予定がないと不安になると言う人がいる。先日、自分の行きつけの喫茶店で見かけた女性がそうだった。
彼女はバッグから黒革の手帳を取り出して、あるページを開き、暫くの間眺めていた。そして突然、携帯電話で友達に電話をかけ始め、食事や飲み会や買い物の約束を取り付けては、次から次へと手帳に予定を書き込んでいった。
電話を止め、又手帳に見入る。どうしても予定の決まらない一日があるようだ。
ポッカリと空いた一日、来週の水曜日らしい。その空白が彼女には耐え難いものだったらしい。とうとう彼女は行きつけの歯科医院に電話をかけ、この前の治療が今一つ、シックリとしないのでもう一度治療して欲しい、ついては自分は来週の水曜日しか時間が空いていない、何時でも構わないから予約を欲しい、と主張し、とうとう水曜日の予定を手に入れた。
彼女は隙間なく埋められたのであろうページを見詰め満足そうに微笑んだ。
そして冷めてしまったコーヒーを手に取ると一気に飲み干し、バッグを肩に掛け出口に向った。
現代の若者はスケジュール依存症だし、空白恐怖症のようなものだと思う。
手帳が空白になっているのが怖い。予定がないと不安で仕方がない。だから若者達は探してでも予定を入れたがる。
また明日は何をするのかと尋ねられて、こんなに予定が詰まっていると答えるのが格好が良い、と言う価値観もあるのだろう。
酒飲みに休肝日が要るように、若者にも全く予定のない日が必要だと思う。わざと週に二日ぐらいは空白にする。手帳は真っ白、あえて何も予定は入れない。空白の日は、思いついた何かをやっても良いし、ただ何もしないでボーとするのも良し。
もっとも中高年のオジサン達こそ、何もしないボーとできる時間が必要ではないかとも思うが。
自分は今「何をするか」から「何をしないか」と、考え方を変えた。
そうしたら本気でやりたい事、また、やらねばならない事が見えてくる。