東海道五十三次を歩き出す前、ある人は「ただ、ひたすらに歩く事で雑念を取り払い、無の境地に近づき、何も求めない」と言って呉れた人がいた。
しかし自分の今回の「歩きの旅」は修行の積りは全くなく、ただ気軽に「忘れ物」を取りに行っただけだから、道中、実に様々な事を考えた。
また改めて知った事も多かった。
44番目・石薬師宿(現在の鈴鹿市)の本陣跡を過ぎた中ほどに明治の歌人・佐々木信綱の資料館がある。
道路沿いには白い小さな花を付けた長い垣根があり、その中に童謡『夏は来ぬ』の説明板があった。その中の歌詞の「卯の花」の説明がしてあった。
♪♪卯の花の 匂う垣根に 時鳥早もう来鳴きて 忍び音漏らす 夏は来ぬ♪♪
垣根の白い花が卯の花だと。
「卯の花」ってウツギの花だったのだ。
清楚な小さな花は、鼻を近づけると、なんだか木材の香りがする。初夏らしい香りがした。
子供の頃、「卯の花」ってどんな花かとも知らず、歌い易くて、つい口ずさんでいた記憶があるが、今になって小さな疑問が又一つ消えた。自分にとっては、この歌も自分の原体験を成していた事に気が付いた。
日常に戻り、たった一ヶ月間だが「歩きの旅」を振り返ってみると、人間の世界は途方も無く広く、豊かなのだと言うことを実感する。まさに千里の旅は万感の書に値するのだろう。