『浮浪児1945― 戦争が生んだ子供たち』石井光太(新潮文庫2017年)
■ 本書を2025年3月29日付日本経済新聞の読書面で知った。「半歩遅れの読書術」で森 絵都さんが取り上げていた。森さんはここ数年、太平洋戦争関連の本を乱読してきたとのこと。戦災孤児についてもそれなりに知った気でいたという森さんは本書を読んで、その理解の甘さを痛感したという。乱読とまではとてもいかないが、ぼくも太平洋戦争関連本を読み始めているから、本書を読みたい、いや読まなくては、と思った。
著者の石井さんは2009年から5年がかりで100人近い関係者に直接会って、話を聞いている。終戦直後、当時10代前半くらいだった浮浪児たちは取材時は70代後半から80代になっている。
石井さんは**あと十年、いや五年遅かったら、おそらく本書はできあがることはなかっただろう。**(331頁)とあとがきに書いている。ほんとうにこれは貴重な資料だと思う。
本書によると、太平洋戦争による孤児は約12万人、そのうち浮浪児は推定で3万5千人。だが、実際は何倍にも増えるだろうと石井さん。14歳以下の子どもたちが大半だった。食べるものさえない極限的な状況下、彼らは上野駅の地下道など集まってくる。その後、その日、その日の命を繋いでいく、懸命に・・・。
**彼らが直面したのは「元浮浪児」という十字架を自分が背負ってこの先の人生を歩んでいかなければならないという事実だったはずだ。その十字架がどれほど大きく、重たいものだったか。第三者には、到底想像できるものではないはずだ。**(204頁)と石井さんは書く。多くの人に取材をして得た、実感だろう。
**浮浪していた女の子の中には、物乞いや物売りの他に、売春をして食いつないでいた子も少なくない。**(322頁)このくだりを読んで、ぼくは松本清張の『ゼロの焦点』を思いだした。主要な登場人物である室田佐知子は、決して人に知られてはならない過去を持っている。終戦直後の立川で米兵相手に身を売っていたのだ・・・。現在は金沢で名声を得て生活している。だが、突然自分の過去を知る人物が目の前に現れる・・・。(推理小説だからこの辺で)
あの戦争によって人生を狂わされた多くの人たち。中には小中学生くらいの子どもたちが少なくなかった・・・。
歴史の裏側に隠されて、見えにくくなってしまっている戦災孤児、浮浪児の悲劇に思いを馳せるために本書は必読。多くの人に薦めたい。
心に残っている本の一つです。
心に残る作品を読むことができました。
貴重な記録だと思います。