この前犬のフリーペーパーに紹介された時、こんな文が添えられていた。トトのセリフとして、「二人で全国を旅していろんな山に登った」との説明書きがしてあったが、これだけを読んだ山好きな人なら、おそらく日本百名山すべてとは言わなくても、それに近い数の山に登っているんじゃないかと考えるかもしれない。が、実際には、半分どころか四分の一くらいしか登ってないんじゃないかと思う。
というのも、人気の山ほど犬連れにとっては近寄りがたく、高山になると自然保護の観点からマイカーの規制が厳しくなり、バスやリフトで登山口を目指すことが多くなる。従って、トトとのんびり山で過ごそうとすると、どうしても人気のない山だったり百名山に選ばれていない山だったりするのである。
そもそも「日本百名山」とは、山好きのおっさん深田久弥が書いた、自分が登ってきた山で百名山を決めるならこことここかなという本なので、山のガイドブックではない。その証拠に、東京から足を伸ばしやすい山ばかりが選ばれ、百のうち半分以上は日本アルプスに集中しているのである。ということで、近頃は自分だけの百名山というので、「新百名山」を書く人や、低い山ばかり紹介する「百低山」という本が出ていたりする。
本来、趣味嗜好というのは、各自てんでばらばらなのが当たり前なので、ガイドブックがもてはやされる傾向というのは、一体なんなんだろうと思ってしまう。自分がいいと思えばいいはずなのに、いちいち権威あるものに証明してもらわなければ不安になるという自信のなさが、その根っこにはあるのだろうか。
この前、ミシュランガイドで星を獲得していないのに、手違いで星獲得のお店として掲載されたら、すぐに長蛇の列ができたというニュースが流れていた。食い物が美味いかどうかは、もはや他人が決めることなのだろう。とはいえ、他人から「あそこの美味しいですよ」と勧められて、のこのこ出かけた結果、「ふつうぅ〜」という感想しか出てこないのは、誰しもが経験していると思うのだが。