海側生活

「今さら」ではなく「今から」

夜の思い出

2014年10月19日 | 鎌倉散策

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                                       (東慶寺/鎌倉にて)

想いもよらぬ出来事に出会うことがある。

台風シーズンも過ぎる頃になると、春からこれまで楽しんだ花々も季節の役割を果たし、その姿を消してしまった。百日紅や芙蓉も次の春のために装いをすっかり変えた。萩も白や赤紫色の小さな花ビラを地に落とし、赤や黄や白色に怖いぐらいに咲き誇っていた彼岸花も萎れ、その根元から葉が出始めている。黄や赤に染まる紅葉を楽しむにはまだ一か月以上も早い。

コスモスを撮りに東慶寺に出掛けた。プロに教わるようになってから花に関して詳しくなり、一段と好きになった。可愛いと思う。
教わっている教室では毎月5点の風景写真を提出しプロの講評を受けるルールだ。

どんなアングルから撮っても、どんなにカメラの機能設定を変えても満足する写真にならない。夢中で撮り続けるうちに腰が痛くなった。
いつの間にか陽は周囲の高い木立に遮られ、谷間になる境内の草花にも影を落とし始めていた。腰を下ろしたらどこからか蜂蜜のような甘い香りが漂ってきた。夕顔だ。

甘い香りと人影のない境内の雰囲気が思い出させた、源氏物語の『夕顔』を。

光源氏が乳母の病気見舞いに出掛けた際に、粗末な家の垣根に咲く綺麗な夕顔に見惚れていると、家の使いが出てきて「これに花を載せてお持ち下さい」と扇を渡す。それには和歌が添えられていた。源氏は和歌に心を奪われてしまう。それから源氏は彼女のもとに通うようになる。儚げながら可憐で朗らかな性格で、源氏は短い間であったが彼女にのめり込む。死後も面影を追う。佳人薄命を絵に描いたような悲劇的な最後が印象に残る女性。

時を経るにつけ方々で、徐に開き始めた。
夢中でシャッーターを押し続けた。ふと気が付けば10個以上の花が開き、10個以上が開き始めている。好きな芳香がココロまで浮き立つ。夕方に開き始め、夜になると月の光や窓の照明を受けて、宙に浮いたように見える大きく白い花の妖しいまでの美しさ。そして明け方には萎んでしまう。

いつの間にか閉門の時間が来ていた

山門を出て階段を下りながら、花言葉に「夜の思い出」や「妖艶」の言葉があることも思い出した。