海側生活

「今さら」ではなく「今から」

若さ

2014年07月24日 | 海側生活

            (七夕祭/鶴ケ丘八幡宮)

「お早うございます。今日も気合が入っていますね」

今日初めて言葉を交わす人だと意識しながら腹に力を込めにこやかに挨拶をした。

 「お早うございま~す、貴方はいつも元気ですねぇ」
早朝、浜通りで出会ったTさんから、全身運動している身体を休めることなく軽やかで大きな声が返ってきた。

 Tさんは、黒色のランニングシャツに白色のショートバンツ姿で頭にはFILAの薄色のブルーとピンク色のヘアーバンドを締めている。体型や筋肉の張り具合は現役の陸上競技の選手のようにも見える。顔は日焼けし、腕周りや腹にも無駄な筋肉が全く無い。尻もプリプリしている。自分は木製の椅子に30分も座っていると、すっかり筋肉が落ちた尻が痛くなりモゾモゾしたくなるが、Tさんは2時間座っていても、きっと何ともないだろう。見事な尻だ。軽やかな足にはヘアーバンドと同色でFILAの文字があるシューズが躍っている。

 「一日でもトレーニングを休むと、特に足の筋肉がすぐ落ちてしまうんですよ。毎日一時間を二回の運動は生活習慣かもしれません。自転車は7台持っています。一年に4~5回はツーリングしていますが、走るコースによって自転車を使い分けています。この春には奈良・大和路を1200km走りました。車は嫌いです、機械に頼るのは好きでないんです。なるべく自分の体力だけで楽しみたいんです。だからパソコンもケイタイも使わないんです」と話しながらも足が止まることが無い。

 来月は孫が待つ函館に一週間行き、1000kmは走ると言う。我が儘が利くからいつも一人で走るが今度だけは孫と一緒に走ると言う。

 Tさんは今86歳。

 サミュエル・ウルマンの詩を思い出す。
『若さとは人生のある時期のことではなく,心の在り方のことだ
(中略)
大地や人間や神から,美しさ,喜び,勇気,崇高さ,力などを感じることができる限り,その人は若いのだ』
             


魔法使い

2014年07月02日 | 思い出した

                                        (蛍ブクロ/東慶寺)

 暗さも怖かった。

 畑に近づくと周りには灯りが何にもない。叔父さんは畦道をズンズンと前に進む。暗さよりも怖い蛇が、今にも足に噛み付いて来るような気がして自分の心臓の音が体中に響いている。叔父さんに手を強く握って欲しい。恐怖心で言葉も出ない。どうして暗くなって畑に行ったのか覚えていない。多分、夕食の材料を畑に採りに行ったのだろう。

 やはり梅雨時だった。小雨もショボショボと降っていた日の幼い時の記憶だ。

 突然立ち止まった叔父さんは、雑草が生い茂る藪の中に足を踏み入れ、何やら長い棒のような草を一本手折ってきた。草の先には袋が三つ付いている。それを、怖さで言葉も無い自分に持たせると、両手を空に高々と上げた。見上げると蛍が無数に二人の周りで飛んでいた。初めて気が付いた。灯りは星の瞬きよりも大きい。やがて叔父さんの両手には一匹、二匹、三匹と留まり始めた。叔父さんは手に留まった蛍をソッと掴み、草の先の袋の中にユックリと入れた。

「提灯だ、これで明るくなるぞ!」周囲が途端にパッと明るくなった。怖さもどこかに飛んで行ってしまったことは言うまでもない。

 オジサンは魔法使いだと思った。

 東慶寺の境内には今、蛍ブクロが伸ばした花茎の節ごとに白や淡い紅紫色の釣り鐘形の花が数輪ずつ俯いて咲いている。