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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

伊福部昭 SF特撮映画音楽の夕べ/汐澤&東京SO

2006年02月11日 19時03分47秒 | クラシック(20世紀~)
 1983年の「SF交響ファンタジー」の初演の記録です。『我々、伊福部ファンは耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、この日を一体何十年と待ったのであろうか。それがついに長年の夢が実現したのである。伊福部昭の特撮映画音楽をフル・オーケストラで聴けたのだ』当時の興奮はこのライナーの一文が全てを物語っています。先生の映画音楽をフル・オーケストラで聴きたいというのは、今なら十分に実現可能な企画ですが、当時は全くそうではなかったんですね。いくつかの特撮映画がオールナイトにかかり、異常なほど人気が高かったため、昼間にロードショー扱いでシリーズ的に上映される、何種類かのサントラの発売、井上誠のシンセによる伊福部作品集「ゴジラ伝説」の登場、そして「ゴジラ」の復活....という流れの中で、このコンサートは実現したのです。これはその時のライブ盤です。

 選曲は、先の「伊福部昭の芸術4」と全く同じで、おそらく演奏の質や解釈、音質といった意味でも「芸術」の方が、より普遍的な伊福部音楽に近づいた、格調高いある意味スタンダードな演奏といえますが、個人的にはなんといってもこのライブ盤の演奏がしっくりきます....というか、初めて聴いた時の衝撃が大きく、またその後、長いことこの演奏による「SF交響ファンタジー」に馴染んでしまったというべきかもしれませんが、とにかく個人的には「SF交響ファンタジー」といえば、このアルバムに尽きるという感じなんですね。
 演奏はひとくちにいって非常にエキサイティングなものです。「芸術」の演奏をスタンダードだとすれば、こちらは早いところfより早く、遅いところは悠々と歌うという振幅が大きなところに特徴があります。おそらくこれはこの曲を「伊福部音楽」というより、「特撮映画音楽」として解釈したことによるものと思われますが、第1番の後半、有名な「宇宙大戦争」と「怪獣総進撃」が交互に現れる部分をやや前のめりなリズム感でもって煽るように演奏しているあたりにそれがよく現れています。

 それにしても、第1番でいきなり「ゴジラ出現のテーマ」が鳴り出した時はまさに衝撃的でした。それまでの私はモノラルで収録されたお世辞にも良好とはいえないサントラで聴いていた訳で、当時はしりのデジタル録音でワイドレンジに収録されデモ的効果を眩惑された点はあったにせよ(ライブで、かつ2ch一発録りだったらしくスタッフもかなり気合いが入っていたようです)、全合奏のマッシブな迫力、各種打楽器の存在感ある意味違和感すら感じましたし、異常なほどの解像度で再現されたオケの細部を聴くにつけ、こんなに「こんなにも情報量があった音楽だったのか」と驚嘆したりもしました。第1番の中盤あたりに登場する「地球最大の決戦」の部分は、個人的に非常のノスタルジックな気分になるところですが、弦のトロモロ、ハープが絡んで華麗に展開するあたり、単にバーバリックなだけではない、この曲の別の側面を見たような思いがしたものです。ともあれ、こういうの発見や驚きが、第1番から第3番まで延々と続いた訳で、当時の興奮はまさに尋常ならざるものがありました。おそらく当時の伊福部ファンはみんなそうだったのだと思います。

 ともあれ、このレコードがそこそこのヒットを記録したおかげで、その後、オケによる先生の映画音楽をぼちぼちと制作されることになり、「ゴジラ対キングギドラ」では遂に先生が現場に復帰して、そのサントラも続々とCD化されるなど、先生の映画音楽を今日的音質で聴くことも珍しくなくなっていった訳ですが、それもこれも全てはこのアルバムが出発点だったということになるんでしょう。その意味でこれはやはり忘れられないアルバムであり音楽です。
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伊福部昭の芸術4 SF交響ファンタジー/広上&日本PSO

2006年02月11日 17時49分47秒 | クラシック(20世紀~)
 こちらは目下先生の作品ではレコード化、演奏会とも頻繁に演奏される知名度という点では最も高いものといえるでしょう。先生が50~60年代に残した膨大な東宝特撮映画の音楽を接続曲風に構成して、各々十数分程度の3つの組曲にしたものです。特に第1番は現在までおそらく10種類以上の演奏がCD化されているようで、もはや現代日本の人気オーケストラ・ピースといってもいいような作品になっているとすらいえるかもしれません。この曲が初演された83年の頃の先生の作品、特に映画音楽の評価の低さ、不遇さから思えば、隔世の感があります。

 もっとも、この曲に対する先生の想いは、おそらく複雑なものがあったであろうことは想像に難くありません。先生の創作の中心はあくまでも「シンフォニア・タプカーラ」 等の純音楽の分野であって、片手間といっては語弊があるものの、この種の音楽はやはり収入源としてやっていた面が大きかったはずです(とはいえ、先生なりに音楽として筋を通したエピソードには事欠きませんが)。
 そもそも映画音楽はその性格上、本来の創作であれば、当然自分が扱わないであろう感情や心理、風景やシチュエーションといったものが要求されます。先生のような音楽的自我が強固な音楽家の場合、こうした「音楽的枠」は非常に厳しいものがあったはずですが、意外にも先生はモチーフの再使用や自作からの流用なども含めて実に大らかに音楽を作っています。当時はよほどのことがなければ、サウンドトラックがレコード化などされなかった事情もあるかとは思いますが、やはり先生にとってこれらの音楽は「上映中のみに有効な映画のパーツ」というか、ある種「消耗品」として、ある種の割り切りの上で創作されたと思います。だからこそ、これらを他の伊福部作品と並べて、演奏会やアルバムとして公表にするには、抵抗感があったと思うんですね。

 そんな訳で、先生にとってはある種複雑な想いにかられる作品ではあるとしても、この作品はあまりに抗しがたい魅力に溢れています。私のように高度成長期にゴジラ映画をリアル・タイムで体験できた人間にとってはある種のノスタルジーという側面もあるでしょうが、こうして20余年に渡って、演奏され続けられているのは、もはや音楽そのもの魅力があったとしかいいようがありません。
 評論家風にいえば、先生の特撮映画の音楽というのは、伊福部音楽に内在する様々なダイナミズムを極端な形でデフォルメし、それを通俗化、単純化したものといえます。この作品が映画を離れてなおかつ魅力があるのだとすれば、どうもそのあたりに人気の秘密があるのではないかと、ここ10年くらい私は思っているのですが、これはいずれ詳しく書くこともあるでしょう。ともあれ、様々な先生の作品に接しつつも、気がつくとここに戻ってしまうという、私にとってはまさにバイブルのような作品がこれなのであります。
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伊福部昭の芸術3 舞踏音楽の世界/広上&日本PSO

2006年02月11日 12時27分49秒 | クラシック(20世紀~)
 第3巻は舞踏音楽の世界と題して、1948年の「サロメ」が収録されています。題材がオスカー・ワイルドの「サロメ」というお馴染みのものに加えて、その後、舞踏家貝谷八百子とのコラボレーションということで、何作かある先生のパレエ音楽の中でも(ちなみにこれは第3作目)突出して記憶に残る作品といえるでしょう。また、先生の諸作の中では、純音楽作品と馴染み深い映画音楽とのほぼ境界線にあるような作品上の性格もあり、近年にわかに評価を上げている作品のような気もいたします。私はこの曲については、それほど聴き込んでいる訳ではないので、自分用のメモということで主要な曲を拾っておきます。

 01「前奏曲」は勇壮ですが悲劇なムードに満ちたファンファーレ風な音楽、続く02「ヘロデ王宮殿内の広いテラス」は弦のトレモロにオーボエがデジャブを誘うような短い旋律を歌う短いものの先生らしいもの。03「サロメの召使、ユダヤ人、ナザレ人など 」は、東洋風にエキゾチックな旋律をメインにしたゆったりとした音楽で前半部分のしめやかなハイライトとなるんでしょうか。ちなみにこのムードは映画音楽でいえば、「ファロ島」とか「ムー帝国のテーマ」あたりと共通するものです。場面が替わって05「ヘロデ王と王妃ヘロディアス、及び廷臣たちの登場」は、「黒部谷のテーマ」と「海底軍艦竣工テーマ」の併せたようなファンファーレに始まりますが、バレエのドラマ的な要請だったんでしょう以降は心理劇風な音楽になります。06「サロメ登場」のは、先生の静の部分が良く出たハープと木管の絡みを中心に続く非常に美しい音楽。07「ヘロデは、もうサロメから目線を外さない}は「キンクコングの逆襲」でファンには忘れがたいあの陶酔的ともいえる旋律です。09「ヘロデ、サロメ、ヘロディアス」はいかにも先生らしい律動を感じさせる激しいアレグロ音楽です。

 11-17はRシュトラウスの音楽でも有名な「7つの踊り」の部分となります。「第1の踊り」と「第2の踊り」は、02と同様な弦のトレモロに木管がデジャブを誘う旋律を奏でる幻想的なもの。「第3の踊り」と「第4の踊り」は「ゴジラのテーマ」だとか「海底軍艦の挺身隊のテーマ」が今にも出てきそうなダイナミックに躍動して、先生の映画音楽が好きな私のような人間なら驚喜しそうな音楽です。「第5の踊り」は一旦静まって、エスニックでエキゾチックなテーマがワルツっぽいリズムを伴って優美に演奏されます。「第6の踊り」と「第7の踊り」は再びダイナミックな律動が支配する音楽で、後者はおそらくバレエのハイライトとなるべき場面でしょう。
 20-21は例のヨカナーンの首のシーンですが、これはファンにはお馴染みの「ラドン」の登場する音楽とほぼ同位置なのにぎょっとしたりしますが、全体は急緩の繰り返しでドラマ的なハイライトが形成されているようです。2回目の緩の部分は非常に美しい音楽でとても印象的です。そのまま続く、22-26は狂乱するサロメが殺されるまでの音楽で怒濤のような勢いで進んでいきます。オリジナルではここでダンサーが踊る場面が入れられてしたようですが、この改訂版では一気にエンディングで雪崩れ込んでいくのは、確かに音楽的には正解だと思います。

 フィルアップに収録された「兵士の序楽」は、その詳細について先生も余り語りたがらない、陸軍に委嘱されたらしい一種の国策音楽のようですが、内容的には「バラン」で初めて登場し、その後いくどとなく登場する伊福部マーチそのものですから、ファンには至福の8分間といえましょう。

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