“せいちゃん”の今の時期の漁の一つにメバルやカサゴ等を中心とした底モノがあるが、この網にカワハギやヒラメも網に入る事がある。
今日はハコフグも混じっていた。
普通、食するフグと言えばトラフグで、いつも感心する事だが、フグには棄てるところがない。身は勿論の事、ゼラチン質が豊富な皮、白子、ヒレまでが酒に独特の香りをつける。
ただ卵巣だけは毒の塊みたいなものだからアブナイ!
しかし自分の知人で自称グルメに “あの死にそうな味が忘れられない”というヤツがいる。忘れられないなら、そっと思い出の中にしまっておけばよいのに、あの味をもう一度と手を出すと、大抵命取りになる。
ダイビングしている時にも、度々出会った。
泳ぎ方が実にぎこちなく可愛い。変形した風船を浮かべたような身体の左右に二枚の小さなヒレが付いていて、これをパタパタと動かして前進や後進をするのは、どの種類のフグも一緒で、身体の筋肉をくねらせて泳ぐ魚と較べると、いかにも動きがのろくて捕まえやすい。
それにしてもあの愛らしい二枚のヒレを、ヒレ酒にする人間と言うのは、なんと残酷な生き物だろう。
自分は海の中でフグと遊びながら、海の中で冷えた身体が熱いヒレ酒を求め、ダイバーから必死で逃げようと動かしている小さなヒレを思わず掴もうと指を伸ばしたく自分を呪う。さらにフグは警戒心が小さいのか、好奇心が大きいのか、ダイバーに近寄ってきては自分を複雑な気持にさせる。
フグは食いたし、されど毒がある。しかしフグは可愛い。この毒も可愛さも冬のこの時期になると平気で忘れてしまう。
美味しいけど毒がある。毒があると思えばなお美味しい。
人間関係でも、好きでも嫌いでもない人と恋に落ちる事は決してないが、大嫌いな人と深い仲になる危険性は常にある。
男にも女にも毒は必要だ、大切だと思う。
こんなアブナイ話をしながら、テッサやテッチリを味わいながら、ヒレ酒を咽喉に運べる時間は格別だ。