海側生活

「今さら」ではなく「今から」

品行方正

2014年04月21日 | 鎌倉散策

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         (ゲンカイツツジ/安国論寺)

人間の平和と言うものは、足元の小石一つで崩れる、儚いものだとよく耳にする。

散った桜の花びらが池や川に、また寺社の参道で風と戯れる様を撮りたくて、早朝からカメラ片手に三時間ほど歩き回り、早めの昼食を摂った。
好きな鯛の兜煮だ。今日の鯛の頭はいつもより大きいなと感じつつ、箸も進む。食べ終わろうとする頃、咽喉にズキーンと痛みが走った。魚の骨が咽喉に刺さったのだ。これまでもこんな経験を何度かしている。ご飯を噛まずにそのまま飲み込みなさいと、幼い頃の母親の言葉を思い出す。二度三度と繰り返すと、痛みは徐々に咽喉の下の方に降りていく。さらに同じ動作を繰り返すと痛みの場所は変わらず、どこかで止まったみたいだ。むしろ飲み込む度に痛みが大きくなってきた。
勘定を払い、近くの耳鼻咽喉科に駆け込んだ。医師は『咽喉には何も見えません、ウチの守備範囲外です』。紹介状を貰い、内視鏡で処置して呉れるだろうと考えられる大きな病院の救急センターへと急いだ。様々な検査の後、やっと内視鏡での処置が始まった。睡眠剤で眠ったままでの処置だった。目が醒めた時、経過時間は50分だったのが分かった。ボンヤリとした耳に、医師の声が聞こえてくる。『珍しいケースだから写真を撮っておけ』。また骨の大きさを計っている。聞くと3cm×2、5cmだった。
見れば形は何かの花びらみたいだ。ただ花びらの中央部分が凹み、突き出た両側の部分と付け根部分の先が鋭く尖っている。
その後、この骨は鯛の頭のどの部位なのか調べたが、未だに解っていない。

医師は『裂傷がありますから化膿することもあります。念のため3日ほど入院して頂き経過をみます』。それから二日間は絶飲食だった。

どうしてこんなことが起きてしまったのか。ベッドに横たわり点滴台を見上げ、空きっ腹のグゥーと言う音を聞きながら考えた。
良く噛みもせず飲み込んだのか、それとも体力の衰えと共に舌感覚まで鈍ってしまったのか。いや違う。最近は品行方正が過ぎていたのかもしれない。少しは痛い思いをするかもしれないが、生活の質を高めるためにも、もっとイイ事をして楽しみなさいと、誰かが言っているようにも思えた。


犬のフン

2014年04月01日 | 鎌倉散策

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                           (安国論寺/鎌倉)

『どうしてか私の周りにはイイ男がいないの~』

鎌倉・小町のカウンターだけの小さな居酒屋で、イッパイやっていると、何度か会釈を交わした事のある若い女性が、たまたま空いてた隣の席に座った。勤めの帰りらしい。健康的な美しさに輝いている。
彼女はサワーを飲んでいる。二杯目を飲み終えたころ、ため息を静かに吐いている。冗談交じりに『人生に疲れた?』と聞いた時の、彼女の返事だった。

かって愛し合ったイイ男と較べて、現在の自分の周囲を嘆いているようでもない。イイ男と大恋愛をしたことが無いと言う。
彼女の深層を知りたくて、パリの印象を尋ねると、『道端のいたる所に落ちている犬のフンが汚い』と答えた。彼女はあら捜しをしているつもりはなく、冷静に知的に、そして客観的にパリの街を見ての感想だろうけど、恋愛には恵まれないタイプだ。人は初対面の時、自分の眼差しが相手の美質に向かうか、欠点をついてしまうかの違いがある。これは知的レベルや批評眼の有る無しに関係なく、むしろ、その人の人間的な大きさや豊かさのバロメーターと言う気がしてならない。
『パリの街はシャンゼリゼがステキ!』と言う女性が、犬のフンに気づいていないわけではなく、犬のフンを無視して美しい街並みを賞賛できる心の余裕、あるいは相手の弱点を指摘するより優れた点を誉めることのほうに喜びを覚える、上質な性格よるものだ。

人は自分の良いところを認めてくれない相手とは付き合えない。
『イイ男がいない』と平然と言ってのける女性は、男の美質を見つけて感動する能力が無いことを白状しているようなものだ。

この日は少し飲み過ぎてしまった。