透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

今年の3冊

2013-12-29 | A ブックレビュー

 今年も残すところあと2日となった。読んだ本から今年の3冊を選んだ。



今春の長野県内の公立高校の入試にこの『植物はすごい』から出題された。偶然にも入試の直前にこの本を読んでいた。

植物の発芽の季節といえば「春」だが、実は「秋」に発芽する植物も多いのだそうだ。葉を伸ばした状態で寒い冬を越すのは大変ではないかと思う。だが、茎を伸ばさず、株の中心から放射状に多くの葉っぱを、地面を這うように広げることで寒さや乾燥に耐えるそうだ。寒さや乾燥は地面から高くなるにつれて厳しく、地面近くでは厳しさがやわらぐからというのがその理由だという。

なぜそのようなことをするのだろう・・・。このことについて著者は**春になってから発芽する植物たちより、早くに成長をはじめることができます。(中略)陰になった植物たちの成長をさまたげることはあっても、自分たちがほかの植物の陰になることはありません。**(175頁)と説明している。

要するに「先んずれば人を制す、いや他の植物を制す」ことができるから。これも生き残りのための巧みな戦略ということになる。なるほど、確かに植物はすごい!

なるほど!満載本。

めでたく高校生になった、同僚の娘さんにこの本をプレゼントした。


 

子どもにはスキンシップがいかに大切かを説いた本。

こんなくだりがある。**これまで繰り返し述べてきたように、肌や身体といった一見、脳からかけ離れた身体の末端部への快い刺激こそが、心を形成する上で実は意外に大きな力を秘めていることは、いくら強調しても強調しすぎることはないのである。**(120頁)

このことをいろんな調査の結果などを取り上げながら実証的に述べていて大変興味深い内容。




主人公は一介の浪人、瓜生新兵衛。勘定方だった新兵衛は上役が商人から賄賂を受け取っていた不正が許せず、重役方に訴えた。だが訴えは認められず、藩を追われて京の地蔵院という寺の庫裏で妻の篠と暮らしていた。

新兵衛は病身の篠と交わした約束を果たすべく、篠の死の半年後、18年ぶりに帰郷する。藩内で身を寄せたのは篠の妹・里見が殖産方の息子・藤吾と暮らす家だった。

新兵衛は甥の籐吾と共に藩の権力抗争、政争の渦に巻き込まれていく。藩内の政争にはかつて新兵衛とともに一刀流平山道場で修行に励み、四天王と謳われた仲間たちも関わっていた・・・。

昔の暗殺事件も絡んで、ものがたりは時代サスペンス、ミステリーの様相を呈して進む。更に篠は当時四天王と呼ばれた仲間たち憧れの女性だったことも明らかになって、なにやら静かな恋愛小説の雰囲気も漂いだす・・・。

この小説は男と男の権力抗争を背景に描き出す男と女の愛のものがたりだ。藩内の政争の落着を見て新兵衛は再び藩を離れることに。

**「お慕い申しているのは、藤吾だけではございませぬ」里見の声に切実な響きがあった。「わたくしの胸の内には姉がおります。姉が新兵衛殿にここに留まっていただきたい、と申しております」里見はあふれそうになる想いを初めて口にした。**(353、4頁) 新兵衛と暮らすうちに里見の心は恋慕の情に占められていったのだ。

**新兵衛は何も答えず、裏木戸から出ていった。里見は後を追えず、袖で顔をおおって立ち尽くした。(後略) **(355頁)

止めてくれるなお里さん、男新兵衛 行かねばならぬ、か・・・。 この切ないラストに涙。

小説は文庫本でしか読まなくなったが、葉室 麟の時代小説は例外。


 

年越し本はやはり司馬遼太郎の『空海の風景』中公文庫になった。来年はどんな本との出合いがあるだろう。