透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

全国紙は磯崎 新さん死去をどう報じたか

2023-01-10 | D 新聞を読んで

 昨年の12月31日、新聞各紙が建築家の磯崎 新さんの死去を報じた。購読している信濃毎日新聞は1面に**磯崎 新さん死去 ポストモダン建築の騎手 91歳**という見出しで、また27面(第一社会面)に**「死の影を感じる作品」磯崎 新さん死去 藤森照信さん語る**、**「スケールが違った」別荘ある軽井沢でも悼む声**という二つの見出しで報じている。写真で紹介してる作品はアートプラザ(大分県立大分図書館)。

このニュースの全国紙の扱いが知りたくて、えんぱーくで朝日、毎日、読売、産経、日経、以上の5紙を閲覧した(1月9日)。

次の項目について比べてみた。1 記事の見出し   2 割いているスペース    3 紹介している建築作品と著作    4 人物評、作品評

以下に割いているスペース、写真付きで紹介していた建築作品と著作、人物(作品)評を挙げる。

朝日:約380㎠ つくばセンタービル 「空間へ」「建築の解体」
   思想家、歴史家、政治家にもなれたはずだ。
   豪快さ、崇高さ、寂寥感がないまぜになった磯崎建築

毎日:約380㎠ つくばセンタービル 評論集や作品集など100冊を超える、と紹介して、書名は挙げていない。
   知的好奇心が強く独特な嗅覚を持ち、常に若い世代との交流に積極的だった。
                 (建築史家、東北大大学院教授 五十嵐太郎)

読売:約320㎠ つくばセンタービル 「磯崎 新建築論集」
   不世出の知の巨人、言葉とものとしての建築の乖離、矛盾を痛感していた。
                               (伊東豊雄)

産経:約840㎠ 大分県立大分図書館(現アートプラザ)、水戸芸術館
   「空間へ」「建築の解体」「瓦礫(デブリ)の未来」
   巨視的なビジョンを描くことができる稀有な建築家だった。
   大局的見地で将来を見渡すとともに、精力的な実務を通してさまざまな交流を促した、
   まさに建築界の巨星だった。

日経:約370㎠ つくばセンタービル 「建築の解体」
   各国を代表するような知識人や芸術家とにこやかに議論を交わし、友情をはぐくむ
  「知の巨人」。
   建築界は偉大な異能のボスを失った。

割いているスペースは朝日、毎日、読売、日経があまり変わらないのに対し、産経は4紙の倍以上と扱いが最も大きい。産経は代表作の例えばつくばセンタービルについて、国家的プロジェクトである筑波研究学園都市の中心施設でありながら、中央を窪地にして「中心不在の日本」を逆説的に暗示。また、ロサンゼルス現代美術館については西洋の黄金比の美学と陰陽説など東洋の概念を融合し評価された、というように解説文を付けているし、作品も年表にして掲載している。

信濃毎日新聞にはハラミュージアムアーク(群馬県渋川市)で行われた米寿を祝う会であいさつする磯崎さんの写真が掲載されている。この時着ている黄色いシャツは三宅一生さんから贈られたとのこと。全国紙には載っていない写真だ。インタビューした藤森照信さん(茅野市出身)の顔写真も載せている。藤森さんが茅野の実家近くに建てた「高過庵」を磯崎さんが訪れていたことが記事に出ている。

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磯崎さんはものとして実在する建築より、建築思想に意義を見出していたのではないか。著作が多いことも、このことを示しているように思う。毎日新聞は「建築の本質はコンセプトにある」と紹介している。また、日経新聞は磯崎 新アトリエという名前としたことについて「建築とは単なる建物なのではなく思想や歴史、文化の厚い層の上に成り立つとの思い」から、と紹介している。

代表的な作品としてポストモダン建築を挙げるなら、やはりつくばセンタービルになるのかな。著作は「空間へ」と「建築の解体」だと思う。

磯崎さんの文章は難しい。私の老化脳では読み解くことは無理だろう。『建築における「日本的なもの」』(新潮社2003年発行、2005年4刷)を書棚から取り出したが、戻そう。産経新聞に載っている「瓦礫(デブリ)の未来」という著書は全く知らなかった。前述のように、読解力の無さを自覚しているが、読んでみたい。

磯崎さんは不世出の知の巨人と伊東豊雄さんが評しているよう建築界ではぶっちぎりのトップランナーだったと思う、磯崎作品の好き嫌いはあるにせよ。各紙が報じているように、建築という枠の中には納まらない、思想家という印象が私は強い。