Blogout

音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
プログレに特化した別館とツイートの転載もはじました

伊福部昭の芸術5 協奏風交響曲 協奏風狂詩曲/大友,広上&日本PSO

2006年02月14日 23時46分53秒 | クラシック(20世紀~)
 第5巻は「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」(独奏:館野泉、指揮大友直人)と「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」(独奏:徳永二男、指揮広上淳一)というふたつの大規模な協奏曲的な作品が収録されています。後者については先生の傑作のひとつですから、かなり有名な作品といえますが、前者については近年スコアが発掘されて蘇演された、いわば「戦時下における先生の幻の大作」といったところでしょうか。

 「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」は全三楽章で、総演奏時間が40分近い大作です。「協奏風交響曲」とあるように、ピアノ協奏曲的な作品であると同時に、先生にとって未開のジャンルである交響曲に初めて挑んだ作品ともいえ、特に両端楽章は重量感といいスケールといい、いかにも構えの大きな大作という風情が漂っています。また、バルトーク風に打楽器の如くピアノを使っているところや、ある種メカニックな雰囲気が濃厚なリズムをモチーフを使っているあたり、先生らしくないともいえますが(実はこのあたりは感覚はその後、映画音楽で再現されることになる訳ですが)、これが作られた1941年という、ある種時代の雰囲気の反映なのかもしれません。
 ちなみに第二楽章については、いつも先生のペースで押し切った、鄙びた郷愁を誘うムードと峻厳な自然風景が交錯する非常に味わい深い音楽。中間部で弦のトレモロにオーボエがのって歌われる部分は、先生らしい北国の寂寥感に満ちた音の風景で、けだし絶品です。

 ところで、この作品を聴いて、ファンなら誰でも驚くのは、随所に「シンフォニア・タプカーラ」、「リトミカオスティナート」といったお馴染みの楽曲で使われたモチーフが登場する点でしょう。第1楽章の第一主題は「リトミカオスティナート」ですし、第二主題は「シンフォニア・タプカーラ」とほぼ同一です。また、途中「倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク」の前奏部分や「ゴジラのテーマ」のやはり前奏にあたる部分なども登場するのです。このあたりの事情はライナーに詳しいですが、この作品のスコアは戦争で焼けたことになっており、先生自身はもうすっかり「喪われた作品」として認識していたことから、ここで使ったモチーフは、その後他の作品で流用されることになった訳ですが、お馴染みのモチーフのヴァリエーションとして聴いても、これらの作品のどこが先生にとって流用する価値があったのか....などと考えてみても、この作品は非常に興味深いものがあります。

 モチーフの流用といえば、1948年の「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」には「ゴジラのテーマ」の主要主題がほとんどそのまま現れれますが、これにはさすがにぎょっとします。もちろんここでもオリジナルはこちらであり、「ゴジラ」のテーマとして流用されたに過ぎない訳ですけど、まさか「ゴジラ」という映画とともその音楽が歴史の1ページに名を残すことになるなど、さすがに先生も「ゴジラ」このモチーフを流用した時点では予想だにしていなかったと思いますので、途中に「ゴジラ」が登場するということで、心血注いだ「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」が有名になったしまったというのは、やはり先生としては複雑な想いがあったに違いありません。ちなみにここで聴ける音楽は、前記「協奏風交響曲」や「交響譚詩」のような西洋的なところはあまりなく、ある意味「日本狂詩曲」の世界を高度に洗練させたような、まさに日本的としかいいようがない世界になっています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする