宿主

　ある種の病原菌やウイルスは、自分の力だけでは生きていけない。そこで人間の体に入り込み、棲息することで生きて行くことができる。宿を貸した側からすれば、取るに足らないヤツだとタカをくくっていると、宿主は宿として借りている体を自由に操ることによって、より自分の勢力範囲を広げ始める。伝染病は、まさにこれが行われているわけで、宿主は人間の行動範囲を利用して仲間を増やし、人間の体が弱って使えなくなると、さっさと別の人間へと宿を換えて行く。

　なんだかSFのような話だが、昨日のソフトバンクの通信の不具合のニュースを見ていると、こういったことが自然と連想されてしまった。ただ、この場合宿主はスマホであって、スマホは人間の力を借りて勢力範囲を広げているように見える。人間はスマホのための宿であり、スマホを動かすのための道具に過ぎないようだ。便利という人参を鼻先でちらつかせて、人間を思う通りに操作しているようにも見える。

　スマホの不具合が生じた途端、自分の行き先はおろか、自分のいる場所もわからないという人たちが大勢出現した。スマホの不具合が生じた途端、何をして時間を潰せばいいのか途方に暮れた人たちが大勢出現した。遠隔操作による自動車のドアを開けることができず、お金の決算もできなくなった。まるでスマホが人間を動かしていたかのように、スマホの不具合によって人間が機能不全に陥ったかのようだ。

　便利や楽チンの前で抵抗することは難しい。が、それこそ宿主側の戦略なのである、と言いたくなった今回の事件であった。