳収録される短編は次の通り。
おそらく、完成品では<グラーキの目次>と表示されるのでは。

「ハイ・ストリートの教会 The Church in High Street」(1962)
「橋の恐怖 The Horror from the Bridge」(1964)
「ヴェールを剥がすもの The Render of the Veils」(1964)
「湖の住人 The Inhabitant of the Lake」(1964)
「スタンリー・ブルックの遺志 The Will of Stanley Brooke」(1964)
「ムーン=レンズ The Moon-Lens」(1964)
「魔女の帰還 The Return of the Witch」(1964)
「立石のある島 The Stone on the Island」(1964)
「城の部屋 The Room in the Castle」 (1964)
「シャッガイよりの妖虫 The Insects from Shaggai」 (1964)
「ユゴスの陥穽 The Mine on Yuggoth」 (1964)
「音の世界 The Plain of Sound」 (1964)
「コールド・プリント Cold Print」 (1969)
「窖よりの狂気 A Madness from the Vaults」 (1972)
「フランクリンの章句(パラグラフ) The Franklyn Paragraphs」 (1973)
「誘引 The Tugging」 (1976)
「パイン・デューンズの顔 The Faces at Pine Dunes」 (1980)
「嵐の前に Before the Storm」 (1980)
「絵の中にこんなものが—— Among the pictures are these」 (1980)
「浜辺の声 The Voice of the Beach」 (1982)
「ブラックアウト Blacked Out」 (1984)


今回の企画が通り、成功すれば、今後の他の未訳の闇黒神話シリーズの邦訳刊行推進にも繋がっていくとのことで、これは是非実現させて頂きたい!
『無名祭祀書』、『セラエノ断章』、『妖蛆の秘密』、『ナコト写本』、『屍食教典儀』、『イオドの書』、『フサンの謎の七書』・・・・などの禁断の書物が続々と邦訳刊行されるなんてことを考えたら、もうワクワクしてくるじゃないですか!


クトゥルー神話ファンはもちろん、オーソドックスな怪奇ホラーファンも(『湖の住人』はちょっとしたゾンビものですぜ!)、こぞってこの恐るべき、そして素晴らしいプロジェクト実現の為に、クラウドファンディングに参加しようではありませんか!
(5月31日まで)


映画『カラー・アウト・オブ・スペース』風広告。
クリエイターさんたちはもうすでに動き始めてます!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

meijiOhしがいたいもの

2021年02月14日 | ルルイエ異本
数多くの貴重な闇黒神話の翻訳に携わっておられるかの著名な森瀬氏のSNSのつぶやきに、目を疑うような戦慄すべきパッケージのチョコレートが紹介されているのを見たときは、ひきつけを起こしかねぬ衝撃にみまわれた。

それは、昔から全国のお菓子屋で売られていて、誰もが知っているあのポピュラーな板チョコ、明治ミルクチョコレートである。
その「meiji」のロゴの”m”のところに触手を延ばし、まとわりついている異形のものは、あの太平洋ポナペ島海域の海底都市ルルイエにて夢見ながら復活の時を待っているという旧支配者、強壮なる“クトゥルー”ではないか!!


私の所持しているあらゆる資料に掲載されてるクトゥルー神の図が、人気板チョコのパッケージに描かれていたものが、その恐るべき邪神であることを裏付けていた。



ははは・・・・いや、そんなバカなことがあるものか!
こんなものが市場に出回るハズはないと。
これは森瀬氏がクトゥルー神話関連の知り合いのクリエイターにお遊びで作らせたフェイクものに違いない。


しかし、やはり気になって仕方がなかったので、仕事終わりに一応職場近くのイオンの食品売り場に赴き、その真偽を確かめに行くと・・・・

ああ、それは信じられぬことだが、確かに存在していた!



森瀬氏は、3軒のスーパーをはしごして、ようやくこのクトゥルーパッケージのを一枚発見したという。
なので、このヴァージョンのはかなり希少なレアパッケージなのだと思っていたが、私が訪れた奈良のイオンではけっこうな枚数を発見できた。
まぁ、店ごとに絵柄が偏って仕入れられているのだろう。


パッケージの上の方に、なにやらメッセージが記されてある。
なになに・・・・・?



「奇怪な姿を描いた浅浮彫りを目にしたのは、大伯父の遺品を整理していたときだった。その姿を強いて言葉にすれば、口元に無数の蠢く触角のついた果肉状の頭部が、背中に退化した蝙蝠のような膜状の翼をもつグロテスクな鱗に覆われた胴体に乗った怪物といえようか・・・・死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに・・・・・」

って、なにやらせとんねん!!発狂してしまうわ!!




ところで、こんなパッケージの柄のも発見してしまったんだが・・・・

こ、今度のはまさか・・・・ティンダロスの猟犬ヴァージョン!??



か、角度!角度!角度を恐れよ~!
角度あるところにいてはならん!やつらが時空を超えて涎をたらしやってくる!てか、板チョコめっちゃ角度あるや~ん!


とまぁ、私のようにヘタに闇黒神話に通暁している者は、ついこのようにすぐ旧支配者のなんらかの類とむりくり結び付けて恐れおののく(または発狂)のがパターンなのである。

マリネラ王国国王パタリロ・ド・マリネール8世が「いや、取り越し苦労はやめにしよう。クトゥルーの邪神が宇宙の深淵から攻めてきたらどうしようと心配するようなもので、可能性はほとんどゼロに等しい。」と言及しているように(『パタリロ』第62巻参照)、誇大妄想癖の先人が悪夢にうなされて書きあげた物語を鵜呑みにして、ありもせぬ想像上の怪物の脅威にただ怯えているだけなのかもしれない。



しかし、かのH.P.ラヴクラフト御大言いけらく・・・・

「思うに、神が我々に与えた最大の恩寵は、物の関連性に思い当る能力を、われわれ人類の心からとり除いたことであろう。
人類は無限に広がる暗黒の海に浮かぶ<無知>の孤島に生きている。
いうなれば、無名の海を乗り切って、彼岸にたどりつく道を閉ざされているのだ。
諸科学はそれぞれの目的に向かって努力し、その成果が人類を傷つけるケースは、少なくともこれまでのところは多くなかった。

だが!いつの日か、方面を異にしたこれらの知識が総合されて、真実の恐ろしい様相が明瞭になるときがくる!
そのときこそ、われわれ人類は自己のおかれた戦慄すべき位置を知り、狂気に陥るのでなければ、死を秘めた光の世界から新しく始まる闇の時代へ逃避し、かりそめの平安を願うことにならざるをえないだろう・・・・」



ああっ!!今度はウルタールの猫ヴァージョン・・・・



ウルタールでは、何人たりとも猫を殺してはいけません。



そうえいば、今宵はバレンタインデー。
何も知らない人が、スーパーで確認もせずにこのおぞましきクトゥルーパッケージのものを購入し、思い焦がれる愛しいシトの郵便受けの中にそっと入れたりでもしたら・・・・・




いや、そのことは考えるべきでない・・・・

考えるにはおそろしすぎる!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劇場版 宇宙からの色 

2020年08月12日 | ルルイエ異本
こういう映画が日本で上映されるのをずっと待っていた!


今回私が意気揚々と鑑賞してきたのが、ニコラス・ケイジ主演の『カラー・アウト・オブ・スペース ~遭遇~』。

まぁ普段だったらこんなB級感漂うSFホラーなどわざわざ観に行きはしない。
撮ったのはリチャード・スタンリーというマニアの間ではカルト的人気を誇っている監督らしいけど、私は全くあずかり知らなかった。

そんなホラー映画に疎い私が、このコロナ禍の最中躊躇なく映画館に足を運んだのは、この作品『カラー・アウト・オブ・スペース ~遭遇~ 』が、我が敬愛するH.P.ラヴクラフト原作の『宇宙からの色』(『異次元の色彩』とも)を映像化した作品だったからに他ならない。
しかし、邦題なんでカタカナにしたんかなぁ~・・・絶対『宇宙からの色』の方がカッコいいって!(そうでもない?)


『宇宙からの色』は、ラヴクラフト本人が一番の自信作と公言してた作品で、1882年アーカムに棲む農家の庭に突如落ちてきた隕石がもたらした恐ろしい怪異の物語。
まぁ彼は超形容詞の人だから、その土地に棲む生き物の身も心も蝕んでいく、宇宙からやってきたなにやら得体の知れないものの恐怖の物語を(結局そのものの明確な正体はわからないまま終わる)どうやって映像化すのか、非常に難しい題材だったのではないかと。




まぁいままでにラヴクラフト作品はちょくちょく映像化されてはいるんだが、原作からは随分とかけ離れたものが多く、ただのB級スプラッター、怪物譚に終始したあまり宇宙的恐怖の感じられないものがほとんどであったかと。
スティーヴ・キング原作の『ミスト』や、ジョン・カーペンター監督作『マウス・オブ・マッドネス』なんかはクトゥルー神話映画とは言われているが、やっぱクトゥルー好きとしては、邪神の固有名詞だとか、暗黒の書物だとか、なにか決め手となるアイテムが出てこないと、なんだかはぐらかされたような気分で終わってしまうのだ。
ただ、今回の作品はタイトルまんまやし、トレーラーを観る限りではなかなか期待が持てるものだった。

極彩色の悪夢…ニコラス・ケイジ主演映画『カラー・アウト・オブ・スペース─遭遇─』予告編



奈良のシネコンでやってくれていたのはありがたいね。
この映画館久々。名前変わってたけど。



封切三日間だけ、来場者にはステキなポストカードが配布された。
ただし、パンフはなし。残念。



三日間別々のポストカードが用意されてて、三日目のサイケなデザインのが欲しかったなー



まぁこのコロナ禍の時期に、こんな映画を観ようなんて人奈良じゃあせいぜい2,3人くらいだろうと4番スクリーンに入ると、まぁまぁ人が入ってて意外だった。
この人たちは何を思ってこの映画を選んだのかしら?ただのホラー好き?マニアの人?ニコラス・ケイジLOVE?
私はというと、もうクトゥルー好き丸出しの格好で、「やっぱ観に来てるよあっち方面の類のやつが」とか思われてたかどうかは定かではない。


アーカムの西は丘陵が荒々しく聳え、斧に切り込まれたことのない深い林の広がる谷がいくつもある。

暗く狭い渓谷があり、そこでは木々が異様に傾いていて、日差しにふれたことのない小川が・・・・・


と、もう冒頭のナレーションからして、原作を再現しようという気概に満ち溢れていてワクワクした。
本作は、原作のように19世紀のアメリカが舞台ではなく、すでにスマホが普及している現代の話で、言うなれば現代版『宇宙からの色』といったところ。
全体の流れとしてはよくあるSFホラーの展開で、別にラヴクラフトやクトゥルー神話の予備知識がない人でもホラー好きなら普通に楽しめる内容かと。
この映画を観て、SFホラーファンの人はジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』を連想したかもしれないが、まぁあの映画もラヴクラフト原作の『狂気の山脈にて』をベースとした作品と言われているので必然のことであるかと。

世間ではニコラス・ケイジが徐々に正気を失っていく、ぶっとんだ演技が特に絶賛されているが、そこは監督が“発狂していく”という要素を原作の暗い感じまんまではなく、多少ユニークに演出した結果であろう。
クトゥルーTRPGの世界でも”正気度”というポイントがあって、クトゥルー神話の世界ではこれがかなり重要視されるのである。


まぁ『宇宙からの色』の原作は、舞台こそアーカムだが、特に旧支配者の固有名詞や暗黒の書などは出てこず、これはクトゥルー神話に属するものかというと、大いに疑わしい気がする。
が、スタンリー監督はこの作品をクトゥルー神話たらしめる様々なギミックを施している。

最初、いきなり長女ラヴィニアが湖の畔で石のサークルを作ってなにやら悪魔主義的な儀式を執り行ってるシーンが出てきて、いや、これはちょっといきなりやりすぎやろと思ったが、これは単なるキャラでアメリカによくいるオカルトファッション系のゴシック女子という設定なのだろう。
で、彼女が自身のコレクションで所持してるものの中に、あのアラブの狂詩人が著したとされる恐るべき禁断の魔導書『ネクロノミコン』が含まれていたりする。
終盤の危機迫る最中でも、その『ネクロノミコン』を開き、自分の体中に刃物で魔除けの記号みたいなものを切り刻んだりするんだが、彼女の持ってたものはアマゾンとかで簡単に購入できそうなペーバーブックみたいな安っぽいもので、当然ながら効き目は全くなかった。

あれならまだ私の所持してるものの方が神通力ありそうだ。



そしてこの呪われた土地へ調査に来たプロヴィデンス出身のイケメン水質学者。
ラヴィニアと湖の畔で遭遇していきなり色目を使う。ラヴィニアもまんざらでもない様子。
この水質学者の名前がワード・フィリップス。そう、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの名前をモジったものだ。
で、彼が上着の下に着てたのは、これ気づいた人少ないと思うけど、多分あれミスカトニック大学Tシャツ。

実は私も当日着ていったんだけど、誰が気づいてくれようか・・・



ラヴクラフトが小説の中で提唱した”未知なる邪悪な宇宙からの色”の再現は、ピンクがかった紫の気体という形で表していたが、まぁ映像としてはこれが精一杯だろう。
そこは大目に見るとして、スタンリー監督はクライマックスで、実におぞましくも見事な独自のエンターテイメント性溢れるホラー展開を盛り込んでいる。

後半、”宇宙からの色”がいよいよ邪悪な猛威を振るい始め、ついにガードナーの家族に悪意剥き出しの攻撃を仕掛ける。
この展開はほんとうにおぞましかった!言うなれば、親子のシャム化である。
悪魔の所業としか思えないような、おぞましい姿にさせられた妻と幼い末っ子を、夫ネイサンはそれでも必死で救おうと、二階の部屋へと隔離するのだが・・・

その後の展開、これも見事というほかなかった。
あの薄暗い隔離部屋にて、蹄を持つおぞましいクリーチャーが出現したときは、ゾゾ気立つと同時に、興奮して思わず「クトゥルフ・フタグン!!」と叫びそうになりました。
この場面を観て、英ブリチェスターの旧支配者アイホート、あるいは千匹の仔を孕む森の黒山羊“シュブ=ニグラス”の顕現を連想したのは私だけだろうか!?





あと、アルパカ。



ホラー映画にアルパカを絡ませたのは、おそらくスタンリー監督が初めてだろう。
いやいや、この監督なかなかおもしろい発想の持ち主だね。
この映画により、今回またクトゥルー神話に「アルパカ」という新たなアイテムが加えられたことを嬉しく思う。


次作『ダンウィッチの怪』も(これもニコラス・ケイジ主演)大大大大大期待!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セレファイス

2020年05月16日 | ルルイエ異本
またしても、谷弘兒作品について、3連続でご紹介するハメとなってしまいましたが・・・・
ついて来られてますか?


『薔薇と拳銃』の時にも言ったように、谷作品の画の魅力ってのは、どちらかというと長/中編ものより短編ものの方が、圧倒的に輝きを放つように思われる。




長/中編ものでは、徹底して無邪気にコッテコテのエロ・グロを描き殴る作家さんなんであるが、短編ものになると、実に洗練された画風で、幻想怪奇、エロティシズム、サイケデリック、耽美、抒情詩的な美世界を、その唯一無二の個性的な画力でもってして見事なまでに描き上げてしまう。

それはまるで、アルカロイドを含むある種の薬草を服用した夢想家以外に想像し得るものではないというほどに、幻惑的な世界である。

『妖花アルラウネ』(アックスVol.1 2001年)



思うに、谷氏は、ランドルフ・カーター(あるいはH.P.ラヴクラフト)、クラネスと同じく、一種の選ばれし夢見人なのではないかと。
というのも、再編版『快傑蜃氣樓』に掲載されている90年代初頭~後期にかけて発表された短編には、幻夢境の都市の一つ“セレファイス”を扱ったダンセイニ風の作品を多く描いている。

この谷氏の尋常ならざる“セレファイス”への憧憬の念は、6年くらい前に読んだ創元推理文庫刊行の日本人作家による書き下ろしクトゥルー神話アンソロジー『秘神界 ~現代編~』に掲載された、南條竹則著の『ユアン・スーの夜』という短編の扉ページに描かれた谷氏のイラストでも見てとることができる。




セレファイスとは・・・

夢の国(ドリームランド)のオオス=ナルガイの谷にある都市で、その大理石の壁とその青銅の門によって、すべてのドリームランドの都市で最も印象深い都市の一つに数えられる。
壮麗際だかなセレファイスでは、時というものが存在せず、ここで何年も過ごしてから現世に帰っても、以前と変わってない自分に気がつくという。
セレファイスはクラネスという、ロンドンの優れた夢見人がその夢の中で創造した幻想都市。
ちなみにクラネスは、アザトースの宮廷を訪れた3人の夢見人のひとりにして、その中で正気で戻ることができた唯一の人間である。
クラネスが現世で死んだとき、彼は支配者としてセレファイスに永遠に棲むこととなり、今なお雲の都セラニアンとを行き来しつつ政務を執り行っているという。


その谷弘兒先生による、“セレファイス三部作”ともいうべき短編を以下に紹介していこう。


『それは、六月の夕べ・・・』(ガロ1993年)

雨宿りのため、迎え入れられた親切な老人の家で青年は、その家に飾られていた女性の肖像画を巡って不可思議な体験を味わう。




画の中の女性に導かれるがまま、肉体から精神が離れ、異界の扉が開かれる。




なんという恍惚たる幻想風景・・・・・
まるでLSD使用による、ローン・ツリーのアドリブのごとき描写・・・・





『小さな風景画』(アックス Vol.1 1998年)

知らない異国の言葉で、少年に一枚の風景画を見せて話しかけてくる見知らぬひと。
そこで囁かれる魔法のような「セレファイス」という言葉。
しかし少年は、その時はその言葉が聞きとれない。




そして大人になって、子供の頃に聞きとれなかったコトバがふいに口をついて出る。
ただその瞬間に、その者は現世の人ではなくなってしまう。





『イップ君の思い出』(アックス Vol.4 1998年)

少年がある病気がちの同級生イップ君の家にお見舞いに行く。
ベッドに横たわったままイップ君は、見舞いに来た少年に、実に想像力豊かな様々な異国の奇妙な話を語って聞かせるのだった。
そして少年は、いつの間にかイップ君の語る不思議な異国の夢の中を漂っていた・・・・




お見舞いの後、少年はイップ君の家から一枚の絵葉書を持ち帰った。




しばらくして、イップ君家族は引っ越したのか、そのまま行方知れずとなった・・・・

そして、見舞いに行った少年もまた・・・・・


ところでこのGW中は、相変わらずネットであまりといえば希少すぎる谷弘兒作品をむなしく検索する日々を送っていたわけであるが、偶然にも谷弘兒のポストカードセット「CELEPHAIS」なるものが存在するという情報を入手した。
で、谷弘兒ポストカードで検索をかけると、すぐに販売元の青林工藝舎のHPに辿り着くことができた。
http://www.seirinkogeisha.com/koda/postcard.html

ただ、このHPでは在庫が残ってるのかも分からず、ネット通販の入力フォームやレジもなかったので、もうこのポストカードが欲しくてたまらんくなって、直接青林工藝舎に電話で問い合わせたところ、翌日すぐに振込用紙と一緒に、あまりにもステキなダンセイニ風特製封筒に納められた、垂涎ものの5枚入り谷弘兒ポストカードが送られてきた。

これで500円(セール価格)は安い!てかまだ在庫残っててよかった。



そして今、私の机の上には、一枚の絵葉書が飾られている。




この風景が、
谷弘兒先生が夢想した夢の国の中での理想郷なのだろうか・・・



インスマスの断崖の下の、苔にびっしりと覆われたトレヴァー・タワーズ近くの岩場に、もし私の水死体が打ち上げられたのなら、私も谷弘兒先生が描いた不思議な物語の登場人物たちと同じように、ガレー船の行きかう、あの時の流れの止まったオオス=ナルガイの谷にある壮麗際だかな幻夢境の都に旅立ったものだと思ってくれても全然構わないことを、ここに書き留めておきます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニョグサ(ありえべからざるもの)

2020年05月07日 | ルルイエ異本
谷弘兒の著作『快傑蜃氣樓』にも、『薔薇と拳銃』と同様、数々の怪奇と幻想を極めた短編が収録されている。

本編を読み終わった次のページに、早くも私の不埒な好奇心を震わす、あの神性の御名を冠したタイトルが目に飛び込んできた!


『Nyogtha(ニョーグサ)』である。




やはりディープな作家さんですぜ、谷先生は・・・・
クトゥルー神話を題材にマンガを描く作家多しといえど、ありふれたニャルラトホテプやディープ・ワンズなどではなく、本格的に、そしてここまで幻想的に「Nyogtha」を描いたマンガ家など今までにいただろうか!?
とにかく目のつけどころがすごい!


”Nyogtha”とは・・・・・・・

日本の書物では「ニョグサ」、あるいは「ニョグタ」と表記されることが多く、個人的にはニョグ・ニョグ太などというキャラクターを妄想したりしてる。
”ニョグタ”は、黒い無定形の塊として顕れるツァトゥグァ、あるいはウボ=サスラが生んだグレート・オールド・ワン。
ヨスの大洞窟の地下深くか、あるいはアークツルスを回る暗黒世界に棲んでいるといわれている。
虹色に煌めく黒々としたゼラチン状の不定型の存在で、”ありえべからざるもの”と呼ばれることが多い。
かつて<古のもの>が、ニュージーランドの洞窟にこの存在を封じ込めたという説もある。


『エイボンの書』によると、かつて黒魔術師アヴァルザウントが、ハイパーボリア東部のウスノール地方にあるカモルバ修道院に隣接する墓地にある霊廟を密かに改築し、自れの死後、弟子たちに自れの屍体をその中の地下墓室に安置するよう手配した。
その地下墓室には、秘密の出入り口が設けられており、その出入り口の後ろには、巨大で悪意ある強力な存在が棲んでいる地球の下の暗い深淵へと下りていく階段があり、その存在は“グレート・オールド・ワン”と呼ばれている。
それらの陰気な深淵の悪意ある居住者の中に”ニョグタ”という恐ろしい神性がいて、アヴァルザウントは生前口に出せないような淫らな儀式を執り行ってよくこの神性を礼拝していた。
黒魔術の力により地下墓室の中で復活したアヴァルザウントは、ニョグタの手下である食屍鬼どもの助けをかりて地上に這い出し、自れの弟子どもやカモルバ修道院の修道士どもの生き血を貪ったという。


また、セイレムの街に存在するいわゆる「魔女地区」に関する報告では、”魔女の隠れ処”といわれる切妻屋根の部屋の最初の住人アビゲイル=プリンという魔女が、自れの死後、この部屋に訪れた者を、彼女が暗黒の洞穴から度々呼びだした不死の恐るべき存在の力を通じて、意識と物質を隔てる深淵に架橋すること、その者の精神にとり憑くことを可能ならしめるべく、魔術的な仕掛けを施した秘密の地下室にて待ち続けているという。
この魔女が呼びだした存在こそがニョグサだという。

”ニョグサ”については、ケスター文庫に所蔵されるアラブの狂詩人アブドゥル・アルハザードが著した恐るべき禁断の『ネクロノミコン』に、こう記されている。

「彼の存在(もの)、世には”闇に棲む者”、旧支配者の朋の一人にして”ニョグサ”と呼ばるるもの、若しくは「在りうべからざる存在」として知れり。
彼の存在、しかるるべき秘密の洞窟または、他の裂け目あらば、そこよりこの地表に呼びい出すを得ん。
あるいはシリアの地にて、あるいはレンのぬばたまの塔の下には、その姿を目にしたる魔導師あり。
韃靼はタルタンの峡谷より彼の存在荒ぶる姿を顕現し、偉大なる汗(フビライ・ハン)の幕舎のただ中に恐怖と破壊をもたらしたると。
そを鎮めんがためには、エジプト十字架、ヴァク=ヴィラの呪文、あるいはティクゥオン霊液において他の術なし。
これによりてのみ、彼の存在自れの棲み処たる隠秘の蒸気立ちこむ暗黒の洞穴に再び追い返さんを得んか?」

このセイレムの魔女に関しては、カーソン著の小説『狂える暗黒神』を参照されたし。


それにしても、谷弘兒の筆によるクトゥルー短編作『ニョーグサ』、いやはやこれも絶品である!
この時空を捻じ曲げるかのような歪んだ画力!!
そして、幻想怪奇極まりないこの狂った構成力・・・・


谷先生は、ニョグサを「底深き妄想の沼にひそむ存在」と定義し、このショゴスもどきな神性を、もう一段高めた存在にしている。

舞台は谷ワールドではお馴染み、ある種の人々が憎しみをこめて「墓場(ネクロポリス)」と呼ぶ幻想都市の一角、「極楽横丁」。




哀れな老婆が番をする石造りの房室の鉄格子の間から洩れ聞こえる悲痛の叫び・・・・・
記憶のはるか彼方から聞こえてくるあの悲痛な叫び・・・・

それを耳にしたとたん、男はその叫び声に苛まれ、意識を失い、悪夢的な異世界へと迷い込む・・・・




そしてついに!!ありえべからざるもの、“ニョーグサ”と対峙する。




その存在は、以前より男の脳ズイの中に棲んでいたのだろうか・・・・?
男の不埒な妄想から分泌される不浄なアドレナリンを培養として肥え太ってきたのか・・・




谷先生はダテに蛸の触手を描いているのではない。
そこにはちゃんとした恐るべき邪悪な精神プラグ的機能が備わっていたのだ。




ニョーグサの精神が男の中に流れ込み、その肉体をも支配していく!!

・・・ニョグサ・・・・クヤルナク・・・・

「助けて~~~!!金田ぁぁぁ~~~!!」って、これちょっと鉄雄入ってるな。



最後に、念のため、私が所蔵する禁断の文献に掲載されていたニョグサを暗黒の洞穴に追い返すための、“ヴァク=ヴィラの呪文”と思われる文言を以下に記し、万全の備えをひいておくこととしよう。


ヤ・ナ・カディシュトゥ、ニルグリ・・・ステルプスナクナァー ニョグサ・・・・

グルナク フレゲトール・・・・

アンタガッタ・ドッコサ・・・・ニョグサ・・・・ニョグドコサ・・・・


ただ、ニョグサが谷先生が描いたような、男の精神分裂による妄想から生まれた産物のような存在ならば、この呪文もさして助けにはならず、ドグラ・マグラな無限ループ地獄に陥るほかないのかもしれない。


The Thing That Shoud Not be・・・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蠅兒と幻想

2019年03月03日 | ルルイエ異本
さて、最近ようやく存在を認知した谷弘兒のマンガについて、3回にも渡ってお送りしているワケでございますが・・・
まぁそれだけ彼の作品にハマったってことです。

で、今回は青林堂から刊行された『薔薇と拳銃』の単行本に収録されていたその他の5編もの短編マンガについて。
私が思うに、谷弘兒の画の真骨頂は、実は短編にあるのではないかと。

中編『薔薇と拳銃』では、諸星大二郎と漫☆画太郎を足したような、グチャグチャとしたコミカルでちょっと雑い画風だったのに対し、短編では実にアーティスティックで怪奇と幻想を極めた芸術作といっていいほどのクオリティを誇っている。

これだけの想像力と画力を備えていながら、諸星大二郎や丸尾末広ほどメジャーにならず、マイナー作家の地位に留まっているのが不思議でならない。
まぁたしかにポップさはないし、扱っているテーマが偏りすぎているかもしれないが。


谷氏は時折、『薔薇と拳銃』に出てくる主人公の名であった「陰溝蠅兒(かげみぞようじ)」を作者名として名乗ることもあったみたいだ。
そこがまた、彼をマイナーで謎めいた作家に仕立て上げたのかもしれない。
“蠅”というアイテムがとてもお気に入りのようだ。


『夜の蛇使いあるいは眼を盗む男』





『盲時計』の幻惑的な画も秀逸。これも最終的に眼を盗む話。





『怪人・蠅男/妖夢の愛液』は、本書収録の短編の中で一番の傑作といってよいだろう。





暗黒惑星”ヒィアーデス”に漂う無定形の精神体を主人公とした幻想物語で、もうこの設定だけでクトゥルー愛読者にはたまらない!




かの水木しげるもビッグコミック創刊号掲載の物語で扱っていた妖夢の花「アルラウネ」が中盤でからんでくる。
夢のなかで女体と怪植物とが絡み合う幻想的でエロティックな画は秀逸。

で、中編『薔薇と拳銃』に女城主あるいは魔女として登場したキルケが、この物語では心霊生理学者キルケ博士として再登場。
やはり彼女は時空を超越した存在なのかもしれない。





本書ラストを飾るのは、企画モノ『摩天楼の影』。
ずばりH.P.ラヴクラフト本人が登場する本格派クトゥルー神話もの。




これは、1987年に刊行された『別冊幻想文学2 クトゥルー倶楽部』に谷氏が新たに書き下ろしたもので、20世紀のニューヨークを舞台に、HPLとウィルバー・ウェイトリーとの邂逅を描いた、なんとも異界的で眩夢的なコズミックワールドが展開している。




HPLが、人間と異界からの存在との混血児ウィルバーの取引と導きにより、驚異的な宇宙恐怖の深淵を垣間見るに至るその有様が、谷氏の邪神がかった圧倒的な画力によって見事に描き出されている。




幻想の摩天楼から、非ユークリッド幾何学様式の石造都市へと・・・



水木しげるの『地底の足音』、諸星大二郎の『栞と紙魚子』シリーズ、魔夜峰央の『アスタロト外伝』、室山まゆみの『とびきり特選あさりちゃん(気分はホラー)』、田邊剛の『魔犬』・・・・etcと、様々なマンガ家によるクトゥルー神話ものの稀覯書を入手しては目を通してきたが、谷弘兒氏の怪奇性と幻想性溢れる異次元の画は、これまでで最高峰にあたるといっていい。

まさに理想的な形で、クトゥルー神話のヴィジュアル化を成し得た類稀なる作家であると。


先週、希少な『薔薇と拳銃』を発掘した日の夜、真っ先にニンギジッダ通信(Twitter)に谷氏の画を添付しつぶやいたところ、クトゥルー好きの方々からかなりの反響があって、その中には暗黒神話の権威であられる東雅夫先生(『クトゥルー神話辞典』等を編纂)などからも反応をいただいた。


谷氏の近年の仕事としては、外国人作家の幻想小説(いずれも絶版)の表紙絵を2、3作手掛けられたということが判っている。
もしまだ御存命で創作活動できる状態であるなら、関係者は是非もっとクトゥルー神話に関する画を谷氏に依頼してほしいと、切に願うばかりである。


ヨグ・ソトホース・・・・・

 


今日の1曲:『Beelzebub』/ Bill Bruford
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

薔薇と拳銃

2019年03月02日 | ルルイエ異本
谷弘兒氏の『薔薇と拳銃』・・・・

いやぁ~ここ数年来、久々の掘り出し物の稀覯書をゲットできたと、悦に浸っている。
まぁ今回入手したのは、1993年に再編され青林堂から刊行された単行本で、少なすぎる情報をかき集めたところ、おそらくマンガ雑誌『ガロ』に1980年くらいから連載されて単行本オリジナル版は1983年頃に刊行されたかと思われる。
本書の中身の内容とはほとんど関連性がないような幻想的なカバーデザインは、1993年再編されるにあたって谷氏が新たに書き下ろしたものかと思われる。


まずは本編、空想探偵漫画『薔薇と拳銃』。
絢爛豪華な登場人物紹介の扉ページからワクワク胸躍らされた。



「全ての人間は多刑態的に倒錯している。すなわち多くの点で可能的に異常なのである」

という、倫理観なしにしてまことに真理をついたかのような前文句で幕を開けるこの『薔薇と拳銃』、想定以上にエログロナンセンスを極めた異常にしてド変態な世界が展開していて最初はかなりひいた。

画のタッチは、まず諸星大二郎が頭に浮かんだが、そこに漫☆画太郎のようなオゲレツ感が炸裂していて、丸尾末広以上にエログロ描写がストレート。
正直作者の日頃の「頭おかしいんちゃうか?」というくらいの常軌を逸した妄想、その精神構造を疑ってしまう。しかもそれを思いっきり絵で曝け出しているところが凄まじい。

全体の話の流れは、主人公の探偵陰溝蠅兒がひとりの女(畸形淫婦)を悪の組織から救出するために奮闘するハードボイルドヒロイック活劇という体裁をとっているのだが、作者が本作で渾身の力を込めて描いているのは、悪の組織の女城主マダム・キルケが営む秦の始皇帝の阿房宮ばりの淫欲と畸形の宮殿内で行われている変態たちとフリークどもの酒池肉林の図であるとしか思えない。
そういった変態どもの跋扈する宮殿内の仕組みをこと細かく解説してるところがなんとも偏執的で、まぁ本編はいわゆる世にも淫らな変態図鑑といったところか。


どのページ開いてもエログロすぎるので、ここで紹介できるのはこれが精一杯。



谷氏の画は、とにかく青木雄二ばりにスクリントーン使わずの背景がおもしろい。
物語の最初の舞台となる無国籍横丁の退廃的な街並みが細かく描かれていて、壁に貼られているポスターなど、実に読者の目を楽しませてくれる。



で、ガイドブック『本当に恐ろしいクトゥルフ神話』に関連作品として紹介されていた本書であるが、どこにクトゥルー神話要素があるのかと最初薄目がちにサラーっと読んでたのでわからなかったが、このシーンを見逃していた。

女城主マダム・キルケの側近中の側近ソルティ・ブラウン・シュガーが使う必殺技、それが九唐流骸之魅剣(クトウリュウムクロノミケン)だ!!



そしてマダム・キルケの謎めきすぎる正体。
このセリフまわしからして、キルケはおそらくナイアルラトホテップの化身ではないかと。



結局女賊マダム・キルケは捕縛されることなく忽然と姿を消して物語は終わる。
冒頭に「第一部」とあるので、作者はおそらく三部作くらいの壮大な物語を構想していたのであろう。
が、今のところ続編が描かれたという様子も情報もない。


本書には他、5作品の幻想を極めた短編も収録されてて、一度に紹介するのはあれなので、また次回ということで。




今日の1曲:『Mr.Brown Stone』/ Guns 'n' Roses
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

谷弘兒さんについて

2019年02月27日 | ルルイエ異本
実は以前からなんとなく惹かれていた作家さんの画があって、私がよく購入する類の書物でときどき見かけてはいたんだが、それが同じ作家さんが描いたものであることが結びつかず、名前すらぜんぜんチェックしてなかった。

それが谷弘兒というイラストレーター、というかマンガ家。

先週突如この作家さんの作品が無性にほしくなってネットでいろいろ検索したんだが、情報があまりにも少なく彼のウィキペディアさえ存在しない。
一体どのくらい作品を発表されてらっしゃるのか?
そして現在も活動されているのか?

いてもたってもいられず、土曜日心斎橋にある某古書店まで足を運び、一目散に諸星大二郎や楳図かずおなどのカルト系作家の作品が並べられてあるコーナーへ赴き、目に見えぬ諸力につき動かされるがごとく、タ行の棚をスススーーっと探したら・・・・・あ、あった!!たった一冊だけ。
なんと入店してわずか2分で谷弘兒氏の作品を発見できてしまった。
その本は、あたかも私に発見されるのをそこでじっと待ち構えていたかのようだった。

作品名は『薔薇と拳銃』。
まさに私が求めてたやつだ。



いうまでもないと思うが、私がよく購入する類の書物といえば、やはりクトゥルー神話もの。
下の三冊に谷弘兒氏の画、あるいは作品の紹介文が掲載されている。




最初に谷弘兒氏の画に出会ったのは、おそらく創元推理文庫から刊行された朝松健編の日本人作家による書き下ろしクトゥルー神話アンソロジー『秘神界』だったと思う。
「歴史編」と「現代編」でそれぞれ2話で扉ページの画を担当されている。
はっきりいって物語よりも谷氏の画の方が大いに心騒がされた。

ファンタスティック!!



フングルイ・・・


本書の巻末に、谷弘兒氏のちょっとしたプロフィールも載っている。
1970年雑誌『ガロ』に「流星」でデビュー。作品に『薔薇と拳銃』『怪傑蜃気楼』などがある。
初めてクトゥルー神話に触れた作品は、コリン・ウィルソンの『賢者の石』だとか。
一番好きな神話作品は『時間からの影』で、「ラヴクラフトの独創性が最もよく表れた作品」と述べてらっしゃる。


そして心斎橋の某サブカルクソ古書店で掘り出した『幻想文学』の1984年刊行の春号「特集 ラヴクラフト症候群」。
その中に掲載されているラヴクラフトの全11ページに渡る平井呈一訳の『アウトサイダー』の各頁のユーモラスで悪夢めいた挿絵を担当したのが谷弘兒氏である。




谷画の特色といえばマス目模様の立体感。それが中世の宗教書の挿絵を彷彿とさせており、とても異界的な雰囲気が出てる。



かおかおかおかおかおかお・・・・・・



んで、あっち系のあるアニメが人気を博し、クトゥルー神話がプチブームとなった頃に刊行された500円の名状しがたき廉価コンビニ本『本当に恐ろしいクトゥルフ神話』。
クトゥルー関連作品紹介のコーナーで、今回私が幸運にも入手できた谷弘兒氏の『薔薇と拳銃』が紹介されている。
つかこの作品がマンガであったことに気づいてなかった。作者名もチェックしてなかったし。
たぶん表紙を見て、異界的な雰囲気をもつ幻想小説かなにかだと勘違いしてたんだと思う。

まぁこの初心者向けガイドブック、安っぽくて表紙もあれなんだが、いやいやどうして中身はかなり資料性に富んでいて、クトゥルー神話が絡むあらゆる媒体の作品群を網羅しており、谷弘兒作品もそうだが、殊能将之の『黒い仏』、C・A・スミスの『イルーニュの巨人』など、いくつかの希少で秀逸な作品にめぐり会うことができた。
なんといっても人間椅子の名曲「狂気山脈」が収録されている3rdアルバム『黄金の夜明け』まで紹介されているのはあっぱれというほかない。




とまぁ、今回は谷弘兒氏の私の知りうる限りでの参考文献を紹介するにとどまったが、ほとんどが絶版状態でいかんともしがたい。
先日『薔薇と拳銃』を掘りあてた(しかも状態もよく定価より数百円高かっただけ)のは、ほんとラッキーだったと言わざるをえない。
次回はその『薔薇と拳銃』について、たっぷり紹介していこうかと思うので、乞うご期待。




今日の1曲:『異端の息子』/ Witchcraft
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未知なるカダスを神戸に求めて

2018年05月03日 | ルルイエ異本
4月下旬、例の病気で内視鏡的バルーン狭窄拡張術というのを受け、その術後の後遺症でCRP定量が一気に上昇しほぼ絶食状態だったのもようやく回復したので、久々に心斎橋のプログレバーに寄ったのだが。



そこで寡黙なマスターが「明日神戸に“カダス”って日本のプログレバンドを見に行くんですよ」と、私に話しかけた時は一瞬耳を疑ってしまった。
まぁ従来私のような中途半端なプログレ趣味の人間には、日本の地下プログレバンドなんぞに興味を示すような習性はビタ一文持ち合わせてはいないのであるが、その心騒がされる“カダス”という不吉なバンド名を耳にして、そのまま聞き流すわけにはいかなかった。


凍てつく荒野の未知なるカダス・・・・・・・
ボストンの夢想家ランドルフ・カーターが、深い眠りの中の国で彷徨い辿りついたという禁断の地。
その計り知れない高みの頂には、インクアノクの石切り場から採石された縞瑪瑙の城塞が築かれており、地球の神々がナイアーラトホテップの庇護の下で居城として棲まっているという。
カダスの所在については諸説あり、恐るべき禁断の魔道書『ネクロノミコン』では中央アジアの高原モンゴル近くに位置するとされ、一方で南極にある未知の山脈(狂気山脈)に位置するという説もある。


かつて奈良の二条大宮に「カダス」というビューティーサロンがあることを知り、現地に駆けつけたら見事スペルが違っていたという苦い過去がある。


なのでマスターに一応スペルを確認したところ、「KADATH」とまさにぴったり符合した。

それでもバーには決定的な資料はなく、意気をそぐマスターの助言や、解読あたわざるほどに古い『ナコト写本』や『フサンの謎の七書』もさして助けにならないことに失望したものの、家に帰ってネットで「KADATH」というキーワードで検索してみると、すぐにプログレバンドKADATHのHPに辿りつくことができた。
http://www.kadath.jp/

そして彼らの1stアルバムのタイトルを見て、私の不吉な予感が見事的中していたことを確信したのであった。

『The Dream Quest of Unknown Kadath』
まんまやなぁ・・・・



朝帰りの翌日、気づいたら私は『ラヴクラフト全集 6』を携え、神戸三宮の地に向かっていた。
そう、未知なるプログレバンド、KADATHを神戸チキンジョージに求めて!



今回のライブは、神戸発のクロスメディアイベント「078Kobe」の一環として行われる、NPOレーベルJPRG RECORDS主催の「ExProg×078」というプログレッシヴロックフェス。
まさにオッサンのオッサンによるオッサンのための音楽祭だ。
これには4グループの日本のプログレバンドが出演参加していた。

私が会場入りしたときは、ちょうどトップバッターのプログレバンドの演目が終演を迎えんとしていた。
その次がお目当てのKADATHの出番であった。
客層は原始神母以上にオッサン率高めで、後から入った私でも中央のテーブル席に座れるくらいの集客であった。


KADATHは山口県出身のインスト主体のプログレバンド。
ただ、MC担当の人のしゃべりは「~あんしたぁ」みたいな長州なまりな感じではなく、普通の関西弁だった。
厳かな雰囲気のSEで演奏がスタートし、私の不埒な期待は大いに膨らんだ。




超弾きまくりのギタリスト菅原氏の、メフィストフェレスを意識したかのようなシアトリカルな衣装から、独特の世界観の持ち主であることを窺わせた。



で、このバンドではイアン・マクドナルド的な役割を担うサラリーマン風の石井氏の存在感にも目が離せないものがあった。



なんとスティックもこなすマルチプレイヤー。時折菅原氏とのポリリズミックな演奏も見られたが、タッピング奏法を活かした高速プレイはなく、わりと地味で微妙な役割だった。



4バンドの中では一番整合感があり演奏もまとまっていて、実にプログレハードな演奏を聴かせてくれた。
実は最近プログレマニアの間でもけっこう話題になってきているのだとか。
ただ、凍てつく荒野の未知なるKADATHというバンド名を冠してる割には、いささかその音楽面において宇宙的恐怖の深淵を感じさせる要素が欠如しているようなもの足りなさを感じた。
そこにはングラネク山で無貌の夜鬼が上空から舞い降りてゴム状の腕でこそばし攻撃を仕掛けてくるような恐怖感や邪悪さはなく、まぁ楽曲的にはロマンティシズムやドラマティック性に重きをおく、どちらかというとドリーム・シアターに近い健全なタイプのテクニカルプログレバンドだ。

物販で2ndアルバム『煉獄楽団』、そしてKADATHステッカーも購入。
残念ながら1stは置いてなかった。どうも再プレスしてないみたい。



まぁ菅原氏が愛読書であるラヴクラフトの小説から「カダス」という名称をただバンド名に拝借しただけで、その暗黒神話の世界を音楽で表現しようとまでは考えてないというのが真相なのかもしれない。
一歩間違えればヴィジュアル系にしか聴こえない歌モノのラスト曲「乾きゆく旅人」の歌詞内容をはじめ、「狐」、「死神」、「鬼」など、ただ日本の和的な名詞を付けただけの曲名を見ても、クトゥルー神話的な要素はほとんど感じられないし、人間椅子やモービッド・エンジェルのように、あまりそういう楽曲のコンセプトや雰囲気作りには重きをおいていない感じがする。
アルバム内容は、全体的にクオリティの高いドラマティックな粒揃いのプログレハードな楽曲が並ぶ。

ただ、クトゥルー好きとしては、せめて「ヘイ!アア=シャンタ!ナイグ!」くらいのフレーズはぶっこんでほしかったかと。




今日の1曲:『死神』/ Kadath
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クトゥール!!

2016年09月25日 | ルルイエ異本
闇の青牡蠣教団ブルー・オイスター・カルト(以下BOC)のすでに廃盤となっていた1988年作『イマジノス』の日本盤の見本盤を安価で入手した。
BOCは、ジャケは好みだが音楽的にはさほど好みでない、ましてやVoがすでにチェンジした80年代のこの作品を必死で捜し求めていたのには、私なりの不純かつ不埒な理由があった。
つか以前のBOCの記事でも言及しているのだが、この作品、実は3rd『オカルト宣言』の続篇なのである。
1曲目「I AM THE ONE YOU WARNED ME OF」では、ラヴクラフトから暗黒の知識を得た男ディスディノヴァが歌に再び登場する。
そう、このアルバムはおそるべきクトゥルー神話作なのだ!

つい先日、このことを「ニンギジッダ通信(Twitter)」にてちょこっとつぶやいたのだが、これがクトゥルー信者の方々になかなかの物議を醸してしまった。

“Cthulhu”という単語には、クトゥルー、クトゥルフ、クルウルウ、ク・リトル・リトル、チュールー、クトルットゥルーなど、訳者によって様々な発音表記がなされているが、このBOCの作品のライナノーツではまた新たな発音表記が提示されていて、私はその前代未聞の発音に慄然となってしまったのであった!



クトゥール神話体系!!

これは長年クトゥルー神話に携わってきた研究者や私の暗黒神話における固定観念や良識を根底から覆す大発見であった。

このBOCの『イマジノス』のライナーを書いた当時の担当者はB!誌の広瀬和生氏で、この「クトゥール」表記にも驚かされたが、彼が文書のなかで“ラーン=テゴス”の邪神の名を挙げていたことにも驚きを禁じ得なかった。
彼は今や老舗メタル雑誌B!誌の編集長に昇りつめながらも、かなり暗黒神話に通じている人物とみた。


すでに廃盤で入手困難だったこの『イマジノス』の日本盤。
私が敢えて日本盤を入手するのにこだわったのにもやはり理由がある。
実はこのCDには、BOCが編んだこの作品における一連の物語の背景、進行を記したブックレットが付属されているとの情報を得ていたからにほかならない。
そこには彼らが創造したどのような忌むべき暗黒の物語の背景が記されているのか、その概要が知りたくてたまらなかったのだ。
もちろん輸入盤にもそのブックレットは付属しているだろう。でも、いちいち訳すんのめんどくさいししんどいやん。
つまり、私は語学力に乏しいのだ!(でも中学のときの英語の成績はまあまあだったぞ)


ところがどっこい、そのブックレットを開いた瞬間、私は言いしれぬ失望感を味わされるハメとなった。

英文のみで訳してくれとらへんやんけ!!


たく、これだから昔のCDはイヤなんだよ。
ヒドいやつなんて歌詞すら訳してくれとらんのもあるし、裏ジャケはカタカナ表記だし、音質悪いし・・

なけなしの語学力でちょっと翻訳を試みたが、う~~ん、非常にキビジー。
ともかく、歌詞の対訳とライナーノーツと、クトゥルー関連の書物などを照らし合わせてなんとなく導き出した本作の概要は以下のとおりである。


「時空を超えた世界から、見えざる者(invisible one)がこの地球に送り込んだ邪悪なるエージェント“イマジノス”がこのアルバムの主人公でありコンセプトとなっている。
無限の力を持ったイマジノスは、歴史のあらゆる場面で人類を悲劇へと導いていく。

1892年から1893年にかけてじっちゃんがメキシコへ航海した。
それは彼の屋敷に所蔵されている古い巻物に記された予言の謎を解くためだった。
呪文で守られた船でユカタン半島(マヤ文明がかつて存在した地)へ渡ったじっちゃんは、廃墟めいた神殿内で、奇怪な角度をもって掘り抜かれた“入口はただひとつにして出口はひとつもない翡翠の房室”から漆黒の黒曜石の鏡と、“完全なる黒より生み出された菌”を盗みだした。
じっちゃんは彼の孫娘の誕生日に贈り物として強奪してきたその不穏なる品々をヨーロッパに持ち帰った。

そのじっちゃんとは、すなわち暗黒のエージェント“イマジノス”自身であると。
イマジノスはやがて、欧州の運命を握る者たちの脳へとその菌糸をのばしていった。
そして世界を第一次大戦へと導いていったのだ・・・・・」

上記のブックレットの英文の中には19世紀にエリザベス女王に仕えていた魔術師ジョン・ディー博士の名前なんかも挙がっていて、どんなことが述べられているのか非常に気になるところである。


今回、「クトゥール」発音表記ツイートでクトゥルフ神話検定ん時のつぶやき以来久々の反響を呼んでしまったが、これをキッカケにクトゥルー信者の間でブルー・オイスター・カルトが流行るなんてことは、まぁまずないかな。

あと、本作の中には「BLUE OYSTER CULT」なんてバンド名をタイトルとしている曲なんかもあって歌詞の対訳を読むと、メンバー自身が旧支配者、見えざる者、そのエージェントたるイマジノスを崇拝、手助けするカルト集団、ブルー・オイスター・カルト(青牡蠣教団)という構図がまざまざと見えてくる。
う~む、おもしろいじゃないか。


さあ、みなさん

これが歪んだ俺の夢

見るがいい、これは俺達のやったこと

牡蠣信仰を楽しむがいい

ブルー・オイスター・カルト!  (M8「BLUE OYSTER CULT」より)


そしてクトゥール!!




今日の1曲:『Blue Öyster Cult』/ Blue Öyster Cult
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青牡蠣教団と密約

2015年05月31日 | ルルイエ異本
近頃クトゥルー神話探求意欲がいちじるしく減退したのには、いくつか理由がある。
そりゃまぁ私の持って生まれた冷めやすい性格ってのももちろんあるが、もうなんかおもしろいやつは読みつくした感があるのね。

あとはやっぱ、最近のクトゥループチブームに便乗してポンポン連発しまくっている日本人作家らによる書き下ろしアンソロジー集『クトゥルー・ミュトス・ファイル・シリーズ』を数冊買って読んで、そのやっつけ感甚だしい内容のショボさも原因のひとつだ。一冊なんかは最初の3ページくらいで読むのやめたもん。
これまでにも、日本人作家によるクトゥルーもんはけっこう読んだが、独特で一風変わっている作風のものもあるが自己満足感が甚だしく、エログロアニメみたいな展開に走りがちでどうも肌に合わんのだ。

特にウンザリさせられたのが、2002年頃に創元推理文庫から刊行された朝松健編集のアンソロジー『秘神界』のあの分厚い2冊。
昨年1年くらいかけてやっと読み終えたのだが、特に『現代編』は読んでて、そこに掲載されている諸作品のあまりのしょーもなさに何度床に叩きつけかけたことか・・・・



ただ、『現代編』の巻末には実に神話的資料性の高いエッセイが掲載されており、その中の霜月蒼氏著の「異次元からの音、あるいは邪神金属」という文が非常に興味を惹いた。
実をいうと、この希少なアンソロジー本を入手してまず熟読したのがこのエッセイだった。

本文は、「クトゥルー神話の(邪教=異端の空気を湛え、暗欝で不穏、さらには荘厳で壮大な偉容を暗示する)世界を表現する音楽。それは、いわゆるハードロック/ヘヴィ・メタルと呼ばれるロックしかない」という、著者のいささか独断的な主張から始まる。
「黒魔術的」であったり「呪術的」であるような暗黒要素をハードロックの音世界に接続させた先駆者として、まずBlack Sabbath、Black Widowのアルバムが挙げられ、この2つの「黒い」バンドの持つその不穏さ/不吉さを極限までブーストしたのが「ドゥームロック」であり、その代表格としてElectric Wizardを紹介し、「コズミックホラー的な音のひとつの究極形」と絶賛している。
ま、私個人としては、人間椅子、Cathedral、Celtic Frostの方がプログレッシヴで暗黒神話的におもしろい音世界を表現していると思うのだが、著者はこれらのバンドの作品を最後の「邪神音盤厳選10枚」の中にも選んでおらず、後半はひたすらデスメタル/ブラックメタルなどのエクストリーム系のバンド紹介に行を費やしてるのは残念でならなかった。
いやでも、文章は熱く的確すぎるほど美しい表現力だしものすごく説得力があって、読んでてこの本に掲載されていたどのクトゥルー神話小説よりも心騒がせられた。

で、著者がかなり熱っぽく紹介しかなりの文章量を割いていたバンドが、BLUE OYSTER CULT(以下BOC)。
BOCは、72年にデビューした米国の知性溢れるカルト・ハードロック・バンドで、直訳すると「青牡蠣カルト教団」というなんともユニークなバンド名を持ち、ジャケットも神秘的なデザインのものが多く昔からなんか惹かれるバンドで、若い頃に『タロットの呪い』というアルバムを1枚購入したが、1曲くらいしか気に入る曲がなくてなんか私の趣味とは違うなと思ってそっからは手をつけてこなかった。

Tenderloin



本書の霜月さんの紹介文を読んで、アルバムに込められたアメリカ特有の極めて邪悪で陰謀的なそのコンセプトに魅せられ、彼らの74年作『SECRET TREATIES』の紙ジャケ盤を先日やっとこさ入手。
これは、まぁ音はともかくクトゥルー神話資料として是非とも持っておきたい作品であった。



邦題こそ『オカルト宣言』という直球的なものであるが、直訳すると『密約』である。
それは内ジャケットに記された一文にも、その不穏な意味が込められてある。

「奇怪だが端的な表題の付されたロシニョールの著書『世界大戦の起源』は、プルトニア(地下王国)の大使と外相ディスディノヴァの間で交わされた秘密条約なるものを軸に綴られている。
この条約こそが、星からの秘められた科学を勃興せしめたのである。天文学を。邪悪の歴史を」


アルバムは、当時BOCのメンバーと付き合っていたというパティ・スミスが詩を書いた「邪悪の歴史」で幕を開け、「天文学」で終焉を迎える。
実在の人物かどうか定かではないが、ディスディノヴァがこのアルバムの主人公であり、彼の精神的な進歩、つまりオカルトに対する目覚めの過程がこのアルバムのコンセプトとなっている。
ラスト曲「天文学」ではディスディノヴァが登場し、謎めいた光や破滅の予兆が語られる。
BOCの歌詞の助言者でありマネージャーでもあったサンディ・パールマンは「ディスディノヴァは星々の知識を持っていた。それはラヴクラフトから得たものである」と明言していたそうな。

そしてジャケットだが、そこに描かれてるのはメッサーシュミットME262(世界最初のジェット戦闘機)をバックに家族が記念撮影してるかのさわやかな構図の絵。よく見ると、それはBOCのメンバーらしく足元に4匹の犬を連れている。
ところが!裏を返すと、たった今惨殺されたばかりと思しきそれらの犬が横たわっている図が!!
ラスト曲「天文学」で、ディスディノヴァが「私の犬の事を忘れないでくれ」というセリフの歌詞が出てくる。
これは非常に不吉で邪悪めいていて悪寒が走った。



このロックンロール色の強いBOCの音楽性は、やはり私の趣味とするところではないが、こういう暗示めいた黙示録的コンセプト作品は否が応でも私のクトゥルー趣味を大いに刺激してくれるものであった。

そして、この謎めいた『SECRET TREATIES』の暗示は、14年後の作品『IMAGINOS』によって補完されるとのこと。
このアルバムの概要に関しては未確認なので詳しいことは省かせていただくが、本作には「物語」の進行/背景を記したブックレットが付属しているらしく、再び「天文学」という曲が収録されているということだけ言っておこう。



霜月氏によると・・・・
「さまざまな時空に、さまざまな人間の姿をとって跳梁する「異世界」のエージェントたる「見えざるもの」、彼らを崇拝するものとおぼしき青牡蠣教団(ブルー・オイスター・カルト)。
そしてこの世ならざるものと密約を交わす外相ディスディノヴァ。
それが“Starry Wisdom”という言葉で接続された瞬間、「ナイアルラトホテップ譚」以外のなにものでもない物語が出現する」という。

確かに霜月氏の言うとおり、BOCの悪意をまとった構築美や暗示的な歌詞は、神話的用語こそ登場しないものの、最近の書き下ろされたクトゥルーものや本書に掲載されている生半可な「神話譚」より宇宙的であり、慄然たる暗黒の世界観に満ち溢れている。
このBOCのアルバムをもとに、クトゥルー神話を巧く描ける小説家がいないものだろうか?


最後にアルバム収録の「人間そっくり」という曲の中にでてくる、極めてクトゥルー的なフレーズを紹介しておこう。

「紳士、淑女ならびに魚のみなさま、角度をなすわが夢をごらんあれ」




今日の1曲:『天文学』/ Blue Öyster Cult
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無謀の旅、這い寄るオッサン

2015年04月07日 | ルルイエ異本
先週の土曜、すでに夕の刻限を過ぎているにもかかわらず、突如新幹線に飛び乗って在住の京都から名古屋まで遠征するという、全く無謀としか思えない衝動に私が駆られたことに関しては、皆さまから呆れ返られるのは致し方がないことと思っている。

4月4日土曜日に、名古屋で『無貌祭祀』なる“ナイアルラトホテップ”をテーマとした忌まわしき冒瀆のイベントが開催されるという情報は以前より聞き知っていた。
http://tantramachine.com/mubou/index.html
そこでは、マジックショーや詩の朗読、イラストの展示、物販などが展開されるということで大変興味をそそるものであった。
展示物には、『図説 邪神浮世草子』で著名な敬愛すべきぎるまんはうす先生の画き下ろしイラストも公開されてるということで(彼のツイートで今回のイベントのことを知ったのであった)、これは是非行ってみようと。それに私の周りでは0に近いクトゥルーファンの方と一度交流してみたいという思いもあった。

ギルマンハウス先生の新作 『因洲枡之嫁入図』


しかし、イベント日が近づくにつれ、最近季節の変わり目で体調も芳しくないし、やっぱなんぼなんでも名古屋まで行くのはしんどいなと思い、参加予約はしていなかった。
色んな意味でこのイベントに参加するのが少し怖かったのである。

ただ、イベントには参加しなくとも、すぐ近くのバーで“クトゥルフバー”なるものを臨時営業しているということで、ここには是非行ってみたいという思いがあって、当日ツイートされてるその冒瀆的なメニューに思わず魅了され、30分で身支度をし電車に飛び乗ってはるばる単身名古屋まで駈けつけたのであった。


名古屋新栄町に着いた頃にはもう22時を過ぎていた。



オオオ・・・、栄の環状列石。



今回は前回の東京とは違って、迷わずスムーズに目的の場所にたどりつくことができた。
『無貌祭祀』のイベントは当然ながらすでに終了しており、会場の中からスタッフさんたちが後かたずけをしている様子が垣間見られた。
となりのビルがすぐ“クトゥフバー”を展開している店の場所で、さっそく足を運んだ。


まず、店の外に貼り出されていた冒瀆的なお飲み物、忌まわしいお食事などのお品書きを見て、店に入るのを一瞬ためらってしまった。


思いきって店の中に足を踏み入れる。店主の姿が見えない。奥の方で作業しているみたいだ。
とりあえず外に貼り出してあったのと同じお品書きを手に取りテキトーにテーブル席に座る。
店内を見渡すと約5名ほどの客がおり、私の席の隣りでは創元推理文庫の『ラヴクラフト全集』やなにやら得体のしれない分厚い書物をテーブルの上に置いて3人の男たちが暗黒神話に関するアカデミックな討論を繰り広げている。
店主がカウンターから顔をのぞかせる。うん、別段浅黒い肌をしているとか、目が異様に見開いているというようなことはない。

まずは、食前酒よろしく「黄金の蜂蜜酒」をオーダー。最初はちょっとこの名称言うの恥ずかしかった。


うん、蜂蜜のほんのりとした甘さがきいていて飲みやすい!これだったら何回でもセラエノの図書館に出入りできるぞ。いまだ完成せぬ我が著※『そりゃえ~の談笑』の執筆もはかどりそうだ。
ただ、残念なことにここの店では石笛の貸し出しはしていなかった。


お次はとにかく腹が減っていたので、冒瀆的な「グールの食卓」をオーダー。


血糊ソースが言いしれぬ不吉感を煽ったが、このソースが甘辛くて美味!肉もやわらかくて食感もよく気がつけば食屍鬼のごとく貪り喰っている自分がいた。
こんな美味い唐揚げを食ったのは何年振りだろうか?
「もしや・・・・この肉は?」恐ろしい考えが私の脳裏をよぎった。いや、この火葬習慣の日本ではありえないことだ。
この肉料理は、まさかダレット卿の『屍食教典儀』のレシピ本から作ったのではあるまいな?


そして〆はこいつ。特製カクテル「狂気山脈」!テケリ・リ!テケリ・リ!マジで発狂しそう。
(下のは「くとぅるうの落とし子」という名のゲソ。)


エルダーサインのビスケット?がのっているので安心して飲むことができたものの、なにやら不可思議で宇宙的な味だった。
ちなみにノンアルコールの「正気山脈」ってのもあった。


それにしても・・・・
暗黒メニューはどれもシャレがきいてて美味でよかったんだが、いかんせん店主の反応が悪く、会話を楽しめるだろうと思ってカウンター席に移ったことを心より後悔した。
時間帯が遅かったこともあり、一般の客はもう帰ったあとで、そこにいた者のほとんどがイベント「無貌祭祀」の関係者やスタッフらしく、とてもじゃないけどその輪には入っていけそうもなかった。
ここの店主も元々ラヴクラフトやクトゥルー神話を嗜んでいたらしいので、せめて店主だけは話し相手になってくれるだろうと思って今回思いきって名古屋まで出向いたのであった。
しかし、こちらが何を話しかけても「そうですねぇ」程度のレスポンスしか返ってこず、その後が続かない。いや、客商売やで。
それとも私の容貌に、深淵からの忌まわしきなんらかの面影でも宿ってたというのか?あまりにも冷たすぎら。
名古屋の人ってよそ者には皆ああいう感じなのかな?それともここの店主がイチゲンさんには特別無愛想なのか。

あと、店のBGMが80年代の洋楽ライトミュージックという・・・もうちょっとゴブリンやセルティック・フロストなど、雰囲気のある冒瀆的なものをセレクトしてほしかった。
ちなみに家からモービッド・エンジェルの『病魔を崇めよ』、人間椅子の『黄金の夜明け』などの音源を持参してきていたのだが、まぁ「これかけて」ってな雰囲気やないよな。


これも海神を思わせる酒やけど、まぁタコ言うだけでいちいちクトゥルーと結び付けてたらキリがない。



今回のイベントで出張出店されてた名古屋の伏見地下街で古書店を営まれている方(bibliomaniaさん)がひとりいて、バー内でも稀覯書のギッシリ詰まった木箱を持ち込み販売を行われていた。
http://bibliomania-books.com/
それキッカケでやっとこの方とはそこそこ実のあるクトゥルー談義を交わすことができたのは唯一の救いであった。
その木箱の中には、アーサー・マッケンの『怪奇クラブ』、絶版のウィリアム・ホープ・ホジスン著『異次元を覗く家』の団精二訳本、菊池秀行の『妖神グルメ』の初版本、旧豪華版『真ク・リトル・リトル神話体系』数冊、クトゥルフ神話TRPG 『マレウス・モンストロルム』、殊能将之著の仏教版ナイアルラトホテップもの『黒い仏』、恐るべき『うちのメイドは不定形』などの、蒼古たる忌まわしき冒瀆の稀覯書がズラリと取り揃えられていた。




その方たちも終電時間でボチボチ帰り始め、とうとう私と店主ふたりきりという堪え難い状況になった。それでもバーの店主は私には一向に話しかけない。私は心の中でこの店主に“冷遇を司る神ムゴン”と名付けた。
そして噛みにくくも飲みこみにくいくとぅるうの落とし子を急いで平らげ、そそくさと店を出た。
そして、二度と再び愛想なきこのバーに足を踏み入れぬことを宇宙に誓った。
店で「グールの食卓」を食ったせいか、地下鉄に乗る気にはなれず、名駅まで徒歩でトボトボ帰った。


はりきってネクロノミコンTシャツを着ていったが、私が店で上着を脱ぐことはなかった・・・



bibliomaniaさんから田辺剛著『魔犬』を購入。今回収穫は極めて少なかったな。



※『そりゃえ~の談笑』・・・アーマがセラエノの大図書館で立ち読みした文献に記されてた神々の秘密を冗談半分にまとめたもの。 


今日の1曲:『Chapel of Ghouls』/ Morbid Angel
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベトナム珈琲とゾス神話群

2014年12月30日 | ルルイエ異本
年末休みこの3日間は大そうじもはかどらず、近所のコーヒーハウス(あるいはマクド)に行ってクトゥルー神話を読み耽って、冒瀆的かつ優雅な時間を過ごしております。
現在私が熟読ぢでいるのは『ゾス神話群』。
スティーリー・ダンをBGMに(アルバムはもちろん『幻想の魔天楼』)このゾス神話群と、サンマルクカフェのベトナム珈琲という組み合わせは、なかなか意外と合うんですよ。

で、なぜ私が今年の秋頃角川から刊行された禁断の書物、リン・カーター編纂によるこの『クトゥルーの子供たち』を『ゾス神話群』と呼称するのかというと、それは邦題があまりにもしょーもないからだ。
「子供たち」はないだろ、「子供たち」は!あまりにもかわいいやんけ!
せめて「落とし子」という言葉を使ってほしかった。

いやまぁ確かに、本書は<旧支配者>の一邪神<クトゥルー>が、ゾスと呼ばれる場所でイダ=ヤーという存在と交わり産み落とした子供たち三柱<ガタノソア>、<イソグサ>、<ゾス=オムモグ>に焦点を当てた一連の編纂集であるから、『クトゥルーの子供たち』って邦題は妥当かと思われる。
しかし、私の部屋の冒瀆的な蔵書を収めた書架に並べるには、もっと『エイボンの書』だの、『グラーキの黙示録』だの、『ハナモゲラ経典』といった厳かで学術的なタイトルの方が稀覯本的雰囲気が出るじゃないですか。
ま、クトゥルー神話布教促進のためには、“クトゥルー”って言葉をタイトルに盛り込みたかったっていう企画側の気持ちもわからんではないが、なんか暗黒神話の気品が下がる感じがして個人的には好みではない。

ちなみに原題は『THE TERROR OUT OF TIME and OTHER』(超時間の恐怖)って、このタイトルもどうかと思う。
ま、これはラヴクラフトの作品『超時間の影』を文字(パロ)ったものであるのは明白ですわな。
結局リン・カーターってのは、模倣作家に過ぎんのですよ。ただのクトゥルーマニアっていうか。
尊敬する作家へのオマージュとかは物語の中で存分にやってもいいけど、タイトルはもちっとセンスいいやつにして!!

ストーリー性について言えば、クトゥルーものとしてはごくありふれた平凡なもので、好奇心旺盛な教授が禁断の書物を読んで邪神の復活の予兆にあたふたして発狂!(というか狂人扱いされて精神病院送り)ってのがだいたいのパターン。私もそろそろこういった展開にはいい加減飽き飽きしてきている。
ただ、このリン・カーターって人は、設定マニアともいうべき人物で、ラヴクラフトやオーガスト・ダーレスの意思を引き継ぎつつ、クトゥルー神話体系に実に事細かい設定を施している。
この『クトゥルーの子供たち』はいわば「クトゥルー神話辞典」の様相を呈しており、暗黒神話にまつわるおそるべき教義、膨大なる書物の数々についてこれでもかといわんばかりに言及されている。
で、日本の翻訳家さんや編集者さんたちが神話的用語について丁寧に事細かい注釈を付けて下さっていて、それがまた非常に私の不埒な冒瀆心を楽しませてくれた。

本書の帯にも、その慄然たる暗黒用語の数々がクレジットされてある。



巻末には暗黒神話年表まで!!



この物語は、ハロルド・ハドリー・コープランド教授が中央アジア、ツァン高原地帯にある墳墓から持ち帰ったという、不穏当で議論の余地がある『ザントゥー石版』から抜粋された、現代の人類誕生以前に海に没したムー大陸で暗躍した、<深淵の忌まわしきもの>イソグサの敬虔な信徒ザントゥーの神話的な冒険譚から始まる。
そして、サンボーン研究所に収められているコープランド・コレクションのひとつ、<ポナペの小像>とよばれる翡翠細工の彫刻品にまつわる一連の怪事件。
この邪神の似姿を象ったと言われる(イソグサ、あるいはゾス=オムモグか?)我々人類を破滅に追いやりかねない不吉な翡翠の小像は破壊されねばならず、その像を安全に破壊するための儀式が、ミスカトニック大学に所蔵されているアルハザードの禁断の『ネクロノミコン』に記されているという。

この『ゾス神話群』には、ときに『黒の書』と呼ばれる『無名祭祀書』におけるフォン・ユンツトの論述 ― <大いなる古きものども>の家系と系譜についてのうんざりさせられるほどの詳細な説明、及び旧神による<大いなる古きものども>の追放や投獄についての詳しい解説まで掲載されていて、その膨大な情報量には読んでいてマジで発狂しそうになる。


このあまりにも冒瀆的で凄まじい書物を読み終えた頃には、私もあのスティーヴンスン・ブレイン博士のように毎夜クトゥルーの落とし子たちの悪夢にうなされることになるであろうか?
そして、どこからともなく聞こえてくる亜人間たちの何やら地獄めいた、ブツブツいう「いだ=やあ いそぐさ くとぅるう なぐ」なる連祷の幻聴に悩まされぬよう、最近は常にiPhoneのBGMで耳を塞ぐようにしている。
その連祷こそは、<イソグサ>や<ゾス=オムモグ>に仕えているという、怪物的な長蟲めいた存在ユッギャを讃える歌、『ユッギャ賛歌』にほかならないのだ!


私は頭がイカれたか、イカれかけている。
イカれた莫迦なコープランドの畜生め!『クトゥルーの子供たち』ってなんやねん!『イソグサと愉快な仲間たち』ってなんやねん!
莫迦めが!てゆーかオリックス劇場ってどこですか!?おい、聞いてるのか?!
こ、殺せぇぇぇぇ~~、ウォルター・ベッカー・・・メガ・ペッカーを殺せぇぇぇ~~~~~!!!

神よ!私は見た!

ユッケを・・・・・ユッケを見たんだ!!


ん?これは、2年前のなんばHatchで観たUK来日公演での話だったか・・・
どうも頭が混乱してて、ゴチャゴチャになっている。


今日の1曲:『最後の無法者』/ STEELY DAN
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする