(報国寺/鎌倉)
魚は誰がどんな能書きを垂れようと、獲りたてを漁師の浜小屋で、潮風を浴びながら食するのが一番美味い。
河豚も例外ではないと思っていた。
臼杵を訪ねた、河豚を食べに。気配りが見事な従弟夫妻に連れられて。
先ず城下町を散策した。臼杵城の真下に辻と呼ばれる広場が残り、街路が放射線状に延びている。他の城下町には無い近世城下町の町割と街路が良く残っている。昔の建築物も残されているだけでなく、天保の改革や西南戦争など日本の近世史にも度々登場し、歴史好きには魅力ある街だ。予てより観たかった石仏群もある。
旦那が手料理で河豚鍋を造ったが、どうにも心細い。そこに乞食が来たので『どうだ、食べるか?』と分けてやる。そして暫くして乞食の様子を見に行かせると、乞食はピンピンしている。そこで旦那も安心して食べ始めた。暫くして乞食が又やって来る。
『もう河豚はないぞ!』と言えば、乞食が
『こちらの旦那さんも食べられましたか?』
『ああ、食べられた---』
『どうもありませんか?』
『別に---』
『では私もこれから頂きます』。
ご存知、落語の「河豚鍋」である。乞食のほうが一枚上手であった。
こんな落語を思い出しながら席に着いた。地元の関鯖と関鯵を堪能した後、河豚の登場だ。
運ばれて来た大皿の盛り付けを見た瞬間に驚いた。刺身“てっさ”の身が厚い。今までどの地域で、又どんな料理屋でも“てっさ”と言えば、盛り付ける皿の模様が透けて見えるほど薄く切ってあった。口にした事の無い厚さだ。噛み締めるほど弾力感と独特の濃い旨みが口中に広がる。
大皿には地元名産のカボスが何個も置いてある。噛むほどに、カボスの酸味に調和して、(てっさ)に甘味が加わってくる。飲み物も焼酎では物足りなくなった。ヒレ酒を注文した。香ばしさも加わり、杯も進んだ。
九州では「ふぐ通は臼杵で食する」と言う。また全国のふぐ通が高い運賃を払ってまでも、わざわざ臼杵まで河豚を食べに来る理由も頷けた。
臼杵の河豚は、他の地域に比べ一枚も二枚も上手であった。