分煙室に入らなくても、外に出なくても堂々と悠々とタバコが吸える建物があった。
厄介な病気をして以来、毎月行く病院で検査の結果が出るまでの時間を利用して、病院の隣の高層ビルの一階にあるカフェに喉を潤しに行った。
このビルは、通りからビルまでの広い公開空地には大きな樹木が30本ぐらいあり、小さな林と言った趣がある。その林の中に四人がけのベンチが八つ設えてあり、しかも一つのベンチには二個づつの灰皿が設置してある。愛煙家にとっては有難いな等と考えながらビルの中に入った。
建物の中央部分は、四方を高さ30メートルはあると思われるガラスで覆われた吹き抜けがあり、その中は池になっていて、浮かぶ彫刻「たわむれる二つの球体」がある。吹き落ちてくる風に、丁度親子の白鳥がじゃれ合うように緩慢に動いている。
吹き抜けの周りの広いロビーには、三人がけの椅子が三個づつ置いてある喫煙所が三箇所もある。今の法律に抵触しないのかと考えながら座ってタバコに火を点けてみた、何となく落ち着かない。やがて解った、万全の排煙装置が目立たないが設置されたいた。
さすが日本の唯一のタバコ会社の本社だ。
愛煙家にとってはずいぶん窮屈になった。
神奈川県では、この夏は海水浴場でも禁煙になった。
居酒屋でも禁煙だ。カウンターだけの10人も座れないような小さなお店では条例では努力目標としているが、しかし吸わない人が一人でもいると自分だけ吸うわけにはいかない、やはり気を使う。吸わない人の権利が優先されるようになったと思う。
自分の担当医師は「タバコは医師にとって憎い存在で身体に悪い。しかし貴方の心には必要かも知れない」と言う。
食後とか、何かを成し終えた時の“一服”には思わずホッとする習慣を持っているが、しかし改めて思うがタバコを吸わない人は、どうやって“一服”するのだろう。
イギリスのジョークに「インテリは殆ど吸わなくなった。しかしジェントルマンは相変わらず吸っている」と言うのがあるらしい。
自分はどちらだろう。どう客観的に考えてもインテリではないし、暫くはジェントルマンで過ごそう。ただ人前では相手が誰であろうと吸わないと、タバコ値上げの秋に思う。