海側生活

「今さら」ではなく「今から」

心の到着

2015年08月28日 | 感じるまま

                   (野葡萄/東慶寺)
紫苑、酔芙蓉、不如帰などの蕾が一斉に開き始めた。
境内の草花をボーと眺めていた。ここはいつも丁寧に手入れされている。東慶寺の参道の奥まった所にある切り株の椅子に座っていた。どの花からなのか、微かに薄い甘さの香りが漂ってくる。

現役を退いてから早8年。ストレスを全く感じない日々。雲・波や太陽や月を眺め、海を渡ってくる風を身に受け、また樹木・草花を観る---
今、こんな穏やかな心持で自然の営みだけを相手にする生活。これほどの素敵な時間が待っていようとは想像もつかなかった。

ふと開高健さんのエッセイ(だったと思う)が頭を過った。
正確にはその文章や言葉を記憶していないが、夢中で前へ!前へ!と突き進むだけで、振り返ることが無かった現役のある時、ハッと大事な何かを気付かされた言葉だった。
『パリの空港で一人の旅人が非常に疲れた表情でロビーの椅子に腰を下ろしている。空港の管理人が「どうされました?」
旅人は「身体は到着したのですが、心が到着しないのです。ここで心の到着を待っているのです」
僕らはあらゆる事に追われて、前に進んでいるけど、本当に心は付いてきているのだろうか。時にはトランクに腰を下ろして心の到着をお待ちになったら—』

今、理解できる。随分と長い月日を要したけど。

考えや行動とココロは完全に一つになった。

立秋の暑さ

2015年08月17日 | 季節は巡る

         (立秋祭/鶴岡八幡宮)
神前には神域で育まれた鈴虫が供えられていた。
夏の無事を感謝し、実りの秋の訪れを奉告する立秋祭が八日に鶴岡八幡宮で催された。巫女による神楽も奉納された。前日は夏の邪気を祓う神事・夏越祭も源平池の畔で行われ、参道では「茅の輪くぐり」も行われた。

初めて秋の気配が現れてくる頃とされる立秋。とは言え暑い。立秋の頃が気温はピークとか。蝉-ツクツクボウシ-の鳴き声が一段と高く強くなった。種の保存に懸命なのだろう。
ただ暑い、おまけに湿度が高い。

振り返ると、年を追うごとに気温の変化に身体が順応し難くなっている。あらゆる変化への順応力とか免疫力が弱っていっているのかもしれない。
思わず二度三度と深く息を吸い込みたくなるような朝の涼しい風が待ち遠しい。

しかし東寄りの風が吹く朝に空を見上げると、モクモクと上へ上へと湧き上がった夏の入道雲の上に、砂をソッと刷毛で掃いたような鰯雲や鱗雲などの秋の雲が水平に広がり、空が高く見える日もある。

そんな時、都心のシティホテルから正月の案内状が届いた。季節毎に催し等の案内状が届く。現役の時は、事務所がこのホテルの隣に位置していた。
目を通すと、「お正月プラン」を用意した、日本のおもてなしの心と伝統文化でお迎えします、とある。年越しのショーや新年を迎えるカウントダウン。ホテル内での初詣を始め猿回しや餅つき、書き初め・祝い太鼓、また寄席や鉄火場の再現、子供用のアトラクションなど盛沢山。

そうだ!涼しさを求めて特別のお願いやお祈りをしなくても、涼しさや寒さは正月と同じに間違いなくやって来る。
その頃になると、今の暑さもスッカリ忘れ冬支度をしているはずだ。

遠くは見るな

2015年08月04日 | 感じるまま

(酔芙蓉/海蔵寺)
「遠くを見よ」と題された文章を中学生の時に読み、強い印象を受けた記憶がある。

しかし覚えているのは「遠くを見よ」と言う言葉だけである。自分はこれを「目先の事に囚われるな」、「遠い未来を見据えて生きよ」ぐらいの意味に解し、漠然とながら一種の指針として心に留めてきた。これはフランスの哲学者・アランの『幸福論』にある言葉と知ったのはかなり後のことである

ここで彼が言っているのは、空間的な遠さである。本ばかり読んでいないで、夜空の星や水平線に目を向けよ、そうすれば心身ともに寛いだ状態になると彼は説く。又自然体で生きることの勧めでもある。彼の言葉を自分は「遠い将来を見よ」と言う時間的な意味と勝手に理解していた。

しかし、あまり遠くを見てはいけない場合もある。例えば禁煙しようとする場合がそうだ。この先何年もタバコが喫えないと思うと、禁煙の決心が揺らぐ。取りあえず今日一日は喫わないで我慢しようと決め実行する。それを二日、三日と重ねてゆくことで、結果的に長期の禁煙が達成される(とよく言われる)。禁煙する者「遠くを見るな!」なのである。禁煙をダイエットに置き換えても良い。

結婚しようとする場合もそうだ。
「この先、一生この人と---」などと考えるとなかなか結婚には踏み切れないものだ。これも一年、一年と重ねて行く。やはり結婚したい者も「遠くを見るな!」である。

一般的にどんなときに「遠くを見るな」なのだろうか
自分には明快な答えがある訳では無いが、持続や忍耐が試される時、またそうした試練を前にして自分に自信が持てない時は、あまり遠くを見ない方が良い。その判断の仕方はスマートではないかもしれないが、目的達成のための堅実なやり方である。

禁煙しようと決めてから、早4カ月も経とうとしているのに、今でもお酒が入るとタバコに手が伸びてしまう。
これを書きながら、改めて「タバコは良くない。今日一日は喫わないぞ!」と自分に言い聞かしている。