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米中冷戦、様々な選択論   文科系

2019年08月15日 10時04分49秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など
 「トゥキディデスの罠」、「大国の興亡」などなどにも例えられるこの冷戦はもう始まっている。米国側の貿易保護主義、関税、経済制裁含みなどの仕掛けによって。話題の香港デモにもアメリカの影があることは、中国側から証拠写真付きで既に暴露もされている。この冷戦の行方は、それにどう関わるかによって日本の明日あさっての在り様を大きく決めるようなものだから、この行方、選択が日本の明日の運命岐路になるだろう。ちなみに例えば、スペインの後オランダ隆盛に追随してやがてオランダとともにイギリスに敗れたかたちで、落ちていったベルギーのようにならなければよいのだが。今の時代に金融に頼るというのは、そういうことだという気がする。もっとも、日本の金融は官製金融にも等しいのだが。

 さて一昨日は、ニューズウイーク日本語版最新号に載った元日本外交官、河東哲夫の「米中冷戦、日本の選択」をご紹介した。この論議内容は、アメリカで言えばアーミーテージなど、ネオコンのいわゆる日本ハンドラーが行ってきた論議のごく稚拙な複写ものに過ぎない。ちなみに、こういう稚拙な議論が、日本マスコミではほとんどと見える。

 ところで、もちろん、アメリカにも全く別の議論がある。ロナルド・ドーア著「日本の転機── 米中の狭間をどう生き残るか」(ちくま新書)に紹介されていた有名政論人らの議論を紹介しよう。まず、日本でも有名になった「大国の興亡」(1988年発行)を書いた、ポール・ケネディ。

 ケネディは、大国の興亡で「過去、大国が入れ替わった時とは、旧大国が手を広げすぎた時だ」と述べて、米ソ冷戦の双方にそういう警鐘を鳴らした。その後ソ連が、東ドイツ崩壊を機に降参と諸手を挙げた時に、米外交論壇はケネディに対してこんな勝ちどきを吠えたということだ。
「それ見ろ、米への警鐘は余計な心配だったろう!」
 ところが、ご当人のケネディは、その後も一向にその議論を引き下げず、米中冷戦の行方についてウオール・ストリート・ジャーナルにこんな記事を投稿したと、ロナルド・ドーアのこの本が教えてくれる。

『西洋からアジアへの、権力の地殻の変動のような移行は逆行させにくい。しかし、米国議会およびホワイトハウスがもし合理的な政策を取れば、このような歴史的な転換期の浮き沈みの度合い、暴力の度合い、不愉快さの度合いをかなり軽減できる。私のような「斜陽主義説の輩」にとっても、まあ慰めになると思う。』

 ケネディのこういう議論に対して、ネオコン論客が猛反発するのは、言うまでもない。その典型、ロバート・ケーガンはこう語るという。
『国際的秩序は進化の産物ではなく、強制されるものである。一国のビジョンが他国のビジョンとの葛藤においての勝利に起因する。・・・現在の秩序は、それを是とし、その恩恵を蒙っている人たちが、それをとことんまで防衛する意思及び軍事能力があってのみ、存続できる』


また、著名な外交官、キッシンジャーはこう語っているそうだ。
『外向的丁寧さを剥ぎ取って言えば、米国戦略の究極的目標は中国の一党支配権力制度を取り除き、自由民主主義体制に変えさせる革命(なるべく平和的革命)を早めることとすべし』
『中国が民主主義国家になるまで敵対的に「体制転換」を中国に強いるように、軍事的・思想的圧力をかけなければならないとする』
 
 こうして、米中冷戦議論には、二つの理解、やり方、立場があると分かる。ケネディのそれ、米ネオコンのそれと。これを敢えて定義するなら、こういうものとなるだろう。
①「基本的人権と民主主義」の世界旗手の立場を何があっても「守り抜く」べく、みずからの「意思」を第一とする、これがネオコンの立場。
②大国の興亡、移行は今度も逆行させにくいという意味で必然だから、暴力抵抗など止めて、合理的な政策を取ろう。これがポール・ケネディや、ロナルド・ドーアの立場。

 この二つの立場では当然のことながら、日本への要求も全く違う物になってくる。ちなみに、新大国スパルタが旧大国アテネに戦争をしかけた本家「トゥキディデスの罠」以来の過去とは違って、中国から仕掛けるという議論は将来を見通すものも含めてどこにも起こっていない。これは、核という地球破壊兵器が双方にあるからとも言えるが、金融以外のグローバル経済、世界の有効需要が中国にどんどん傾いていきつつあるからだとも言える。よって、アメリカだけが焦っているというのも、現在の歴史の必然。イラク戦争、イラン、ベネズエラへの戦争挑発も、そういう焦りの一つと観ることも出来る。その時に備えて、反米の芽を全て摘み取っておきたい・・・。
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書評、「アメリカ帝国の終焉」③  文科系

2019年08月15日 09時54分40秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「アメリカ帝国の終焉 勃興するアジアと多極化世界」(進藤榮一・筑波大学名誉教授著、講談社現代新書、2017年2月20日の第一刷発行)の要約、書評第3回目だ。

今回要約部分、各節の表題を上げておく。第1章2節「解体するアメリカ」、3節「過剰拡張する帝国」、第4節「情報革命の逆説」、第5節「失われていく覇権」。そして、第2章に入って、その1~3節で、「テロリズムという闇」、「テロリズムとは何か」、「新軍産官複合体国家へ」。

オバマは、アメリカの荒廃に立ち向かおうとしたが、全て破れた。金融規制も医療制度改革も骨抜きにされた。その結果が、今回の大統領選挙の荒れ果てた非難中傷合戦である。2010年に企業献金の上限が撤廃されて、この選挙では70億~100億ドルが使われたという。1996年のクリントン当選時が6億ドルと言われたから、政治がどんどん凄まじく荒廃してきたということだ。

帝国は、冷戦に勝ってすぐから、その世界版図を広げ続けてきた。1991年、湾岸戦争。1992年はバルカン・東欧紛争から、95年のボスニア紛争。01年にはアフガン戦争、03年にはイラク戦争。11年がリビア空爆で、14年がウクライナ危機、シリア戦争。

「専制国家を民主主義国家に換えて、世界の平和を作る」とされた、帝国の「デモクラティック・ピース論」は全て破綻しただけではなく、3重の国際法違反を犯し続けてきたこともあって、帝国への憎しみだけを世界に振りまいてしまった。第1の違反が「平和を作るアメリカの先制攻撃は許される」。そして、ドローンなども使った「無差別攻撃」。最後が「国連の承認無しの加盟国攻撃」である。この3様の国際法違反などから、イラク戦争開始直前に行われた中東6か国の世論調査にも、こんな結果が出ている。「イラク戦争は中東にデモクラシーを呼ぶ」を否定する人69%で、「イラク戦争はテロを多くする」が82%だ。「米国に好感」に至っては、エジプト13%、サウジ4%である。つまり、その後の自爆テロや難民の激増は、必然だったとも言えるのである。

一体、テロとは何だろう。シカゴ大学の「テロと安全保障研究調査班」が、ある大々的な調査を行った。1980~2013年に起こった2702件のテロを対象にして、様々な要素(候補)との相関関係を出していく調査である。その結論はこうなったと紹介されていた。
『問題は占領なのだよ!』

喧伝されるように「文明の衝突」などでテロ起こるのではなく、祖国の占領、抑圧、困窮、それらへの恨みなどが生み出した「弱者抗議の最終手段」が自爆テロなのだと。ちなみに、占領地の現状はこんなふうだ。
バグダットの米大使館は国連本部の6倍以上の規模であり、加えてイラクには数百の米軍基地がある。と、こう報告したのは、クリントン政権下の大統領経済諮問委員会委員長、ジョセフ・スティグリッツ。基地には、3000~3500メートルの滑走路各2本、トライアスロン・コースあり、映画館やデパートまでも。米軍関係者が、要塞並みの防御壁の中で、これらを楽しんでいるとも続けている。かくて、06年の米軍海外基地建設費用は12兆円。

次に続くのは、この帝国の終焉が3様の形を、経済力の劣化、社会力の脆弱化、外交力の衰弱を取るということだ。
経済力は、高値の兵器に企業が走って、民生技術が劣化しているということ。
社会力は、戦争請負会社の繁盛。米中心に世界にこれが50社以上あって、総従業員は10数万人。冷戦後の軍人の新たな職業になっていると語る。ここで問題が、新傭兵制度。高い学資、奨学金によって年1万人以上生み出されているという借金漬け大卒者が食い物になっている。学生ローンの総残高が実に144兆円とあった。自動車、カードとそれぞれのローン残高さえ、各120兆円、80兆円程なのだ。かくして、中東からの帰還兵は累計200数十万人。言われてきたように、PTSD、自殺者も多い。

外交力の衰弱については、2例があげられている。一つは、外交即戦争ということ。この象徴が中東関連の戦費であって、今や累計9兆ドルに膨れあがった。先のスティグリッツ報告が出た当時08年には3兆ドルと報告されていたのだ。外交衰弱の2例目は、TPPの挫折。膨大な年月と人、費用を費やして追求してきたものをトランプが破棄した。

こうして、第2章の結びはこんな表現になる。
9・11とアフガン戦争から15年。イラク戦争から13年。戦争がアメリカをすっかり換えてしまった。もはや世界秩序維持を図るどころか、破壊するだけ、世界の憎まれっ子国なのである。
こういう観点からこそ、トランプのいろんな「強がりの言葉」を解釈してみることも可能だろう。
『世界の警察はやめた。その分、同盟国に応分の軍拡を求めたい』
『中東7か国国民は、米国に入ってはならぬ』
『日中は保護貿易を止めろ』
『IMFの言う事など聞かぬ。むしろ脱退したい。国連からさえも・・・(と言う雰囲気を語っている)』
これが、ここまで読んだ来た僕の、最も鮮やかな感想である。
 
(続く)
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