(浄智寺/鎌倉)
「和」が好きだ。
中でも、箸を使っての食事は、どこで何を食べても落ち着くし、キチンと食事をした気分になる。第一、体に優しい。
「和食」が世界の文化遺産となるらしい。
ユネスコが登録するとの事。その理由は、和食は世代から世代に受け継がれる中で、社会の連帯に大きな役割を果たしていると言う事らしい。食と関係する無形文化遺産としては、これまでにフランスの美食術、スペインやイタリアのなどの地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケンシキなどがすでに登録されているとか。
シーズンの紫式部を撮りに鎌倉の浄智寺に出掛けた。
六月中旬にはギザギザの鋸形の葉の中に淡い紫色の小花を無数に付けていた。清楚な美しさで好きな花の一つだ。実は白色もあるが、紫色が好きだ。低木だからカメラの位置を極端に低いアングルにしないと背景が入らない。腰を落とし、カメラを紫式部に向けていたら、レンズの中に白い何かがユックリと過った。二人ずれの女性が履いている白足袋だった。二人はお互いを、紫式部を前景にしてスマホで撮り合っている。やがて二人一緒のシ-ンを撮ろうとしているが、紫式部の向こう側まで手が届かないらしく、困った仕草で自分に二人の眼が来た。すかさず『撮りましょう』と声を掛け、彼女たちのスマホを預かり、離れて、近寄り、横にしての3枚を素早く撮った。
この時期は何の花も咲いていない、しかも人影もない境内に二人の笑顔が弾けている。彼女達の和服姿が初秋の空気に相応しくシットリとして、山門を後にする二人の姿が、いつまでも瞼の奥に残っていた。
昼食を摂るため行きつけの小さな和食処に入った。
食べ始めて暫くすると、お店に馴染んでいる匂いとは違った香りがして目を上げると、座布団に座っている自分に小さな会釈をしながら二人の和服姿の女性が席に付いた。先ほどの二人ずれだった。
その香りは、きっと紫式部が二人の女の足袋の白さに、もつれ付くように淡く匂いながらついて来たのだ。
「和」は気持ちを優しく、またココロを和ませてくれる。