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音楽全般について 素人臭い能書きを垂れてます
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伊福部昭の芸術1 初期管弦楽/広上&日本PSO

2006年02月09日 23時56分26秒 | クラシック(20世紀~)
 キング・レコードによる「伊福部昭の芸術」シリーズは先生の代表的音楽を概観すべく95年から始まった企画です。現在まで8枚ほど出ていていますが、監修に先生自身が関わっていることもあり、亡くなった先生の音楽をレトロスペクティブするには最適なものでありましょう。私も先生の追悼記念としてこのシリーズを中心に先生の作品を少しばかり振り返ってみたいと思います。

 第1巻は副題に「初期管弦楽」とついているように、戦前の作られた先生の代表的管弦楽作品、つまり「日本狂詩曲」、「土俗的三連画」、「交響譚詩」が収録されています。
 「日本狂詩曲」は、日本のアカデミズムとはほとんど無縁な位置に居た当時21歳の先生が、1936年の開催されたフランスのチェレプニン賞の第1位を獲得したという今となっては伝説的なエピソードに包まれた先生の処女作とでもいうべき作品です。前半の「夜曲」はヴィオラで奏でられる日本的としかいいようがない独特の節回しやそのヴィオラが一段落した後に続く木管楽器を中心にちょっと印象派風に展開する旋律からして、ある種の郷愁やユング的な太古の記憶を想起させるような、独特の伊福部ワールドの世界を展開していきます。後半の「祭」では先生のもうひとつの特徴であるリズムの反復を「祭」というキーワードで開陳した曲といえましょう。ここで聴かれるリズム反復は、発表当時はおそらく極めて粗野でバーバリックなものに聴こえたでしょうが、現在の耳には非常に格調高い極めて音楽的な響きに満ち満ちていると感じられるのは、この作品が古典化したという証明のようなものでしょう。

 1937年の「土俗的三連画」は14人編成の室内オケ風な編成で演奏される作品で、第1部はヴァイオリンを中心としたトラディショナルな旋律が、先生らしい力強いが極めて複雑なリズムの反復の中で展開。第2部は各種管楽器で郷愁を誘う旋律を歌う緩徐楽章的音楽。第3部は冒頭のリズミカルで曲調が回帰しつつ、急緩急をめまぐるしく展開するあたりが聴きどころになっています。

 「交響譚詩」は1944年の作品で、「日本狂詩曲」と同様2部から成る先生の代表作のひとつ。第1部では猛烈にドライブしてまさに疾走するような第一主題とそれとは対照的に旋律的な第二主題がワンセットになって展開を経て再現されるソナタ形式をとっているあたりがミソ。また、再現部でハープが華麗に絡むあたりは、まさにに西洋の鋳型(形式、管弦楽法)に流し込まれた伊福部ワールドといった感じでしょうか。
 第2部は、もともと「日本狂詩曲」の第1部として作られた「じょんがら舞曲」をベースに作られた緩徐楽章で形式的にはごくごくまっとうな3部形式。中間部に弦で奏でられる北国の荒涼とした自然と漂泊する寂寥感のようなものを絶妙に表現したこの上なく魅力的な音楽です。なお、コーダで循環主題よろしく第1部の主題が一瞬回帰するあたりも西洋音楽的ですが、それならば第3,4楽章も作ってもらいたかったと思うのは、西洋音楽に毒され過ぎた私の勝手な願望なのでしょう。
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伊福部先生 死去

2006年02月09日 14時41分24秒 | クラシック(20世紀~)
 おそらく世界的に認められた日本初の作曲家であり、ゴジラを始めとする映画音楽でも有名な伊福部先生がお亡くなりになりました。91歳といえば、ある意味天寿を全うされたともいえますが、私は先生の音楽の全てを自分の血となり肉となるほどに聴く....ということをライフワークにしている、自他共に認める伊福部フリークなもので、今回の訃報はやはりとても残念であります。

 先生とは取材も兼ねて自宅でたった一度だけお会いしたことがありますが、「ペトルーシュカ」の出典元になっている民謡の話だとか、自らの作品に対する批評とか、穏やかな口調の中、鋭い音楽的審美眼を随所に発揮していたことがとても印象に残りました。あと、ご自宅の純和風の庭先に何故だか場違いのようにゴジラの人形がひょっこりおいてありまして、それを先生に聞いたところ、「あれは孫が置いていったんだ」と笑いを浮かべていましたけど、その時の柔和な表情が忘れられません。

 ご冥福をお祈りいたします。


○読売新聞の記事
 http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20060208it15.htm
コメント (2)
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